9.このシナリオは、そうとう手間が掛かってるんじゃないか。さりげない言葉の採集に時間を掛け、それの構築にも時間を掛けていそう。それだけの成果が上がっている。大勢の中で言われた言葉へのこだわり・言い返せなかった文句が、二人になったときに不意にこぼれるのが、ザクッザクッと映画に刻みを入れて、表面では何も起こらない時間に確かな手触りを与えている。そのくすぶってる場所としての家族。「おばあちゃんちじゃないぞ、俺が建てた家だ」とか「それ(トウモロコシで気の利いたこと)を言ったのは兄貴じゃなくて俺」とか。その遅れて言い返せた言葉とは別に、“ちょっと間に合わなかった”言葉も山のようにあり、でもそこにこそ一回限りの家族の会話の味が、後悔が懐かしさに変質しつつ隠されている。あるいは墓参りの帰り、暗黙の了解のように二組の母子に自然に分かれ、どっちも他方の前では交わせない会話が紡がれる、そのスリル。不意に顔を覗かせる残酷さと怖さ。「隠れて聴く曲ぐらい誰にだってありますよ」と妻の夏川結衣にあんな含み笑い顔で言われた日には、夫たるもの気になって仕方がないでしょうなあ。こっちの「普通であること」と人の「普通でないこと」がときに重なりあい、するとその場の時間が急にボッテリと厚みを増す。「普通」を形作っているものの裏には、なんとたくさんの折れ曲がった思いが複雑に絡み合っていることか。最近の日本映画でこれだけ詰まってる時間を味わった作品はなかった。原田芳雄はおそらくまだかくしゃくとした老年を描くために起用されたのだろうが、かつての無頼を演じてたイメージが残ってて、たしかに夫婦の過去を思えば似合ってはいるのだが、現在の父としてはもう少し固いぐらいの実直さを出せる役者でもよかったかも知れない(「“すばる”は演歌じゃありませんよ」の語り口は絶品だったけど)。それとラストが付いたことで、見ているほうがその後を自由に想像する楽しみはなくなってしまった。でも傑作です。 【なんのかんの】さん [DVD(邦画)] 9点(2009-08-31 12:15:54) (良:2票) |
8.《ネタバレ》 映画の一番最初のカットからやられた。樹木希林とYOUの何気ない会話。彼女らの背景については一切説明がないのに確かな存在感がある。阿部寛や原田芳雄がぼそっと放つ小言、仕草など、俳優陣の演技力も超一流ながら是枝監督の演出力は半端じゃない。日本映画の良さを感じられる素晴らしいホームドラマ。 家族だからこそお互いに嫌な所を知り尽くしているし、長い付き合いでうんざりしてくる。そう簡単には断ち切れない縁だからこそ鬱陶しい。だからこそ親族との関係は希薄にもなるし、争いごとも絶えない。 みんながみんな嫌な所を持っていてさらりと嫌みを言うし、喋ることが無くなってしまった時の場の空気といったら辛いの一言。ほとんどサスペンス。大したことでもないのに家族の前だと何故か突っ張ってしまって、でもやっぱりあとで反省してこっそりと破いた紙を貼り直す。このあたりのシーンを見ていると何とも言えず居た堪れない思いになり、キリキリと心が痛む。見ているのが辛い程に。 この登場人物の異様なまでにリアルな存在感の中、老いた母親が見せる心の闇には痛ましさとともにぞっとする程恐くなる。普通にしていれば気付かない所で人はその脆い心に闇を抱えているのかもしれない。 月日を経るほどに家族という存在はお互い面倒くさくなってくる。一緒にいても辛いことばかり。 しかし、まるで他人の家に来たようだった次男の息子も、この何気ない2日間で父親に心を開くきっかけになった。最後に母親から聞いたどうと言うことのない話を次男は娘に語った。 この時に感じた優しさ、温かさはやはり家族だからこその物だと思う。 【Sgt.Angel】さん [DVD(邦画)] 9点(2009-02-08 00:07:29) (良:2票) |
7.世間は『おくりびと』一色だが、日本アカデミー賞を獲るべき作品はこれしかないし、アカデミー外国語映画賞に出品される作品もこれしかないだろう。これこそが「ザ・日本映画」。この情緒を分かるのは日本人しかいないし、たとえ外国人には理解できなくとも、我々日本人が擁護しなくてどうする!日本アカデミーの助演女優賞に樹木希林が受賞しなかったのは理解に窮する(余貴美子が悪かったわけではないが、はっきり言って政治的な匂いがしてならない)。 【フライボーイ】さん [DVD(邦画)] 9点(2009-02-05 21:46:52) (良:2票) |
6.《ネタバレ》 じわ~っと沁みてきますねー。こんなリアルな映画、初めてかもしれません。特に樹木希林演じる母親の醜さや底意地の悪さが見え隠れするところや、夏川結衣のヨメの本音など、血のつながりのある家族とそうでない人との人間関係など、表現の仕方が素晴らしいです!そして「ちょっとだけ間に合わない」というセリフのリアリティ、すごい!としか言いようがないですね。家族、個人的には両親のことを考える、いいきっかけななったかも・・・。こういうテイストの映画を邦画で観たの初めてです。この監督の作品、以前「空気人形」を観て、そのセンスと力量に驚かされましたが、この作品はそれ以上です。 【ramo】さん [DVD(邦画)] 9点(2013-03-18 21:42:54) (良:1票) |
