《改行表示》 7.《ネタバレ》 芸術家を題材にした伝記は数あれど、この映画はただ絵が好きで、特別に技術が高い訳でも独創性があるわけでもなく、自分がどんな絵を描けばいいのかもわかってない平凡な男が主人公で、そんな男をここまで真剣かつコミカルに描ききったものは他にないだろう。 監督自らの絵を使ったという劇中の絵の数々はバリエーションがあって素人目には随分面白い。その絵を劇中で辛辣かつ的確に批評するキャラクターがいるのも面白い。 芸術へのアプローチは突き詰めれば、お笑いも同然となり、これを観ていると全盛期の武の命がけのバラエティ番組を思い出し、ニヤニヤしてしまった。やたらと死が身近なのは、芸術をつきつめることのシビアさ、悲しさを表すと同時に滑稽さをも表現しているようにも見える。命をはれるくらいじゃないと話にならず、死など大したことではないのだという気概がなきゃダメなんだ。と。 いい歳して子供作ってまでこんなに金にならないことをやって周りに迷惑かけてるのは本当にどうしようもない。どうしようもないがどうにも憎めない。暖かく見守りながらも甘いものじゃねーんだぞとも言っているような芸術に対する監督の眼差しが感じられます。すべての芸術家を志す人、夢を追う人に観てもらいたい一品。 芸術やら何やらわけわかんないものを追いかけてることよりも、そんな奴を愛する人がいるってことこそが一番幸せなことですよね。誰でもピカソとかでも、一人者でどうしようもない芸術家の方がずっと多いですし。 【すべから】さん [DVD(邦画)] 9点(2009-03-03 23:47:56) (良:2票) |
6.《ネタバレ》 売れない芸術家問題を自虐的に描く様はコメディなのか?単なるイタイ人を嘲笑しているのか?中盤は単調でややダレルし、夫婦愛というオチは平凡にも思える。しかしながら、「理解者は1人いればよい」というある種の人生の真実を語っているとも思われ、芸術家に限らず「人生とはなにか」という普遍的なテーマに見事に落とし込んだとも言えるのかもしれない。 【東京50km圏道路地図】さん [CS・衛星(邦画)] 7点(2020-07-14 11:21:44) (良:1票) |
5.《ネタバレ》 武映画らしい、狂気と馬鹿馬鹿しさ、笑いにしてもヒールな笑いで単なる絵かきではない人生を描いている。絵が好きで好きでたまらない少年時代の主人公が自殺した母親のひたいから血を流している絵を描いてる不気味さから始まり、成年になってからも絵を描いてる姿での場面も馬鹿馬鹿しくて、そんな馬鹿馬鹿しさ丸出しな主人公を応援したくなる。沢山のペンキ、絵の具を乗せた自転車で壁にぶつかり、物足りないと車でぶつかり、死んでしまう仲間、武らしいです。この絵は?という問いに対するあらくまさんです。それは?あらくまさんの息子です。これは?娘です。と続くシーンの馬鹿馬鹿しさも武らしい。中年になってからの武演じる主人公の不気味さ、どんどんと狂っていく主人公の姿に監督北野武としての不気味さと拘りが見ることができる。トラックの運転手に絵を踏んで欲しいという後に事故が起きるあたりの恐さ、武映画は常に事故、人間の死というものを感じずにはいられなくなる。そして、絵に対する拘り、花に対する拘り、少ない台詞だけで物語を表現する映画作り、武にしか撮れない笑いと不気味さ、狂気に満ち溢れている映画です。20万のコーラをこれくださいと頼む妻との最後のシーンにやはりこの夫婦はこの夫婦にしか解らないであろう世界が見える。 【青観】さん [DVD(邦画)] 8点(2017-05-27 10:17:53) (良:1票) |
4.《ネタバレ》 北野武監督の「芸術家三部作」の第三作。「TAKESIS」と「監督・ばんざい!」では自分自身をそのまま主人公にしたような映画になっていたが、本作は少年時代に絵という芸術に魅せられ、画家を志した男の一代記を描いており、前2作とは毛色のだいぶ違う映画になっている。主人公の少年時代と青年時代は暗いトーンで描かれており、セリフも少なめで、それでいてブラックユーモアも織り交ぜてあるなどいかにもたけしらしい映画に仕上がっている。(登場人物が死にまくったり、寺島進がヤクザ役でワンシーン出るのもたけしらしい。)後半、中年になった主人公(ビートたけし)が妻(樋口可南子)と歩む芸術家人生は喜劇タッチになっていてつい笑ってしまうシーンも多くあるが、そうまでして自分の芸術に対する思いを爆発させる主人公を皮肉っているようにも見える。