6.《ネタバレ》 世の中には「総合芸術たる映画」とは違った、作家監督が「自分達の主張を何とかして伝えたい・伝わって欲しい」という側面で作られた作品がある。 同年の「原爆の子(新藤兼人)」は鑑賞済であったが、恥ずかしながらこの作品は最近まで知らなかった。戦後8年経った広島。「原爆について学んでなかった・忘れようとしていた」風潮の中で人々はあの日の悪夢を思い浮かべる。この作品のポイントはやっぱり原爆の惨劇をとことん映し出した前半の群衆シーン、そこに尽きるのだと思う。正直このシーンだけで疲労感は極限に達した。...映画において「イデオロギーを声高に主張する」という方法は作家の押し付けがましさが過度に出がちな感があり、個人的な感想としては「原爆の子」「ゴジラ(’54)」には及ばない。そしてこの点(「ドイツではなく日本に原爆が落とされたのは、日本人が有色人種だからだ」台詞=松竹は「反米的」と判断)が全国上映の扉を閉じ、幻の映画となってしまったのだろう... 以上が初見時の感想(2017年)。 がこの度リマスター化したフィルムを劇場で見る機会があり、私は映画としての良し悪しとは別にこの作品に携わった関係者キャストの想い、特に「絶対に戦争を起こさない+この悲劇を風化させない」という気持ちをなんとか皆様に伝えたく、点を+2にすることにした。被爆者が語る「一番自分が経験した事を身近に感じさせるフィルム」「(実際にエキストラとして映画に参加した被爆者の証言)現実から比べたらとてもじゃないが、あんなものではない、と私たちから言えば思いますけどその体験をした人がどんどん少なくなっている現在だからこそ、何かの形で伝えていく事は絶対に必要な事なのではないかと」(ETV特集×NHK1.5chより) 【Nbu2】さん [DVD(邦画)] 8点(2019-08-07 13:06:02) (良:2票) |
5.《ネタバレ》 【妻投稿】
1953年といえば原爆投下からわずか8年だ。戦後8年の高校のシーンでは被曝者が8割くらいいる設定になっている。それなのに「原爆を鼻にかけている」「原爆に甘えている」という言葉が出てくる場面がある。
この作品はおそらく広島の原爆投下の惨状を初めて描き出した部類に入るだろう。そしてその悲惨な状況を再現する事に物凄い「執念」が感じられる。私はNHKが作ったドキュメンタリーで、広島の橋でやけどに苦しみ死んでいく人々を撮影した写真を、最新の技術と当時その場にいた人の証言で「映像」として再現する番組を見たことがある。「ひろしま」の被曝者の場面とかなり近い。被曝者の記憶も新しい状況でこんな映画を作るのは、逆に難しかったのではないかと思う。
では何故こんな「再現」に拘る映画を作ったのか。そのヒントが前述の映画の冒頭とラストに存在する。ラストの台詞は2010年代どころか当時から「反米的」「思想的」だと言われていたようだ。だが私にはこれは「思想」ではなく、広島を被曝させ人々を虐殺させた戦争への「怒り」の台詞のように見えた。その後群衆が原爆ドームに歩いて行き、犠牲者が起き上がって歩く場面は、「原爆を語ること」「核兵器や戦争を許さないこと」「怒る」は決して思想的に偏っているわけでも甘えているわけでも間違っているわけでもないという事を表現しているのだ。この場面は(骸骨を売ってでも)生き残った(そして1950年代も死の恐怖と戦っている)被曝者の為に作られたものだ。そして被曝者の視点から、日本人に原爆の悲惨さをぶつける為に作られた場面だ。 【はち-ご=】さん [ビデオ(邦画)] 10点(2017-08-07 02:45:28) (良:2票) |
4.《ネタバレ》 原子爆弾によって罹災した広島の惨状を描く大作。原爆が投下された日の惨劇を群像劇で描くのみならず、原爆症や差別、戦災孤児、風化など様々な問題を盛り込んでいる。三十分続く原爆投下直後の被災地の様子や人々の惨状の映像は文句なく素晴らしい。あの日を再現したいという情熱が伝わってくる。熱風で全身火傷を負い、蓬髪弊衣で逃避場所を求めてさまよい歩く異様な人々の群れ。焼け跡に立ち、泣いて母を呼ぶ幼児。建物の下敷きとなり、最後の声を出して助けを求める生徒。下敷きの人を助け出そうとしても果たせず、生きながら炎に焼かれる人。川に逃避したものの、力尽きて流れに呑み込まれる先生と女学生。重傷者でごった返し、うめき声と嬌声の入り乱れる臨時病院の様子。累々と横たわる死体と焼かれる死体。ありとあらゆる阿鼻叫喚の地獄絵が再現されている。