8.前半「アウトロー」や、「ダーティ・ハリー」、「ハートブレイク・リッジ」といった彼の代表作を髣髴とさせるシーンがいくつもあった。いかにも彼らしいユーモアにも笑い転げた。
引退を表明したイーストウッドが、自ら演じてきた、血にまみれたヒーロー達に作ってやった花道、あるいは鎮魂歌のような映画。 大先輩のジョン・ウェインも最後の作品では似たようなことをやっていたっけ。
この作品に関してはもういい悪いの問題じゃないね。 でも、彼の姿がスクリーンから消えるのは寂しい。 |
7.悪党たちが罪なき人々を苦しめる。立ち向かう一人の男、クリント・イーストウッド。なんて単純な話なんだろう。しかもこのパターンって西部劇ではないか。もっと言うなら『荒野のストレンジャー』の『ペイルライダー』に次ぐリメイク、、とは言いすぎか。二つの西部劇の主人公は人間とは言い難い。神の化身と解釈して初めて合点のいく物語となっている。イーストウッドの中にある神、あるいはキリスト教への不信が自らを神へと変えた。『グラン・トリノ』の主人公は二つの西部劇とは違い、コワルスキーという人間の名前を持っている。しかし彼が最後にとった行動はキリストそのものではないか。これまでの作品で散々キリスト教をコケにしてきたイーストウッドは、神にすがることなく、神にしかできないと誰もが思っている行動を人間としてやり遂げさせてしまう。これはこれまで描き続けてきたことの一つの答えなのかもしれない。集大成で言えば私は『チェンジリング』のレビューで『ミスティック・リバー』以降は全てイーストウッドの集大成と書いたが、『グラン・トリノ』はたしかにこれまでのイーストウッド作品を彷彿させるシーンがたっぷりとあるが『ミスティック~』以降の流れにある重さがない。話の単純さもそうなのだが、話の流れもかなり強引だ。例えばあんなに嫌がっていた隣家のパーティに行く理由が弱い。例えば若者たちが集う地下室へ導かれる展開がムリヤリ。これって『ブラッド・ワーク』以前のイーストウッド作品にある所謂予定調和ってやつ。でも『グラン・トリノ』ではそこにつっこむ気を起こさせない。だってこれは映画だもん。そう言われそうだし、そう思ってしまうのだ。そのことを観客に承知させる境地に辿り着いたということか。イーストウッドは映画を崇高なものだととらえていない。もっと身近なもの。もっと手軽なもの。芸術や娯楽という前に映画は映画でしかなく、そして当たり前のように作り物なのだ。マカロニウエスタンってその世界自体が嘘の世界。そこから生まれたイーストウッドの当たり前の世界。グラン・トリノという車の顔形よりもイタリア語を冠した名前がさりげなくイーストウッドの起源を語ってくれているように思った。 彼の映画の本来の武器は映画はしょせん映画と割り切ってもいいという安心感なのかもしれない。そしてその安心感が映画を身近にする。『グラン・トリノ』は愛すべき手軽な映画だ。 【R&A】さん [映画館(字幕)] 8点(2009-05-08 17:05:47) (良:2票) |
6.イーストウッドに、人の生き様を見せる映画を撮らせたら右に出るものはいないと思う。 この、ミリオンダラーベイビーを見た際に感じた思いが、この作品で確信となった。
イーストウッドは、どうすれば観客の胸を打つかという見せ方を知り尽くしている。 言葉にしなくても突き刺さる凄惨な事実。 ラストシーンの、言葉では表せない格好良さ。 言葉での説明が無くても"見せ方"が上手ければ、そんなことは問題ではない。 そういうことを改めて深く思い知らされた。
見せ方を知り尽くしているのは、勿論今までの経験に基づいたものだと思う。映画人として、人間としての70年以上の積み重ねが、今のイーストウッドを作っているのだから。
