11.《ネタバレ》 原作を読みオリジナル版も観ているが、これは上手くまとめたと思います。もともと、松本清張作品の映画化は事件の社会背景を問題視するあまりに、犯行の動機や犯人の心理描写に無理矢理感が否めないものが多かったのだが、これほどスムーズに観られたのは初めて。オリジナルは「パンパンの悲哀」がテーマだったが、本作は「新しい時代に生きる」に変わっている。それは原作にもないコンセプト。それによって、オリジナルでは不可解だった、憲一が田沼久子との生活から離れようとした動機がすっきりと解決されました。戦地で傷を負った者と国内で戦災に遭った者の代表が憲一と佐知子。憲一から10歳年下の禎子は戦争による暗さを持たない世代として劇中では捉えられる。彼女が「新しい時代」の象徴です。あの時代、生年が10年違うことが、本当はどのような意味を持ったのかは想像するしかないが、戦争によって辛い時間を過ごした憲一が禎子と共に新しいスタートを切りたいと願ったことには頷けました。オリジナルでは、若い子に乗り換えたとしか思えなかったので、このアレンジは高く評価したい。並行して、佐知子にも女性市長の誕生というサイドストーリーを用意した。そちらも「新しい時代」に繋がります。オリジナルは「パンパン」だった過去をひた隠しにするために事件が起こったが、本作では明るい未来を掴もうとして起こった事件と解釈できて、現代的な問題意識にも適合するように工夫されていると思います。木村多江が演じる田沼久子のおっとりした薄幸女性の献身ぶりは、オリジナルで評価の高い有馬稲子に比べて遜色ないと思いました。 【アンドレ・タカシ】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2010-12-19 19:10:29) (良:3票) |
10.《ネタバレ》 そろそろ広末さんの女優としての力量を認めても良い頃だと思いませんか?タイタニック時代のケイト・ウィンスレットも最初は観客から批判されていましたが、今では誰もが認める大女優になった。女優広末の「個性」は、ケイトと非常に似ている。彼女は観客の好奇の眼に晒されながらも、それを呑みこみ、どんどん大きく成長している。本作品の見所は、一流の女優同士の共演にあります。そして実力どおりの、いやそれ以上の力のこもった演技を魅せてくれました。石川県民の1人として深く感謝いたします。広末、中谷、木村、まさにこの3人の名女優たちは日本の財産です。ところで石川には金沢と能登というまったく性質の違う2つの土地があります。金沢は言わずと知れた百万石の聖地ですが、能登は暗いイメージがある。海面から漂う不気味な光は、人を死に誘うと表現した芥川賞作家もいました。日本海は常に不機嫌で、すきさえあれば、人を海の中に引きこもうと、虎視眈々と狙っている。「ゼロの焦点」というタイトルは、光り輝いているのに心の内部に暗さを隠し持った人間の内情を意味しており、そのなかで金沢と能登は光と影の暗示として表現されているのです。そして能登がなにゆえに、日本文学の舞台として、多くの純文学の作家たちから愛されてきたのかといえば、人の暗部を描くとき、能登はメタファーそのものになるからです。断崖を突き抜ける極寒の強風、敵意を持った冷たい日本海、漆黒の闇夜から聞こえてくるさざなみの唄、風光明媚な孤高の漁村。1000の言葉を駆使するよりも、彼らを能登という舞台に立たせ、そして歩かせるだけで、それぞれの登場人物が抱える心の暗部が見えてくる。スバラシイ。単純な娯楽映画には決してみられないこの表現力、この世界観、これぞ純文学、これぞ芸術、これぞ映画の本質、見事としか言いようがない。映画史上稀に見る秀逸な世界観を作り出したことを高く評価したい。私は本作品が世界に向けて発信する日本の代表作品になっても決して驚かない。 【花守湖】さん [映画館(邦画)] 9点(2009-12-23 21:31:25) (良:3票) |
