4.《ネタバレ》 壊れた人間関係や機能しないものを描くのが好きなメンデスだ。 ものごとが秩序立って気持ちよく進むのが嫌いなんだな。 さてエイプリルの取り付かれた「自分探し」というものは「夫が俗物化していくことを阻止しなければ」という強迫観念と混然一体となっていたようだと私は思うのだが、その「種」を撒いたのはキャシーベイツ演じる不動産屋の悪意…だったのかなあと、ラストでそんな気がした。 不動産屋の夫のアップで終わるというこのラストはなんなのかというと、たぶん「悪」を見た人の顔、という意味なのではないだろうか。 「あんたたちは特別よ」と7年間に渡って刷り込み続けることで、エイプリルの「生きがい探し」「自分探し」が始まってしまったのではないのか。 エイプリルがもともと「自分探し生きがい探しに目覚めてしまうような特別にやっかいな女」だったのかというと、それは映画内の描写だけではよくわからない。 が、隣のミリーはそういう〝病気〟にならずにすんでいる。同じように男児を2人産んで、郊外で主婦をやっているのに。 ウィーラー夫婦は共に、恵まれていることを自覚していないという点が共通していて、エイプリルの不幸は「俗物化していく夫を捨てられない」ということで、出奔することさえできれば悲劇は起きなかった。 この映画では「神」が決定的に欠如していて、たぶん「映画内での」神の欠如と子供の無視は同じ意味であって、「神の欠如」=「感謝の欠如」=「子供に対する無視」=「生きがいの喪失」なので、むこうの文化では「感謝」というのは「神」があってはじめて生まれる。 信仰を失っていること=感謝の気持ちの欠如=不動産屋につけこまれるスキを与える=「特別な体験をして特別な人間になれないこと」への欠乏感。 さてエイプリルの最後の行動の謎について触れたいが、これは「自殺」ではないことは救急車を呼んでいるから間違いない。とすると、「話すのも触られるのもイヤなフランクの妻として暮らしながら、なおかつ〝生の実感〟を得るにはどうすればいいか」というエイプリルなりの究極で唯一のソリューション、「死の淵から蘇る」ということだったのかと、私は思う。 死にそうになって助かると、生きている実感を得られる。ジグソーみたいだが。 彼女にとって一番問題だったのは「生きている実感が得られない」ということだったのだから。 【パブロン中毒】さん [CS・衛星(字幕)] 7点(2011-11-12 23:54:40) (良:1票) |
3.《ネタバレ》 年齢を重ねるにつれて、映画としての完成度でなく自分がいかに感情移入できたかで点数をつけていると思う私・・・。適当に仕事して、適当に浮気して、そんなに害のない(笑)ディカプー。奥さんとは対照的です。人生を無駄にしたくない、本当にやりたいことをやりたい・・・。同僚や隣家の夫婦がパリ行きに失笑するのがリアルです。伊集院氏がいたら「この中二!」と言うかも。今いる環境で一生懸命やれば自分が成長していくし、周囲も変化していくものだけど、それに気付いていない人たちの悲劇です。夫より奥さんが重症。夫のほうが奥さんに比べて「期待」してないというのが私の見解です。スガシカオの曲に「あのころの未来に僕らは立っているのかな・・・」という歌詞があって、たまに思い出します。切ない歌詞だけど、大人になった今は、あの頃の未来と今の自分が離れていても自分は幸せだと感じています。そんな私は幸運なのかもしれません。 【キュウリと蜂蜜】さん [DVD(字幕)] 8点(2010-05-18 23:57:44) (笑:1票) |
2.これは、身に覚えがあるかないかで見方も評価も変わる作品でしょう。自分は5年ほど前に、現在も勤めている会社に辞表を出したことがあります。部署の方針に納得がいかなかったから。転職先なんて決まっていなくて、失業手当を貰いながら1年くらいかけて新しい業種と生き方を模索するつもりでいました。その時の自分のテーマは「辞めてから考えよう」でした。現実的な考え方でないことは承知しているつもりでした。結局、紆余曲折を経て慰留されたカタチで収まりましたが、当時の私の心境はパリへの移住を決めたこの夫婦と極めて近かったと思う。だから、バカな奴らと流すことができない映画でした。遣り甲斐があると思う仕事も、満足していると思っている生活も、365回を何度も繰り返すうちに振れ幅が決まってくる。そこに限界や虚しさを感じることがある。人生は一度きり、と考えたときに違う方向に進めないとしたら、それは守りの姿勢以外のなにものでもない。とは言え、今の生活も決して失敗ではないし、新しい選択は失敗する可能性の方が高い。それを秤にかけて一歩を踏み出せる人を自分は勇者だと思うけれど、世間の評価は反対なのでしょう。自分はその一歩が踏み出せなかった諦観を抱えながら、日々を送っています。ちなみに、今の社会状況ではもう辞表は出せないです。 …こりゃまた、レビューになっていないです。 (追記:このレビューの2年後、会社を辞めて住む場所も変えました) 【アンドレ・タカシ】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2010-03-08 21:27:11) (良:1票) |
1.《ネタバレ》 レオにケイトのあの黄金カップルが夫婦役!、なんて宣伝したら『タイタニック』の続編か何かだと思う人はいっぱいいるだろうなぁ。夫役のレオはケイト直々のご指名とのことで(ついでに言えばキャシー・ベイツも出てるし)、監督らは『タイタニック』目当ての観客の気分をどん底に落とそうという実に意地の悪~い魂胆があって撮ったのではないかと。この意地の悪さは好きですよ。 『タイタニック』を観ている観ていないに関わらず、理想のカップルとして有名な二人。若く、夢と希望に満ちあふれた二人が結婚したらどうなるのか?興味が湧かないわけがないキャストと設定で、夢も希望もない現実が描かれる。『タイタニック』で夢見たことを全てぶち壊します。 互いに夢、というかほとんど幻想のようなものを抱き、またそれを相手にも期待して結婚してしまったが為に、子供ができて好きな事ばかりしていられなくなった時、相手に大きな失望感を覚える。もともとこの二人は夢や理想については共有できていたものの、現実的な事柄については何も噛み合っていなかったのだと思う。エイプリルの計画の欠点を論理的に指摘しているようでいて、実際は今のような生活が保証されないのが恐くて恐くてしょうがないフランク。根は弱気で、口でしか夢を語れない彼もすごく悲しい。彼自身もきっとそれが嫌だから喧嘩しても必ず先に謝りにいくのだろう。このディカプリオの薄っぺらでつまらない男の演技はもっと評価されていいはず。 それに対するエイプリル。彼女も彼女で辛い。女優という目標があったにも関わらず出産によって断念せざるを得なくなり、その原因であるフランクに当たる。彼女の計画が上手くいきそうになるといつも妊娠に邪魔される。だからラストでも自分の夢を断った原因を消し去りたかったのだと思う。 どっちも感情的になってるんだけど、それぞれの立場になってみたらそれは誰でも少しは抱えてしまう不満だからどっちにも同情してしまってキツイ。 夫婦間のやり取りだけながら、そこらのホラー映画は軽く超えてしまう恐い映画です。 【Sgt.Angel】さん [映画館(字幕)] 7点(2009-02-13 20:08:25) (良:1票) |