6.《ネタバレ》 これは原作を見事に映画として消化しきった例。だいたい、あの原作の「○○で殺害を企てる」なんていう設定を無くしただけでも大きな功績です(あんな殺害方法があり得るなら、私などいくつ命があっても足りん)。 とかいうのは別としても、時系列を変化させたり、複数の事象を同時並行で描いたり、(捜査会議、演奏会、回想)映画らしい構成がもたらすダイナミズムと緊張感は無類のものがあります。 前半はひたすら地道な捜査、それに並行してある人物の人となりが、描かれます。コツコツと捜査の足を伸ばし、日本各地に出没する、丹波哲郎。このロケにつぐロケがあればこそ、ついに真相を掴んだときの感慨も、ひとしおとなります。ひたすら鉄道を駆使して、津々浦々。その意味では鉄道映画の側面もあって、あまり関係なさそうな島田陽子ですら、倒れるのは踏切のそば。 映画は、尺を大きく残した段階で真相解明に移りますが、そこでギアを上げて、壮大な親子の苦難へと物語を転じます。しかしここでも、別れのシーンではしっかり、鉄道が登場したりして。 このパートでは、捜査員は語り手、聞き手に徹し、加害者の生い立ちが中心に描かれる一方、被害者の姿もそこでは生身の人間として活き活きと描かれており、映画前半の段階では被害者もまた、伝聞の中に出てくるだけのボンヤリとした存在に過ぎなかったことに気づかされます。 クライマックスで流れる「宿命」という曲、冒頭から本気モード全開で、最初からこれだけ盛り上げたら、一体どうやって音楽を締めくくるんだろう、と少し心配になってきますが、そこは映像と音の饗宴。見事に映画を、締めくくるのでした。 【鱗歌】さん [インターネット(邦画)] 8点(2021-03-28 12:34:55) (良:3票) |
5.《ネタバレ》 いま観終わりました。素晴らしい作品ですね。 日本社会の暗部とでも言うのでしょうか。 この映画では「らい予防法」や日本におけるらい病患者の国家的な囲い込みについて何も描かれていません。 と、言うよりこの映画を作った製作者側が意図的に描かなかった。 1974年当時これを描けば即発禁に成ったでしょう。だからこういう手法を取ったと思われます、
明治以降この法律によってらい病が発覚した者は強制的に隔離所へ隔離され男性は強制断種(去勢) 女性はもし妊娠していた場合強制的に中絶させられました。 これは当時患者保護と国家保全の為の善意であるとされました。
また60年以上も前にハンセン病(らい病)特効薬(プロミン)が発見されて患者を隔離する必要すら無かったのに 日本政府はなんと平成8年(1996年)に到るまでまでこの「らい予防法」を撤廃しなかった。 それは明治以降行われてきた余りにも酷い隔離収容所の実体が戦後明るみに成るのを 厚生省を初めとした政府官僚が恐れたからです。 だから戦前からの患者がほぼ死に絶えてしまった1996年にやっと初めて実体が公に成った。 ですが明治期以降の酷い虐待が行われていた隔離所の具体的な実体については今となってはもう殆ど分かりません。
この映画に出て来る刑事や警察官は実に誠実で正義感に溢れています。 またらい病に苦しむ親子を助けた三木という警察官は非常に親切で面倒見が良い。 しかし裏を返せばこの警察官の善意により諸国を放浪していたらい病患者が囲い込まれ 強制的に惨い隔離所へ送り込まれたのです。 10歳の子供が自ら嘘を言い戸籍を消し生きている父親に会えなかったのはなぜか? 尋ねてきた警察官に別れて以来待ち望んでいた息子を知らないと言わざろえなかったのは何故か?
