《改行表示》 9.《ネタバレ》 原作(和訳)は既読。最も好きな小説のひとつで何度も読んだ。「原作を読んでいなかったら…」という仮定ができないほど、のめり込んだ小説だ。どうしても原作と映画を比較してしまうため、この点数だが、初見だったらもっと高い点をつけられるかもしれない。 「運命を受け入れ、その中で精一杯生きていくこと」が、この作品のテーマだ。青年でありながら、長くは生きられない残酷な宿命のために、老成した考え方やものの見方を強いられ、次第にそれを受け入れていく3人の人生の軌跡は儚く、脆く、そして美しい。波乱も少なく、静かに物語が進んでいくだけに、余計に彼らの切実な感情が胸に迫る。 映画はこの原作の静謐な雰囲気をかなり忠実に受け継いでおり、そこは評価できる。タイトルや章が変わる際のダルトーンの背景色はとてもしっくり来たし、ヘールシャムやコテージの雰囲気も想像通りだった。主役の3人の演技も素晴らしく、皆原作をよく理解して芝居をしているなと感心した。特にトミー役のアンドリュー・ガーフィールドははまり役だと思う。 一方で残念だったのは原作の繊細な心理描写までは映像化できていないこと。これは媒体の違いということで目をつぶるしかない点かもしれないのだが、やはり原作のファンとしては減点せざるを得ないポイントだ。蝋燭の炎が微かに揺れるくらいのほんの僅かな心の揺れがひしひしと伝わってくる原作にはとても及ばない。いくつかのエピソードが省略されていたり、内容が分かり易く改変されていたのは、映画化というハードルを越える上で仕方がない措置とはいえ残念だ。 特にキャシーとルースの複雑な“親友関係”がこの映画では描けておらず、トミーとの三角関係においてルースに非があるような印象を観客に与える脚本になってしまっているのがいただけない。ルースは「愛されたい」タイプの人間であり、それは決して間違ったことではない。トミーとルースの関係は一種の補完関係になっていたし、二人が結ばれるのは運命だったのだと僕は思う。その上で、キャシーとトミーが自分達の愛こそ真の愛だと信じる(信じ込もうとする)ことが健気で、深く心を打つのである。 願わくば原作を読む前に観たかった。この映画を観ることで、より多くの人が原作を手にとるきっかけになれば良いと思う。 【枕流】さん [映画館(字幕)] 6点(2011-04-06 23:42:18) (良:3票) |
《改行表示》 8.《ネタバレ》 大きな嘘をひとつかまして世界観を構築するのがSFだと思います。本作は「もしも、臓器提供だけを目的に生を受けたクローンがいたら」と云うことですが、それでは足りない。「もしも、臓器提供で死ぬことに疑問を持たない教育を施されたクローンがいたら」からスタートしているSFでした。似たような設定にも見える「アイランド」などとは全く違う種類の映画で、静謐なテーマを掲げていると思います。 29歳で余命1年と99歳で余命1年の違いは分かり易い。でも、29歳で余命1年と10歳で余命20年の違いは直ぐに実感できません。本作は、それを表現しようとした映画だったと思います。若くして死を受け入れた少年少女が、少しでも長く生きたいと願うのはどんな時か。それは大切な人が出来た時でした。すでに2回の「提供」を経た後で、本来の鞘に納まるようにお互いを認識した二人は「延長」を申請します。死を受け入れている彼らは逃げたりしませんが、その状態を少しでも長く享受しようとするのでした。「生」への執着とは、生きているうちに何をするかと云うことより、その状態を少しでも持続させたいと願うこと。まぁ、そんな理屈より、この哀しさの深さにやられました。 原作は未読ですが、優れた作品であることが容易に想像できました。さらに、映像化による工夫も見て取れました。終始、日が射さない風景を連ねて重たい宿命を暗示します。砂浜に打ち上げられた難破船も同様。潮さえ満ちれば漕ぎ出すことも叶うけど、その海に潮が満ちることは無い。閉塞した状況描写の中にテーマを語る、稀有なSF映画だと思います。 【アンドレ・タカシ】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2013-01-13 02:25:36) (良:2票) |
