《改行表示》 7.《ネタバレ》 実際の保険金殺人事件のルポを題材とした映画。何よりその題材の料理の仕方に唸らされました。テーマ自体はコーエン兄弟の『ノー・カントリー』に近いと思います。怪物の様な殺人鬼を善人である主人公が追っていく内に、人間の暗黒面に迫っていく。『ノー・カントリー』の方は原題の通り事件を追っていた老保安官が「こんな国は老人の住める国じゃねえ」と呆然として終わりますが、本作は主人公を通して観客に問いを投げかけてくる。主人公の妻が最後に呟く「あなたも愉しかったんでしょう?」という台詞だ。ワイドショーではコメンテーターが事件について意見を並べ立て、ネットで全くの第三者が事件を勝手に糾弾していることなど山程ある。そんな資格が君(観客)にあるのか?と作り手が質問を投げかけているように思えました。 そんな感覚を観客に抱かせるには事件を如何にもエグく興味が惹かれるものに見せなくてはなりません。それに寄与しているのが、多くの方も述べているピエール瀧とリリー・フランキーの怪演でしょう。二人共目に狂気が宿っていて素晴らしい。 しかしどうにも特に先生のキャラクター造形が、『冷たい熱帯魚』のでんでん演じる村田に近いと思ってしまいました。と言うか事態が急変するとカメラが登場人物の背中をダイナミックに追っていったり、殺人シーンではカメラが縦横無尽にパンすることで場面に異様が感じられたりと、かなり園子温のタッチに近いと思いました。……が、これはエグい話を見ると直ぐにポスト園子温と思ってしまう私の悪癖でもあるのかも知れません。 それから最も残念だったのが、主人公がとにかく私の嫌いなタイプの人間だったこと。勿論、あのラストに向かうのであれば仕方が無いのかも知れませんが、「おまえ夫としてどうなん?」と何度も思ってしまった。あれだけの奥さんの懇願に対して「疲れてるから……」で蔑ろにするとか酷すぎる。私はここで主人公に余り感情移入できなくなってしまい、ラストにリリー・フランキーが突き出す人差し指の先に自分はいないと思ってしまいました。 【民朗】さん [映画館(邦画)] 7点(2013-11-23 14:46:28) (良:3票) |
《改行表示》 6.《ネタバレ》 恐ろしい映画だったと思う。 自分はこの映画に登場する“彼ら”ではなく、“彼ら”に関わった人間でもないという無意識の立ち位置による屈折した「愉悦」を知らぬ間に敷き詰め、この映画に「娯楽」を感じている自分の意識に気付いたとき、この映画の「凶悪」というタイトルの真意を垣間見た気がし、ゾッとした。 描かれる事件と犯罪が「真実」であることを念頭において観ているわけだから、映し出される凄惨な描写に対して「痛み」や「悲しみ」を感じなければならないという“建前”を意識しているにも関わらず、ピエール瀧(=須藤)の爆発的な残虐性に何故か高揚し、リリー・フランキー(=先生)のおぞましいまでの狂気に引き込まれてしまう。 実在の被害者に対して後ろめたい気持ちを多分に感じつつも、描きつけられる「凶悪」が次に何を見せるのか、どこか期待をしてしまい、その都度「不謹慎」という言葉をぬぐい去ることに苦労した。 「あなた こんな狂った事件追っかけて 楽しかったんでしょう?」 終盤、主人公の妻のこの台詞により自分の中で見え隠れしていた感情が突如丸裸にされる。 見て見ぬ振りをしていた自分自身の深層心理がふいに明るみに放り出されたような気がして、主人公と同様に「やめろ!」と叫びたくなった。 「映画」である以上、いくらノンフィクションが原作だとはいえ、脚色されている部分は大いにあるだろう。 ピエール瀧が度々発する「ぶっこんじゃお」というあまりに印象的な台詞や、リリー・フランキーの脱帽するしかない「怪演」など、映画的な面白さが加味されている要素は多く、それはまさにこの作品が映画として優れている点でもあると思う。 