5.合理性・柔軟性を欠いた精神主義と形式・規律主義とによって軍を差配する主人公に対して、たとえば司馬遼太郎翁であれば、それこそボロクソにけなすことことでしょう(笑)。当時は、兵器のハイテク化や軍人の専門化という「構造改革」が進んでいく、まさに転換期。二言目には戦記からの引用を並べたて、往年の威光をかざす老将は、周囲に疎まれながら、時には嘲笑の対象とさえなるわけですが、これはパットンだけではなく、当時の多くの軍においてみられた光景です。まだ戦争が白兵戦至上主義・戦艦巨砲主義のもとに行われた時代においては、名将と称される人々は、たとえば乃木大将が当代随一の漢文の素養に恵まれていたように、文学や歴史に通じていることは当然であり、総合的教養人ともいうべき大人物でありました。そういえば、海軍畑から英国宰相に上り詰めたチャーチルも、かの大著『ローマ帝国衰亡史』を常に座右に置き、主要部分を諳んじていたといわれています。もちろん、軍事部門に限らず、リーダーの専門化・官僚化・小人物化は、政治・経済をはじめ、あらゆる分野に共通する傾向でありますが。パットンの場合、頭の中が戦史・戦術でいっぱいというところは軍の脱総合化・専門化に符合しますが、ハイテク化と現代化には到底ついていけなかったところが、当時の「転換期」を表しています。ほぼ風化してしまった古戦場に足を運び、まるで往時を思い出すかのように表情を緩めるパットン老将の演技は、そうした時代の趨勢を実感する者の寂しさを体現し、本作中でも出色の名場面。 |
《改行表示》 4.《ネタバレ》 主人公は戦車の残骸や多くの戦死者が野ざらしになっている戦場跡を見て「これが好きだ」と言いました。そのひと言で、普通の人とは違う感覚を持った人物だと分かります。自国の利益のために戦うと云うより、目の前の戦闘での勝利だけに興味があったようです。味方が死ぬことよりも、敵を殺すことに意識が向いていました。そんな「戦場でしか生を全う出来ない人物」の伝記として、とても良く出来ていたと思います。前線から離れた場所にいる者からは頼りになる将軍でしょう。でも、その人の配下で戦えるかと問われると尻込みしそうですけどね。 「失言」がもうひとつのテーマになっていました。思ったことを全て口にする。それが災いになり不遇へ落ちる。私は同情しましたよ。確かに「失言」なんだけど、本人の思惑から離れたところで言葉が独り歩きしている部分もあったと思います。 余談。官僚の失言がマスコミを賑わす昨今。パットンさんじゃないけど「失言」のほとんどはメディアの紙面や放送枠を埋めるためだけの揚げ足取りだと思っております。いや、確かに正真正銘の失言もたまにはありますけど、野党は政策論で戦うことを放棄しているとしか思えません。 【アンドレ・タカシ】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2018-04-24 02:52:28) (良:1票) |
《改行表示》 3.《ネタバレ》 鉄血将軍パットンの伝記映画だが、奥底には「人間は何故戦争するのか」という命題を含んでいると思う。新兵への演説で、 「米国民は常に戦いを求めている。お前たちが子供の頃あこがれたのはビー玉や徒競走の優勝者、野球の名選手、タフなボクサーだ。米国民は勝者が好きだ」と断言する。「死ぬほど戦場が好きだ。外に生き甲斐が無い」と言い切る男、「永遠に戦いに生きる男」とも 偉大なる時代遅れ」とも称される男、このような人間がどうして生まれたのか。それは時代が必要としたからだろう。平時ではものの役に立たない人物が、乱世や争乱になると人間ばなれした活躍を見せ、英雄になる場合がある。日本では、幕末の高杉晋作がよい例だ。戦争がいつから始まったか不明だが、紀元前25世紀の頃には記録がある。それ以前の戦争がない時代であも、動物を狩るということに快楽を覚えることがあっただろう。農業が始まると、富の蓄積が起こり、略奪行為が発生する。すると今度は防衛のための備えが重要になる。隣の村や部族同士で軍事力が増し、緊張が高まると、偶発的な事故や突発的な争いで戦争が勃発するようになる。生き残るためには常に戦争に備え、戦争に勝たなければならない。このような事情から、人類には闘争というDNAが沁み込んでいったのだろう。別言すれば、闘争というDNAを持たない人種、部族は滅亡する運命を辿ったのかもしれない。さて怪物的な闘争本能の持ち主であるパットンは良い時宜を得て、良い戦争に巡り合った。味方の兵にさえ人権を認めない彼は敵に対して容赦などしない。敵、味方関係なく、次々と屍の山を築いていく。勝つためには勇気と犠牲が必要だが、「愚将は敵より恐い」という諺があるようにその匙加減が難しい。彼は運よく勝利し、英雄となる。しかし勝利しても、「次はナチスと組んでソ連を叩く」と嘯く。戦うことが総てである彼にとっては当然の所見だ。ローマの英雄が現代に出現したかのような生き様を見せる彼は時代を映す鏡だ。国民を鼓舞し激励する指導者であり、戦争の英雄であり、血に飢えた愚将であり、弱い人間の見本のようにも映る。戦争と人間について考えさせられた映画だ。批判や英雄視を廃し、パットンを客観的に見据え続ける視座がよい。アフリカでの戦闘場面は迫力があった。 【よしのぶ】さん [DVD(字幕)] 8点(2012-12-17 22:25:23) (良:1票) |
2.この映画は戦争映画であり、1人の男の半生を描いた伝記のような作品ですね。戦争こそが命、それ以外はなく、底知れぬ名誉欲や、さまざまな毒舌などで失脚を繰り返した猛将パットン将軍、そして、有名なロンメル将軍との戦車戦など、戦争映画としての醍醐味をを織り交ぜつつ、1人の男の数奇な生涯が描かれている。時間としては少し長い部類に入るが、それをもって有り余る見せ場の連続で、時間を忘れて見入ってしまった。 【クリムゾン・キング】さん [DVD(字幕)] 8点(2003-08-08 21:16:02) (良:1票) |
1.結構長い映画。「史上最大の作戦」のように淡々と戦闘シーンが描かれている。冷戦時代のアメリカが生んだ作品だなって印象は拭えないし、これでオスカーと言うのも時代を感じさせる。そのことは星条旗を前に演説するシーンに象徴されているのだろう。個人的には戦争ノイローゼの部下を殴るシーンが印象的だった。やはりジョージ・C・スコットの存在は大きい。 【イマジン】さん 8点(2001-02-17 20:12:04) (良:1票) |