《改行表示》 7.《ネタバレ》 SF的な部分はクローンというだけで、それ以外はクラシカルな雰囲気でグレーの制服が上品で風景も美しく、イギリス上流階級の物語のような語り口ですね。 暴動が起きることもなく淡々と話が進んでいくのが逆に切なく哀しく、残酷に感じました。「提供」「終了」という事務的な表現も冷めてはいるけどなぜか嫌悪感はなく、むしろ上手い言い方だなと。 例の猶予の噂を噂と言いながら、最後の望みとしてマダムを訪ねるキャシーとトミーが哀し過ぎです。 ガラス越しに手術台を見つめるキャシーの思い出で寄宿学校にいた頃からの3人が語られる、これもまた淡々としていて喜怒哀楽もそれほど感じないんですが、ここで大いに感情移入させられて鑑賞後の私自身の落ち込みを想像するとあれでよかったのかもと思ってしまった。 生あるものは全て終わりが来るのはわかっているけど、自分のクローンまで用意するほどの生への執着てなんなのかしらね。 キャシーとトミーも二人の今の時間を少しでも長く持ちたいとなった時、噂でしかない「猶予」に望みを託す。 生きている時間は限られている、生きてるだけで良し勝ちとか、だから大事に意味ある時間にしましょうというよりも、何が生への執着になるのかということを思ったし感じたし、でもどうあろうがどうしようが人はみんな遅かれ早かれ例外なく死ぬってことを強く再確認させられたような気がします。 【envy】さん [CS・衛星(字幕)] 7点(2021-09-21 15:11:52) (良:1票) |
《改行表示》 6.《ネタバレ》 切なすぎます。人間は自分の人生を運命に任せて全うすべき。クローンなんて。。。 最近よく思うのは「時間は決して止まらない」ということ。仕事に勤しむウィークデイも安息の週末も同じテンポで時間は進み決して歩みを止めない。それは正に「死」に向かって進む時間ですが、我々はそれを受け入れなければいけない。それが「生きる」ということかなと、50代後半の自分は思うわけです。 【kaaaz】さん [インターネット(字幕)] 9点(2016-02-12 23:10:36) (良:1票) |
5.《ネタバレ》 あえて舞台設定を未来にせず、過去に設定。つまりこれはSFではありません。クローンは、わずかしか生きられない人間のメタファーになっていることに気が付いてください。だから、「整形して逃げればいいじゃん」だとか「人権弁護士に助けを求めろよ」だとか、そんなことを言っても意味はないのです。テーマは「生」です。では「生きる」とはなんでしょうか?坂本竜馬はこう言った。「この世に生を得るは、事を為すにあり」つまり、生まれたからには、何かでかい事をやってみろよ、と言う意味です。さらに自意識の強い若者はこう言う。「僕は何のために生まれたの?生きる価値って何かなぁ?」 この映画で、限りある生のなかで、必死で生きている3人の姿をみてください。そして気が付いてください。生きているということは、ただそれだけで素晴らしいということを─。何も成し遂げなくてもいい、ただ生きているだけで嬉しい─、その実感こそが、幸せと呼べるのではないでしょうか?悲しいことに、人間は、死が目の前に迫らないと、生を実感できない。1つ説明したいことがあります。新任の女教師が、義憤から真実を子供に打ち明けるシーン。「あなたたちは臓器を提供するために生まれてきた」 校長は女を追放する。真実を隠そうとする悪そうな校長に見えますが、彼女は、クローンにも魂があることを証明したかった、ゆえに子供に絵を描かせていた。校長にとって、生きる、ということは、表現することだった。子供に真実を打ち明けることは、「あなたたちは人間ではなく、人間のために育てられている家畜なのです」と宣告することに等しかった。その時点で子供は、「ニンゲン」であり続けることに、挫折していただろう。ヘールシャム寄宿学校は、当初は悪魔の巣だと思った。だが、じつは人間と認められないクローンを、唯一人間として教育してきた場所だった。3人はそこで感受性豊かな人間として育てられ、恋をして、むしろ本当の人間より、生を実感していた。子ども時代のトミーはひどかった。しかし、大人になった彼は、自分を表現できるようになった。彼から絵を見せられた校長は辛くて嬉しかったに違いない。そしてこれがこの映画の最大のメッセージなのだ。トミーはまぎれもなく人間だった。いや人間以上に人間だった。かなしいくらいに素晴らしい映画です。 【花守湖】さん [DVD(字幕)] 10点(2012-10-23 22:35:55) (笑:1票) |
