10.《ネタバレ》 “High Noon”『正午』。私の中でベスト・オブ・西部劇が本作かもしれません。午前10時35分から始まるこの作品は、上映時間と劇中時間がほぼ一緒のリアルタイム作品。その設定は今でも通用するくらい斬新で、とても72年も前の映画とは思えないほど、スタイリッシュです。 ケインはその日、若くて美しいエイミーと結婚式を挙げていて、新しい人生の門出の日として、幸せの絶頂でした。そこから僅か1時間ほどで、ケインが長年に渡って築き上げてきたもの全てを失っていきます。街の人からの協力を得られず、ジワジワと不利な状況に追い込まれるケインと、ミラーの乗った汽車の到着をのんびりと待つ3悪党。同じ時間が経過しているのに、受け取る人間の状況で、時間は残酷にも、退屈にもなるんですね。
一度は街を逃げ出した彼が、再び戻ってきてしまったのは、責任感と正義感からでしょう。一方でケインによって守られる対象の街の人々というのは、決して正義の側とは言えません。中には“稼げた”ミラー時代の復活を望む者も居ました。前回は協力したのに、今回は協力しない者。当然のように協力を申し出たのに、他に協力者が居ないと解ると怖気づく者。街を支配するのが正義でも悪でも、結果を受け入れるのみで、自ら変えようとしない人々。この辺、西部劇という私があまり得手でないジャンルと言えども、普遍的な集団の心理と、進んで積極的な行動をしない類の人間の生々しさを感じさせました。
もしケインが街に戻らずに逃げていたら、どうなっていたでしょうか?ミラーたちの目的が復讐であれば、街に居ないからと諦めたりせず、執拗に追いかけられるかもしれません。正義の行動だったのに、コソコソと隠れて生きていかなければいけない。そう考えると、やはりあの街で決着をつけるほか、選択肢はなかったのかもしれませんね。 【K&K】さん [DVD(字幕)] 10点(2024-09-29 23:34:54) (良:2票) |
9. 従来の西部劇に恐らく初めてリアリズムを持ち込んだコトと、劇中の時間経過をリアルタイムにシンクロさせた点の斬新さは当時としては実に画期的であり、勿論今でもコレを凌ぐ西部劇は殆ど皆無と言って良いだろう。チープな西部の街をセットで組み、後は役者の演技力に主眼を置いた作りは流石ジンネマン。老いたるゲーリー・クーパーにオスカー(2個目!)をもたらし、新星グレース・ケリーの真価を早くも引き出した彼の演出の手腕にもっと御注目頂きたいものである。加勢を頼むクーパーを冷淡にあしらう街の人々の人物造形も、チト現代的で嫌味過ぎるキライはあるものの矢張り上手い。トーマス・ミッチェルが上手いのはいつものコトで今更言うまでもないが、ロイド・ブリッジスやケティ・フラド、ロン・チャニー・Jr辺りの二線級もジンネマンの筋金入りの演技指導で実に生き生きと演じている。1対4の戦いもマカロニや従来の西部劇なら、もっと不利なハンディキャップ・マッチは幾らでもあっただろうが、普通に考えれば、それが1対2でも(余程の実力差がない限り)メチャ不利なことは明白。かなり不様な戦いぶりながらも最低限の娯楽のツボを外さないのがジンネマンの腕前の非凡さである。因みに4人組の一人をマカロニ以前のリー・ヴァン・クリーフが演じている。シェリフのバッジを叩きつけて街を去るクーパーのラストにディミトリ・ティオムキンの主題歌「ハイ・ヌーン」(唄:テックス・リッター)が心地よく響く。ただ…このリアリズムというヤツは本作以外ではロクな作品が生まれなかった点でも手放しに絶賛できる要素ではナイので、個人的に1点マイナス。 【へちょちょ】さん 9点(2003-01-12 12:06:34) (良:2票) |
8.《ネタバレ》 一人でも敵を恐れず立ち向かうスーパー保安官ではなく、必死で仲間を集めるところがとてもリアル。 殺されるのを恐れて加勢しない状況もそう。 協力しようとする者もいるが、形勢が悪いのを知って辞退したり、何だかんだで結局共闘する仲間は無し。 孤立無援の主人公の焦燥感が伝わってくる。 ただ、大騒ぎの割りに悪党一味は4人だけというスケールの小ささ。 しかも、その一人を新妻が背後から撃って片付けるとは、従来の西部劇とは随分様子が違う。 決闘までの時間がそのままリアルタイムに描かれているのも、今では『24』などでお馴染みだけど当時としては斬新。 従来の西部劇にないリアルな面白さはあったが、ヒーローに求められるようなカッコ良さや爽快感はない。 一貫したアンチヒロイズムとリアリズム。
主人公は新妻と一緒に逃げれば良かったのに、背中を見せられない性分から留まってしまった。 教会で住民たちから協力を得られず逃げることを勧められながら、それでも留まる義理などなかったのに。 仕事への信念は立派だが、そもそも守るべき住民の支持を受けていなかったし、新妻のことを考えれば意固地すぎるように思える。 結局、新妻に助けられて人殺しにしてしまったし、プライドを捨てて退くのも勇気だったと思う。 そうなると、アンチヒロイズム、リアリズムが行き過ぎて、ドラマにはならないけれど。 決闘が終わった後、保安官を見捨てた住民との微妙な空気が印象的。 グレース・ケリーが若く美しすぎて、初老のゲイリー・クーパーとでは父娘にしか見えない。 【飛鳥】さん [DVD(字幕)] 6点(2014-10-19 22:46:12) (良:1票) |
