《改行表示》 5.《ネタバレ》 広末の「私の夫は納棺師です。」の言葉に鳥肌。 日本人独自の死生観と夫婦愛を、静謐な雪国の風景を背景に、優しく美しく描いた佳作です。 【つむじ風】さん [映画館(邦画)] 7点(2008-11-03 01:06:34) (良:3票) |
4.《ネタバレ》 遺体に丁寧な装いをして旅立ちの演出をする職人の技を、楽器を慈しんで音楽を奏でる人間の技に重ね合わせるというアイディアはなかなか洒落てるし、「白鳥」「鮭」「小石」といった最上川流域の素材をたんなる「風景」に終わらせず、テーマに結びつけて有機的に繋いでいく手腕といい、随分と器用な脚本だと思う。「遡上して産卵する鮭」「力尽きて死にゆく鮭」「塩焼きの白子(フグ)」といったメタファー、あるいは「飛来する白鳥」「旅立つ白鳥」「クリスマスのフライドチキン」といったメタファーを、産まれること、死ぬこと、食べて生きることに重ね合わせながら物語に厚みを与えていますね。石文のメッセージがお腹の赤ん坊に伝えられるラストシーンにまで、こうしたアイテムが抜かりなく行き届いていて、悪く言えば、ちょっと「小慣れた脚本」だとすらいえる。 ◇「汚らわしい!」と叫んだ妻の拒絶反応に対して賛否両論あるようですが、私には十分に理解できました。拒絶の理由のひとつは、音楽家から死体処理という職業への落差。その落差の大きさを主人公も感じていたがゆえに妻に真実を話せなかったわけですし、妻にとってもこの落差を知った衝撃は大きい。二つめは、真実を取繕った夫によって、夫婦の信頼が裏切られたこと、それ自体への拒絶です。そして三つめが、腐乱死体や自殺死体に触れることに対して一般的に抱く文字通りの「穢れ」の感覚であり、これも私は無理からぬことだと思う。それらが混然となった感情の中で「汚らわしい!」の叫びになったのだけれど、その中でももっとも重要なのは、あくまで「夫婦の信頼」の問題なのであって、それさえクリアできれば、職業の問題は夫婦間で十分に乗り越えられると考えたからこそ、妊娠した彼女は無条件で山形に戻ってきたのだと思います。 ◇もうひとつ重要なシーン。父のところへ行けと説得する同僚(余貴美子)や妻を振り切って、主人公がその場を走り去ろうとするシーン。あのまま走り続けても、彼に行く場所はありません。その彼をカメラは正面からとらえている。走れば走るほど、後方で妻の姿が遠ざかっていく。それを見れば、彼が引き返さざるを得ないことは理解できると思います。脚本の器用さが目立ってしまう本作品の中で、演出的にもっとも優れたシーンだと思いました。 【まいか】さん [DVD(邦画)] 7点(2011-07-14 02:11:09) (良:1票) |
3.重いテーマの作品だがコミカルなシーンも取り入れて観やすくしあがっている。なんといっても山崎努がいい。良い役者というのは空気を作り出す。本木や他の役者も良かっただけに広末が異分子に見えてしょうがなかった。 【ふじりんご】さん [地上波(邦画)] 7点(2009-09-22 10:43:19) (良:1票) |
《改行表示》 2.予告編で見た広末涼子の奥さん振りが余りにステレオタイプ的(特に夫の新しい職業を知ったときの「汚らわしい!」の台詞)だったので、思い切り酷評してやろうと思って見ていたが、いい意味で裏をかかれた。 広末の役柄もステレオタイプ的であるが故に、ラスト近くの台詞「夫の仕事は、納棺師なんです」も生きてくる(少々単純な構図ではあるけれども)。 諸外国に比べて宗教色の比較的薄い日本人だからこそ作れた映画ではないだろうか。 その意味で、日本人は他の外国人に比べ、人の「死」を宗教というオブラートに包まずに、より深く受け止めているのではないかと認識を新たにした。 人間の死という事態に際して、変に精神的なシェルターに逃げ込まず、故人にまつわる自分の様々な思いをダイレクトに、愚直とも言える態度で全身で感じ取れるのが日本人ではないか。 日本人の良さを再発見した気分だ。 それとともに改めて感じたことがある。 人生において幸せをもたらしてくれるのは「友人」や「恋人」、「配偶者」や「子供」ではない。 他ならぬ「理解者」の存在こそが重要なのだ。 そして前述した人たちがすなわち自分の理解者となるとき、大きな「幸せ」を感じられるのではないだろうか。 |
《改行表示》 1.《ネタバレ》 この作品の長所としてモックンを初めとする俳優陣、そして納棺の際の所作、ロケーションや撮影の美しさが挙げられる。特に納棺の儀式の息を飲みそうな緊張感、美しさには感心するばかりだが、それがこの作品の最大の短所でもある。どのシーンを取ってもきれい過ぎるのだ。一番初めの仕事でかなり日が経った遺体の処置があるが、それ以降は全く汚れも損傷もないきれいな遺体ばかりがでてくる。僕は納棺師の仕事をしたこともないし、そもそもまだ納棺師を見たことすらないので実際の現場がどのようなものかは全く分からないが、この作品の描き方はきれい過ぎる。これは監督らがそういった見たくないものを避けている、もしくは現場を知らない、という気がしてならなかった。物語の展開も引っかかる。死の間際、またその直後に関わる話なのだから、家族間の争いや汚さを垣間みてしまうようなこともあるはずなのだが、故人への悲しみや愛情しか描かれていない。感動、または泣ける展開ばかり集めて作っているから褒めやすいし、監督の真の力量も問われにくい得な作品だなぁ、と感じてしまった。 ただ、こういった短所を全てカバーしているのがモックンと山崎努の静かな演技力と序盤によく見られる温かい笑いだ。山崎努が全員食ってしまいそうな存在感を放ちながら、モックンも全く負けず、かといって力むことも無く主人公としての際立ち方がちょうどいい具合になっている。この二人の演技なら2時間ぐらい平気で見ていられる。 二人の会話も心地いい。序盤のユーモアは作品を重苦しくさせない要素としても、この作品で最も評価したい点。その分、終盤のそういった余裕が無くなってしまったかのような、感動要素だけの展開がかなり残念だった。 【Sgt.Angel】さん [映画館(字幕)] 7点(2009-03-19 17:05:48) (良:1票) |