8.《ネタバレ》 前々から「陸軍」を見てから見ようと思っていた映画をようやく見る。木下恵介監督生誕100年を記念した伝記映画だが、生涯を描いたものではなく、「陸軍」で軍部ににらまれ、松竹に辞表を出し、田舎に帰った木下(加瀬亮)が再び映画監督として復帰を決意するまでの出来事を描いている。アニメ畑の原恵一監督による実写映画だが、原監督はもともとアニメでも実写的な表現を用いることが多い(「カラフル」など。)せいか、実写としての違和感は全くない。内容としては、脳溢血に倒れた母(田中裕子)を疎開させるため、木下と兄(ユースケ・サンタマリア)、そして荷物運びのために雇われた便利屋(濱田岳)の三人が母の乗ったリヤカーを引きながら山越えをするというシンプルなものだが、そこにカレーや学校の先生(宮崎あおい)などのちの木下監督の作品につながるようなエピソードを盛り込みつつ描いているので、木下監督の映画を好きな身としてはかなり興味深く見ることができたし、自身も木下監督のファンという原監督のもっとたくさんの人に木下監督の映画を見てほしいという思いも伝わってくる。「陸軍」を否定され、これ以上映画を作ることをあきらめた木下が、目の前にいるのがそれを作った監督とは知らない便利屋から「陸軍」のラストシーンに感動したと聞かされるシーンや、母からたどたどしい声で映画に戻るように諭されるシーンははたとえ自分のやったことが否定されても、少しでも自分を認めてくれる、応援してくれる人がいればまたがんばれるということを感じることができ、だから木下恵介は再び映画監督に復帰する決意をすることができたのだと思う。この二つのシーンは見ているこちらも木下に感情移入して感動したし、母の「また木下恵介の映画が見たい。」という言葉には病気の自分の世話よりもたくさんの良い映画を作ってほしいという母の気持ちがよく表れていてこれもまた泣ける。賛否両論あるというラストの数々の木下監督の映画のダイジェスト映像も物語とリンクするようによく考えられたダイジェストになっていて、ここにも原監督の木下監督への思いが感じられ、これでいいと思う。十数年前から木下監督の映画を見ているのにその良さに気づいたのはここ数年のことで、本作を見てあらためてもっと木下監督の映画を見てみたいと思った。 【イニシャルK】さん [DVD(邦画)] 8点(2016-09-07 20:09:50) (良:2票) |
7.《ネタバレ》 「木下恵介監督の半生を映画化」と聞いて見に行きましたが、実際の映画はほんの2、3日の間の出来事を描いたもの。良い意味で期待が外れて楽しかったです。しかもごくごくシンプルなストーリー。病気の母をリヤカーに乗せて山越え。見ている途中で、「なんだかイラン映画みたいだなあ」と思いました。運動靴を探しまわる兄弟とか、友達のうちを探す男の子とか、黒板を背負って延々歩く教師とか・・・イラン映画で描かれる主人公たちと重なる部分があったと思います。イランでは国からの規制が激しいため、結果的にそういう内容の映画が多い・・・という点も、当時の木下監督の境遇と重なるのかもしれません。今だったら予算を割いて、戦争シーンをもっと派手にしたり、監督の人生を順を追って追いかけたり、主題歌を人気歌手にしたりも出来たはずだし、そうしなければ映画を作れない環境だと思います。しかし、そういう「ノイズ」を見事にはね除けた作り手は英断したなあ!と感動しました。そして本編の内容が、その後の木下作品と見事に呼応していて、ラストは落涙必至です。(個人的には、作品の引用はあれで良かったと思います。元々作品を見ている人以外の、木下映画を知らない人に向けて「あとでレンタルするんじゃなく、いますぐこの場で体験してくれ!」って姿勢はいいと思いました。) 涙を流してカレーライスを食べる「破れ太鼓」のお父さん、教育方針に納得出来ず、学校を辞めてしまう「二十四の瞳」の先生、親を背負って山を登る「楢山節考」の息子・・・。どんな時代だろうが、規制があろうが、イランのような遠い国だろうが、人間の想像力と創造力だけは奪えないし、自らそれを捨ててはいけない、と思わされました。ああ、映画って本当に素晴らしいなあ! 【ゆうろう】さん [映画館(字幕)] 9点(2013-06-23 21:33:07) (良:2票) |
6.木下監督作品のダイジェスト部分は長い感じもありますが編集がよいので、原監督の気持ちが伝わってきたと思います。 自らがリスペクトする先達作品をカバーしたり喧伝することは、それらに育てられ、 同じ道に進むことができた芸術家の特権であり、そういうことで文化は伝承される部分があると思います。 私はこれを見て過去の木下作品を見たくなり、実際にいくつか鑑賞することで観てよかったと思える作品に出会えました。 【クリプトポネ】さん [CS・衛星(邦画)] 6点(2017-08-04 23:40:13) (良:1票) |
5.ラストが軟弱ということで軍部からクレームがついた「陸軍」も一応上映されたわけですから、とりあえず戦意高揚映画だったのでしょう。中途半端といえばそれまでですが、アメリカでさえ「チャップリンの独裁者」を批判する人が少なくなかった時代です。当時の木下監督の心意気は十分伝わってきます。作中、過去の木下作品の数々が断片的に披露されています。いくつかの鑑賞済の作品を見ながら、作者と同時代を生きていないとなかなか作者の思いを身近に感じることは難しいと改めて実感しました。 【ProPace】さん [CS・衛星(邦画)] 6点(2016-01-14 21:33:13) (良:1票) |
