4.《ネタバレ》 これはなかなかいい映画だったと思います。1960年代後半から70年代前半の世界が、衣装や小道具、そしてフィルムの古めかしい質感などによって見事なまでに再現されている。その当時の空気感や匂いまで伝わってきそうなリアルさに思わず惹き込まれました。学生運動にいては、知識としては知っていても、私が生まれる前の出来事なので、実態としていまいちピンとこないというか、理解出来ないところがあったのですが、そんな自分にとってはとても興味深く、面白く鑑賞出来ました。結局のところ、「若かった」の一言に尽きますね。全共闘世代は人数も多く高度成長の時代であったし、当時の世界情勢と相まってあの運動が繰り広げられていたのでしょう。梅山の行動の一つ一つが、大いなる理想以前に、ただ単に幼いだけでしかなかったことを端的に表現している。熱中の対象として、音楽の後にたまたま転がっていた学生運動に乗っかっただけ、みたいな。そんな彼の軽いノリと、実際に自衛隊員を生々しく殺してしまうその落差が恐ろしい。共産主義は結局のところ、現実より観念を優先したが故に崩壊したわけだが、この自称活動家もやはり現実をしかと捉えるにはまだ若過ぎたのだろうか。そしてまた記者の沢田も若さ故の過ちを犯してしまう。ジャーナリストは事実を伝えるのが仕事だが、彼は梅山を「信じたかった」。その心自体に罪はなく、ピュアであるが故に尚の事ラストの涙は切ないのである。 【あろえりーな】さん [DVD(邦画)] 8点(2012-01-29 19:28:17) (良:1票) |
3.《ネタバレ》 実体の伴わない「言葉遊び」をしているだけの学生運動家・松ケン、そんな彼の言動に翻弄されるジャーナリスト・妻夫木。やがては時代の波と共にのっぴきならない状況に追い込まれる(あるいは自らはまり込む)彼ら。70年代初頭を生きた二人の若者の苦い青春を描いた、山下監督渾身の一作。ざらついた映像に、当時を再現した美術、衣装、そして脇を固める「大人たち」の自然体の演技は圧巻。当時をよく知らなくても、そのリアルさには目を見張る。虚を突かれた時の松ケンの歪んだ口元が印象的。そして、もちろんラストの妻夫木の涙。あの瞬間のためにそれまでの長い2時間があったのだろう。 【フライボーイ】さん [DVD(邦画)] 8点(2011-12-16 21:54:26) (良:1票) |
2.《ネタバレ》 この映画の良さは、マツケンの語り口とその佇まいにあると思う。 C.C.R.を弾き語る無邪気さや、彼女にささやく甘い言葉、上滑りする論理、仲間が自衛隊駐屯地に潜入している時にしゃーしゃーと漫画を読んで笑っている姿(それを同志の女性に見られても平気な体面)、警察に対する飄々とした虚偽の受け答え。実に多面的かつ、それぞれに表層的すぎるキャラクターを見事に演じていた。何事をもカッコにいれて、ただ運動で名を残すことだけを目的としていた男。その打ち捨てられた構造だけを模倣して、本物になろうとした(なれると錯覚した)男。それはそれで魅力的にも見え、且つ示唆的だとも思った。
とは言え、当時の全共闘の学生達が目指していたことを軽くみてはいけないと僕は思う。ただ訳も分からず彼らは戦っていたわけではない。彼らは何を打倒しようとしていたのか。それは、「世間」と呼ばれていたもの。今でもそれは日本社会に蔓延り、日本人の倫理を決定づけている。というよりも、日本人が本当の意味の倫理感を抱くことを強力に阻害している頽落そのものが「世間」なのである。それは「空気」とも呼ばれる。空気との戦い。(そりゃ勝てんわな)
気が付けば、闘争の論理は空虚なものとなり、敵となるべき対象を射程できずに、全ては内ゲバとなった。それが連合赤軍事件である。
それでも、当時、学生達が大学という特権的な空間にいたが故に「世間」に対峙できたこと、それはとても自覚的なものだったのである。しかし、いまや世間と大学の間には何の境界もなく、それは無自覚であるが故に問題意識の端にもかからない。「思想やジャーナリズムなんて分かりませーん」と臆面もなくつぶやく若者達を作ったのは「あの頃の僕らより、今の方がずっと若いさ」として過去の挫折を総括してしまった団塊の世代の大人達なのは確かだろう。彼らが「世間」を軽く見做すものとして、そこから逃走するものとして、80年代のポップカルチャーを設定したのは60年代から地続きの現象であったが、70年代以降に生まれた者たちにその意味や経緯がまともに伝わることはなかったのである。。。
主人公の部屋の壁にはディランのレコード"Another Side of Bob Dylan"がちゃんと飾ってあった。エンディングの真心ブラザーズの『マイ・バック・ページ』も心に響いた。 【onomichi】さん [映画館(邦画)] 8点(2011-06-09 21:44:21) (良:1票) |
1.《ネタバレ》 当時の雰囲気を現代の若者にも伝えようという努力のせいか、少し長くなりすぎた嫌いはあるが、登場人物一人ひとりの心の動きを丁寧に描いて味わいのある佳作。妻夫木聡も松山ケンイチも演技派の名に恥じない好演を見せている。 何よりも面白いのは、この映画が全共闘時代(1970年頃)の若者の狂騒を一歩引いたところから批判的に描いていることだ。映画業界の人(というかマスコミの人やら芸術家やら全般)はリベラル寄りの人が多いから、どうしても「青春のあの頃」を描くと自分達に甘くなる。マルクス主義に傾倒し、小難しい議論を延々と繰り返し、警官と衝突し、タバコをふかしながら青春を謳歌していた自分達を正当化したがる。「俺たちは真面目に政治のこととか考えて行動してたぜ。それにくらべて今の若者は何事にも無関心だ。熱い思いが無い」などと説教を垂れたがる。僕はそういう輩に対してずっと疑問を持っていた。本当に彼らがやったことは正しかったのか?若者はみな理想に燃えて高潔だったのか?彼らの闘いは未来を変えたいという真情の発露だったのか? この映画を観て分かった。彼らとて聖人君子では無かったのだ。学生運動とは、現代ほど娯楽の無い時代に生まれた彼らにとっての「娯楽」だったのだ。スリルを得るためのゲーム、やり場の無い暴力のはけ口、そしてモテるための手段でもあったのだ。この映画が出色なのは学生運動の暗部である、彼らの虚栄心、党派心、虚無感、卑怯さ、そういうものを公正に描いていることだ。 もちろん、中には本気で革命を信じて闘った学生運動の「良心」ともいうべき人もいただろう。それが「正しかったか」はおいといて。この映画では長塚圭史演じる唐谷義朗がそれに当たる。でも、当時の学生全員が本気で社会を変えようとしていたわけではなかった。ラストで涙に咽ぶ沢田(妻夫木)は何を思ったのか。自分の青春時代を肯定することもできず、かといって否定しきるのもつらい。精神的な葛藤の末に流された苦い苦い涙だ。当時を体験していない山下監督だからこそ撮れた作品だと思う半面で、当時を生きた世代がこれを撮れなかったのは愧ずべきことのようにも感じる。 エンディングの真心ブラザーズ+奥田民生によるボブ・ディランの「My back pages」のカバーも良かった。「あのころの僕より今の方がずっと若いさ」。過去を反省する勇気を持ち続けていたいものである。 【枕流】さん [映画館(邦画)] 8点(2011-06-08 23:31:24) (良:1票) |