8.このシナリオは、そうとう手間が掛かってるんじゃないか。さりげない言葉の採集に時間を掛け、それの構築にも時間を掛けていそう。それだけの成果が上がっている。大勢の中で言われた言葉へのこだわり・言い返せなかった文句が、二人になったときに不意にこぼれるのが、ザクッザクッと映画に刻みを入れて、表面では何も起こらない時間に確かな手触りを与えている。そのくすぶってる場所としての家族。「おばあちゃんちじゃないぞ、俺が建てた家だ」とか「それ(トウモロコシで気の利いたこと)を言ったのは兄貴じゃなくて俺」とか。その遅れて言い返せた言葉とは別に、“ちょっと間に合わなかった”言葉も山のようにあり、でもそこにこそ一回限りの家族の会話の味が、後悔が懐かしさに変質しつつ隠されている。あるいは墓参りの帰り、暗黙の了解のように二組の母子に自然に分かれ、どっちも他方の前では交わせない会話が紡がれる、そのスリル。不意に顔を覗かせる残酷さと怖さ。「隠れて聴く曲ぐらい誰にだってありますよ」と妻の夏川結衣にあんな含み笑い顔で言われた日には、夫たるもの気になって仕方がないでしょうなあ。こっちの「普通であること」と人の「普通でないこと」がときに重なりあい、するとその場の時間が急にボッテリと厚みを増す。「普通」を形作っているものの裏には、なんとたくさんの折れ曲がった思いが複雑に絡み合っていることか。最近の日本映画でこれだけ詰まってる時間を味わった作品はなかった。原田芳雄はおそらくまだかくしゃくとした老年を描くために起用されたのだろうが、かつての無頼を演じてたイメージが残ってて、たしかに夫婦の過去を思えば似合ってはいるのだが、現在の父としてはもう少し固いぐらいの実直さを出せる役者でもよかったかも知れない(「“すばる”は演歌じゃありませんよ」の語り口は絶品だったけど)。それとラストが付いたことで、見ているほうがその後を自由に想像する楽しみはなくなってしまった。でも傑作です。 【なんのかんの】さん [DVD(邦画)] 9点(2009-08-31 12:15:54) (良:2票) |
《改行表示》 7. ディスクのタイトルの下に、原作、脚本、編集、監督という肩書で名前が出ていたので、よほどの自信作なんだろうなと思って鑑賞しました。 確かに面白い。女性監督には出来ない計算された伏線がいっぱい詰まっている。 最近の映画は、のんびりしたストーリーでも、2時間を平気で超すものが多くて嫌気が刺していたが、約110分、なんとか最後まで鑑賞出来た。 複線もしっかり、セリフもちゃんと含みを持たせて、なかなかとは思ったが……。 正直言わせてもらうと、山田太一、倉本総、向田邦子のドラマを見つくした私には「もう、こういう映画はいいかな……」という感想しか残らなかった。 ホームドラマを見たことがない人にとっては新鮮さを与えるかもしれないが、同じような映画は過去に山ほど作られていることを訴えたい気持ちになる。 【クロエ】さん [DVD(邦画)] 5点(2009-07-08 00:33:09) (良:2票) |
6.世間は『おくりびと』一色だが、日本アカデミー賞を獲るべき作品はこれしかないし、アカデミー外国語映画賞に出品される作品もこれしかないだろう。これこそが「ザ・日本映画」。この情緒を分かるのは日本人しかいないし、たとえ外国人には理解できなくとも、我々日本人が擁護しなくてどうする!日本アカデミーの助演女優賞に樹木希林が受賞しなかったのは理解に窮する(余貴美子が悪かったわけではないが、はっきり言って政治的な匂いがしてならない)。 【フライボーイ】さん [DVD(邦画)] 9点(2009-02-05 21:46:52) (良:2票) |
5.子供時分に沢山観たテレビドラマの様でした。子供が成人した身となった今、共感したり考えさせられたりすることが多々ありました。ただ、あまりにも起伏のない展開に映画にした意義に疑問を感じました。 |
《改行表示》 4.「家族」という人間の集合体はとても興味深い。血の繋がっている家族もいれば、繋がっていない家族もいる。一緒に生活している(していた)人が家族というわけでもない。たとえ同居していなくても、子供が結婚すればその結婚相手も家族だし、彼らの子供もまた家族なのだ。結婚は人生の伴侶を選ぶだけではない。相手の「家族」も選んでいるのだ。 そして「家族」が面白いのはそのありようが様々だからである。仮に僕が将来結婚するときに、自分の実家に相手を連れて行くのと、相手の実家を訪問するのとでは、どちらがより緊張するか、自分にプレッシャーがかかるかと問われれば、僕にとっては確実に前者だ。