4.《ネタバレ》 あのボロボロに泣いた「二十四の瞳」はこうしてできたのか?などのように、まるで創作秘話みたいな映画。でも今、この時期に作られた意義は高いと思います。田中裕子演じる母の懸命に絞り出した、息子・木下恵介へのメッセージは、そのまま昨今の自由に言えない表現の現場にいる制作者たち、みんなへのメッセージだったと思います。いつかは自由に言える日が来る。その時に、この監督のように素晴らしい作品を創ろう!とまるで業界者への映画のように感じました。そっか板妻の「破れ太鼓」(未見)は、濱田岳だったかぁ!観てない作品、結構あるんだよね。今はライブラリも充実してるので、観るようにしなきゃ! 【トント】さん [DVD(邦画)] 7点(2015-06-01 03:15:41) (良:1票) |
3.《ネタバレ》 原恵一監督ファンであり、木下恵介監督ファンでもある私として、やっと見る事ができた。国の圧力により思うような映画、自分が本当に撮りたい映画を撮らしてもらえなくなり、一度は映画監督を諦めて辞める。しかし、そんな中で出会った一人の青年便利屋の「陸軍」を見て泣いた話を聞き、更に母親の今いるべき場所はここじゃない。映画監督に戻りなさい。という問いに再び映画監督に戻る決意をする木下恵介、正吉から再び恵介へ!木下恵介監督が今まで世の中に送り出した数え切れない程の名作の数々が蘇ってくる。この映画は原恵一監督が木下恵介監督ファンであることがよく解る作品になっている。今まで一度も木下恵介監督作品を見た事がないであろう今の人達(10代20代)の若者に一人でも多く木下恵介監督の素晴らしさを木下恵介監督作品の素晴らしさを知って欲しいという気持ちが伝わってくる。私も原恵一監督と同じ気持である。同じ日本人として木下恵介監督は黒澤作品や小津、溝口、成瀬監督達と並んで誇りに思う。この映画を見て一人でも木下恵介監督作品に興味を持てたら嬉しい。
【青観】さん [DVD(邦画)] 8点(2013-12-21 10:18:15) (良:1票) |
2.《ネタバレ》 これも、期待しすぎた私がわるいのかもね、の一本。予定調和以外のものは、残念ながら感じられなかった。そんな中、唯一、河原でのシーンはよかったが、濱田岳の演技力によるところが大きかったのではないか。彼でなかったらもっとださいシーンになってたかも。彼が一番おいしい役だったのは間違いないが、ほかの人物だって、もっともっと肉付けのできる、おいしい役になりえたはず。やっぱりザンネン!としか言いようがない一作。そうそう、観てから時間がたってしまったので忘れかけてましたが、お母さんの顔を拭くために水道(井戸だったかも)で手拭いをしぼるシーンがあったのですが、なぜかこの時代に腕時計をはずさなかったんですよ、主人公が。確か。記憶違いだったらすみませんが。でもね、今みたいに防水じゃあるまいし、そりゃないだろう、と私は興ざめしました。映像表現を志す人々は、そういう細かいディテールにも気を配ってほしいものです。 【おばちゃん】さん [映画館(邦画)] 6点(2013-11-16 00:02:04) (良:1票) |
1.《ネタバレ》 舞台は昭和20年の終戦間近の静岡、病のために寝たきりの母親を兄弟がリヤカーで疎開先まで運ぶ。話はただそれだけです。上映時間も長くない。しかしその物語の中に原恵一監督のエッセンスがぎっしりと詰まっていると思える作品でした。 私が観終わった後にまず思ったのは、日本版『ヒューゴの不思議な発明』の様な映画だということです。同作は映画黎明期のある監督へのスコセッシからの敬慕の念を感じたのですが、本作は木下恵介への愛と感謝に溢れています。 物語の終盤、便利屋が『陸軍』についてしみじみと「いい映画だった」「俺が戦地へ行ってもおっかさんはあんな風な気持ちなんだろうか」と語ります(またそれを映画をそんなに観ない便利屋のカレーライス君が語るのが良い!シネフィルが言ったら絶対に駄目なシーン)。それを聞いて主人公は泣いてしまいます。彼は「俺のやっていることは無意味じゃ無かった!軍の連中に女々しいとこき下ろされても、観てくれた人達にはメッセージが届いていたんだ!」と思ったのでしょう。どんな分野でも、自分が作品に込めた主張が受け手に届かないかも知れない恐怖ってあると思うんですよね。実際に作り手の想定していた主張とかけ離れた受け止め方をされていた映画も過去に沢山ある訳で。だから現在何か芸術作品を作っている人にとって、この映画は励ましや祝福になるのではないでしょうか。残念ながら私は基本的に作品を消費するだけの人間で残念ですが。 勿論、主人公とお母さんとの絆、主人公と兄との関係性、便利屋とのちょっとした交流、戦争へのハッキリとした批判等も丁寧に描かれているのですが、やっぱり今考えると原恵一監督が一番言いたかったのは、作品を作る人への賛歌だと思いました。だから物語の最後も「映画の撮影の為に母親の死に立ち会えなかった」というナレーションで締めたのかなと。「それでも主人公のいるべき場所は映画を作る場なんだよ」と言うことかなと。 但し少し残念だったのが、色々な場面のある意味丁寧すぎる描写。例えば主人公がおっかさんの顔についた泥を布巾で拭ってやるシーンは、主人公が如何におっかさんを大事に考えているか分かる良いシーンなのですが、その主人公の行動に旦那と女将が心打たれる顔を何度も何度も写す。その後、彼らの娘二人の同じ様な顔をまた写す。本当に大事なシーンで強調したい気持ちは伝わってくるのですが、少しやり過ぎかなと。 【民朗】さん [映画館(邦画)] 7点(2013-06-16 00:19:23) (良:1票) |