9.《ネタバレ》 本作自体が、劇中で実践されるマネーボール理論の産物のようにも見える。チームの絆とか、精神力とか、スター性とかではなく、「データ」で野球を変えた弱小チームの物語。だから映画としても、徹底したアンチドラマ、アンチクライマックスの作りで、主人公が自分の気持ちを叫んだり、誰かと熱く抱擁したり、チームが一致団結して困難に立ち向かう、的な描写は皆無です。主人公は、野球をちゃんと見ることはできないし、もう大丈夫かと思って球場にいったら11点差を追いつかれるという「もう、野球と関わるのやめたら?」と思ってしまう経験もして、チームと団結することもないし、監督(フィリップ・シーモア・ホフマン!)とも和解しないし、結局はチームの誰からも(さらにファンからも)感謝されない。唯一評価したのは、金満球団の1つレッドソックスという皮肉。ラストの「パパはおバカ」「本当に自分は野球を楽しんでるのか?」と娘の歌ににじむ涙は、GMという仕事の本質にこだわった男の誇り(だからレッドソックスのオファーは断るわけだし)と、それでも感じてしまう虚しさの両方を描いた名シーンだと思います。そのあたりは、人間の二面性・両義性を描く名人監督ベネット・ミラー&脚本アーロン・ソーキンだからこそできた名人芸でした。そして、本作最大のパラドクスは、この映画の主演・プロデュースが大スター俳優ブラッド・ピットであること。その矛盾をブラピ自身も理解していて、だからこその抑えた名演技だったと思います。この作品で注目されたジョナ・ヒルやクリス・プラットのその後の活躍を見れば、この作品が、ブラピという巨大な矛盾を抱えながらも、出塁率の高い才能あふれる俳優たちで作られた優れたアンサンブルであったこともわかります。 【ころりさん】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2016-09-19 12:20:17) (良:2票) |
8.《ネタバレ》 ソーシャル・ネットワークの脚本も務めたアーロン・ソーキンの力量もあってか、会話に勢いがある。 映像的にも、物語的にも地味だが、非常に面白いオトナの映画である。
大抵のスポーツ映画は感情が優先し、理論の入り込む余地はない。下手でエラーばっかりする選手を無根拠に使い続けたりする。しかし、本作は常に理論が優先する。勝つために必要な理論を打ち出し、それにそぐわない選手は容赦なく切る。選手が結果を出さなければいけない事と同様に彼も結果を出さなければ切られてしまう。大事な家族のためにも、職を失うわけにはいかないし、何より、自信の仕事を全うするために、勝つために最善の行動をとらなくてはならない。要するに本作は、スポーツ映画ではなく、お仕事映画なのである。
仕事においては、ひたすら強気を演じ、娘の前では心優しい問題のないパパを演じる。人のいない所では、でない結果に怯えたり、過去の失敗をひきずったりする。とても、ビリーは人間的な人間である。だからこそ、彼の仕事の仕方が冷酷に見えても、一概に間違っていると思えないのである。そして、ある時期を境に彼は選手たちとコミュニケーションをとりめ、意図を伝え、選手に指示を出す。それが当初からの計算通りなのか分からないが、結果として、その描写以降、勝ち始める。 やはり、理論が優先するとは言え、完全に感情を無視して成功すると言う描き方を避けたのかな、とも思える重要なシーンであったと思える。
実話ベースの物語であったから、しょうがないのかもしれないけど、個人的には後日談のテロップは余計に感じた。 最終的に彼がどんな決断をしたか、各自で想像の余地を残してほしかった。 【すべから】さん [映画館(字幕)] 8点(2012-07-29 02:30:12) (良:2票) |
7.7月末のトレード締め切り日、球団GMである主人公は他球団のGMや代理人に代わる代わる電話をかけ、矢継ぎ早に選手の売り買いを進めていく。 口頭で多くの人間の人生を左右するような重要な取引を決めていくその様は、株取引を行う金融業界の描写と類似していて、まさにこの映画が「野球」ではなく「経営」を描いていることを如実に表していると思えた。
「野球に夢を見る」とは、この映画のモノローグでも語られるフレーズだ。 僕自身、野球というプロスポーツの一ファンであるにあたって、そこに求めるものが「夢」であることは間違いないし、野球がいつまでも“それ”を見られる場であり続けてほしいと切に思う。 ただそれと同時に、あれ程までに大衆を魅了するプロスポーツの世界が、巨額の金銭が渦巻く非情な世界であるということも、必然性と共に理解できる。
かつて自分自身が野球に「夢」を見て己の人生をかけた主人公が、今度は「経営」という観点からのみそれに対峙し、また己の人生をかける様を描いたこの映画には、一人の人間の自己矛盾に対する葛藤と、突き進む程に深まる孤独感が溢れていた。 それは、メジャーリーグベースボールという巨大なエンターテイメント自体が抱える光と闇とも重なり、極めて上質なドラマ性を生んでいたと思う。
