《改行表示》 9.《ネタバレ》 久しぶりに死の影をほとんど感じさせないクリント・イーストウッドの映画であったわけだが、彼の映画における「幽霊」という存在はこの映画でも健在であった。マット・デイモン演じるフランソワが皆を引き連れてロベン島に行くが、そのときに独居房や採掘上に現れるモーガン・フリーマン演じるマンデラは、生きる魂、正に生霊的である。そう、肉体を魅せるのではなく、魂を描くことこそがイーストウッドの映画なのだ。 冒頭、黒と白という二項対立構図を一本の道を挟んだだけの俯瞰ショットで描き、その黒と白は徐々に混ざり合っていくのだが、それが決して図式的に陥らず(肉体ではなく魂を描くからこそ図式的に成らない)、さも現実的であるかのように描き切ること、それもまたやはりイーストウッドである。しかし実際、全く現実的とは思えない。例えば、過労で倒れるマンデラや負傷してしまったチェスターが、何のきっかけもなく突如として全快してしまうという全く真実味を感じさせない流れ。しかしその流れに何も違和感を感じさせない力があるのは一体何なのだろうか。それは本作がとにかく簡潔であるからだ。無駄なものなどすべて根こそぎ削り取られ、そこには出来事のみが集約されている。彼がカメラを向けた瞬間にそれはさも現実的であるかのように立ち上がり、出来事が起こり、フィルムに定着し、映画と成り、そしてそれは「あったこと」となってしまう。それは力強く、そして熱く、凛として感涙的な事実と成ってスクリーンに投影されるのだ。 それにしても最後の試合のシーンは凄い。選手たちの動きのみならず、審判が時計を確認して笛を吹き鳴らす瞬間までハイスピードで撮影している。更には選手たちがぶつかり合う音までもが間延びしているのだから凄い。ここまで間延びさせると逆に躍動感を失いそうなものだが、平然とそれを乗り越えて、心震え上がるようなシーンに仕上げてしまう手腕にはやはりただ驚愕するばかりだった。 【すぺるま】さん [映画館(字幕)] 8点(2010-02-22 23:53:57) (良:3票) |
《改行表示》 8.もう終始、安心して観ていられる信頼のイーストウッド印。 マンデラ大統領の一時期のみに焦点を絞り描くだけでも十分に人柄が伝わってきます。 モーガン・フリーマンは漲る風格でマンデラを演じ見事な存在感で映画を引き締め、 マット・デイモンも負けずにラガーマンを好演・・隙ねぇ・・ ただ一つ思ったのは前半で国の恥とまで罵られたチームがワールドカップまでにグンっと強くなります。 そのあたりがやや唐突に感じ、強くなる過程はもう少しちゃんと描いて欲しかったかなと思いました。 後は演出が『ベタ』ともいえる手法をいくつかのシーンで見られ、最初は首を傾げましたが後で思うと、素直にあの当時の熱量を観客に体感させる、てっとり早い演出だったのかなぁと思いました。 マンデラ大統領退任後の現在の南アフリカはマンデラが映画の中で掲げられた理想とは程遠い事になっているのでややもの哀しさも感じますが、ラストで流れる若者がラクビーをするシーン(撮影クルーが実際の南アフリカの街で見かけて、偶然に撮れたシーン)を見ると、『あれから受け継がれているものは確かにあった』『あの時の団結を思い出して欲しい』と語っているようでした。 【まりん】さん [映画館(字幕)] 8点(2010-02-07 15:07:21) (良:3票) |
7.国が一つになっていく感動とスポーツ物の感動とが一体となって押し寄せてくる。4300万人の南アフリカ国民が応援しているという事を表現しようとするとき、家族みんながテレビの前に集まってるとか、スポーツバーで騒いでるとか、そういう画は当然だけど、あの飛行機のくだりですべてを感じられるってのが巧い。サッカーワールドカップの決勝はだいたい頭に入ってるからダメだけど、ラグビーワールドカップの結果等は全然知らなかったので決勝はドキドキ、でも「負けざる者たち」というサブタイトルは結果ばらしてるみたいだからあまり良くないかな・・・。それにしてもクリント・イーストウッド監督の安定感は凄まじい。素晴らしい時間を頂いた。 【リーム555】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2010-12-28 22:40:32) (良:2票) |
