4.《ネタバレ》 まず驚くのは、力技で組み伏してくるようだった80年代の一連の相米映画とのそのあまりの差違だ。わからない奴はわからなくていいとばかりにやりたい放題だった荒くれ者がジェントルマンのたしなみを身につけたかのように、相米はこの映画を相米らしくもとても真っ当な映画に仕上げている。続く『お引越し』で彼がその正しい真っ当さと相米的力技の最もバランスのとれた完成形を見せ、以降はよりその真っ当さを強めていったことを考えると、『東京上空いらっしゃませ』は相米映画の過渡期に位置した記念碑的作品でもある。おもちゃ箱をひっくり返したような美術にファンタジー的特撮、牧瀬里穂のやけくそのような芝居の非リアルなリアル、相米印とでも呼ぶべきそれらを長回しで生き生きと捉えながらこれまたおなじみの荒唐無稽なストーリーを、けれど彼はとてもとても丁寧に大切そうに語る。たとえるならば『ローマの休日』方式の、はじめから終わりを運命づけられた二人のタイムリミット付きの恋の物語を。天国までの猶予の時間を生きる主人公ユウは、貰ったばかりの薔薇をちぎって屋形船の上から夜風に飛ばす。一見共感しがたい刹那的なその行為はしかし大切な花束を前に彼女が出来うる、最大限の愛の表現だ。かけがえのないその花を枯れるまで慈しむ時間すら、彼女にはないのだ。そんな彼女が、今の自分がいちばんいい!と高らかに宣言するかなしさ。影踏みのやりきれなさ。途方にくれながら球体のジャングルジムをぐるぐると回し飛び乗るシーンの抒情。あるいはそれこそ大昔のハリウッド映画のように開きなおった吹き替えのミュージカルシーン、作りものめいた画面の中に牧瀬里穂の躍動だけが今を生きる本物としてくっきりと浮き上がる、そのせつなさ。大口を開けて笑い、喜び、怒り、また笑う、そんな美しくも当たり前の日常を彼女が生き生きと生きれば生きるほどに、すぐそこに迫りくる終わりを予感させる、その逆説がたまらなく胸をしめつける。やがてあらかじめ決められた終わりがやって来て、それでも相米はそれまでの彼からはとても考えられない、ささやかだがそれでいてとびきりすてきなラストシーンを見せてくれる。あとにもさきにもこんなにやさしい相米は見たことがない!へたくそな牧瀬里穂のすばらしい笑顔はオードリー・ヘップバーンにだって負けていないと思う。天国の相米もパラソルの下、地球を眺めながら日焼けしているだろうか。 【BOWWOW】さん [DVD(邦画)] 10点(2009-07-25 00:09:24) (良:2票) |
3.《ネタバレ》 なんて可愛いんだ!牧瀬里穂演じるユウの健気なこと、なんて純粋なんだ!自分が交通事故で亡くなってしまったことをちっとも受け入れようとしない中で中井貴一のマネージャーの住むマンションの部屋の中、一人で活き活きとしている姿に、そして、二人並んで撮った写真に自分の顔の映っていない姿を見て、そこで初めて自分が本当に死んでしまったのだということを受け入れる姿に、もうそっから最後まで泣けて泣けて本当にヤバかった。既に皆さんが書かれているように別の自分の姿として、ハンバーガーショップで働く場面も素晴らしい。それにも増して、折角、アルバイトで貰ったお金を中井貴一演じるマネージャーの為にと使ってしまう姿と自分へのご褒美に歯ブラシを買うなんて、駄目だ!本当に泣けて、泣けて仕方ない。他にも中井貴一と二人で夜空を見上げ、打ち上げられる花火を見ているシーン、そこでユウ(牧瀬里穂)の言う台詞がこれまた涙を誘う。「わたし、今の自分が一番、好き」自分の生まれた時のまだ0歳の頃から順に自分の年齢を言うシーン、中井貴一以外の仕事関係者には死んでいる筈のユウが幽霊としてまだ生きているということが解らない。交通事故の原因となった笑福亭鶴瓶の白雪の眼の前に姿を表して言う「東京からいらっしゃいませ」、あの場面の何とも言えない気持ちの良さ、あの場面は本当にスカットする気持ちの良いシーンだ!単なるアイドルものかと思っていたらとんでもなかった。牧瀬里穂の演技が下手とか駄目とかそんなことはどうでも良いぐらいに私は感動してしまった。こういう作品に対して、色々とケチを付けたがる頭のお堅い映画評論家がいそうだが、こういう映画を観ても何とも思わない。楽しめない。素直に見れない人は物凄く可哀想だと思う。牧瀬里穂が見せる笑顔の素晴らしさ、見ていて本当に気持ちの良いそんな映画です。 【青観】さん [ビデオ(邦画)] 9点(2007-08-13 09:37:50) (良:1票) |
2.《ネタバレ》 牧瀬里穂が死ぬまでは、「何の話なんだろう?それにしてもこのつたないセリフ読みは……」といぶかしんでいたんですが、牧瀬が懸命に生きよう(?)として、自分の人生を取り戻そうとする姿にうっかり心を打たれてしまいました。そうしてハンバーガー屋でバイト(ひとりでてんやわんやになっている姿が異様にかわいい)する。で、元?マネージャーの中井貴一に、アイドルとは違った立場で接してもらうことで、次第に自らの死を受け入れる。この受け入れる過程が涙なんですね。チンチロリンとコウロギの音とともに現れる鶴瓶(天へ導く、天使なのかなぁ~?)をふりきって、中井と一緒にバーで踊り歌うシーン、トロンボーンを手にちっちゃな車で別れを告げるシーンでは、↓【Pizz】さんの“不覚”という言葉まんまに、胸が熱くなってしまう。「天国ってどんなところ?」と聞く牧瀬に鶴瓶が「きれいなところやで~」というシーンでは、本当に天国ってきれいで楽しいところなんだろうなと思ってしまいました。最初のベタベタな話に引いて、途中で観るのをやめた方、是非最後まで観てみてくださいね。私自身、はじめ20分くらいまでは「観るのを止めよう」と何度思ったことか。でも、【なるせたろう】さん、【STING大好き】さんの言葉を信じて、みつづけました。↓【ぐるぐる】さんもおっしゃっていますが、最後には演技がどうとかこうとか、そういうのどうでもよくなります。 【元みかん】さん 7点(2003-11-23 23:47:21) (良:1票) |
1.正直、突っ込み所は多いんですよねえ。牧瀬里穂の演技は未熟だし、標準語の鶴瓶は笑っちゃうし、特撮はちゃちいし、ストーリーも他愛ないっちゃ他愛ないし。でも、後半になっていくにつれ、そういう欠点が気にならなくなってくるんですよね。屋形船の上でバラの花をちぎって投げながら自分の人生を振り返るシーンでは演技の上手い、下手を超えた素晴らしさを感じました。それと、僕は別に牧瀬里穂は好きでも何でもなかったんですけど、この映画の彼女の何気ない一挙一動がとても愛くるしいんですね。公園の遊具で遊ぶシーンとかも良かった。これを機に、相米作品をちゃんと観てみようという気になりました。 【ぐるぐる】さん 7点(2003-11-07 14:36:55) (良:1票) |