6.《ネタバレ》 『猿の手』という有名なイギリスの小説がある。三つの願いごとを叶える猿の手を譲り受けた夫妻に起こる奇怪な出来事を描いた恐怖譚だ。夫妻は一つ目の願いで猿の手に大金を無心するが、皮肉にも最愛の息子が事故死し、その見舞金を受け取る形で願いが叶う。嘆き悲しむ夫妻が死んだ息子を生き返らせるという悪魔的な願いを二つ目に唱えると、ある晩、だれかが彼らの家のドアをノックする。次第に気違いじみた激しさで叩かれる扉。尋常ではないその気配にも関わらず母は息子の帰宅に喜び勇みドアを開けようとするが、危険を察知した父が咄嗟に三つ目の願い事を唱えるとノックの音がはたと止むという話だ。等しく息子を愛しながらも、違いを見せる母性と父性。母の愛は時に理屈も常軌も逸し、子のためならば悪魔にその魂を売ることすら厭わない。ある意味愚かで、けれどそれゆえにその愛は底無しに深い。『殺人の追憶』で見せた骨太でアクの強い作風はそのままにポン・ジュノが本作で執拗に捉えるのもまた、そんな鬼気迫る母の愛だ。息子トジュンの無実を晴らすため憑かれたように突き進んでいく母。トジュンの友人でありながら協力と引き換えに金銭を要求する信用ならないジンテに、それでも縋るようになけなしの金を握らせる母のその姿は、まるで我が身の肉を削ぎ悪魔に差し出すかのようだ。やがて彼女が対峙するのは『猿の手』に喩えるならばドアの向こう側の見知らぬ邪悪な息子だ。一心に母を求める無垢なノックに為す術なく扉を開くその時、まさに彼女は息子の帰宅と引き換えに悪魔と地獄の契りをかわすのだ。無能な刑事が用意するスケープゴートの如き真犯人が、トジュンと同じく知的障害をもつ青年だという皮肉は、あまりにも痛烈だ。不運な青年には父も、そして彼のため悪魔に魂を売る母も、いない。生贄となる彼のため慟哭するトジュンの母。やりきれないのは彼女の涙が、子をもつ「母」としてのそれでもあるということだ。もはや彼女に出来るのは、記憶を消す鍼を内腿に打つことだけだ。悪夢の荒野で彼女が見せる滑稽で愚かで常軌を逸したダンスはまさに、滑稽で愚かで常軌を逸した、けれど底無しに深い、母性そのものだ。鍼を打ち同世代の「母」たちの気違いじみたダンスに再び加わる彼女は、そうして狂ったように踊り続けるしかないのだ。 【BOWWOW】さん [映画館(字幕)] 8点(2009-11-14 23:15:29) (良:3票) |
5.《ネタバレ》 鑑賞中にすごく感じたことなのだが、知的障害の息子トジュンが記憶を断片的に思い出す場面、毎回タイミングが良すぎるのだ。何も知らない母をまっすぐに真実へと誘うかのように。そもそも、トジュンは本当に知的障害者なのでしょうか?あくまで個人的な仮説ですが、これはその昔に農薬で母に殺されかけた少年が、知的障害を演じて復讐の機会を窺い、それを達成した話ではないだろうか。実は彼が少女を殺した場面は過失にも故意にも見えます。自分が自ら人殺しになり、あんたの息子にも人殺しの血が流れていますよ、と"母だけ"に復讐するつもりが予想外にも本当に捕まることになり、目撃者もいて事態が予期せぬ方向へ向かった。老人が殺されたり、無実の知的障害児が捕まったのは、母性が惹起した悲しき二次災害です。最後、火事場に忘れてあった鍼道具をトジュンが母に渡す場面がある。僕は全てを知っているよと言わんばかりに。お互い多くを語らぬも母子の以心伝心で、母はこのおぞましい真実を全て悟ったのではないのか。ここで何より恐ろしいのは、長きにわたり知的障害児と信じて布団を供にしていた息子が実はそうではなかったとわかった時の母の衝撃です。これはもう狂うしかない。"Mother"とは母性ではなく、復讐の対象を指していた。そう考えるとこの映画は根本からくつがえり、情念と怨念を以て迫る恐ろしい姿に変貌をするのです。 【タケノコ】さん [DVD(字幕)] 8点(2015-07-17 23:32:33) (良:2票) |
4.《ネタバレ》 今までいくつか観てきたなかでいえば、ポン・ジュノ監督はどうもある種の反骨精神の持ち主らしく、教授や司法家など、世間的に地位の高い者や権力を持った者を大抵くそみそに描く。そのペンとカメラでの裁きっぷりは容赦ない(何かトラウマでもあるのだろうか?)。本作でも、杜撰な捜査をする警察や、弱い者いじめの強い人間たちが出てくる、出てくる。嫌らしい大人のオンパレード。そんな社会じゃ弱者は救われず、貧しい少女は身売りまがいのことをしなければならないし、愚者はあくまで利用される。だからこそ母は強くなり、弱者である息子のために奔走する羽目になるわけだが…。結局この作品で一番不幸だったのは、正直者のおじさんと、罪がないはずなのに少女の鼻血によって捕まった少年。二人に「母」はなく、救ってくれる者はなかった。当初は「可哀相」だったはずの母子は、他人を「可哀相」にして、自分たちは助かってしまう。庇い合える存在さえいてくれたら、人は何とかなるってことか。それにしても、本当の意味では救われない作品。ミステリーではあるけれど、謎解き的な要素より人間の光と影というか、そういった部分が面白かった。しかし、様々な伏線をきちっと収束させる手腕もお見事。貧しいはずなのに湯水の如く湧いて出るお金については目を瞑ろう。 【よーちー】さん [映画館(字幕)] 8点(2009-11-01 20:26:38) (良:2票) |
3.《ネタバレ》 たこ踊りに始まり たこ踊りに終わる。 最後、見たくなかった 誰かさんの白い太もも。とっさに目をつぶったけど間に合わなかった ちょっとゲンナリだ。 やばいなこれは ちょっとしばらくトラウマだ。(≧σ≦)... しかし、すごいですよね このページ。すごく濃厚なレビューの数々。しかし、内容が内容だっただけに納得だ。 でも、結構楽しんだわりに、こんなことしか言えず去ってく自分ってなんなんだ。 もう、馬鹿なる証明ですね。参ったな 【3737】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2011-09-01 22:38:37) (笑:1票) |
2.《ネタバレ》 業・・・親子の愛は無償ゆえ犯罪をも超越して存在する。問題作とはいえ力作。現代の日本の親子関係の希薄さ、むしろ親子が憎しみ合う映画の方が多かったりするが、親や子孫を重んじる韓国でなければ作れない映画だ。アメリカ映画なら子供を普通に犯罪者として警察にさしだすんじゃないか。正義ありきの国だから。いつまでも親子の愛は絶対であって欲しい。 【カボキ】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2011-04-13 22:18:34) (良:1票) |
1.《ネタバレ》 最初はお前のため思って、このおふくろさんは動いてやっているのに、早く思い出せと観ててイライラしてましたが、後半ひょっとして、こいつ分かってんじゃない?っと思うくらいの展開。アメリカ映画のように悪魔のような子どもだったというようなどんでん返しではなく、ヨーロッパ映画の「父よ」のように無事、息子の罪の減刑へと成功するような展開でもなく、こう来たかぁ!!という驚き。韓国映画って。鬼才が揃ってますねぇ。 【トント】さん [DVD(字幕)] 8点(2010-05-07 20:59:42) (良:1票) |