5.《ネタバレ》 『シックス・センス』の特大ホームランの反動からいまだ抜け出せておらず、新作リリースの度に観客や批評家から袋叩きにされるシャマラン。やまない批判に疲れたのか一時は雇われ監督に徹する方向性を模索したものの、『エアベンダー』と『アフターアース』が自前の企画をも超える批判を受けたことからその道も閉ざされ、製作・脚本・監督兼任というセルフ企画に出戻ってまいりました。ただし『レディ・イン・ザ・ウォーター』の15分の1、『アフターアース』の26分の1というローバジェットで製作されており、「要らん期待はなさらぬように!」とのシャマランの声が聞こえてきそうになります。 んで映画の内容ですが、これが抜群に面白く、製作規模を小さくして観客の期待値調整を図ったシャマランの戦略は吉と出たと言えます。そもそもシャマランの構成力や演出力は高いため、監督の能力がハッキリと現れる低予算映画ではその強みが十分に発揮されるのです。スリルとユーモアのバランスのとり方が絶妙であり、飛び上がりそうになるほど怖い場面の後では、全体の緊張感を壊さない程度のユーモアで観客を休ませるという緩急の付け方は名人芸の域に達しています。例えば床下のかくれんぼ。シャレにならん脅かし方で孫をドン引きさせたおばあちゃんが、「はっはっはっ、冗談よ冗談」なんて言っていつもの優しい表情に戻るのですが、後ろ姿を見ると半ケツ丸出しでまったくもって普通の状態ではないという、死ぬほど怖いんだけど笑うしかない演出は本当に見事なものでした。 もうひとつ特筆すべきは、明らかに異常なんだけど、場のメンバーが「良い祖父母と孫」を演じ続けることで辛うじて維持されている秩序がどこかで崩壊するのではないかという緩やかな恐怖が見事に演出されているという点です。かつてヒッチコックは、サプライズよりもサスペンスを重視するという旨の発言をしましたが、ヒッチコックを尊敬するシャマランもまた、異常者が暴れ回るというサプライズよりも、いつ異常者が本性を現すか分からないというサスペンスを作品の中心に置いているのです。結果、何気ない日常の光景にも緊張感が生まれ、観客は物語にグイグイと引き込まれることとなります。 一世を風靡したシャマランのどんでん返しも本作では健在です。ネタを明かされると「そりゃそうだよね」としかならないのですが、姉弟の母親と祖父母の間に普通ではないわだかまりがある様子であり、姉弟が彼らの秘密を探ろうとするという展開を入れることで、見事に真相を隠しているのです。観客をミスリードする技術についても、シャマランの腕前は鈍っていないようです。 【ザ・チャンバラ】さん [インターネット(字幕)] 7点(2016-09-12 21:35:45) (良:2票) |
4.とても奇妙な映画だった。 「微妙」と「絶妙」の狭間に存在する一線をひたすらに渡らされるような、とても意地悪な映画だったとも言える。 渡りきったその先でしばし立ち尽くしつつ、「ああ、シャマラン映画ってこういうのだったな」と思い出す。
果たして、僕はこの映画が面白かったのか、つまらなかったのか。 それすらも釈然としないまま、寝床に入り、ふと昔を思い出した。
幼いころ、妹と一緒に母方の祖父母の家によく泊まりに行った。 こう言うと、母は気を悪くするだろうが、今思い返してみると、その祖父母の家はとても粗末で随分と古かった。 頻繁に泊まりに行っていたが、それは自分たちが望んで行っていたのか、母の何かしらの都合であずけられていたのか、いまいちよく思い出せない。 小さな家だったが、幼い僕にとっては何だか踏み込みづらい領域がいくつかあって、好奇心と一抹の恐怖感を同時に感じていた記憶がある。
居間の奥の部屋はいつも戸が閉まっていて禁断区域のような雰囲気があった。 祖父が陣取る座椅子の後ろのふすまの中には戦艦のプラモデルが隠してあった。 寝室は古いマットレスが部屋いっぱいに敷かれていて窓がなく一日中暗かった。 トイレは汲み取り式でしょっちゅう腹痛になる僕には殊更苦痛だった。
祖父母は優しくて、好きだった。 たぶん、当時は自分たちが率先して泊まりに行っていたのだろう。 けれど、今記憶に残るあの家に一晩泊まれるかというと、正直きつい。
この映画は、奇怪な言動を見せる祖父母の家に迷い込んだ“ヘンゼルとグレーテル”の一週間を恐怖感たっぷりに描き出しているけれど、真に伝えたい事は彼らの恐怖体験そのものではなくて、姉と弟それぞれが抱えた記憶と精神との葛藤だった。 白く暗い雪の中で織りなされる不安と恐怖の連続。 こうなのかな?と想像した展開が、この監督独特の意地悪なミスリードによってはぐらかされていく。 そして、本当に対面しなければならない事象に知らず知らずのうちに導かれていくのだった。
結局のところ、面白い映画だったのかどうか、よくわからない。 ただし、独特の毒々しい味わいがじわりじわりと脳裏に染み渡ってくる。 作品としての好き嫌いは別にして、M・ナイト・シャマランの映画はこうでないと。 【鉄腕麗人】さん [DVD(字幕)] 8点(2016-04-30 00:42:05) (良:2票) |
3.《ネタバレ》 観たつもりになっていたのに観ていなかったシャマラン作品。観ていなかったのは不覚。今回観て良かった。