7.《ネタバレ》 これはもう「格好良い」という言葉しか出てこないです。 自分の仕事の後始末に命を賭けるゲイリー・クーパーは、ただひたすら格好良い。 そして、その格好良さを更に後押しするのがタイムリミットの存在。上映時間の約9割以上をそのリミットによる緊迫感が常に支配していることで、非常に見応えのある作品に仕上がっていると思います。 また、クーパーを取り巻く脇役たちも渋く抑えた演技で主役に匹敵するほどの好演。 半人前の血気盛んな若手保安官との口論や馬小屋での殴り合い、訪ねた先々で相手にしてもらえず「街を去れ」(←西部劇ならではのこの台詞、格好良い。)と一蹴されるシーン、教会に集まった者たちで議論をする場面での意見交換のシーン(神父が「例え犠牲者が出たとしても…、いや何でもない」とクーパーが命を落とすのではとハラハラさせるような台詞を挟むのも実に上手い)や、新妻とメキシコ女との間で交わされる会話でそれぞれの人物背景が語られるシーンなど、クーパーと悪漢との間に起きた過去のいきさつやクーパーの人望の厚さが次第に浮き出てくる描き方は、ほとんど完璧と言って良いくらいの見事なテクニックでしょう。 ゲイリー・クーパー演ずるケーン保安官は、主演でありながらそれまでの西部劇ではありえないほどの小さい存在になってしまっていて、仲間を求めて街を彷徨う姿は部屋の中から小さく捉えられるショットが多く、また時間の経過を表現する時計も、序盤は小さく撮られていたものが終盤にかけては振り子が画面一杯に揺れるほどの存在感を出すように撮られたりと、カメラワークにおいても絶品。 言うまでもなく、真昼のシーンだけで構成されている本作ですが、冒頭から幾度となく現れる澄み渡った空の“白さ”が乾いた印象を与え、街の殺伐とした雰囲気やラストの保安官夫妻の去り際の無常感を際立たせているように感じました。 悪玉のボスが意外とアッサリとやられてしまった事以外は、ほぼパーフェクトの映画。大満足。 【もっつぁれら】さん [映画館(字幕)] 9点(2012-08-12 17:40:47) (良:1票) |
6.あんなに大したことのない弱い連中の何をみんな恐れていたのだろうか、という疑問だけが残る。 【みんな嫌い】さん [DVD(字幕)] 6点(2011-10-10 12:14:47) (笑:1票) |
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5.《ネタバレ》 短い尺に詰め込まれた命題。「自分の命と正義はどちらが重いか?」 それを真面目に最後まで問い続ける作品。その真面目さにちょっと辟易もする。普遍的な解答がある訳でもなく、本作は保安官の「生き方」を結論のひとつとして見せる。街の住民たちの意識のグラデーションはリアルだと思いました。何人かが協力を買って出るが、助っ人が集まらないと尻込みする。自分もあのタイプだなぁと思う。そう実感させてくれただけで、まぎれもない名作だと思う。ラストで投げ捨てられる保安官バッジには主人公の想いが込められていますが、住民を責める気にはなれない。この後味の悪さは不快ということとはちょっと違っていて、真っ当な社会派ドラマを見せられた感慨のひとつなのだと思います。現代では個人が命を懸けるような事件は滅多にありませんが、個人の利益と公益を秤に掛けることはある。自分にはそのシミュレーションのように感じられました。初めて観た時はグレース・ケリーの美しさに魅せられました。まさに王妃のごとき気品。今回はゲイリー・クーパーとの年齢差がやけに気になりました。計算したら28歳の開きがある。そして、現在の私が当時のゲイリー・クーパーとほぼ同年齢。う~ん、やっぱあの結婚にはリアリティないでしょ。 【アンドレ・タカシ】さん [地上波(吹替)] 8点(2011-09-07 23:29:26) (良:1票) |
4.《ネタバレ》 特に気合みなぎるような活躍もなく「ただ何となく」クライマックスを迎えてしまう主人公の立ち位置が凄いし、肝心なところで美人のヒロインに助けてもらう(それも2回も)というのも凄い。アンチヒロイズムに対するある種の執念すら感じる。そして、行けども行けども誰も味方をしない主人公の描かれ方には、何というか、制作者の底知れない人間不信の情怨を感じる。●(追記)その後数回見ましたが、見れば見るほどさらに味わいが出てきます。まず、一番の味方のはずの新妻といきなり決裂するという衝撃の展開(さらに、ホテルに女主人を訪ねるくだりで別の不信が加わるというおまけつき)。人々が背を向ける展開も、「真っ先に逃げる」「居留守」「酒場で露骨に冷遇」「教会でもっともらしく議論しながら実は既定非協力」「朴訥かつ誠実に(?)協力拒否」「やる気あると見せかけてさっさと裏切り」など、あらゆるバリエーションを用意している。通常なら何か協力するであろう女主人も、自分のためだけに決断して即実行という潔さ。そして、隠れた名シーンは、死を覚悟したケインが、決戦を前に留置場の酔っ払いを釈放する一幕だと思うのです。 【Olias】さん [映画館(字幕)] 8点(2011-09-01 03:04:39) (良:1票) |