9.全体として台詞回しも音楽も演出も大仰で過剰。中谷美紀さんはもともと表情も演技もオーバーアクト気味なのに、序盤の登場シーンから最後まで「熱演」にアクセルをかけてしまい、コメディかコントのようだった。逆に受けの立場の広末涼子さんは、終始引き過ぎで芯の強さを伝えきれない。得意な役回りだった木村多江さんはいつもの木村多江さん。3人の女性の設定にせよ、その後のサスペンスドラマの定番となった「崖シーン」にせよ、いまや多くの映画やドラマの基本枠組を作ってしまった作品であるがゆえ、その基本枠組を21世紀にどのように表現するのかが問われた作品であろうけれど、そうしたメタな視線をできるだけ排除して、昭和的な「正統派」路線でいったのが正解だったのかどうか。もう一歩踏み込んだ再解釈が必要だったのでは。 【ころりさん】さん [インターネット(邦画)] 5点(2020-07-19 07:05:19) (良:1票) |
8.原作は未読だが、流石に松本清張だけあって、人間の持つズルサ・弱さ・強かさ等々業の深さが感じられた。新しい出会いにより新しい人生を歩み、過去や記憶を無かった事にしたいというのは現代にも通じるテーマなのでは?(それまでの縁を裏切る事もあるでしょうし、自分の嫌な過去を知る人間には消えてもらいと思う事もあるでしょう)。 広末はミスキャストだし、音楽も仰々しいし、その他細かな点においていろいろとツッコミ所はあるものの、映像的にもよかったし、役者もよかったし、中々見応えのある作品だった。 【東京50km圏道路地図】さん [DVD(邦画)] 7点(2014-02-20 13:05:30) (良:1票) |
7.《ネタバレ》 戦後という混乱期にあって、男も女も変身願望を持ち、生まれ変わりたい、過去を消して、新しく生きなおしてみたいという人々の悲願が悲しい。佐知子が提案した、一度死ぬという「儀式」に乗ってしまう憲一の気持ちも分からなくもない。作品のタイトルの「ゼロ」は、まさしく過去のない、擬似的なスタート地点を表しているのでは? 無理やり過去をむしり取って、ゼロの位置に立ってみる。しかし、その場所は、実は意外にもストレスのたまる、罪悪感まみれの、とんでもない立ち位置なのだ。まるで、虫めがねのレンズで光を集められ、じりじりと焦げていく紙の一点のように。運命に翻弄される3人の女性の哀れさが涙を誘った。一方、男たち(鵜原兄弟)のふがいなさは・・・・・・。 挿入歌「Only You」や主題歌「愛だけを残せ」については、せっかくの余韻を撹拌しているとしか思えない。特に「愛だけを残せ」は、雄叫びのような歌声で、凪いだ海にそぐわないこと甚だしい上に、「ゼロの焦点」の世界にどっぷり浸かった歌詞で、さすがに満腹になる。(みゆきさん、ごめんなさい。単独で聞く分には全く問題ないです!) 【tony】さん [DVD(邦画)] 7点(2013-07-20 01:50:25) (良:1票) |
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6.《ネタバレ》 松本静張生誕100周年記念特売(中国語字幕付)というDVDセットを期待して買って見てがっかりしました。その昔十朱幸代主演でNHKで見た同作品が非常によかったせいもあります。十朱幸代版は一、二回ぽっきり放送のTVドラマだったのでこのサイトには載らないんですね。松本静張は新婚7日目でお嬢さんの主人公が社会の暗部に目覚めていくという重厚なテーマを描きたかったのだと思います。十朱幸代版では主人公は最後までお嬢さんっぽさが抜けないもののきちんと推理したり検証したりしたのに、このバージョンではその過程もすっ飛ばして簡単に犯人との対決にもっていってしまって残念です。それにしても元米軍兵相手の暗い過去が以前のバージョンではずしりと重たい過去の事実に見えたのがこのバージョンでは「それがどうした。」と言いたくなるほどの重みしか感じられなかったのは脚本や演出のせいでしょうか、それとも良家のお嬢さんまでが援助交際とやらをする現代の風潮のせいでしょうか? 【かわまり】さん [DVD(邦画)] 4点(2012-08-08 03:48:31) (良:1票) |