《改行表示》 6.ラグビーワールドカップで3回目の優勝を遂げた南アフリカ。こんまいチョロチョ動き回るデクラーク選手が目立ちまくっていましたが、キャプテンはチーム初の黒人主将となる巨漢シヤ・コリシ選手。貧民屈育ち、少年時に優勝時のワールドカップを観て「国がここまで一体となれるのか」と衝撃を受け、ラグビーの道を目指すことになったそうな。 ワールドカップ初参加・初優勝時の南アフリカを描いた本作。強豪国として名を馳せながら連盟からオミットされ、アパルトヘイト撤廃により初めて大会参加が認められる。でも当時ラグビーは上流階級、即ち白人限定のスポーツと見做されており「アパルトヘイトの象徴たるスプリングボクスなど潰すべき」と黒人達は叫ぶ。一方で「この国ももう終わり」と士気がガタ落ちになる白人選手達。そんな彼らを身一つで説得し、鼓舞する為に必死に動き回るマンデラ大統領。最後には、黒人と白人が一体となって熱狂の渦に巻き込まれる。実際にはもっと色々あったでしょうが、脚本がシンプルながら本当によく出来てると思いました。 当時の黒人の大半はサッカーにしか興味がなかったそうで、大統領警護の黒人SPが白人SPにいちいちしょうもない質問を発する小ネタが良。「おい何が起こったんだ!?」「得点が入ったんだよ。」 当時チームに黒人は1人しかおらず、それが20年の時を経て、初の黒人主将を戴き世界制覇。映画とリアルが一連となった感動巨編のようです。 【番茶】さん [DVD(字幕)] 8点(2019-11-24 23:50:31) (良:1票) |
《改行表示》 5.《ネタバレ》 2015年のワールドカップで日本代表が南アフリカ代表を下し世界的なニュースになったわけですが、(そして五郎丸ブームが起きたわけですが)それもこの映画を観ればあらためて納得します。 あの頃は、それがどれくらいすごい事なのかラグビー人気の低い日本では今一つ伝わっていませんでしたから。 さて世界には誰もが認める偉人というものがごく少数存在していて、2005年にBBCが行った「もし世界統一政府が出来たら大統領には誰になってほしいか」投票で1位に選ばれたネルソンマンデラ氏は間違いなくその一人なわけです。 この映画中でも「この人のためなら」という思いをいろんな人が持つわけですが、これって、私が大好きな映画「デーブ」での雰囲気にもちょっと似てるんですよね。(もちろんデーブはフィクションですが) こういう雰囲気の映画は大好きです。 日本にも「この人のためなら!」と思えるような素晴らしい政治家がぜひ出てきてほしいものだと切に願います。 【あばれて万歳】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2018-01-23 19:42:34) (良:1票) |
4.人種の垣根を越え、新生南アフリカ共和国を纏め上げる事に情熱を傾けるマンデラ大統領。人種間のわだかまりを抱えつつも大統領警護という同じ目的に向かって協力する警護官たち。ワールドカップでの勝利を目指しつつ、マンデラという人に思いを致さずにはいられないラグビー主将。さらにはワールドカップが始まり、スタジアムを埋め尽くす人たち、スタジアムの外の人たち、あらゆる人々の間に「絆」が生まれていく。それを象徴するように再三にわたり登場する「握手」のシーン。ってな訳で、多層的に仕組まれ、キモチいいくらい色んな工夫が凝らされた作品な訳でして。でも、題材が記憶にも新しい、95年南ア初出場・初優勝のあの大会。この映画のライバルは、他の映画などではなく、「実際の試合の方が感動的なんじゃないの?」ってこと。実際、映画でラグビーの試合を楽しもうなんて考えちゃうと、そりゃま、ちと物足りない。「ラグビーを楽しむ」映画じゃなくて、「ラグビーをとりまく人々」を楽しむ映画だねこれは。おそらくはラグビーにしか関心の無かった主将ピナールは、マンデラとの交流を通じ、「許し」という事を考えずにはいられない。その一方、ここで描かれるマンデラにとっては、ある種の“計算”の上での「許し」でもある。ただそれは、国をまとめあげるという情熱に基づいた打算であり、その情熱は、彼が休まずに走り続けていることで(警護官が音を上げることで)示される。良心だとか正義だとか、そんなんじゃなくて、あくまで一人の男の「情熱」が、周りを変え、ワールドカップ優勝を呼び、ついには国そのものを変えていく。このエゲツ無さがやっぱりイーストウッド作品、なのかな。 【鱗歌】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2012-10-29 22:52:34) (良:1票) |
