4.《ネタバレ》 原作も知らず、ほとんど予備知識も無く観賞。冒頭のコメディアン暗殺シーンの描写に驚く。その格闘の様子からコメディアンも相当な手練れであることが伺えるが、それを難なく圧倒する暗殺者。一方的な暴力が高級な調度を破壊しながら進む。高層階の窓から投げ捨てられるコメディアンが硬化ガラスをくだいて放物線を描き、その軌道が目に焼きつく。物語の重さを感じさせるに充分なオープニングだった。米コミックが描いてきたヒーローとはご近所で起こる諍いを収める自警団で、世間はそれで満足するほど呑気で平和だったが、時の流れが事情を変える。ヒーローの存在意義が平和の実現ならば、冷戦構造下の核の脅威にはどのように対応するのか。本作はその回答をテーマに据えた物語。核の抑止力がもたらす脆い平和を憂えた一人のヒーローが密かに筋書きを練り実行に移す。コメディアンの暗殺もその一環。マクロな視点で捉えるとその計画は評価できるが、多くの犠牲を伴うために一概には納得しがたい。その気持ちを死んで代弁するヒーローもいた。自分にとっては、この苦いものが残るエンディングがそのまま映画の見応えでした。いがみ合っている者たちに共通の敵を仕立て、共闘させることで導かれる平和。まぁ80年代までの平和概念だけど、あの不安な世相を実感できる世代としては見るものがありました。自分は鑑賞中、何度も「ダークナイト」が目の前にちらつきました。虚構世界のヒーローの苦悩をリアルに描くことでフィクションに説得力と奥行を持たせた「ダークナイト」と比較し、現実世界の国際平和の探求にヒーローを絡ませた本作の構成は、スタンスとしてはさらに踏み込んでいると言える。この映画はヒーローアクションムービーではない。物語構造が複雑で、エンディング近くまで謎解きがなく、唐突に浮上したテーマに対して回答が飛躍しすぎる感もある。でも、それに追いつかないとこの作品の面白さは理解できない。世界規模での平和の実現はヒーローの落日でもある。 【アンドレ・タカシ】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2010-06-07 03:24:27) (良:3票) |
3.原作既読です。コミックの枠を超え、アメリカ文学史上の傑作とすら言われる作品なのですが、これが実に338ページに及び、コマの中で一瞬うつる雑誌や貼り紙にも意味があり、さらに各章の最後には世界観を補足するためのこってりとした資料まで付属という凄まじい情報量。こんなものを2時間40分で処理できるのかと思ったのですが(原作者も、最初に映画化を試みたテリー・ギリアムも、一本の映画にまとめることは不可能と語っていた)、驚いたことに原作にあった要素はほとんど捨てておらず、かと言って駆け足感もなくて原作と同じようなテンポを再現しています(退屈だという意見もありますが、当の原作がこのテンポであり、そこまで忠実に作られているのです)。また、登場するキャラクターの印象も原作を読んだ時のまんま、ロールシャッハは相変わらずかっこよく、ナイトオウルは相変わらずのヘタレで、Dr.マンハッタンは相変わらずフルチンです。ミニッツメンとウォッチメンという新旧2つのヒーロー組織が登場し、それぞれのヒーローは本名とヒーロー名の両方で呼ばれるため非常に複雑、原作は何度も前のページに戻りながら読んだのですが、映画版はこの辺りの交通整理をうまくこなしており、はじめて見る人でも混乱しないように作られています。こうした秀逸な脚色の上に、監督のビジュアルセンスが炸裂。「ゾンビ」のリメイクでガンコな旧作ファンを返り討ちにしたツワモノだけあって、本作でも驚異的な仕事をしています。原作のカットを忠実に再現しつつ、実写ならではのアップグレードも加味。格闘時のロールシャッハの素早い身のこなしは原作を超えるかっこよさだし、火星に現れる楼閣の美しさは芸術的ですらあります。役者もよく選んできています。