3.《ネタバレ》 凄惨な戦場での体験が退役後も兵士の心を蝕むというテーマの作品はこれまでいくつも観てきました。主人公らは皆心を再生不能なまでに壊され、その再起のいかに困難なことかを思い知らされるものが圧倒的に多かった気がします。 本作の主人公カイルは伝説のスナイパー。160人を殺めてきた彼もPTSDに悩むことになりますが、回復がかなり早く描かれているのにちょっと驚きました。このことは彼が幼少の頃から受けてきた「番犬であれ」という教育が大きく影響しているのかなと思いました。番犬たること、「悪」である狼を退治することは神の意に添った「善」である。この岩のような信念がカイルをして「人殺しの理由を神に説明できる」と言わしめ、心の回復を早めたのでしょう。そしてこの「米国は世界の警察」な意識はアメリカ人の平均的な考え方であるとずっと感じてきたことでもあります。自らの価値観を善だと信じ、他国の紛争に手出し口出ししてきた結果、大使館爆破も9・11も誘発したのだとは彼らは考えない。同胞が攻撃されている、そのショッキングな映像に奮い立ち、戦場に自ら向かうクリスは極めて普通の感覚のアメリカ人です。 しかし非米国人の私は、他国の兵士に家に踏み込まれ、あげく凶暴なテロリストらに蹂躙されるイラクの一般市民の痛みの方に強く共感します。戦地で生きる市民にとって、禍の度合いはテロリストも米軍も大差ないのだよと冷徹に描かれており監督のフラットなバランス感覚がうかがえます。 けれど人間が戦場で心を喪うということ、その惨たらしさについてはイーストウッドといえども同テーマの他作品より抜きん出ているとは言い難く、平均的な出来の作品と思いました。 【tottoko】さん [DVD(字幕)] 6点(2019-03-16 15:17:32) (良:1票) |