3.《ネタバレ》 まずは、ネルソン・マンデラという誰もが知っている実在の人物を見事に演じきったモーガン・フリーマンの演技を評価したい。南アでのアパルトヘイトは教科書で誰でも学んだ歴史だが、制度自体が廃止されても、人々の心は簡単に変えられるものではない。でも、誰もが予想しなかった、白人社会を象徴するナショナルチームをあえて残すという選択。それだけでなく応援する。そして勝つことで国民の心が一つになりうる。そのことを誰よりも冷静に知っていたのがマンデラだったのだろう。ここにこの偉人の非凡さがある。自らを27年間も牢獄に入れた相手(白人)を赦すなんていうことは、己の感情を超越しないとできないことだ。まさにインビクタス「負けざる魂」を持った者のみが、運命の悲哀を乗り越え、人々を結びつけることができるということを描いた作品である。マット・デイモン演じるチームのキャプテンが、マンデラと1回会っただけで、変わり始める。その一人の変化がやがて全体チームに、最後には全国民に波及していく。それを最初から頭に描いていたマンデラはやはり非凡としかいいようがない。マットも見事にラガーマンの体づくりを見せている。さらに本作の面目躍如はラグビーシーンのリアリティーさにもある。満員のスタジアムをCGではなく、膨大な人数のエキストラで再現している。これは本当にすごいことだ。観た後で、イーストウッド監督作品と知って驚いた。題材性も含め本当に素晴らしい監督だと改めて認識した。 【田吾作】さん [ブルーレイ(字幕)] 8点(2011-12-15 13:26:10) (良:1票) |
《改行表示》 2.《ネタバレ》 これは「能」の映画ではないか、と思った。 「能」は「削りの芸術」で動き、演出、道具などを極力削って最低限のものしか舞台にあげない。残りは観客の想像力に委ねるのだ。 この映画は観客に「委ねている」。だから公平な感情をもてるように過激なシーンやエピソードをあえて見せないのではないか。 「この世界のこれからをあなたに委ねる」という監督のメッセージでもあるように感じる。 私にとっては冒頭からリアルだった。マンデラ釈放の日を「国の破滅の日」と言った白人男性を見て、実際、南アの白人少年が「最高の国が最低の国になった」と言っていたのを思い出した。 差別する側はされる側の事を考えない。ピエナールの父を見ていれば分かるが、黒人に感情がある事さえ意識していない。 ピエナールも白人SPも黒人の立場、環境、気持ちなど考えた事がなかっただろう。マンデラに会い、彼らは初めて考えだしたのだ。 刑務所にも訪れ、「赦せる強さ」を考える。「愛」の反対は憎しみではなく「無関心」なのだ。 優勝した時の様子ですが、フランスもサッカーWCで優勝した時、ああなったそう。差別意識の強い地区でも無礼講だったとか。 一瞬の出来事かもしれないけど、あるとないのでは大違い。忘れなければその一瞬を永遠に出来る可能性がある。 それを静かに、優しく、包み込むように、観ている私たちに「委ねて」いる映画。文句なく傑作だと思います。 【果月】さん [DVD(字幕)] 8点(2011-07-30 01:34:48) (良:1票) |
1.《ネタバレ》 とっ散らかった印象のカット、繋ぎが多いのはちょっとイーストウッドらしくない感じ。あと、意味ありげに不安感を煽るカットを差し挟んでおいて肩透かしを喰らわすってパターンを何度も執拗に(冒頭のワゴンカーから飛行機、警官の近くの少女と)繰り返すのはちょいとあざといです。しかし、さすがはイーストウッド、上手いなぁ。差別を越えて国を作ってゆく大統領と、ラグビーのワールドカップに臨むチームとを対比させて描く、その手馴れた匙加減は見ているこちらを気持ち良くラストまで運んでくれて、いい映画を見たって満足感を与えてくれます。現実はきっともう少し複雑でしょう。闇の面もあるでしょう。だけど、マンデラ大統領の赦しと協調の精神、それに応えようとする人々の精神をまるで賛歌のように世に送り出す姿勢、それは『グラン・トリノ』後の作品として、あまりにもふさわし過ぎるようなカタチに思えます。イーストウッドは存在そのものが映画ですね。それにしても堂々の演技のモーガン・フリーマンは当然として、マット・デイモンっていつの間にやら、いい役者になりましたねぇ。 【あにやん🌈】さん [映画館(字幕)] 8点(2010-02-10 21:06:53) (良:1票) |