7.《ネタバレ》 『砂の器』のスタッフによる、という惹句がとても残念に感じられる作品。 そもそも、この原作は金田一耕助はほとんど活躍しない、登場もごく僅かであり、その魅力の大半は洞窟探検の場面に拠っている。そう考えると、この金田一は登場し過ぎで、そのくせ推理に論理的な根拠がない。彼の推理の根拠は、1:調べてみたら、真犯人は、尼子の子孫。2:真犯人の事業は破綻寸前で、東家の財産を狙ったものだ。というだけだ。論理的な根拠が何一つ無い。 そして一番ガッカリなのは、中途半端なオカルティズムである。金田一耕助が謎を解くことが分かっている時点で、どんなに祟りや呪いのせいにミスリードしたところで、無駄なこと。晒された首が笑ったり、真犯人が最後に悪魔の形相になったりは、物語にそぐわない。ましてや、舞台を現代に置き換えているにおいてや、である。市川版を引き合いに出すのは良くないとは思うが、彼のシリーズが持っていた、オカルトではないおどろおどろしさ、そういうテイストが、特にこの作品には必要だったと思うのだ。 そして、前述の惹句のとおり、観客の『砂の器』のスタッフ(具体的には橋本忍脚本と野村芳太郎監督)にかける期待を、完全に違う方向にうっちゃったことは、とても残念だ。この謳い文句で、感動の人間ドラマを期待しない人がいるだろうか? 【Tolbie】さん [DVD(邦画)] 4点(2012-06-29 01:53:52) (良:2票) |
6.《ネタバレ》 最初にこれを見た時点ではまだ若かったので、劇中で村の有力者が婦女を拉致監禁して凌辱するのを誰も咎められないのが当時としては非常に衝撃的だった。そのせいで、農村社会とはこういうもの、と当時は思い込んでしまっていたが、長じるにつれて農村社会の全部がこんなわけはないと思うようにはなっている。それでも最初と最後に出る近代的な空港と、舞台になっている山村の間にある断絶感が、かえって日本にまだこういう所があるかも知れないという気にさせるところがある。 またテーマ曲もこの映画の印象づくりに大きく貢献している。個人的にはこの曲から、表面的には平穏に見える風景も実は暗く抑圧された感情と深い悲しみを秘めており、それを無表情の奥に隠しながら黙々と生きる人々の姿がイメージされた。若い頃の自分が農村社会に偏見まで抱いたのは、半分はこのテーマ曲のせいである。
その他の点としては女性の登場人物が印象深い。まず姉の春代さんがきっちりした清楚な女性で、しっかり者のようだが不安を抱えて眠れない夜が続いていたのではないかと案じてしまう。この人の最後は大変可哀想で、主人公も姉として慕うようになっていたらしいのが切ない。また当然ながら鶴子の境遇にも胸が痛むものがあり、子を慈しむ母親の表情を見せながら同時に可愛らしくも見えるのが悲しい。加えて最初の方に出る和江という人(美也子の妹)も、端役ながら個人的に好きな女優(夏純子さん)なので見逃せない。顔はよく見えないが、はっきりしてよく通る声が心地いい。 一方で森美也子に関しては、まずは序盤でスカートが風でめくれるのが気にならなくもないわけだが、そういう色仕掛けに騙されてはならないという警戒感をこの段階で抱かせる怪しさがある。終盤の洞窟内でいきなり「あたしたち」扱いされるのは気色悪く、実際に言われたら思い切り引くだろうと見るたびに思う。
だいたい以上のような印象から(あまり説得力がないかも知れないが)個人的には永遠の名画の扱いになっている。ちなみに全般的に、口から液体を吐くのが汚らしい映画である。 なお余談として、最初の落武者の場面で遠方に見える高い山が何なのかずっと気になっていたが、DVD特典を見ると伯耆大山(鳥取県、1,729m)を南側から見た風景だったことがわかって感激した。こういうのも真面目に見ておくと勉強になる。 【かっぱ堰】さん [DVD(邦画)] 8点(2016-07-25 19:52:21) (良:1票) |
5.いかにも昭和な田舎の夏の風景といい、音楽といい、キャスト(とりわけ小川真由美の妖艶さ)といい、申し分ありません。しかし、肝心のシナリオが今ひとつ。妙に理屈っぽい上に、登場人物たちのキャラも平板な感じ。何かいかがわしいとか、腹に一物ありそうとか、そういう個性的な人物がいない。照明も明るすぎて、オドロオドロしさがない。だからストーリーに魅力が感じられません。それでいてラストだけ急にオカルトっぽくなったり。 だいたい、何人もが亡くなりますが、犯行のシーンは(冒頭の落ち武者や32人殺しを除いて)一つもありません。だから最後に謎解きをされても、どうも腑に落ちない。何らかの〝美学〟なのかも知れませんが、下世話な私は「そこのディテールをごまかすなよ」としか思えません。 口直しに「トリック」の「六つ墓村」を見たくなりました。 【眉山】さん [CS・衛星(邦画)] 4点(2015-10-31 03:11:24) (良:1票) |
4.《ネタバレ》 この作品と、犬神家は、黒澤監督の用心棒や、七人の侍のようにある種のミステリーのエポック作品になりましたね。この作品のパロディや元ネタにしている作品や、単純なはなしが訳の分からないフェイクでかき回されるのがおおくなったのも、これからですか。 【min】さん [DVD(邦画)] 6点(2013-09-30 21:52:54) (良:1票) |
