4.60年代というマイノリティがまだ息を潜めて暮らさねばならなかった時代。その男の目に映るもう別れようとしている世界。他者たちは目や口元やに分解してしまっている。しかしその世界も「少数派への恐怖」が支配している。異端への恐怖と言ってもいい。共産主義からプレスリーの腰つき、おそらく同性愛者に至るまで。「マイノリティの恐怖」と「マイノリティへの恐怖」とが、見えない水面下でがっぷり組み合って停止していたような、当時のアメリカの息苦しさがカメラに乗りうつっている。隣人の笑顔さえ息苦しい。死を決意した男の一日の物語。ルイ・マルにも同種の作品があったが、あちらが旧友たちを訪れるのに対して、こちらはそれほどの交際範囲もなく生徒と(大学教授なの)昔の女ぐらい。死を決意しながら、それでもテニスをしている若者の肉体や町で出会うスペイン人の若者には目が惹かれていく。生徒だった若者に惹かれては、自分で「情けない」と呟く。もううじうじした陰気きわまりない映画で、ときに美少年の尻を見るのが好きな人用のフィルムかと思うときもあったが、あの息苦しさには、ゲイという特殊を越えた普遍性が感じられた。死んだ「連れ合い」が飼っていた犬と同種の犬を見かけると、飼い主に変に思われてもつい匂いを嗅いでしまう。息苦しさをしばし忘れさせてくれるのは、その犬の匂いだけ。 【なんのかんの】さん [DVD(字幕)] 6点(2011-09-05 09:57:20) (良:1票) |
3.《ネタバレ》 この映画は、一人の男が、「死」に向かう“一日”という道中を描いた“ロード・ムービー”だと思う。
孤独に苛まれた男が、何処か遠くに行くわけではない。普段と変わらない一日をある「決意」を込めて生きるだけの話である。 だけれど、そこには起伏に富んだ出来事と出会いが繰り返される。
“孤独感”に埋め尽くされて色彩の無かった世界が、ふとしたことで色味を帯びていく。 それは、世界中のすべての人間の何気ない日常の中に、「生きる」ということの意味と価値が溢れているということを物語っている。
それと同時に、世界が色を帯びていく過程には、「死」を決意した男自身が、「生きたい」という本能に気付いていく様を感じた。それは、「明快」という言葉を隠れ蓑にして現実から目を伏せてきた男が、自分が在る世界を直視したということだったと思う。
結果的に、一日の最後に主人公の男が得た結末は、目覚めたときに決意したままのものだったかもしれない。 しかし、そこには明確な違いがある。
“死ぬために生きる”のか“死ぬまで生きる”のか。
同じように聞こえる言葉の価値の違いを強く感じる映画だった。
世界的デザイナーのトム・フォードという人が初監督をした映画だけに、作品全体に強い「美意識」が溢れている。 そういうタイプの映画は多いけれど、この映画の美意識は決してビジュアルの表面的な部分だけではなく、人間のインサイドに至るまで徹底的に反映されている。
素晴らしい才能だと思う。 【鉄腕麗人】さん [DVD(字幕)] 8点(2011-04-05 14:17:29) (良:1票) |
2.《ネタバレ》 この作品が世界的にかなり高い評価を得ているという事は、自分の映画審美眼がズレているって事なんでしょうか?ゲイが主役だからとか、どうのこうのっていうんじゃないんです。主役のコリン・ファースは好きな役者の一人だし、18年間愛し続けてきた相方さんの、突然の死による底なしの喪失感だって良く理解出来る。著名なデザイナー、トム・フォード氏の、自伝的要素が強い初監督作品だと鑑賞後知ってナルホドと納得。自分は、この映画全体にヌラヌラとまとわりつく、クローズアップを多用した「過剰なナルシシズム」が、どーにもこーにも感覚的に受け付けられなかったんだなあって。「僕ってば社会的地位にも恵まれた才能あるイケメンだから、ちょっと視線絡ませるだけで狙ったオトコは寄ってきちゃうんだよね。ゲイだけどイケメンだから、女性にも粉かけられちゃうし。もうモテてモテて困っちゃうんだ~今までの人生、ハッハッハッ!」てな、監督のご自慢げなお顔が背後から透けて見えてきちゃったんですよ。だもんだから、拳銃で自殺する体勢をあれやこれやと試しているシーンあたりから、「(ダウンタウン浜ちゃんの口調で)早く、死ねばいいのに・・・」と、醒めた視線で主人公を冷たく傍観している自分がいました。それにしてもコリン・・・、最近自分が見た彼の出演作、「秘密のかけら」「マンマ・ミーア!」そして本作と、すべてバイセクシャルかゲイの役なんですが・・・。(今月に日本公開控えてるのはなんと「英国王」!)一体、こういう役柄を頻繁にオファーされるっていうのには、彼の肉体から発せられる雰囲気が「それらしい」からなんでしょうか?う~ん、それも俺にはあんまピンと来ない。 【放浪紳士チャーリー】さん [映画館(字幕)] 5点(2011-02-02 21:51:55) (笑:1票) |
1.《ネタバレ》 期待が大きかっただけに、脚本には肩透かしを食った印象だが、撮影方法や背景、音楽、そして登場人物たちのオシャレ感がすごくて、それなりに楽しめた。トム・フォードについては最新の007でボンドの着るスーツを手がけた人という知識しかなかったが、こういう映画も撮れちゃうとは多才な人である。この作品は同性愛の映画だが、それすらもかっこ良い。イカした顔の男どもなので、絡み合ってもあまり不快感がない。というか美しい。自分は同性愛者ではないが、こういうのなら同性愛ってありかもとさえ感じた。彼らだから許されるという面もあるとは思うが。 さて、映像についてだが、予告編でも映されるスローモーションを使った車の運転のシーンや海で泳ぐシーン、その後のジョージの家のシーンなどどのシーンでも監督の持つ美意識がビンビン伝わってきて思わず見惚れてしまった。そういえば、恋人が死ぬシーンや酒屋のシーンも良かった。そもそもジョージの家からしてオシャレですごく好きなタイプの家だ。完璧な背景でカッチリした構図。寸分の隙も見当たらない。ピアノを主体とした音楽も雰囲気によく合っていた。 だからこそ残念だったのは脚本。ジョージとチャーリー、ケニーとの関係性、ジムの思い出、それらがあくまでもバラバラに動いているのが残念だ。ジョージを中心として、彼らは周辺人物でしかない。ジョージと彼らの関係は完全に個別である。ジョージの意識の中だけでも彼らが溶け合って、もっと有機的に物語をつむぎだして欲しかった。ラストもコーエン兄弟っぽくて流行に流された印象が拭えない。 バーでBGMのように音を消して映像だけ流すには、最高の映画だと思った(悪口ではなく良い意味で)。ウィスキーを飲みながら観てみたい。最高に渋くて美しい映画。 【枕流】さん [映画館(字幕)] 6点(2010-11-23 19:51:31) (良:1票) |