5.《ネタバレ》 最後、阿部寛が語った 『結局、父はあれから3年後に亡くなった』 という語り。 奇しくも その台詞と脚本に合わせたかのように原田芳雄自身がほぼ3年後にお亡くなりになってしまった。 偶然にしては恐ろしいことですが。 悲しいことです 良い役者さんだったのに。
そして阿部寛がさらに語った台詞が気になって仕方がない 『母もそんな父の後を追うかのようにすぐに亡くなりました』 とな ‥
希林さんのほうは大丈夫なのだろうか ‥ 原田さんの後をすぐに追っていってしまってはダメですよ ‥ ぜひとも まだ末永く活躍していってもらいたい素晴らしい日本の女優さんなんだから。(最近のものでは 悪人も良かった 妻夫木君の育ての親役で。)
そして本作〝歩いても 歩いても〟 父との関係、母との関係、嫁姑関係の思い等、 自分と照らし合わせてみてしまうこと必然となってしまいますよね。 いやあ、かなり身にしみた。 既に両親共に亡くしてしまった自分が今、そう思う。 【3737】さん [CS・衛星(邦画)] 9点(2012-05-24 21:05:59) (良:1票) |
4.《ネタバレ》 CGや、サラウンドとは、ほぼ無縁の映画は、じわりとしみ込んでくる。それにしても是枝監督はどうやって演出しているのだろう。不思議だ。そして樹木希林は、セリフ、動作、表情、さりげなく上手すぎる。YOUはやはり天才的。夏川結衣は最近のテレビドラマでファンをやめようと思っていたが、子持ちの嫁の居心地の悪さを上手く表していたし、ふと垣間見せる初々しい表情が「青い鳥」以来のツボだった。そして、次男の「いつも、ちょっとだけ間に合わない。」というセリフがあとを引く。 【ブタノケ2】さん [DVD(邦画)] 9点(2009-07-20 23:28:37) (良:1票) |
3.暑い夏の日、亡くなった長男を弔うために家族が集まる。 どこにでもいる普通の家族の、何でもない一日。
自分自身も毎年経験していることだけれど、離れて暮らす家族が会する場というものは、実のところとても独特な空気を持っていると思う。 いつも一緒に暮らしているわけではないので、実際問題各々のことをそれほど把握しているわけではない。 にも関わらず、「家族」という微妙な関係性に縛られているから、特に改まることを許されず、努めて親密に振る舞わなければならない。 それは、互いの関係が良いとか、悪いとかに関わらず、そういうものだ。
だからこそ、表面的な会話の裏に見え隠れするそれぞれの思いにドラマが生まれる。 そのドラマ性を決して表立たせるわけではなく、あくまで個々が抱えた「感情」として描き出す。 それぞれの感情をもっと膨らませて、言動としてぶちまけたなら、荒々しい“波”のある映画になったかもしれない。 しかし、それを敢えてせず、作品全体を水面に落ちた一滴が生む波紋のように仕上げたことが、この映画の最大の魅力であり、是枝監督の流石の巧さだと思う。
歩いても、歩いても、人生が完璧に満ち足りるなんてことは、ないのかもしれない。 それは、息子を亡くした老いた母親にとっても、父親を亡くした少年にとっても、誰にとっても同じことなのだろう。 哀しいことだけれど、そういう何かしらの“物足りなさ”を抱えて生きていくことこそ、本当の意味で人間が人間らしく生きるということのような気がする。 【鉄腕麗人】さん [DVD(邦画)] 9点(2009-06-20 10:10:55) (良:1票) |
2.《ネタバレ》 台詞の一言一言、描写の一コマ一コマが生きている映画です。 今の若者には理解できないかもしれないが30代40代以降の人には ものすごく共感できる作りになっている。我が家の帰省の環境にもの すごく酷似しているかもしれないがとても心に入ってきた。 おじいちゃんのおじいちゃんの家だろや毎年、命日に助けられた少年を よぶおばあちゃんの心境。こどものパジャマを用意していないことに 対する嫁の感情等すべて理解できる。YOUの演技も秀逸。外人には 理解不能の領域かつタイミングの問題で賞は取れないかもしれないが かなりよい作品と断言できる。タイトルはあえてこの名前にしなくても よかったと思う。 【K2N2M2】さん [DVD(邦画)] 9点(2009-03-22 12:57:10) (良:1票) |
1.《ネタバレ》 自然すぎる!どうしたら演者たちからこれほどまでの自然さを引き出せるのだろう。監督の力量に脱帽です。ストーリーとしては、ほのぼのとしているようでいて、実は長男の死という重いテーマが全体に覆いかぶさっています。樹木希林演じる母親が、はじめは親しみやすいお母さんだったのに、時間がたつにつれて、新しいものを排除しようとしたり、息子を殺したも同然の青年に対して束縛し続けたりと、人間の哀しくて醜い部分を見せ付けられ恐ろしかった。しかし、彼女が蝶を追いまわすシーンでは人間の醜さだけでなく脆さまでも印象的に表現していたと思う。その他、お父さんや姉などみんなが人間くさく、リアルで物悲しい映画だった。 【kaneko】さん [映画館(邦画)] 9点(2008-07-22 19:10:40) (良:1票) |