3.怖い。横溝正史原作の映画の中でも怖さ、不気味さでは一番かもしれない。どの登場人物も怖すぎる。特に小川真由美の怖さは際立っている。これ1本だけで小川真由美は怖い女だという印象を多くの人に植え付けるであろう!殺人シーンの怖さやおどろおどろした雰囲気、不気味な音楽と映像の中で金田一耕助を寅さん(渥美清)にしていることで私のような寅さんファン、寅さん信者にとっては、あっ!寅さんだ!となるわけです。同じく下条正巳とのツーショットを見せられると何だか寅さんを見ているようなホットした気持ちにちょっとだけでもなれるのが良い。野村芳太郎監督はこの不気味な作品、恐ろしい事件、話の中に寅さんこと渥美清を主役である金田一耕助に持ってきた。というのは寅さんファン、寅さんしか観ないような人達までもこの映画に引きずり込もうという狙いがあるような気がするのだ。寅さんファンで内容など全く知らない人達を映画にもっともっと観に来て欲しいというそういう願いが感じられる。正直、他の金田一ものと比べると怖さだけが目立ち、どう考えても「犬神家の一族」や「悪魔の手毬唄」ほど何度も観たいという感じがしません。だから私にとってはこの点数ですが、この映画、もしも同じキャスティングで山田洋次監督が演出したら(勿論、金田一耕助は渥美清)どんな感じのものになるかという興味が沸いてくる。ここまで不気味な作品にはならないような感じがすると思うのは私だけでしょうか? 【青観】さん [DVD(邦画)] 6点(2011-08-21 21:30:56) (良:1票) |
2.《ネタバレ》 この映画が公開されて、もう30年になるのか…。当時小学生だった私に様々なトラウマをこの映画は埋め込んでくれました。当時は今みたいにテレビは一部屋(一人)に一台という時代ではなく、晩御飯を食べたらお茶の間で家族そろって同じ番組を見る習慣でした。私の親父は大の横溝ファン。本作の映画は劇場で見たらしいですが、さすがに当時8歳だった私を連れて行くことはありませんでした。しかしこの映画がテレビで放映された時、我が家では当然のように家族そろって本作を見たのでありました。落武者を宴の会に呼び、そこでの惨殺シーン。首が飛ぶシーンで親父は「子供にこのシーンを見せるのはまずい」と思ったのでしょう(実際にかなり怖かった…)。私の頭を自分の膝に押さえつけ、画面を見せないようにしました。しかし落武者惨殺のシーンは続き、「ぎゃー」、「うぎゃー」という落武者の断末魔が嫌でも私の耳に入ってきました(この時私は恐怖に震えていたのをはっきり覚えています)。悲鳴が無くなったので画面を見ると、頭領のさらし首が雷光を浴びながら目をカッと見開くあのシーン(この時お漏らしをしてしまいました・恥)。あの後どうなったのか覚えていません。遅い時間だったので、寝てしまったのかな?
前ふりが長くなってしまいました。大人になって見た感想ですが、推理ものとしての横溝ワールドから意図的にちょっと軸をずらし、ホラー(怪談)系に仕上がっている作品だと思います。この軸ずらしは大正解ではないでしょうか。実際にビビったし。芥川也寸志の音楽も秀逸で、劇中にピッタリはまっています。現在はDVDで手軽に映画を見られる時代ですので、半年に1回のペースで本作を見ています。私にとってそれだけのお気に入り作品なのです。落武者惨殺のシーンはこの歳なので普通に見れますが、お恥ずかしい話ですがこのシーンで必ず膀胱に電気みたいなものが走ります。「パブロフの犬」と同じ原理でしょうか(笑)。 【さくぞう】さん [DVD(邦画)] 9点(2008-01-27 01:07:39) (良:1票) |
1.《ネタバレ》 この作品、主役はショーケン演じる寺田辰弥。金田一耕介が前面に出て事件を解決していく話ではなく、寺田辰弥の自分探しの話と捉えるべきで、そー考えれば別に金田一が石坂浩二じゃなくて渥美清で良かったし、監督も野村芳太郎で良かったと思う。ショーケンも渥美清もそこら辺を良く理解されて、あたえられた役をきっちりと演じている。よくできた作品だ。また演出面でも、この話のメインの舞台とも言える数々の鍾乳洞のシーンは気合が感じられた。しかーし、八墓村と言えば32人殺しなのだが、確かに山崎努の熱演はすんごく良かった。が、ここの演出自体は大した事なかったと思う。ここで要蔵の身震いするほどの恐ろしさをイメージさせなかったせいで、鍾乳洞で鎧武者が出てきても、正直なんとも思わなかった。この恐さをイメージできるかできないかで、鎧武者の前で真実を知らされた後の、辰弥の心の葛藤に対する感情移入の度合いが違っていただろうに。あと、小川真由美演じる美也子が美しさと妖しさを上手く出していて、終盤までは完璧だったのに、辰弥に真相がばれた途端にお化けメイクに変わっり、空を舞うように辰弥を追いかける演出は、もう完全にひいてしまった。最後までミステリーであって欲しかった。それと、原作の見立てが無かった点、これらが減点材料です。 【なおてぃー】さん 6点(2004-02-10 02:17:00) (良:1票) |