ひとことでシンプルに言えば「まさにシャマラン」、これは見事でした。冒頭からのPOV風表現(あくまでも「風」であってPOVとも言い難い気が)で方向性を見定め切れずにいると唐突に始まる本題。祖父母の振る舞いはどう考えても尋常じゃないし、徐々に浮かび上がって来る精神疾患或いはパーソナリティ障害の様相。不安定極まりないながらギリギリのバランスの中で成立している祖父母と孫の期間限定の安息。そのギリギリのバランスを壊そうかとでもするが如く作り手自らが投げつける石礫。微に入り細に入り巧妙に仕組まれた細工には(好き嫌いは間違いなくあるにせよ)すっかり没入。いやいやホントに久々のスマッシュヒットかなと。
結果として、とんでもなくアンハッピーな巻き込まれさんは居はするものの、概ねハッピーエンド。トラウマを払拭出来た者もいれば、将来に向けての不安材料を消し去れた者もいる。ここまであっけらかんとハッピーエンディングにされてしまうと、その部分もまた恐れ入りました感に包まれてしまう。うん、楽しかった。まだまだこの監督さんには期待し続けたいと再確認した次第です。(裏切られることも相当あるでしょうが) 【タコ太(ぺいぺい)】さん [インターネット(字幕)] 8点(2025-01-22 23:51:51) (良:1票) |
2.《ネタバレ》 “The Visit”『滞在』 夜中に吐きながら歩き回るお婆さん。『夜9:30を過ぎたら大人しく寝なきゃダメ!』なんて前フリが活きているから、次の晩はどんな怖いものを観せてくれるんだろう?なんて期待してしまうし、その期待にしっかり応えてくれたお婆さん…じゃなくて映画でした。 床下の鬼ごっこ。初見時は怖さ満点だったけど、何回か観ていると、とてもお茶目なイタズラ好きのお婆さんに観えてきます。ほのぼのした次の瞬間に驚きを残すの、巧いよなぁ。老婆+お尻丸出しなんて組み合わせ、凡人には思い付かない、シャマランの持ち味全開に思えました。
シャマラン作品らしく後半に仕掛けがありますが、本作はこの仕掛けから逆算して組み立てられた作品のように思います。このネット社会で、お互い顔も知らない状況にしていますが、結構自然だったと思います。パソコンのカメラは壊しても、ビデオ撮影はOKだから、気が付きにくい風にしています。仕掛けが解っている2回目も(仮に途中で仕掛けに気が付いても)、それはそれで観方が変わって楽しめました。 祖父母と孫の初めての交流。日中の穏やかな時間が、観方を変えると、孫たちをもてなそうと精一杯頑張る祖父母に観えて健気です。日中にも徐々に顔を出してしまう異常行動。祖母は本当の娘をシンモフィテリア星に送ってしまった=カバンに詰めて井戸に沈めて溺死させているので、正常なときに娘のことを聞かれると壊れます。ベッカはその反応を15年前の母への気持ちと勘違いしてます。それでも、何とか一週間、良い祖父母を演じようとしています。孫たちも、徐々に異常に気がついていても、出されたご飯やお菓子をペロリと食べてるのが可愛い。
この老夫婦の目的は、4人でシンモフィテリアに行く(井戸で心中する)ことのようです。そのため、祖父母は地下に隠していたけど、ステイシー(訪ねてきた知り合いの女性)はブラブラさせていたんですね。 孫たちと心温まる完璧な一週間を過ごしたのは、正常時の妻クレアのトラウマを克服させるためだったんでしょう。 登場人物全員がトラウマを抱えているようです。祖父にしても、恐らく工場で白いものが見えてクビになって仮装パーティに行けなかったとかでしょうか? 終盤に姉弟が自分の力でトラウマを克服するのも一本の映画として上手いと思います。映画の最後にあれほど悩んでいた父の映像を入れ、更に賛否両論(?)の『弟が ぜひにと言うので』がサイコーでした。鏡を見てメイクできるベッカと、おむつの汚さと死の恐怖を歌えるタイラー。結論として弟くんカワイイ。
もう監督=M・ナイト・シャマランというだけで、ある意味見る前から“最後にオチがある”ってネタバレしています。そんなレッテルを貼られているので、観る前からオチを見破ろうと予想しながら観るし、そのオチが期待以上だったか以下かで、評価されている部分が強いのかなと思います。 でも、本作の老婆の裂けたズボンとか、想像したこともない映像を観せてくれて、原作ものやリメイクものが多い中、オリジナル作品で勝負していて、近年どんどん長くなっている上映時間も短くスパッとまとめられる。作品にムラはありますが、もっと評価されて良い監督だと思います。なので点数ちょっと甘め。 【K&K】さん [DVD(字幕)] 8点(2024-08-31 16:11:40) (良:1票) |
1.《ネタバレ》 シャマラン好きなら観て損のない出来。 「パラノーマルアクティビィ」等で流行った家庭用ビデオによる映像を取り入れており、もう今更感満載なのだが、そんなの気にせずに物語はこの手の映画でお約束の王道的展開を突き進む。 最初ははしゃいで撮っていた映像が、段々と恐怖に変わって行く演出はかなり怖い。 オチが分かったあとは、もう止めてくれと叫ばずにいられなくなるだろう。 しかし、シャマラン映画のオチはここで終わりではなかった・・・全く想像の斜め上を行くものであった。
【ここからネタバレ】 一件落着と見せかけて、エンドロールでの怒涛の展開。まさか最後に笑わせにくるとは!さすがシャマラン映画!絶好調じゃないか。 【ヴレア】さん [DVD(字幕)] 7点(2016-06-10 18:03:52) (良:1票) |