7.《ネタバレ》 人種問題を扱った映画は多くありますが、これほど核心を突いた映画は珍しいと思います。人種映画は白人の手によって贖罪の意味で作られたものが多く、そのためどれもが腫れ物を扱うような作りで、黒人は決まって立派だが言われなき偏見を受ける人と決まっています。そこに来て本作は黒人社会から見た人種問題という他にありそうでなかった視点で、自身が黒人であるスパイク・リーだからこそ作れた映画だと言えます。異人種がすぐ隣に住んでいることの人種的緊張は「被差別者=一方的な被害者」という単純な図式には収まらないものであり、この映画では黒人側の問題点を浮き彫りにします。言葉が満足に通じないにも関わらずわずか1年で店を成功させた韓国人、彼らは人の何倍もの苦労をして成功を手にしたのでしょうが、一方おしゃべりをして1日を終えるような黒人のじいさんは、彼らを見て「古顔の俺たちより成功するとは何事だ」と自分を棚に上げて八つ当たり。またクライマックスの暴動のきっかけを作るメガネの黒人バギン・アウト。彼はイタリア人のサルが経営するピザ屋にイタリア系の有名人の写真しか飾られていないことに腹を立て、「黒人の写真を飾れ」と怒鳴り込みます。同じく暴動のきっかけとなるラジオ・ラヒームも、あれだけのボリュームで店に入られれば迷惑に決まっているのに、それを注意されると「黒人差別だ」と問題をすり替えてしまいます。水戸黄門の印籠かのように「差別だ」という言葉を使い、自分の都合のいいように相手を黙らせようとする黒人のずるさがきちんと描かれているのです。そして、そうした人種間の行き違いは登場人物の中でもっとも人種的にフラットなイタリア人サルへと向けられます。人種の違いを意識せず、誰とでも同じように接してきたサルは、そのフラットさゆえに「差別」という無敵の言葉を振りかざすバギン・アウトやラジオ・ラヒームとの関係をこじらせ、25年間同じ街で暮らし愛着を感じていた黒人の隣人達から店の襲撃を受けることとなる皮肉。その挙句、不真面目な勤務態度も大目に見て「お前は息子みたいなものだ」と愛情をかけてきたムーキーまで、襲撃でショックを受けているサルの気持ちも考えずに「俺の給料をくれ」と平然とやってくる始末。人種が絡むと思考回路が停止する黒人に対して「正しいことをしろ」と訴える実に珍しい映画で、人種問題をよく知るのには欠かせない作品だと思います。 【ザ・チャンバラ】さん [DVD(字幕)] 9点(2006-11-04 03:21:31) (良:2票) |
《改行表示》 6. みんなうるさい。 タイトルがすべてを物語っている映画ですね。 社会全体で見れば当時黒人は白人から差別を受ける側だったのでしょうが、この映画では、差別を受けている側の黒人が実はマジョリティに摩り替わっていることが最大の問題点だと思います。 環境、状況、比率によって誰でも差別される側にもなるし、差別する側にもなることがよくわかる映画。 でも映画としてはまとまりがなく散漫でとにかくうるさい。 メッセージ性のあるドラマなのに、感情移入できる人が一人もいない。 唯一共感できるのはサルぐらいですか。 【たきたて】さん [DVD(字幕)] 2点(2012-04-26 15:47:42) (良:1票) |
5.カメラ目線で、怒鳴り散らす登場人物たちにムカムカ。しかしすげーエネルギーのある映画だ。しかしそのエネルギーが(特に黒人たちが)、自分たちの境遇を黒人だからとか、人のせいにしたり妬んだりしていて、せっかくのエネルギーを無駄に使っている、の一言に尽きている。真面目に働いてきた人々が迷惑を被り、被害者面している者が破壊する。そんなひどいことをしておいて、自分の身内には正しいことをしろとのたまう。しかも作った監督本人が黒人で主人公…、すごくメッセージ性のある映画だった。 【どんぶり侍・剣道5級】さん [DVD(字幕)] 8点(2009-03-31 21:42:36) (良:1票) |