それは戦後もらい予防法により患者の家族や親類に到るまで調べられもし発病の疑いが有れば 即隔離所へ送られていたからです。らい病の潜伏期間は長い人で数十年に及ぶので患者の家族や親類は回りの人間からはもちろんの事 当局による監視まで有ったそうです。
だから製作者側は殊更に正義の警察官を強調し警察官の行った善意で戦後体制を皮肉った。 映倫の許認可を出す人間はどういう気持ちでこの映画を見たのでしょう。 ともかくそれがこの映画におけるもう1つの真意でも有ります。 【一般人】さん [DVD(吹替)] 8点(2006-04-19 23:52:50) (良:2票) |
4.《ネタバレ》 超久しぶりに再見。やはり大傑作だと思います。かつて原作も読みましたが、この作品は小説より映画のほうが圧倒的にクオリティが高いと思います。(小説における和賀は、超音波で殺人を試みるとかいう、超絶奇人変人として描かれていてドン引きした覚えがあります。) たしかに、前半でたまたま加藤剛と同じ列車に乗り合わせるとか、島田陽子が列車から布片を捨てる様子をたまたま乗り合わせた記者が記事にして、それをたまたま読んだ森田健作が鋭すぎる直感を働かせるとか、「たまたま」が過ぎる場面もあります。 しかし秀逸なのはやはり終盤、「宿命」の叙情的な音楽とともに展開する父子の旅の場面でしょう。日本の美しい四季の風景と、その中で見せられる人間の醜さと、文字どおり掃き溜めに鶴のように現れる緒形拳。そして最終盤にトドメのような加藤嘉の嗚咽。もう涙なしには見られません。これらの場面さえあれば、「たまたま」が多くても、ストーリーが少々強引でも許せる感じがします。結局、主役はあくまでも丹波哲郎ですが、終盤にしか登場しない加藤嘉と緒形拳の印象ばかりが残っています。 とは言うものの、和賀はこれだけ父親の愛情と駐在さんの善意を注がれながら、なぜか冷徹で残忍な大人に成長してしまったわけで。物語としては少々納得しにくいかな。あの純朴な少年はどこへ行ったんだと。 【眉山】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2024-04-27 03:20:41) (良:1票) |
3.暗い過去を背負うため殺人を犯してしまう天才音楽家の宿命を主題とする人間ドラマであり親子の物語である。 捜査が難航し、迷官入りかと思われる殺人事件を二人の刑事が執念で追及する。美しい日本の四季の風景を織り交ぜながら捜査の過程を叙情豊かに描く。特に日本海沿岸の荒涼たる冬の風景が親子の心情と重なり印象深い。 父の難病により故郷を追われ、親子は巡礼に旅立つ。行く先々で迫害され過酷な運命に翻弄される父子の絆・愛の強さが描かれる。その後の離別から息子(和賀)が犯罪を犯すに至る経緯は、宿命から逃れられない親子の姿を映すとともに人間の業の深さが表される。音楽家として名を成し、良家との婚姻を控え前途洋々たる和賀は、ハンセン病の父親の存在を隠すために恩人・三木を殺す。動機として弱いが、差別を受けた者にしかわからない苦悩が和賀を犯行に追い詰めたと考えられよう。 終盤、和賀の指揮によるコンサート会場での演奏シーン。ピアノ協奏曲「宿命」は、まさしく彼の芸術家としての高揚感・まばゆい未来への渇望と、対照的に暗い過去を抱える複雑な内面を表現するものであった。 人権にも関わる深く重いテーマを描き、美しい映像と圧倒的な音楽の力で情緒に訴える手法だが、後味は悪くない。 【風小僧】さん [映画館(邦画)] 8点(2016-01-10 12:46:36) (良:1票) |
2.《ネタバレ》 若い頃に観てもさしたる感動はなかった。ただ、重く暗い人間の人生を真のあたりにしたみたいで、映画館を出た時には、少し沈んでいました。しかし、40才になりDVDを観てみると、おいおい泣いてしまうのです。犯人の持つ宿命からの逃避。その宿命を暴き追い詰める刑事。サスペンスもさることながら、人間の犯したあやまち、汚点となる事柄との対峙の仕方など、見入る場面の多いこと。豪華キャスティングに負けない、名脚本で見せる立派な立派な映画。なんか、今日は思いっきり.打ちのめされたいなあ、の気分の時にぴったりの映画です。(そんな気分になる人がいるのか?果して) 【映画小僧】さん 8点(2004-03-09 12:10:37) (良:1票) |
1.脚色の仕方が非常に上手いです。あえて親子の放浪の旅を最後まで見せないようにして“タメ”を作っているので、終盤の「宿命」を奏でた音楽と共に流れる映像は見る側に感動を与えます。 恩師である三木の殺害にしても具体的な殺しのシーンは一切無く、中盤以降になるまで顔さえ登場しない。これも一種の“タメ”であり、三木とはどんな人物で英良といかに関わりが有ったのかという謎を引っ張っている。観客をラストシーンまで引き込むには打って付けの表現方法だと感じた。 基本的に追い込み型の脚本の組み方をしている作品だと思うのですが、そこに持っていくまでの物語のつなぎ方のスムーズさに感心しました。リメイクしてもこれ以上の出来は絶対に期待できないでしょう。 【おはようジングル】さん 8点(2004-02-02 17:04:04) (良:1票) |