3.《ネタバレ》 これは村の駐在さんがチンピラヤクザに狙われ村の衆に助けを求める話です。ジョン・ウェインのような骨太西部劇の無敵ヒーロー像や強い悪役、派手な銃撃戦に大アクションを期待する方が間違ってます。それにどんなへっぴり腰でも私から見れば銃を持っただけで人は怖いし、腕っ節よりも権力や人望があり、町の人が味方しない状況を見越している悪役の方が更に怖いです。もっとも駐在さんが年取っても格好いいゲイリー・クーパーだし、田舎町には掃き溜めに鶴のグレース・ケリーがヒロインじゃ勘違いもするわな。脇役みんな名優だし。それにしても現在の世の中は万能ではないにしろ、ある程度法律とかが守ってくれてるからいいんであって、そういうものがない何の保障もない世界での人間って脆いですね。ケーンが守ろうとしてたのは最初は自分と友人達で作った町だったかもしれないけど、彼らに見捨てられていく中、それでも守ろうとしたのは何だったのか。逃げても誰もケーンを責めないだろう状況下で彼が採った選択は人から見れば馬鹿かもしれないし、下らないかもしれない。でも多分ここで逃げたら、彼の中の何かが壊れて生きる屍になってしまう、そして一生自分に言い訳をし続けるんでしょう。最後は逆にケーンが町を見捨てました。文句も嫌味も何1つ言わずにただバッジを地面に落として。うーん、渋い、格好いい、立派な大人だ。彼らの代償は「あの時はああするしかなかったんだ。」「じゃあどうすればよかったんだ?」と言い訳と責任転嫁に終始するような見下げ果てた町になってしまったこと。間違ってはいないでしょう。でも何かが壊れました。ミラーのようなならず者はいくらでもいるし、町にはそういう奴らを望んでいる者もたくさんいる。もし再び同じような目に遭ったとしたら、この町の為に命を懸けられる人間はいるのか。ケーンは町の良い部分しか見ていなかったのかもしれないけど、信じていた世界に手の平を返され、たったの90分で崩壊して行く様を目の当たりにしてしまいました。素晴らしいけどとても残酷な映画です。 【くなくな】さん [DVD(字幕)] 10点(2005-12-22 03:50:09) (良:1票) |
2.アンチ・ヒロイズムを体現したような主人公。リアル志向のストーリー。もっと徹底し、生々しくした方がいいような気がします。新妻エミー(グレース・ケリー)は美しいのですが、掃き溜めに鶴のような美貌なので、保安官の妻にはちょっと見えません。彼女はこの映画で確かに成功しましたけれど、もっと庶民的な印象を持った、ケイン(ケーリー・グラント)に近い若さの女優の方がいいでしょう。またこの映画では、緊張感を出すために、上映時間と映画内時間を一致させています(壁掛け時計の進み方でこれがわかります)。しかしあまり効果をあげていません。というのは、ケインが時計を見上げるまでに、カメラの切り替えという映画文法が挟まるからです。カメラが切り替わるということは、物語の展開に応じて、時間や空間が省略されることを意味します。観客は本能的にこの約束ごとを理解しているので、実際の時間の感覚と、映画を観ているときの体感時間は、そもそも一致しないようになっています。ですからテンポのいい映画(省略のうまい映画)は短く、退屈な映画は長く感じるのです。本作での試みは、ヒッチコックの『ロープ』のように、徹底的な長回しを使用した、舞台劇のような作品でないと効果を発揮しません。アイデアは面白いけれども、それを売りにするほど結果が出ていないというところですね。 【円盤人】さん 6点(2004-08-24 22:20:46) (良:1票) |
1.「人は口では法だ秩序だと言うが、腹の中ではどうでもいいのさ」・・・そう、人の本質は作品の舞台である1870年でも、制作年の1952年でも、2004年でも変わりはしない。だからこそ、人と社会をリアルに描くことが普遍的な価値につながる。西部劇に徹底したリアリズムを持ち込みつつも、娯楽作品として完璧な完成度を達成した一本。安っぽいヒロイズムを拒否する保安官も、戦いを拒否し逃げようとする女も、見て見ぬふりをする町の人々も、すべてが生きている生身の人間。印象的なテーマ曲、抑制の効いた演出が、リアルタイムで進行する85分を見事に支えている。ラストはリアルな、見方によっては情けないくらいの銃撃戦だが、この映画の文脈ならば、もっともっと泥臭く、恐怖心まで描かれていてもよいくらいだ。 【眠い悪魔】さん 8点(2004-02-15 15:38:59) (良:1票) |