《改行表示》 4.《ネタバレ》 松本清張の作品は、私は映画もたくさん見て、小説もたくさん読んだ。小説「砂の器」は、「点と線」「ゼロの焦点」「霧の旗」など彼の代表長編と較べて、決して優れているとは思わないし、どちらかと言うと地味な小説である。 しかし映画「砂の器」は、まちがいなく松本清張の中の一番のできばえではなかろうか。もしかすると日本映画のトップクラスと言っても過言ではないだろう。 映画は、こつこつと捜査の過程を積み重ねていく。そして犯人を追いつめた時、そこで御用でお終いでなく、それからとうとうとなぜ事件が起こったのかを映像と音楽によって流していく。主人公の生い立ちやライ病への偏見、ひどい仕打ちによって諸国を行脚するつらさ・・・。それが日本の美しい風景や四季と相まって情感を盛り上げていく・・・。 また丹波哲郎の捜査状況説明と加藤剛のピアノ演奏を重ねることでさらに盛り上げる。このような手法は、小説では絶対にできないこと、映画ならではである。 この映画はサスペンスやミステリーではなく、人間ドラマなのだと思う。 【ESPERANZA】さん [映画館(邦画)] 9点(2011-02-15 22:34:59) (良:2票) |
《改行表示》 3.《ネタバレ》 省略するところはすっきり省略し、何度もTVドラマ化されて描かれているような、刑事側のつまらん事情やドラマを廃して、映画の四分の一を占める、最後の捜査会議=「宿命」発表会=親子の旅物語に、すべてを賭けたようなすごい構成と演出。これの後に作られた多くのTVドラマ版は、この演出の呪縛から逃れるのが一苦労だ。 この「宿命」を聴いただけで、もう半ば条件反射的に泣いてしまう。それは、この音楽と一体になっている、千代吉と秀夫の苦難の旅と、親子の情愛を思い浮かべるからだ。この、親子の旅と音楽を、見る者の心の中に、一体として刷り込んだ演出方法は、見事というしかない。そして、また今西が言うように、この曲は彼が父親に会う唯一の方法なのだ、という事を自然に観る者に感じさせる演出。 正直、これだけでハンセン氏病をテーマとして描ききれているとは思わない。しかし、物語の本質は、病気周りの問題ではなく、親子の情愛である。殊に加藤嘉さんの、我が子の写真を前にしてなお、それを否定する部分には、涙を禁じ得ない。だからこそ、(原作遺族の意向とはいえ)病気事情を変更してでも、何度もドラマ化されるのだろう。まあ、この映画版の、この演出を超えるものは、まだお目にかかっていないが。 【Tolbie】さん [DVD(邦画)] 9点(2011-09-13 18:40:37) (良:1票) |
《改行表示》 2.《ネタバレ》 う、、、これは大きい。あまりの(精神的)スケール感の大きさに、映画の世界の中に飲み込まれそうになります。 父子の旅の場面では、(偉大な音楽と相まって)日本の四季の美しさ、大自然の雄大さとそこに生きることの厳しさを見ることができました。 この旅風景により日本の美しさを再発見しました。 いや、自分はインドアなもんで「旅」の映画は好きなんです。 本当に偉大な作品の幾つかを見ると、人が生きることの厳しさや大変さが見えてくるようで気が遠くなるのは自分だけでしょうか? また人の一生とはとてもスケールの大きいものだとも思えてきます。 変な言い方ですが、人間は「真の愛」の時だけは「無敵」状態になるのだと思います。 鉄道で父と子が抱き合ったときに、誰がそこに手出しできるでしょうか? 誰がそこに割り込むことが出来るでしょうか? (まったく別の話ですが、ロッキーとエイドリアンが抱き合ったその瞬間に、誰がその間に入れるでしょう?) それはあまりにも完璧な状態であり、周りの低い波長にある精神は、そこにはとても入り込めないのだと思います。 この父と子の関係を見たときに、(親子を超えた)人と人との絆の深さを見た気がしました。 真実に至るまでに気が遠くなるような捜査も、様々な人間模様や人と人との深い絆も、大自然の四季の美しさも、物語中の大きなメッセージ性もあると思いますが、 それと同じくらいに音楽がとてつもなく美しく壮大な感じがして、 それらが相まって物凄いスケール感のある壮大で美しい作品なったのだと思う。 青観さまが言われたように、この作品の音楽は非常に素晴らしく圧巻で、サントラを見つけたら是非とも買いたいと思います。 【ゴシックヘッド】さん [DVD(邦画)] 9点(2010-04-30 03:58:40) (良:1票) |
1. 確かに清張の原作より素晴らしい(御本人も認めてらっしゃるし)。ここまでの傑作となりえたのは、原作でチョロッとしか書かれてない「父子の乞食遍路」をクライマックスに据えた橋本忍(と山田洋次)の脚本の上手さがあればこそ。イヤ、野村芳太郎監督の演出が(カットバックしまくりで)手堅いのも主たる要因だとは思うけど。加藤剛や丹波哲郎、森田健作に島田陽子は別にどうということもないが、緒形拳と加藤嘉の迫力には脱帽!ビジュアル系の若いニーチャンやネーチャンだけ出しても、脇を締める個性的なバイプレーヤーを欠けば、名画の域には容易に達しないコトが如実に証明されていると思う。原作を凌駕した希有な作品に敬意を表して…9点!(-1点の理由?泣かせようってのが見え見えなんで) 【へちょちょ】さん 9点(2003-01-04 06:29:48) (良:1票) |