《改行表示》 8.「後悔先に立たず」とは言うけれど、何かが起きて、すぐさま後悔できたのなら、それはまだ健全で幸福なことなのかもしれない。 後悔すらもすぐにできなくて、永い時間と、永い言い訳を要する。人間の人生なんてものは、往々にして無様で、愚かだ。 そんな“愚かさ”を肯定するつもりはないけれど、その有様を、辛辣に、そして優しく描き出したこの映画は、間違いなく傑作だと思えた。 主人公の男(本木雅弘)は、“自己憐憫”をこじらせ抜いており、ファーストシーンから只々“言い訳がましい”。 その男の髪の毛を、慣れた手付きでカットする美容師の妻(深津絵里)。 彼女の表情は、呆れているようにも、嘆いているようにも、嫌気が差しているようにも見えるし、それでもこの駄目な男のことを愛しているようにも見えなくはない。 妻は手早くカットを済ませ、親友とのバス旅行に出かける。その一方で、夫は不倫相手を家に呼び寄せる。 そして、ふと悲劇が起きる。 冒頭のその一連のシーンを観るにつけ、この映画が良作であろうこと明らかだった。 西川美和の監督作を観るのは、「夢売るふたり」を観て以来7年ぶりだったが、彼女の作品世界が益々成熟していることは明白で、「これは覚悟して観なければ」と姿勢を正した。 とはいえ、描き出されるストーリーラインは有り触れたものであり、主人公をはじめ登場人物たちの造形も、極めて類型的なものだと言えよう。 有り触れたストーリーに、類型的な人物描写、だからこそ紡ぎ出される感情の“容赦無さ”が殊更に突き刺さる。 本木雅弘演じる主人公の「行為」は勿論擁護できないし、妻の死後に訪れた“父子”との出会いによる“輝いているような”日々も、彼の自己憐憫の延長線上の「逃避」であることは否定できない。(池松壮亮演じるマネージャーは尖すぎるぞ……) けれど、自己憐憫であれ、逃避であれ、その時間が、誰かの救いとなり、何かしらの“気づき”に至らしめたことも明白な事実だ。 ひどく痛々しくて、極めて愚かしいけれど、そういうことも含めて「生きる」ということだということは、この世界の誰しもが否定できないことだろう。 僕自身、主人公の人間性を肯定できないと言いつつも、バッサリと断罪することもできず、どこか彼の心情に寄り添ってしまうのは、他ならぬ自分自身が、弱く、愚かな男の一人であることの証明だ。 そんな一鑑賞者の“男”の心情にまで踏み込み、掻き乱し、より一層に背筋を正させるこの監督の「視線」は、つくづく“厳しい慈愛”に満ち溢れている。 西川美和監督の力量もさることながら、出演する俳優陣が、みな素晴らしい。 主演の本木雅弘は、各シーンにおいて「ああ、これは駄目な男(人間)だ」と観る者に確信させる絶妙な表情を見せつけ、主人公の心の機微を表現しきっている。 主人公と同じく、男やもめとなった父親を演じた竹原ピストルは、独特な風貌とフレッシュな間合いで、主人公と正反対のキャラクターを好演していた。 黒木華、池松壮亮、山田真歩ら脇を固める俳優陣、そしてストーリーの核となる幼い兄妹を演じた子役たちにも、隙が無かった。 そして、夫役である本木雅弘とはほぼワンシーンの共演ながら、その短い出演時間で、全編通して“妻”の存在感を保ち続けた深津絵里も無論素晴らしかった。 命を落とした妻の映像的な描写は、その後のシークエンスにおいて回想シーンすら挟まれず、主人公の想像上のワンシーンとラストの写真のみの登場に留められている。 それでも、彼女は夫の心に居続け、後悔すらもできなかった男の心情に「風穴」を開ける。 すべてを見通していたのだろう妻の“未送信メール”を目の当たりにして、それでも彼女は夫を愛していた………なんて思いたいのはやまやまだけれど、そんなものは情けない男の“エゴ”に過ぎない。 “永い言い訳”を言い終えた夫は、出かける妻に言われたとおり、粛々と「後片付け」をしながら、気がつくのが遅すぎた「愛」を只々悔やむのだ。 【鉄腕麗人】さん [インターネット(邦画)] 9点(2020-03-07 23:56:16) (良:2票) |
7.《ネタバレ》 夫が浮気中に妻が事故で死ぬとゆう設定を聞いて、生き地獄のように苦悩する映画かなって思って鑑賞したら、全然違う展開やん。ビックリしました。育児を手伝うって、しかも、ちょっとホノボノしてるし。でも途中までちょっとドキドキはしてました。主人公が結構、ひねくれてたので、どこかで、もっとひどい事になるんじゃないのかとか、竹原ピストルがどっかで爆発するんじゃないのかとか、したら、主人公は意外に物事がわかってる奴やん。自分のダメなとことか、突然、家族を失った心境の子供とか。そんな子供と主人公の交流を観てると、自然と涙がポロリ。別に悲しいシーンじゃなく、モックンが子供と楽しく交流してても涙がポロポロ。ホノボノしてるのに、なんか泣ける、なんでやろう。そんなこんなで、あっという間に映画を見終えてしましいました。ちなみに、主人公がエゴサーチする時の検索ワードは思わず吹いてしまいました。笑えて泣けたので満足。 【なにわ君】さん [インターネット(邦画)] 10点(2022-04-07 10:21:01) (良:1票) |