俳優たちの表現はことごとく素晴らしい。一つ一つのシーンも綿密な計算と明確な意思をもって構築されており、見事だったと思う。 ただ敢えて苦言を呈するならば、もう少し「編集」の巧さがあれば、同様の深いテーマを孕んだまま、もっと“面白い”映画に仕上がっていたようにも思う。 もし同じ題材で、というかこの監督と俳優が撮った同じ映像素材を、世界的な映画巧者が編集したならば、例えばアカデミー賞をも席巻するような名実ともに質の高い映画になりそうな気さえする。 ま、そんなのは一映画ファンの身勝手な妄想であり、実際どうでもいいことだ。 こういう本当の意味で骨太な映画が、もっと沢山国内で製作されることを願いたい。 世の中に「善」はない。 「善になろうとする者」がいるだけだ。 . 【映画の奴隷】さん [ブルーレイ(邦画)] 7点(2023-05-30 16:35:27) (良:1票) |
《改行表示》 5.《ネタバレ》 いやはや、恐ろしい人間がいたもんだ・・・。 『実話をもとにしたフィクション・・・』のナレーションで始まる本作。 どれくらい実際の事件が反映されているのか気になるところ。まあ、フィクションって自分から言っているくらいだし、ほとんどフィクションなんだろーなーって思っていたのですが・・・。 ほぼ全部ノンフィクションやんけ~。まじっすか~。名前と顔が違うだけ。あとは記者の家族エピソード、これがおそらくフィクションなんじゃないかなぁ・・・。 それにしてもこの映画、時系列の使い方が上手です。回想シーンがずっと続いていたところに、突如リリー・フランキーを撮る山田孝之が映し出される。この辺りうまいなぁ。実に自然に過去から現在へと戻ってきます。 さて、他の方も言及されているように、私もこの藤井記者がどーにも好きになれません。いくらなんでも妻をないがしろにしすぎ。そっちが気になってしまって、序盤と終盤は藤井家のごたごたが邪魔で仕方なかった。真相を暴く記者の姿だけ映してくれたらよかったのに。それに山田孝之は声を張り上げる演技があまり上手じゃない。感情を押し殺した演技はうまいんですけどね。 でも終盤、法廷で『生きる喜びなんか知るな』って須藤にキレるシーンは良かったです。ただあんたにそんなこと言う資格はないけどね。 【たきたて】さん [ブルーレイ(邦画)] 7点(2023-05-09 15:12:59) (良:1票) |
《改行表示》 4.《ネタバレ》 メイン三人のキャスティングはよかった。特にリリーさんの演技は凄かった。 仰天ニュースの豪華版みたいです。見応えがありました。 ジャーナリストの家庭のエピソードは不要。淡々と取材するだけのほうがテンポがよかったと思います。 バイオレンス耐性のないかたにはおすすめしません。胸が痛くなるシーンが多いです。 あと、池脇さんの泣き演技全然ダメです。正直 萎えました。 【まっか】さん [DVD(邦画)] 7点(2016-12-10 23:38:29) (良:1票) |
《改行表示》 3.《ネタバレ》 悪い奴らはあんなものでしょう。凡人とは違う倫理観は見どころでした。でも本作のテーマは主人公の心情の推移だと思いました。 事件への食い付きから真相に対する探究心は真にジャーナリストらしい。でも、その熱意が中盤以降は危ういものに映ります。分かりやすく台詞になっていました。「このままでは、奴は無期懲役にしかならない」。つまり死刑を望んでいる訳です。ジャーナリストが「殺意」を持って報道に携わる。その是非を問う、すごく真面目な作品だったと思います。 プレーンな視点で事実を伝えるのが正しい報道の在り方なのでしょう。でも、そこに刺激が伴わなければ受容側の興味を惹けません。実際の報道にも何らかの方向性が付与されています。本作は極端な例ですが、偏った報道があって初めて生まれる反対意見もある訳で、そのせめぎ合いもジャーナリズムには必要だと思います。本作が見せた主人公の行き過ぎは、ジャーナリストの負の側面を見せたことに意義がありました。 ジャーナリズムの質を問う内容に家庭問題まで絡めたのは蛇足だったかも、ですね。 【アンドレ・タカシ】さん [CS・衛星(邦画)] 7点(2016-09-25 14:24:52) (良:1票) |