映画界の生きる巨匠。 願わくば、これからもずっと、彼の作った作品を見たいと思う。 【Sugarbetter】さん [映画館(字幕)] 8点(2011-01-27 16:23:57) (良:1票) |
5.この映画の主人公の生き様は、昔「不良」と呼ばれたことがある人じゃないと理解できないかもしれません。
全然合理的では無い、自分の信じる「スジ」を通すことに異常なくらいの拘りをもって 他の人の価値観や倫理観を押し付けられることを頑なに拒む。そのくせ面倒見がよく、情に対しては義をもって応え 見返りなどは期待せず 粋で意固地で頑固な「漢」(おとこ)。 ひょっとするとこの映画は最後の「任侠」映画なのかもしれませんね。
「クローズ」や「ドロップ」も良いけど ファッションじゃない「不良」の映画として 若い人にも是非観てもらいたいと思いました。
今の日本人の俳優さんで この役を演じられるのって 誰がいるだろう・・。 【0707usagi】さん [映画館(字幕)] 8点(2009-07-20 09:37:45) (良:1票) |
4.普通、映画館で映画を観ると、最後のエンディングテーマやクレジットが流れ出したら、お客さんはソロソロと帰り始めるものだけど、この映画、流されるエンドクレジットの大部分が終わっても、満杯のお客さんは誰一人として席を立っていなかった。何十年も映画を観てるがこんなん初めて。もともとイーストウッドの映画は、本当の意味での「先進性」などとは関係のない映画なんだけども、でも観客をその気にさせるのがすごくウマイ! 【メロメロ】さん [映画館(邦画)] 8点(2009-05-28 23:40:43) (良:1票) |
3.私、男の友情系映画に弱く、ショーシャンクも号泣したのですが、この映画も途中から鼻がつまり、最後20分は涙がとまりませんでした。泣いた理由の何割かは「クリント・イーストウッドをスクリーンでみるのはこれが最後なんだぁ」という思いが含まれていたと思いますが。ジャック・レモンの晩秋をちょっと思い出しました。さて、何を書いてもネタバレになるので詳細は何も書きません、部屋で一人でしみじみみてもよし、映画館でもよし(私のみた館では皆シーンとしたまま最後まで真剣に鑑賞していました。あまりない経験)、ぜひご覧を。注目ポイントは:イーストウッドのしびれる声、アメリカの現実、エンドロールのジャズ、床屋トーク。 【はにーさっくる】さん [映画館(字幕)] 8点(2009-05-10 14:19:18) (良:1票) |
2.この監督の作品って、毎回衝撃のラストに泣かされるし愕然とさせられます、、、、。 前半は、くすっと笑えるようなところが多少ちりばめられており、特にイタリア人の床屋さんが出てくる場面はとても好きでした。 それが、後半になるにつれて、暗雲がたちこめるように、悪者とのいさかいがどんどん大きくなってきて、ココロの中で「ああ、もうこれ以上やめて。つらい方向へ話がいかないで」って願ってしまう。 その願いもむなしくそのままラストへ-。って感じなんですけどね。 エンドロールの景色で、少し救われた気持ちになるのですが、しばらくつらい余韻は引きずります、、、。 自分的には、あまり好きな映画ではないけど高得点を出さざるを得ない作品でした。 【カルーア】さん [映画館(字幕)] 8点(2009-05-06 17:26:42) (良:1票) |
1.ネタバレなしで。ここでの評価がむちゃくちゃ高いのも頷ける佳作だった。見た後こんなにも温かな気分になれる映画はそうそうない。しかもいわゆる「いい映画」然とした映画ではなく、笑いどころも思った以上に多い。友達誘って気軽に観にいける作品。 グラントリノってのは全盛期(前世紀)のアメリカを生き抜いたアメリカ男児の誇りそのものみたいなもんなんだろう。アメリカのじーさんってのはカッコいいね。いやむしろイーストウッド「が」カッコいいのか。老いた自分をネタにギャグを撮れる御歳78歳、恐るべし。 |