場所、建物も、広島城、学校、川、橋、銀行、電車、防火水槽、埠頭、似島とひと通り押えてある。時代を考慮して特撮の拙さには目をつぶろう。子供たちの生硬な台詞回しも置くとして、彼等の体当たりの演技は評価できる。特に、延数万人を動員したという群集場面は圧巻である。ただ有名な、腕の皮膚が剥がれて布のように垂れ下がった様子や体に多数の硝子片の刺さった負傷者の描写が無いのが残念だ。被爆者は差別され、嫌われるので隠れるように暮らしているのはその通りと思うが、戦後八年にして既に記憶の風化が著しいとは思わなかった。「広島の恐ろしさとあの非人道的なことを先ず、広島の人に知ってもらいたい」と生徒が訴えている。1952年までのGHQ統治下では原爆の報道規制が敷かれていたことと、急激な人口流入が原因だろう。問題なのは、製作者側の政治、思想が混入していることだ。原爆を投下した爆撃機の添乗員の手記と、日本人が有色人種だから原爆を落とされたというドイツ人の手記を紹介し、警察予備隊が創設されたからまた戦争が始まるとの危惧を伝え、朝鮮戦争の特需で砲弾を造った軍事産業への批判、戦争遂行を優先して被災者を棄民扱いしたとして軍部批判を行っている。それで大手映画会社の配給を受けられず、幻の映画となってしまった。余計な事は排して、惨事を描くことに特化すれば良かったのだ。何も語らずとも、惨劇は雄弁に語るものだ。最終場面で大勢の死者が起上がり、訴えかけてくる。演出手法としては斬新だが、演技と演出が洗練されていない。 【よしのぶ】さん [DVD(字幕)] 8点(2014-12-11 21:30:44) (良:2票) |
3.《ネタバレ》 まずは冷静にこの時期に、この映画が製作された背景・経緯を理解するべきだろう。作品中にも出てくるが、朝鮮戦争特需があり、警察予備隊の結成があり、そして日教組が反対の意思表示として製作された非常に政治的作品である事に留意する必要がある。また、本作品は反米的であるとして、お蔵入りになったようであるが、純粋に作品としても出来がよいとは思えない。しかしながら、戦後8年で当事者が多数参加して制作された事を考えると、臨場感というか意気込みや気迫が伝わってくる。それにしても宮島で頭蓋骨が土産物として売られていたというのは本当なんだろうか?今日的感覚では信じられないが。 【東京50km圏道路地図】さん [地上波(邦画)] 6点(2019-09-12 01:43:43) (良:1票) |
2.あの時の「ひろしま」はこんなふうだったのかと、大きな衝撃を受ける映画だった。 燃えさかる街から川へと逃れる大勢の女学生たち、負傷者で溢れる救護所など、胸に焼き付くような圧巻のシーンの連続だった。 原爆を扱った映画は多々あるが、ここまで生々しく迫る映画は他にないのではなかろうか。 特に、このような悪魔的兵器を民間人の上に落としたアメリカ人の言い分、第三者のドイツ人の見解をさりげなく挿入してくれているので、人間の犯した原爆投下という行為の恐ろしさが、より一層、胸に突き刺さる。配給会社はこのシーンを問題視して、配給を取りやめたそうだが、当時の日本人もアメリカにずいぶんと飼いならされてしまったものだ。残念なことである。 原爆投下による民間人大量殺害は、天変地異ではなく、人類の犯した最大の罪の一つだろう。この映画が一人でも多くの人に鑑賞されることを願って止まない。 【駆けてゆく雲】さん [地上波(邦画)] 10点(2019-09-10 16:23:44) (良:1票) |
1.《ネタバレ》 本編のドキュメンタリーが放送されていたため、視聴するには良い機会だった。原爆投下からわずか8年で大作を撮った、いや撮らなければならなかった関係者の強い憤りと訴えが、作品の粗に怯まず、執念としてフィルムに焼き付ける。原爆投下後から数年後に浮上した原爆の後遺症が、戦争孤児がその地盤を強固なものにする。現代のCG技術、メイク技術ならより凄惨な描写をカラーで再現できても、被曝して時が経っていないからこその生々しさには迫れないだろう。名も無き多くの人々が原爆によって死んだことを突き付ける、ラストの演出が強烈なインパクトを残す。語り部も少なくなり、核兵器禁止条約に触れないどころか、むしろ国を守るために憲法改正だ、核を持てという意見も散見し、この叫びが無力で虚しいものはない。劇映画の体裁を取った"記録映画"として貴重な作品。 【Cinecdocke】さん [地上波(邦画)] 8点(2019-08-18 01:39:49) (良:1票) |