4.《ネタバレ》 ワイダの映画は「長いものに巻かれるな」という強い意志に満ちている。本作では、おもに政治から一歩引いたところに立てる女性に、その意志は託された。夫をナチスに・息子をソビエトに奪われるような、両側からの暴力にさらされてきたポーランドのうめきが聞こえる。しかし長いものに巻かれて生きる生き方を選んだものを見下してはいない。それを選んだことの苦悩も、やはりポーランドの苦悩として、自死する兵によって同等に描かれる。偽証して生き残った彼と、手帳に記録を残しなすすべもなくカティンの森に消えていった男と、その悲劇を比べてはいない。ただ「記録」することによってやがて歴史が裁くだろう、という願いのようなものの分だけ、後者が重い。絶望はたしかに限りなく絶望的なのだが、それを踏まえた上で「やがて誰かが手帳を必ず開くだろう歴史」に対する希望がワイダの映画にはある。ソビエト影響下のポーランドで作られた彼の映画は、この手帳・もしくは手帳の存在を指さすものだった。本作にもワルシャワ蜂起の生き残りという娘が出てきて『地下水道』を思い返させたし(彼女は地下へ消えていく)、『灰とダイヤモンド』のマチェクになっていったかも知れない青年も登場する。私たちがワイダの映画で会ってきた人たちが、破壊され得ない墓碑銘として本作には埋め込まれている。 【なんのかんの】さん [DVD(字幕)] 6点(2010-09-25 10:14:54) (良:3票) |
《改行表示》 3.《ネタバレ》 ポーランドのトラウマを描き続けるワイダ監督。行方知れずの将校の妻を物語の中心に据えてはいるものの、視点が色々な人物にくるくると移って観賞しづらい。彼のこれまでの作品では一市民のドラマをもっと上手く描いてきたと思うのだけど。もっとも、骨太でリアルで容赦の無い筆致は相変わらず。軍人の大量虐殺はソ連によって行われたと、ソ連統治下では公に口にできない二重の理不尽さ。飲み込む人あり、抵抗する人あり。一筋縄でいかないポーランドの苦悩がべったりと描かれて息苦しい。 ラストの惨殺シーンは正視出来ないほどの酷さだ。人間が壊れている。ワイダ監督が突きつけてくる戦争の狂気、その淡々とした空気が恐ろしい。 【tottoko】さん [CS・衛星(字幕)] 6点(2014-02-16 00:26:37) (良:2票) |
2.《ネタバレ》 重い映画なので、軽い気持ちでは見られません。最後の虐殺シーンの、音もなく、色もあまりないシーンは、衝撃的で、悪夢のようです。主人公がどんな窮地に立っても必ず生き延びる映画を見なれた目には、なすすべもなく射殺されていく人々の姿に、現実の怖ろしさを実感させられます。女主人公と、大将夫人との区別がつかず漫然と見ていると、話がわけわからなくなります。後半から新たな登場人物が出てきて、新たな挿話が始まりますが、校長と大将夫人も似ているので、混乱します。 【エンボ】さん [DVD(字幕)] 7点(2010-09-25 17:35:19) (良:1票) |
1.《ネタバレ》 歴史の闇を描いた作品だけあってトーンは重厚。なんとも言えぬ後味と相まって、まさに映画を観たという余韻に浸れました。アンナと将校の夫のドラマが中心ですが後半、唐突に別のストーリーが絡んできてしまい作品としての軸がややブレ気味に見えてしまったのが残念。 【8bit】さん [DVD(字幕)] 6点(2010-07-12 13:29:00) (良:1票) |