この映画は、観る者の趣向や人生観によって作品の捉えられ方が大いに変わるだろう。非常に様々な“見方”が出来る映画だと思う。 ブラッド・ピット演じる主人公が最終的に得たものが何だったのかということを考えてみても、それが「栄光」なのか「挫折」なのか「孤独」なのか、捉え方によってその表現は千差万別だ。
彼が本当に得たものが何なのかは、きっと本人にしか分かり得ない。 ただ僕は、レッドソックスからの巨額オファーに対して、きっぱりと断るわけではなく、大いに悩む彼の等身大の姿にこそ、決して安直な綺麗事では済まされない「真実」を感じた。
終始淡々とした語り口の中で、勝利も敗北もフラットに描かれるこの映画は、高揚感には乏しく、やはり「野球映画」として観たならば肩透かしを食らうだろう。 たが、野球というプロスポーツの表と裏を真っ正面から描いたこの映画は、やはり野球好きこそが最も面白味を見出せる映画だと思う。
実世界のシーズン開幕を直前に控え、今年はまた違った観点からも「野球」というプロスポーツを殊更に楽しめそうだ。 【鉄腕麗人】さん [ブルーレイ(字幕)] 8点(2012-03-31 00:30:51) (良:2票) |
6.《ネタバレ》 この映画のキモは最後の場面だ。球界唯一ビル・ジェームスの野球理論を先進的に実践してきたビリー・ビーンはわずかワンシーズンでこの理論の先駆性をレッドソックスに見抜かれた事を知り、もうこの球団はこの理論で球界をリードできないと予見する。なぜなら資金力豊富なレッドソックスが知り実践すれば我も我もと他球団もこの理論を試すに決まっているからだ。そうなった時点でアスレティックスの優位性は無くなる。そういう展開で実は唯一チャンスのあったのはこのワンシーズンだけだかったという事を知ったビリーの絶望が伝わってきた。
彼も実は「この理論は本当に正しいのか?」疑問に思っていたフシがあるように描かれている。「出塁率の高い選手を集めれば試合に勝てる」という足し算がプロ野球に通用するかというのは実際にやってみないと判らない。この映画はドキュメンタリーと言っていいんだが、新たに味付けされた部分がある。戦況が逼迫した時に聞いているラジオを切って再度入れ直すなど同じような経験があるからその心境が良くわかるし、後で首になるスカウトマンが会議中に「うらないクッキー」と言うのもAKB48を連想させられて笑える。
同じスカウトマンの映画としてクリント・イーストウッドの「人生の特等席」というのもあるが、こっちは相反してコンピューター的な計算要素を一切排除した方が勝つという明確な主張があってこっちはこっちで面白い。
h27-12/31.追記・句読点変更) Fuluで字幕版を観ました。例のスカウトマンが「fortune cookie」ってホントに言ってるのかな?と思っていたもん(^^ゞで、(言ってましたよ!)でも、意外な事に字幕版を観て驚いたのは彼らの会話がものすごく平然かつ整然と進められているという事。日本語吹替版ほど会話は攻撃的でも無くものすごく知性を感じさせる様な仕上になっていた。なるほどこれがピットの目指していた味なのかなあ?、って思った次第でした。 【アマデウスga好き】さん [ビデオ(吹替)] 8点(2015-08-04 17:07:07) (良:1票) |
5.《ネタバレ》 『マネーボール』というよりも『データボール』といった方がしっくりくる内容の映画でした。出塁率をチーム造りの最重要素と考えるブラピにはロマンのかけらもなく、選手の躍動したプレーやドラマを期待して球場に足を運ぶ野球ファンの事は眼中にないみたいでした。だからゲーム中は球場に入らないし選手たちと言葉を交わすことも極力避ける。この映画の脚本の絶妙なところは、登場人物たちの実に平凡な言動が淡々と続くということでしょう。ブラピのGMはときどきキレるけど離婚した妻子との関係はごく普通でなんの波乱も起きない。トレードやクビを宣告される選手たちも暴れたりする者は誰もおらずみんな大人のリアクション、ブラピに勝手に選手をトレードに出されるフィリップ・シーモア・ホフマンの監督(好演)にしても、大騒ぎになってもおかしくないのにグッと堪えてぼやくだけ。映画的じゃないけども、みんな実にリアルな人間たちなんです。だけど球場で繰り広げられる試合だけはエキサイティングで予想不可能、四球で出塁することだけを期待されていた選手がサヨナラホームランを打って20連勝するんだから面白いもんです。ここら辺は、アンビバレントな現実をよく計算して対照させた脚本家の高度な技ですね。 MLBに詳しい方なら実話ですので当然結末は判ってらしたでしょうが、なんの予備知識もなかった自分には意表を突くラストでした。ブラピのデータ重視手法ついてもジョナ・ヒルの分析を単に受け売りしているだけみたいな感じだし、サクセス・ストーリーとしてはかなり異色の部類に入る一筋縄ではいかない映画のような気がします。 【S&S】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2015-02-15 15:27:25) (良:1票) |