全員原作のイメージ通りであり、特にロールシャッハは、正義に執着することで生きている精神異常者で、背の低いブ男なのにマスクをかぶると猛烈にかっこいいという難役であったにも関わらず、これにハマる俳優を選んできているのが凄いです。以上、「ウォッチメン」の映画化としては完璧な仕上がりだと言えます。ただ、ここまで忠実だとどうしても原作ありきになってしまうので、さまざまな工夫がなされているとは言え未読の方にとっては苦しい出来なのも確か。一本の映画としてどう評価すべきかは難しいところです。とりあえず私は気に入ったので、高得点を付けておきます。 【ザ・チャンバラ】さん [ブルーレイ(吹替)] 8点(2009-09-17 19:00:41) (良:3票) |
《改行表示》 2.ダークナイトよりも映像が作り込まれてます。ダークナイトよりも善悪について一歩踏み込んだ内容と言えます。 でも、こってりとした映像の連続、情報過多により消化不良を起こした人が多いのではないでしょうか。私もその一人です。ダークナイトの方が分かりやすくて"面白い"のです。 大衆に愛された映画はダークナイトですが、ウォッチメンはターゲットがもともと狭いだけで、かといって大衆を突き放してるわけでもなく、擦り寄っているわけでもない。 2つの作品を見ていると【世の中の不条理】を感じてしまいます。ウォッチメンの方が評価が低いのは制作側に問題があるのでしょうか?大衆の知識と頭脳と精神性が正しい評価を阻害してるから?より多くの人を"面白い"と感じさせたダークナイトのほうが作品として優れている? どちらも優れた作品だと思いますが、22世紀により高く評価されているのはウォッチメンだと思います。 【エウロパ】さん [DVD(字幕)] 8点(2012-12-12 18:37:57) (良:1票) |
《改行表示》 1.《ネタバレ》 突然男が襲撃され、それを調査するシリアス部分と昔は一世を風靡したが見事に落ちぶれたヒーローの哀愁が何とも切ない前半。世界破滅が刻一刻と迫り、昔を思い出し立ち上がり、手を組み出すヒーロー達。そして最後のラストとここまで最初と最後の作品内のテンションのギャップが凄い作品はあまり覚えがありません。 アクション部分は確かにVFXバリバリではないが、古臭いが逆にそれが良いヒーローやメカのデザイン、場面や敵を変えることで時に圧倒的に勝ったり時には負けたりと展開が違うので飽きも来ず、そして何より映画史上類を見ない程のヒロインの圧倒的セクシーさ(あのハイレグはヤバいだろ!!?)に目が離せず、そのせいか本当に2時間半と言う疲れを感じなかった。 そして衝撃のラスト。結果的にマンハッタンは人類を救う『必要悪』に仕立てられてしまうが、その結果人類が良き方向へ向かいと信じ承諾する。ここまでの流れはダークナイトに近いが、本当の最後、全ての真相を公表しようとするロールシャッハはミクロ的(失礼な表現かもしれないが)な意味ではエイドリアンの罪を見逃さず、例え殺されようとも、嘘を付けば助かるのにそれすら許さず、自身の正義を曲げない正に『正義の味方』である(これまでの功績を考えても一番彼がヒーローだろう)。そんな彼を殺すことで自分が必要悪になると言う確固たる『決意』を表わしたという意味でマンハッタンの方がバットマンよりも一歩先を言っていると考える。加えて黒幕の方にも、計画実行までは主人公達を圧倒していたにもかかわらず、全てが成功した際は一方的に殴られたりと自分の行った行為に対する『責任』とそれを受け止める『決意』を感じた。 単純にストーリーや構成、演出(人間の汚さや、それを正すため1500万人を殺すなど事件の重要部分を度々『ジョーク』と言い切るキャラ達)、視聴後の疲労度の違い、、そしてヒロインの圧倒的セクシーさで言っても、個人的にはこちらの方が印象深い『最悪のハッピーエンド』だった。 【ムラン】さん [映画館(字幕)] 8点(2010-10-11 21:12:49) (良:1票) |