4.久しぶりに「いい映画を観たなぁ」という余韻を味わいながら劇場を後にすることができた良作です。未解決事件の謎解きというサスペンス形式をとりながら自ら封印してしまった淡くも激烈な想いを解きほぐしてゆく話です。さして興味が湧きそうなストーリーでもなく、アルゼンチンという自然豊かな国柄を感じさせるような景色は皆無で、9割方屋内でのロケですが、本作を稀な作品にしているのは演技とカメラワークです。25年前と現在を演じわけ、かつ両方の場面でそれぞれに魅力的なヒロインと主人公。顔のクロースアップが多用され、言葉では埋められない表情の奥にあるものを読み取ろうと観る側も目を皿にして画面を追いかけることになりますが、熟達した演技でその視線に応えてくれます。タイプライター、写真立てといった小物が表情を的確に補足する役割を果たしていて、映画的演出とご都合主義的演出のはざまでギリギリの均衡を保っています。空撮からスタジアムに降りてゆくシーンや尋問シーンでの長回しも緊張感があり、パブロというおとぼけキャラの存在もあいまって、エンタテイメントとしても上質な出来栄えといえるのではないでしょうか。ただ致命的な難点があります。終盤、妻を失った男が主人公に「もう忘れることだ」と諭す場面です。原語「Nao pensa mais」に対する字幕がそうなっていますが、英語でいうと「Do not think anymore」という意味であり、日本語では「もう考えるな」と訳すべきではないでしょうか。「忘れる」という言葉には「自分にとって痛みを伴う出来事=忘れたいという思いを起こさせる事象」という主観的な判断が加えられているのに対し、「考える」という言葉には、その考えられるべき事象がどのようなものであるか、主観的な判断が加えられる以前の状態を指す言葉といえると思います。本作の核が「考えるつもりはなくても考えてしまう」「なにもしないでおこうと思っていてもしてしまう」ことに突き動かされる者たちの物語であり、忘却がテーマではないはずです。この点について-1で8点献上いたします。 【さめがい】さん [映画館(字幕)] 8点(2011-04-09 01:10:46) (良:2票) |
3.《ネタバレ》 基本的に、熟年期に入った登場人物が過去の愛を回想する物語は大好物なので、7点か8点で迷ったが、8点をつける。同じようなテーマを扱った佳作「日の名残り」に匹敵する出来である。 まるで変奏曲の様に「瞳は雄弁に物語る」という主題を、さまざまな登場人物が繰り返し見せ付けてくれる演技合戦のような展開は観ていて気持ちがよい。特にベンハミンがイレーネに相談があると言って、イレーネが一瞬期待するも、結局その内容が当て外れであることに気づくシーンはイレーネ役のビジャミルの瞳の演技が迫真で、観ていて思わず涙が出そうになった(ラストの伏線になっているのも好印象)。主演2人はもちろんのこと、ゴメス役のゴディーノのいやらしい瞳の演技をはじめとした脇役の演技にもぐっと来る。 監督はアメリカのTVドラマシリーズ作成にも関わった方のようで、ハリウッド的な盛り上げ方も巧みだ。他の方も書いていらっしゃるが、空撮から一気にスタジアムの喧騒に引き込んでいくシーンやゴメスの追跡シーンの撮影、「A」の打てないタイプライターといった脚本上の伏線にはその影響が見て取れる。正直に言って、後者はちょっとやり過ぎで、「策士策に溺れる」ような印象もあるが、決して失敗はしていない。シリアスなラブストーリーには適度な娯楽性も必要だ。ただし、唯一気に入らないのは少し安易な気がするゴメスの自白シーン。あの程度で自白というのは少し骨が無さ過ぎる。 最後に、過去を引きずりながら生きるリカルドを見て、ベンハミンが今までの優柔不断振りを払拭するラストは爽快。人間は過去を振り切れない。それはそれで受け入れればよい。未来の選択は過去の経験が元になっているのだ。 【枕流】さん [映画館(字幕)] 8点(2010-10-31 16:39:50) (良:2票) |
2.《ネタバレ》 そうだよね~、そんなに最愛の女性を殺されて、簡単に前向きに生きるなんてできるわけがないよね。考えてみれば、犯罪者は、自分の犯した罪で、日々自己憐憫になって、「自分」を傷つけ、孤独になって、踏みにじまれて、ボロボロになってこの世での生を終える、それくらいの刑じゃないと釣り合わないよね。年取って、やっと分かる真実ってある。そういうスパンで見つめた映画って案外少ないんだよね。要は納得のいく人生を送ることが大事ってことですね。それを取り戻すのに年齢とか関係ないんですよね。いい映画でした。これは最後まで緊張感があって、サスペンスとしても一流! 【トント】さん [DVD(字幕)] 8点(2011-03-23 01:17:20) (良:1票) |
1.《ネタバレ》 んーー、す、素晴らしい。既にご指摘のとおり、ちょこちょこと安易な部分もあるにはあるんですが、そんなのどーでもよいと思えるくらいに魅力ある「オトナの」映画でございました。オープニングの駅のシーンで既にウルウル来てしまった私は、やっぱり歳をとったわけですね、と納得。イレーネが美しい、とにかく美しい。こんな風に歳を重ねたいという見本みたい。それでいて若い頃も違和感なく演じている(これはベンハミンも同じだけど)のが嘆息モノ。そして、カメラワークの素晴らしさ。サッカー場のシーンはもう圧巻! 随所に光る、そして笑いを誘う絶妙な演出。こりゃー、すげぇ、、、と唸らされるばかりです。忘れられないのが死刑の是非に関するセリフのやり取り。胸に迫ります。そしてラストのドアが閉まる。・・・そう、人生って、もうどうにもならないこと、不可抗力なことってあるんですよね。「運命論は大嫌いだ!」と、その昔、放言したゴーマン野郎がいましたが、私はやっぱり「人生は不条理だ」と言える人の方がよほど信じられる。そしてこの映画にはその切なさが根っこに貫かれていて、だからこそグッと来るのですね、きっと。劇場で観てよかったとしみじみ思う。いやー、久しぶりにイイ気分でした。 【すねこすり】さん [映画館(字幕)] 8点(2010-12-02 23:04:34) (良:1票) |