つまり結婚する以上は、相手に僕の家族を相手にとっての「家族」に加えていただくことになるからであり(自分の実家と絶縁→結婚という選択肢は除いたとして)、結婚相手が僕の家族にどういう印象を抱くかは僕自身の努力では如何ともしがたい点だからである。 この映画に出てくる家族はそれほど「変わった」家族ではない。開業医を引退した男とその妻の二人暮らしの家庭に娘夫婦とその子供二人が帰省中。そこに絵画修復士となった次男が新妻とその連れ子を伴って帰省する。鼻つまみ者がいるわけでもなく、金に困っている者がいるというわけでもない、一見特に何も問題のない家族である。そういう家族でも、個々の構成員の感情のレベルで見ると彼らはお互いに多くの思いを抱いている。だが、これもたいていの家族ではあることなのだ。特に不思議なことではないはずなのだ。 この映画の見所は、僅か一泊二日のお盆の帰省中に起きる様々な出来事を通じて、「家族」という共同体の面白さ、不思議さ、滑稽さ、惨めさ、尊さをとても丁寧に描いている点にある。何の変哲も無い家族を取り上げているにもかかわらず、彼ら一人ひとりの考え方や感情の持ち方を明確に設定し、適当なイベントを生起させることでとても深い人間ドラマに仕上がっている。特に何か大きな事件が起こるわけではない。衝撃的な事実が判明することも無い。涙が出るほど感動する、というシーンも無い。 しかし、邦画でこんなにリアルな家族の物語を観たのは、久しぶりだった。小津安二郎の映画にも通じるものがあると思う。時間をおいてもう一度観たいと感じさせる作品だった。キャストの演技も良い。芸達者が集まっており、全員がはまり役と感じた。 【枕流】さん [DVD(邦画)] 8点(2011-05-22 21:40:28) (良:1票) |
3.特になにも起こらないけれど、凄い映画だと思いました。登場人物たちの会話に、それぞれの関係性と距離感を示す記号を含ませる。無駄になっている台詞がひとつも無いくらいの、一種の緊張感がある。その会話が、誰の立場に自らを置き換えても思い当たるような微妙な既視感を呼び覚まし、静かな共感が起こる。何気ない言葉の端々に垣間見える生活感は、各人の人生という領域までを想像させる。たとえ家族であろうとも、完全には分かり合えない心の壁を深刻ぶらずに見せられる。会話の中に宇宙が見えました。 【アンドレ・タカシ】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2010-02-14 12:54:32) (良:1票) |
《改行表示》 2.暑い夏の日、亡くなった長男を弔うために家族が集まる。 どこにでもいる普通の家族の、何でもない一日。 自分自身も毎年経験していることだけれど、離れて暮らす家族が会する場というものは、実のところとても独特な空気を持っていると思う。 いつも一緒に暮らしているわけではないので、実際問題各々のことをそれほど把握しているわけではない。 にも関わらず、「家族」という微妙な関係性に縛られているから、特に改まることを許されず、努めて親密に振る舞わなければならない。 それは、互いの関係が良いとか、悪いとかに関わらず、そういうものだ。 だからこそ、表面的な会話の裏に見え隠れするそれぞれの思いにドラマが生まれる。 そのドラマ性を決して表立たせるわけではなく、あくまで個々が抱えた「感情」として描き出す。 それぞれの感情をもっと膨らませて、言動としてぶちまけたなら、荒々しい“波”のある映画になったかもしれない。 しかし、それを敢えてせず、作品全体を水面に落ちた一滴が生む波紋のように仕上げたことが、この映画の最大の魅力であり、是枝監督の流石の巧さだと思う。 歩いても、歩いても、人生が完璧に満ち足りるなんてことは、ないのかもしれない。 それは、息子を亡くした老いた母親にとっても、父親を亡くした少年にとっても、誰にとっても同じことなのだろう。 哀しいことだけれど、そういう何かしらの“物足りなさ”を抱えて生きていくことこそ、本当の意味で人間が人間らしく生きるということのような気がする。 【鉄腕麗人】さん [DVD(邦画)] 9点(2009-06-20 10:10:55) (良:1票) |
1.特別不仲というわけでもないが中途半端に居心地の悪い現代の気づまりファミリードラマ。やはり是枝監督の作る自然な雰囲気は凄いし、それについてくる役者も凄い。だからちょっとしたセリフに妙に力がある。ピリピリしてるけれど、どこか退屈、な感じもリアルってことなのかな。終わってみると案外何も残らない。 【すべから】さん [DVD(邦画)] 6点(2009-02-02 00:07:36) (良:1票) |