6.《ネタバレ》 完璧であることが欠点、というとあまのじゃくに思われるかもしれない。けれども構造として合理的で無駄が無いことと、物語として完成されていることは別の事柄だ。チャンドラーの小説に似たプロットのものがあるが、この映画とは対照的に寄り道が多く、しかしそのことが作品の豊かさでもある。今でも新鮮さを失っていないのは、どちらかというと無駄だらけのチャンドラーの方だ。
もっとも、充分見応えのある作品ではある。オーソン・ウェルズが登場したときは普通のおじさんという印象だったが、観覧車でホリーに悪の論理を語りかける、あの声音には惹きつけられた。話の内容そのものはありがちな理屈でしかないが、まるで女性を口説くようなロマンチックな状況と洒落た言い回しで幻惑する、あの手管がハリーという人物をよく表しているように思う。
ハリーは冷酷で自己中心的な男だが、どこまでも自由で、あらゆる縛りから逃げおおせている。ときには法や倫理に反するとしても、頭の硬いホリーのような凡人の目には魅力的に映ることもあるだろう。
ハリーが地下水道で追い詰められ、銃を持って近づく親友に決断を促がす場面では、ちょっと泣きそうになった。恋人すら密告したハリーが、「信頼できる仲間がほしい」、と罠の可能性も顧みずのこのこやって来たのは、ホリーがハリーの自由さに惹かれたように、ハリーもまた友の実直さ、鈍重なまでの誠実さを求めたからじゃないだろうか。ホリーは刑務所暮らしには耐えられないハリーの性分をよくわかっていて、自分の手を汚す。二人は正反対の気質を持ちつつ、互いを認め合っていた。
対してアンナは、最後までハリーに尽くしたにも関わらず、ほとんど気にかけてもらえない。恋人を放置したハリーも、親友の前には姿を現した。ラストは主人公の失恋と観るのが本来だが、どうだろう。筆者には男同士の絆に立ち入る隙を見つけようとして敗れ去った、可哀そうな女性の姿にも思える。自分の命を断つのに他人の手を恃むのは、ある意味では究極の信頼関係だろう。アンナは恋人をホリーに奪われたのだ。 それも二重の意味合いで。 【no one】さん [DVD(字幕)] 7点(2009-07-01 14:31:47) (良:4票) |
5.《ネタバレ》 モノクロなのに夜のシーンや下水道のシーンの暗い画面が観ずらくない。”モノクロなのに”ではなく”モノクロだから”なし得た美しさがある。死んだはずの人間の顔が暗闇に照らしだされる。猫が足に絡みつく時点で観ている者にはだいたいの想像がつく。しかしハリーの顔を私達は劇中でまだ見ていない。そこにヌッと顔が現れる。判っていても衝撃のシーンである。ニクイ演出だ。どんなシーンもチター1本で奏でられる音楽と画とのアンバランスさは、ウィーンの”平和”と平和が産み落とした”非平和”の矛盾をうまく表現していると思う。 【R&A】さん 7点(2004-03-19 12:23:55) (良:2票) |
4.はじめて観たときは、なんとなく辛気くさい感じがして、面白くないなぁ〜って思っていました。でも、音楽だけは耳について離れません。たまに(よく?)♪タラリ〜ラリラリ、タラリ〜ラリラリ……♪を口ずさんでいました。あれから何度か観ましたが、観れば観るほど、人物の登場シーンでクスリと笑ってしまいます。コメディーじゃないんだけれどなぁ。それでもクスリという感じで外される。どこかとぼけているんですよね。この間が、昔はわからなかった。けれど、な〜んかはまるんですよ。戦争の傷跡が激しく残っているウィーンで、4か国による分割統治がなされている微妙な空気のハズなのに、ちゃんとそういうところ映してくれているのに、何なんだろうなぁ〜。私としては、こういう外し方がツボなんですが、見方が違っていますでしょうか? きっと違っているんだろうなぁ〜(とほほ)。んで、アリタ・ヴァリの毅然とした表情がかっこよかったなぁ〜。 【元みかん】さん 7点(2004-02-12 20:12:50) (良:1票) |
3.下水道のシーンがなかなか面白いカメラワークで好きです。映像へのこだわりみたいなものを感じました。 【雪うさぎ】さん 7点(2001-03-14 00:48:30) (良:1票) |
2.女の愛の一つの形。ラストシーンは印象的。アントン・カラスのチターの音色もしみじみとしています。 【向日葵】さん 7点(2001-03-07 12:47:48) (良:1票) |
1.光と影の使い方では他の追随を許しません。が、名作というには少しストーリーが古びてしまうタイプです。 【プリン】さん 7点(2001-02-15 13:20:48) (良:1票) |