4.《ネタバレ》 「正しいこと」とはいったい何なのか?それはいまだわからない、それがこの映画の結論だと思います。この映画の登場人物たちの行動で目に付いたのは最後に暴動を起こした黒人たちの多くがサルに対して何の恨みも持っておらず、むしろ「俺たちはあのピザで育ったんだぜ」とさえ言っていることです。つまりあの暴動の発端はサルに対する怒りではなく、差別や苦しい生活の現状そのものに対するぶつけどころのない怒りがサルを引き金に爆発したということなんだと思います。それは暴力の矛先が何の罪もない韓国人にまで広がっていく様子からもわかります。サルはこの映画の登場人物の中では善人です。ムーキーに対しても息子同然というほどで、黒人に対する差別的な態度もあまり見受けられません。閉店後に来た黒人客にもピザを出す(そして、これが暴動の原因になっていくというのも興味深いところ)しかし、その関係性がラジオを壊すという一つの行為によって崩壊する。ピザボイコットに反対した若者たちが次の瞬間にサルを襲う。止めに入っていたムーキーが最終的に店を破壊する。破壊された店の中で「権力と闘え」という歌声が響く。しかし、サルは権力ではない。むしろ同じマイノリティの反権力です。結局あの暴動は普段から蓄積していた矛先を知らない怒りが引き起こした発作です。権力とはラヒームを殺した警官たちです。しかし、人々は彼らのことはみすみす見逃す。権力には抗えないからです。「正しいことをしろ」と言った市長とそれを聞いたムーキーが最後にとった行動はまったく別のものでした。それが最後のキング牧師とマルコムXの言葉ともリンクし、さらにそのどちらが「正しいこと」なのか結局は何もわからない。とても考えさせられるラストでした。 |
3.《ネタバレ》 スパイクリーはマルコムを尊敬しているが、私はキングの考え方に近いので相容れない。正直、事なかれ主義で民族意識の希薄な日本人に人種問題は対岸の火事かもしれない。実際、世界に目を向ければ、宗教上の理由も複雑にからみ、人種、民族問題で多くの命が奪われているし、目の前で身内を殺されれば正気を失い、「行動」する人もたくさんいるだろう。だが、「戦いからは憎しみしか生まれない」のキングの言葉を貫くほうが犠牲が少ないと思うし、“先祖の憎しみを晴らす為の戦い”よりも“子孫への愛情を守るための調和”のほうが、はるかに建設的だと思う。タイトルの「Do the right thing」=間違ったことを正す為の行動(暴動)は是と言う意味なら余計に悲しいと思った。アメリカでは人種問題=黒人対白人の構図だけど、黒人からも迫害されているマイノリティだってたくさんいるよ。問題作としての評価。 【小僧】さん 7点(2004-09-22 03:02:42) (良:1票) |
2.90年代のある年、私はアカデミー賞の中継をTVで観ていた。リポーターとして現地に行っていたある日本の俳優が、通行中のアカデミー会員らしき中年の白人男性にインタビューをした。彼がおそらく何気なく言ったであろう言葉に、私は衝撃を受けた。「白人は黒人の映画なんて観ないんですよ」。公正に審査をすべき立場の人間の放った言葉とは思えなかった。今でも忘れられない。アメリカの人種差別というものは根深いどころの話ではない。なんてアンフェアな国なんだ、と気分が悪くなった。この作品も草の根レベルでは熱狂的に支持されつつも、あらゆる映画祭から無視された。アンフェアだ、と各界から声が上がった。そして少なくともこの作品は非常にフェアだ。人種差別を提起しつつ、差別される人間をそれでも全く美化しない。そして黒人だけでなく、イタリア人、韓国人、と被差別側の様々な人種の視点も盛り込んでおり、独りよがりの展開を押し付けていない。メッセージ性をいかにもというように押し付けず、個々の観客にその読解を求め、思考を促す。私も私なりに考えるものはかなりあったのは確か。でも私はアメリカの人種差別の体感温度は分からない。日本にどっぷり浸かっているから。だからこの映画のメッセージなり何なりをきちんと受け取れたかどうかはかなり怪しい。そういう意味で高得点はどうしても付けられない。私の理解、精進を促す意味も込めて、この点。 【ひのと】さん 6点(2004-01-04 13:31:26) (良:1票) |
1.パブリック・エナミーが好きでねぇ~。タイトル曲を監督がチャック.Dに頼んで作ってもらったって言うだけで観に行こうと決めてた。当時は黒人として監督自身が「何かをしなきゃ!」という気迫に満ちていた。(金も自分で集めに廻ったんだしね)アクセ、ファッション、壁の落書き・・・多数に散りばめたメッセージ。キング牧師かマルコムXかと言えば本音はマルコムXなんだろう(?)けど、もう監督自身は言いたい事を言い切っちゃったのかな。日本の若者がヒロシマ/ナガサキを独自のカルチャーにまぶして表現し、そして次世代に伝えていくって風潮は出てきゃしないのを考えてもアンタはエライ。それにしても最近はどうしちゃったんだ?スパイク・リー・・・。もっともっと「ドゥ・ザ・ライト・シング」しろよ! 【シュールなサンタ】さん 7点(2002-10-21 11:40:28) (良:1票) |