4.プロ野球好き、特に編成に関心があるので個人的にはとても興味深く面白く鑑賞することができた。アメリカの球場はとても美しいので、映画のロケーションとしては適している。でてくる選手名も野球通にはおなじみの有名選手も多いので楽しめる人は多かろう。ただ原作もあるのであまり荒唐無稽にはできないので、作品としてはブラピの存在感に負っている部分も大きい。ホフマンもやっぱりの好演。 【タッチッチ】さん [ブルーレイ(字幕)] 8点(2012-05-21 18:42:43) (良:1票) |
3.《ネタバレ》 2度目観賞。独特のマネーボール理論により貧乏メジャー球団を再建するべくゼネラルマネージャーの視点から白球を追う異端児のドラマ。勝利への執念、その熱い思いが作品全体から伝わってきました。ただのスポコンではない、その考え方は政治やビジネスにも通ずるものがあるでしょう。アスレチックスはまだアメリカンドリームの途上にあるようです。勇気をもらえる傑作。 【獅子-平常心】さん [映画館(字幕)] 8点(2011-12-24 00:48:44) (良:1票) |
2.《ネタバレ》 アスレチックスと言えば今では貧乏球団に数えられ、この映画の中でもそのように描かれているが、この時は今も同じく貧乏球団だがかつてはあの世界の盗塁王リッキー・ヘンダーソンがいて、ホセ・カンセコがいて、マーク・マグアイワがいて、投手陣も凄い面子がいたほどの強豪球団だった。そんな球団も時代と共に弱くなる。高額の選手への支払いが不可能となりアメリカ野球は日本が思っている以上にお金で強くなったり弱くなったりとそんな時代へとなってしまった。一人の元選手の力によってもう一度かつての輝きをと願いどうすれば勝てるか?お金で優勝を買う球団とは違う知恵による勝負で信じられないような20連勝を記録するが、その記録達成の試合の凄まじさ、11対0から追いつかれても最後は勝つという正にこれこそが野球の凄さ、面白さである。そういう面白さをこの映画は実話である故により感動的な物語として作ることに成功している。ブラット・ピット演じるGMが日本で言う巨人に近い金満ヤンキースの最大のライバルで今なら阪神のようにこの球団も金の掛け方は半端じゃない。そんな球団からうちの球団のGMにならないかという誘いを断る姿は男らしくてかっこ良い。金で買う優勝なんかよりも金を掛けなくても知恵と策略で勝てることを二年後に証明して見せたアスレチックス球団を見てこういう球団こそ心から本当に応援したくなる。野球ファンとしてまたメジャーリーグファンとしてその色んなもの、勝つ為の作戦、送りバントはしない。まるで1998年の横浜ベイスターズの野球のようである。相手に態々アウト1つやることない。そういう野球が私は大好きです。この映画は何故多くの人が野球に酔うか見せてくれている。野球に自分達の夢を見る。そんなアメリカンドリームな映画であり、アメリカらしい映画である。近年はやたら人を殺す夢の無いそんな映画が多い。特にアメリカ映画に。こういう映画こそ必要な映画だと思う。野球に興味の無い人にも見て欲しい映画です。 【青観】さん [映画館(字幕)] 8点(2011-11-16 20:27:30) (良:1票) |
1.昔からMLBが大好きな僕には実に嬉しい映画でした。本作の舞台は約10年前のMLB。登場するオークランド、試合相手チームの様々な選手。今は既に引退した選手、往年の力は無いが今もMLBに必死でしがみついている選手、その頃頭角を現し始めた選手・・・。今も現役の選手もほとんどみんな所属チームが変わっている。とても懐かしい思いで見させてもらいました。
冒頭のヤンキースとの試合の中で年俸総額の対比が出てきますが、これがどうしようもないMLBの現実。しかし、ここに今のMLBの楽しさがある。金の無いスモールマーケットのチームにも色々ある。万年弱小のままのチームもあれば、限られた予算の中、創意工夫でしたたかに金満チームと互角に渡り合うチームもある。本作の主人公ビリー・ビーンはその象徴のような人間です。
本作はビリー・ビーンのマネーボールがどうだとか、弱小チームがどうだとか、金満チームがどうだとか、そこには意外なほど触れてなかったように思います。ただ、弱者が強者に対し如何に挑むのかがビリー・ビーンを通して描かれていますが、それが良かったと思います。
僕は正直ヤンキースやレッドソックスには興味が無い。オークランドをはじめ幾つか存在する、チームの創意工夫、独自路線で金満チームに挑み続けるチームを応援しています。それが僕のMLBを見る楽しみの一つであり、その舞台裏を見せてくれたこの映画は僕にとってたまらなく楽しい映画でした。7月31日の各チームのGMとの駆け引きなどもとても面白かったです。
何か大好きなMLBを語っただけになってしまいましたが、最後に一言、ブラピ、良かったぞ! 【とらや】さん [映画館(字幕)] 8点(2011-11-15 22:03:10) (良:1票) |