5.広末涼子と旧作のイメージがあって、あまり期待していなかったですが、かなり楽しめました。旧作は淡々と時間をたどっていくドキュメンタリーなタッチでしたが、説明不足なのか、どうもその行動に疑問が残る部分が多かったです。本作ではその部分をしっかり補足して人間行動的にも自然な感じがしました。時代考証もしっかりされ、細かい所までとても丁寧に作られいたのが印象的です。途中、CGを使って劇画調なシーンも新鮮な感じがしました。最終部は本作オリジナルとなっているようでしたが、違和感はあまり感じませんでした。 【suma】さん [DVD(邦画)] 8点(2011-12-22 22:40:53) (良:1票) |
4.ただの謎解きサスペンスではなく、新しい時代に向かって生きる人々の必死さが伝わってきて、見ごたえのあるよい映画となっている。中谷さん、木村さんの演技は圧巻。。後半にかけてどんどん味がでてくる。美しくはかない彼女たちを見るだけでもこの映画の価値があります。 【うらわっこ】さん [地上波(邦画)] 6点(2011-03-20 07:48:41) (良:1票) |
3.《ネタバレ》 田沼久子は、モノクロ版のように、青酸カリ入りのウイスキーを飲んで死ななあかんやろ~~~。 【ケンジ】さん [地上波(邦画)] 5点(2011-03-08 19:55:50) (良:1票) |
2.TVドラマで大筋は知っていたので謎解きの部分では楽しめませんでした。 松本清張って社会派サスペンスだと思うんですけど、その社会派の部分が欠落してます、なんのために映画化したのかわかりません。 見た目からして高飛車な中谷美紀、不幸顔の木村多江と比べて広末涼子はこういった時代物向きじゃないと思う。陰りを感じる色気もないしアニメっぽい声も合わないと感じました。 そして出てくる男たちの描写が薄すぎるのでまったく間抜けになってしまっているし、事件の経緯、真相の明かし方があまりに芸がないのにも驚く。 そして唐突な「Only You」アタマ真っ白になりました。素人でもこんな選曲はしないでしょ、中島みゆきの主題歌もどうなの?あんな力強い声と歌いっぷり、何がなんだかわけわかりません。 もうちょっとしっとり、そしてやりきれない余韻で終わると思ってたのに・・・この程度の期待も裏切られてしまいました。 【envy】さん [CS・衛星(邦画)] 2点(2010-10-10 23:08:35) (良:1票) |
1.《ネタバレ》 これは野村芳太郎版オリジナル(7点)でも書いた事だけど、行方不明になった夫を雪の北陸まで探しに行く広末涼子が演じた、ヒロイン禎子(旧作では久我美子)という役は、後半になるにつれ影が薄くなってしまう非常に損な役。これは誰が演じても同じ事。どうしても悲しい過去を持つふたりの女、中谷美紀&木村多江(旧作では高千穂ひづる&有馬稲子)の存在の方がこのストーリー全体に、より深い陰影を与えるのはやむをえない。特に今回、中谷のタカピシャ演技が役の個性と見事にピタリはまった。見るからに薄幸木村の方言台詞もグッド。どうしても広末に批判が集中しがちなようですが、損な役どころとはいえ、この一本の大作を支えきった彼女の地道な努力は認めてあげるべき。松本清張生誕100年記念なんて事にこだわらず、こういう旬の女優たちの魅力が堪能できる名作ミステリー、もっともっと製作されてほしい。 【放浪紳士チャーリー】さん [映画館(邦画)] 6点(2009-12-25 11:20:54) (良:1票) |