《改行表示》 6.《ネタバレ》 主人公は、妻がバス事故で亡くなった時に浮気をしており、妻との関係を放棄してきた罪滅ぼしとして? 一緒に亡くなった妻の友人の家族と親睦を深める。最初から終わりまで、引き込まめる人間ドラマに仕上がっている。 竹原ピストルがピッタリの役どころで好演、二人の子役もいい、もちろんモッくんも。 西原美和は、原作、脚本、監督といい仕事をしている。是枝監督とこの人はいつも新作が気になる監督さんです。 【とれびやん】さん [インターネット(邦画)] 7点(2021-03-04 23:29:49) (良:1票) |
《改行表示》 5.西川美和監督のファンになりました。 いい作品だとすぐに感じた作品は久しぶりでした、余韻にも長く浸れています。 悲しい物語ですが、日常から一気に非日常に移るところなど、むしろそれが現実的でした。 子供たちの演技もすばらしい、胸のひだの奥まで感情がしみて行きます。 本木さんはじめやっぱりいい演者さんたちですね、他の作品やこれからの作品も楽しみです。 【HRM36】さん [インターネット(邦画)] 9点(2020-11-16 08:45:28) (良:1票) |
《改行表示》 4.《ネタバレ》 大人の前では子供だが、子供の前だと大人に為れる男の話。とは言え、子供を持つと大人に為れるという事自体は結構普遍的なことかも知れない(子供に絶対的に頼られることで、人として成長できるから)。そもそも大人に為るとは、大人としての常識・能力を身に付けることの他に、大人でない子供(本当に「子供」とは限らない)に対し優越感を持って接することが出来るようになることではないかと思う。その意味では、子供(これはホントの自分の子供)をつくり、その子供に対する絶対的な優越感を得ることで自分が大人になったと「錯覚」するのは、それはそれで大きな勘違いであるのかも知れない。池松壮亮の言ってることは中々に深いと思う(やや意識高い系な感じだが)。 だが主人公は、(成り行きでそうなったのだが)大人として子供(他者)と関わることで、人生で真に価値が有るのは「他者を所有する(代わりに自分を他者と共有する)こと」だと悟る。悟るというか、薄々自覚してはいたのだろう。愛してないのに、愛されないと気が済まない自分が、人として極めて未熟であることに。だから本能的に自分から他者に介入したのではないかと思う。 テーマは普遍的で実は単純であるようにも思うが、いわゆる文芸映画であり映画の中身・質感自体は至極文学的。にも関わらず、(私見ではあるが)比較的明解で分かり易い映画に仕上がったのは、原作者がそのまま監督なのも要因だろうが、一重に本木雅弘の良質な演技がキモなのは言うを待たない。あと、見た目ヤバそうなんだけど、その実非常に「いい奴」な竹原ピストルの醸し出す雰囲気も面白い(彼が本木雅弘よりも実は「大人」であることが(そういう雰囲気をここぞの場面で醸せることが)、本作においては非常に重要なのだ)。 【Yuki2Invy】さん [映画館(邦画)] 7点(2019-11-27 22:46:46) (良:1票) |
3.やはりスマホには持ち主が死んだと同時に爆発する機能があってほしいですね。 【ケンジ】さん [インターネット(邦画)] 7点(2019-09-08 22:11:24) (笑:1票) |
《改行表示》 2.この監督らしく、男の心理描写が絶妙。妻の死となかなか向き合えない様がよく描かれている。 ただ、原作と違い、映画では生前の妻とのシーンが少ないため、本当に妻の死に興味がないのかと誤解してしまいかねないのが難点。 【アクアマリン】さん [ブルーレイ(字幕)] 7点(2019-03-10 19:53:02) (良:1票) |
《改行表示》 1.この監督らしい変化球の効いた作風ではなく、直球勝負な仕上がりになっていて、趣向の変化に戸惑いつつも楽しむことができた。今作もまた、人間の抱える闇の部分にスポットを当てており、観ているこちらの内面を剥き出しにされた。自分の醜いDNAを持った子供を持つのが怖い。子供と接すると自分の醜い部分を帳消しにできた気がする。多少言い回しは違うかもしれませんが、これらは私自身にも当てはまり、ほんとうにこれは女性の監督が作ったのか?と疑わしくなるほど男性の心理を的確に表していた。凄い人です、ほんとうに。 竹原ピストルさん。いやぁ~なかなかどうして、いい味出しまくりです。子役の二人も非常にいい!特に妹役の白鳥玉季ちゃんは恐ろしい程ナチュラルで、演技とは思えないほど自然体でした。将来が楽しみです。 上映時間が2時間30分近くあると知って正直長いな~と思った。ところがどっこい!あっという間にエンディングで、むしろ全然足りない!もっともっと観せて~!て逆に短く感じてしまいました。それほどまでに作品の世界にハマってしまったということです。 ただ個人的には変化球の効いた作風の方が好みではあるので、点数は7点で。 |