4.《ネタバレ》 「オレンジと太陽」を暗部に持つ英国の、フィクションながら巧妙でシステマティックに構築された世界。 亜人間の発想は昔からあったが、現実感のある設定が目新しい。 字幕では意識的にある言葉を使わずにいるが、音声では聞こえるから隠しようもなく、へールシャム時代からあったある疑いが確信に変わるにすぎない。 主演はキャリー・マリガン、ルース役のキーラの「プライドと偏見」では妹の一人にすぎなかった彼女だけれども、こういうこともあるのだ。 子役も雰囲気が似ており青年期への移行も円滑。 タイトル"NEVER LET ME GO"はキャシーがカセットに入れた曲、「わたしを離さないで」というより「わたしを行(逝)かせないで」か。 意味もなく暗い映画は好みではないけれど、カズオ・イシグロらしく諦念に満ちた静謐な世界は嫌いではなく、繊細な映像も美しい。 「ぼくのエリ」よりも同情的になれるのも、彼らが奪う側ではなく奪われる側だから。 逃げようともしないのが異質でそこまで洗脳されているのが哀れであっても、「映画は希望に向かって走らなければならない」との考えもアメリカ映画に洗脳されているかもしれない。 この場合は、折角生を受けながら自分の体が自分のものでなく、自分の人生を生きることもできない人の心に入り込み、その気持ちを知ることができるだけでも十分じゃないかと思う。 嵐が目前に迫ったキャシーの投げかける疑問が、彼女にできるただ一つの抵抗なのだ。 かつてのユダヤ人差別にも思いおよび、校長シャーロット・ランプリングの冷徹な眼差しが効果的。 【レイン】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2012-07-08 07:00:03) (良:1票) |
3.《ネタバレ》 原作読了しています。読んでいる最中は物語の中に引きずり込まれるようでした。映画については、原作が金城鉄壁でどう頑張っても越えられない、と言ってしまえば簡単だけれど、やはり観ている私たちを別世界に連れて行くパワーが足らなかったと思います。複雑な話で、物語の中にあるもう一枚の扉を開けて入っていかないとなかなか見えてこないものが多いのですが、映画ではだいたいを端折っているのであっさりと時間ばかりが過ぎていくようでした。画の色は優しく、こちらに忍び寄ってくるような美しい緑とアイボリーの空は原作のイメージそのままでした。彼らにいつも纏わり付く恐怖を表す涙も、なんの前触れもなくあふれ出す様に切なさを感じました。A・ガーフィールドは今後も注目していくべき俳優だと確信しましたが、キーラ・ナイトレーも良い女優に育ってきたと思います。 【のはら】さん [映画館(字幕)] 6点(2011-06-06 21:42:56) (良:1票) |
2.《ネタバレ》 フィクションならフィクションで良い。その人間を身近に感じ、その世界があたかも存在しているかのように思わせてくれるのであれば。ぼくは、この作品をまったくリアルに感じれなかった。作中に登場する全員の基本的な人間の意識や考えにまったくフィクションの要素がなく、どう考えても成立していない気がしてならなかった。生活空間や、衣裳、飲食類、テレビの映像、全てがリアルなのにも関わらず、臓器を提供するためだけに生きている若者たちという設定だけがフィクションで、第三者の客観目線もなければ、反対派の思想も存在していない。それを当たり前と思う社会、という設定だけが押し付けがましく、説得力がない。納得できない。そんな社会が存在している事が、理解できない。その設定を納得させてもらって初めて、フィクションはフィクションとして、そこに生きる人間達の葛藤に入っていける。まったくもってわけのわからない物語でした。 【ボビー】さん [映画館(字幕)] 4点(2011-05-24 03:05:23) (良:1票) |
《改行表示》 1.《ネタバレ》 哀しく切ないラブストーリーであると同時に、臓器移植やクローン技術の問題の倫理のあり方について考えさせる映画でした。内容的には差別問題にもつながるテーマですので非常に興味深く観賞しました。ある生命を犠牲にして他の生命を守る行為は自発的ならともかく、制度や慣習にしてはならないと個人的には思います。 まあ豪華キャストが揃っているのでエンターテイメントとしてもしっかりとした作品でした。 「私たちと私たちが助ける人たちとではいったい何が違うのだろうか・・・・」という主人公のモノローグがとても印象に残りました。 【TM】さん [映画館(字幕)] 8点(2011-04-17 15:53:13) (良:1票) |