2.《ネタバレ》 世の中には自分の罪を棚に上げて他人の罪を弾劾する人間が多すぎる、それは凶悪なピエールさんであり、あの偽善者の記者であり、そして私たち観客なのです。先生が記者に対し、俺をもっとも殺したがっているのはお前だ、と指摘するシーンは、お前=観客を暗示させているのだと思います。なぜ人は、人を裁きたがるのか?という視点から映画を解説します。凶悪なピエールさんと、凶悪な先生の罪よりも、むしろ偽善者の記者の罪が目に付く。母親を見捨てないというパフォーマンスをすることにより、悪人になりたくないと思っている記者の偽善、その偽善のせいで犠牲になる妻。決して自分の手を汚さないヤツだ。そう思わせておいて、しかし、じつは君たち観客も同じだろ?という問いかけがある。我々人間は、自分の罪には鈍感なくせに、他人の罪には敏感である。これこそあの先生が、記者に指摘した人間の本質なのです。キリスト教徒は神を愛する時間よりも、悪魔を憎む時間のほうが長い。同様に偽善を抱える記者は、汚れなき自分を愛し、汚れきった人間を憎む。ヤクザですら、俺は人殺しだが、じつは寅さんのように情にもろいタイプだよな~なんて善人きどりでほざいてやがる。アーメン。偽善者の記者が、偽善者の先生を裁こうとし、そんな光景をみて、偽善者の君たち観客が登場人物を断罪する。罪の自覚が無い人間に「赦し」の感情は芽生えません。だから嫌いな映画には、精一杯ブッコミをいれてください。自分のことを公平な人間だと思わないでください。常に自分は欠点のあるレビューワーだと自覚してください。そうすれば愚かなレビューを憎む感情は和らぐのです。やさしくなれるのです。この映画で監督が言いたいことは己の罪に対する自覚なのです。 【花守湖】さん [DVD(邦画)] 7点(2014-08-08 22:10:16) (良:1票) |
《改行表示》 1.《ネタバレ》 週刊誌の記者でなくても、人であるならば、好奇心というか興味本位というか、他人の不幸をやじうま感覚で知りたがる。これは仕方ないことだ。山田の妻(俺たちの池脇)は、家庭を全く省みない山田に対し「あなた、楽しかったんでしょ?こんな狂った事件を追いかけるのが。こんな風に殺される人がいるんだー、こんなに悪い奴がいるんだーって。」のように図星をつく。このせりふは我々への断罪であるのだろうが、池脇の口からこれが出ると、山田の犯した悪の性質の方向が変わる。 池脇は介護にくったくたになり、いつからか手を上げるようにもなっていて、なのに仕事ばかりで介護の手伝いをしない山田に、さきほどのせりふと離婚届を突き出している。だから、池脇はあの最後通牒の時、先ほどのせりふよりも、この目の前の家庭を何ともしようとしていない山田を断罪する方が役として嵌る。 どう修正すればいいのかわからないが、もうひとひねりすることで、「凶悪な本性は、誰の中にも眠っているんだよ、それを自覚しろ」という主題が成功しただろう。そうすれば名作だった。 介護施設のあの職員(なんと、リリーフランキーたちに金になりそうな老人を斡旋していたのだ)が、警察を見て「やべえ」って逃げ出して、トラックにはねられてしまう(結果真実は闇の中)というのはよろしくない。例えばビルの屋上から身を投げたり、もう少し走れば陸橋から死ねる高さで飛び降りれただろうから、脚本段階でこっちにすべきだった。あれだとトラックの運転手がかわいそうだ。 【no_the_war】さん [DVD(邦画)] 7点(2014-04-06 23:13:57) (良:1票) |