しかし、ちょっとおだてられるとすぐにその気になる人というのは確実にいて、でも、やがてそれが趣味の域を出ないものと分かってしまったり、自分にはそんな才能なんかないと思い始めて、自信を無くしてしまう人も中にはいるだろう。少年時代から中年に至るまで絵のことしか頭にないようなこの主人公はそんなこと一切なしにひたすら自分の信じた道を異常なまでに突き進むのだが、ここまで自分の信じた道をなんの疑いも迷いもなく突き進む人って現実にはなかなかいないと思う。今はまったくそうではないが、僕自身が昔、できるだけ多くの映画を見ようと今よりもたくさん映画を見ていた時期があり、(将来は映画評論家だねと周囲におだてられてその気になっていた。)この映画とはちょっと違うのだが、一つのことに熱中する姿にその頃の自分と重なる部分が感じられ、どんなに絵を酷評されても描くことをけっしてやめようとしないこの主人公には少し感銘を受けた。それだけでも見て良かったと思える映画だ。主人公を皮肉っているように見えると書いたが、それでも「芸術家三部作」の中ではたけしが唯一本気で芸術を描こうとしているのが分かるし、三本の中ではこれがいちばん良かった。それに全盛期(「その男、凶暴につき」から「HANAーBI」くらいまでの作品。)には及ばないが、久石譲を音楽に起用しなくなってからのたけし映画の中ではこれがいちばん映画監督としてのたけしの良さが出た映画だと思う。たけしは「HANAーBI」や「バトル・ロワイアル」でも自作の絵を登場させていたが、この映画では自身の絵描きとしての側面をテーマにしたこともあってか、登場する自作の絵の持つ意味がその2本よりも大きいのは言うまでもないだろう。 【イニシャルK】さん [DVD(邦画)] 8点(2011-10-13 16:38:35) (良:1票) |
《改行表示》 3.《ネタバレ》 後半の、はちゃめちゃ芸術人生は、コメディ色が強くなり、それほど感じ入るものはなかったが、前半から中盤にかけての芸術への傾倒の過程をブラックユーモアたっぷりに描いた部分は、ほんと面白かった。 直接的なギャグではなくて、武や武映画を好きな人なら微妙に分かるという、微妙な感じのギャグが満載。 とにかく人が次々に簡単に死んでいくところなんかは、いつもの武映画。 寺島進のヤクザ役カメオ出演も印象大。 豪華な役者陣を贅沢に少しだけ出演させて、流れるようにストーリーが進んでいくのも小気味いい。 でも一番印象に残っているのは、汚い工場で事務員として地味に働く麻生久美子。 こんな仕事場で腐り気味に働いている状況で、地味に美しいこんな女性がいたら、まさしくイチコロだろう。 しかも相手からアプローチ。 これは一種の夢物語だ。 【にじばぶ】さん [DVD(邦画)] 7点(2010-06-27 00:07:00) (良:1票) |
《改行表示》 2.《ネタバレ》 自分自身も音楽を作っていたりするので、この作品の言いたい事は本当に良く分かったし、他人事に思えない部分があった。 才能が有っても無くても、芸術に魅了されてしまうと、現実との狂いは避けられない。 たけしの絵も絶妙にその時々の心情が描かれており、確実にその辺を意識した上で描き分けているのが凄い。 狂いに狂って、最後は凄く力のある芸術に近づいた絵を描くのに、その時はもう主人公は絵を売ることすらどうでもよくなっているくらい狂ってしまっている。 その頃にはもはや空き缶ぐらい、彼には何も残っていない。 そこで彼に差し伸べられた手は、本当に彼が狂って目指していた芸術の答えではなく、本当に単純すぎるほどの「愛」。 考えさせられます。 【おーる】さん [DVD(邦画)] 8点(2009-12-02 21:30:47) (良:1票) |
《改行表示》 1.キタノ映画ファンという視点から言えば、今までになくフツーな映画だった。内容がというより絵作り、音作りにおいて。 カット割りやカメラワークが巷にあふれるテレビドラマのように平凡で、今までの(特に初期の作品のような)ハッとさせられるような瞬間がひとつもないまま終わる。観客に対してわかりやすくするためだけに安っぽい絵作りにあえてする必要があったのか大変疑問だ。 とはいっても、たしかにこの映画は紛れもなくキタノ映画。北野武にしか撮れない類の作品だと思う。次に期待を込めてこの点数。 【とと】さん [映画館(邦画)] 7点(2008-09-24 19:54:25) (良:1票) |