5.《ネタバレ》 画面が暗くなり、エンドロールが始まったとき、「嘘だろ?」と呟きそうになった。ここで終わるのか、と驚いたのだ。 自宅に帰ったサリーが涙を流す奥さんを抱擁したり、公聴会の日から数ヵ月後にサリーがパイロットとして再び旅客機に搭乗するようなシーンを期待していた。 自分がハリウッド映画に毒されてしまった結果とは言えど、まだ続きがあると思っていた矢先に突然訪れたエンディングには物足りなさを感じた。
しかし!本作のエンドロールにはちょっとしたサプライズがある。 “サリー”ことサレンバーガー機長と妻のローリーさん、そして、あの日、USエアウェイズ1549便に乗っていた人々が登場するのだ。 そこで僕はハッと思い出した。「そうか、これは実話だったのだ」と。 失われるかもしれなかった多くの命がそこにあること。その事実を本当の意味で思い出したのだ。 実話モノにありがちな、感動を押し売りするシーンなんてこの映画に必要なかったということに、そこで気が付いたのである。 顔も名前も知らない人たちだけど、彼らが生きていることに素直に「良かったー!」と思えた。
ベテランパイロットの豊富な経験による英断を称える映画であると同時に、「生きている」ということを祝福する映画でもあると思った。
本作の原題は“Sully”だが、公聴会の場面でサレンバーガー機長は、自分一人が155もの命を救ったのではないと述べる。 映画の中では、「頭を下げて!姿勢は低く!」と連呼し続ける客室乗務員の声や、高ぶる感情を抑えながら1549便に着陸地点の選択肢を与え続ける航空管制官の声が何度か聞かれ、印象に残る。
飛行機に乗っていた人間の、そして、乗っていなかった人間の、『死を回避したい』という意志が、“ハドソン川の奇跡”を引き寄せたのだ。 【Y-300】さん [映画館(字幕)] 7点(2016-09-29 19:51:30) (良:3票) |
4.実際にあったことをかなり忠実に再現しつつ、それなりに物語性、ドラマ性を入れ込んでいて、よくできている。
この手の実話ものの映画は見終わった後に実際の出来事はどうだったかネットで調べるのがお楽しみなのだが、調べてみてわかったのが、かなり事実通りにやってることだった。 ほとんどドキュメンタリーのレベル。 特に、エンジン停止から着水までのコックピットでの会話は、実際のフライトレコーダーの記録をほぼそのまま再現している。 エンタメ映画でここまで再現にこだわったのは評価したい。
しかし、さすがに事実通りにやりすぎると話として面白みに欠けるので、すこしフィクションをねじ込んである。 実際にはパイロットが判断ミスの疑惑をかけられることはなかったのだが、作品では、判断ミスを疑われ、主人公は苦悩することになり、ここがこの作品の一つのキモになってくる。 そして、これまた実際にはそんなことはなかったのだが、事故を調査する安全委員会の人間をいかにも嫌なヤツに描くことで、一種の「悪役」に仕立て上げる。 こうしたお膳立てを作ることで、最後に機長の判断が正しかったと証明されるどんでん返しが生まれるし、 嫌な調査局の人間をやり込めることで観客はスカッとした気分が味わえる。物語に起承転結とドラマ性が生まれる。 なかなか、うまく考えている。 ただ、実際にはこの映画の公開にあたって、悪役に仕立てられた安全委員会からクレームがあったという。まあ、さすがにそうだろう。
内容としては割とアメリカ万歳系の作り。 最後の最後で、当事者の実際の写真を出して後日譚を語るのは、アメリカ万歳系史実映画のお決まり。 この映画の直前に作られた同じくクリントイーストウッドのアメリカ万歳映画も、くしくも全く同じ終わり方だった。 【椎名みかん】さん [インターネット(吹替)] 7点(2022-03-31 08:25:19) (良:1票) |
3.《ネタバレ》 すっかり枯れていぶし銀の風格となったイーストウッドとトム・ハンクス、これが初めてのタッグなんですね。考えるにアメリカほどヒーローに拘る国はないでしょう。そして、さんざんヒーローを演じてきたイーストウッドが、21世紀の世の中で英雄とはどういう人間なのか、また彼はどうして英雄になったのか、ということを問いかけています。 映像には素晴らしい迫真力があり、まるでニュース映像を観ているような錯覚さえ覚えます。こうやって観ると、ご老体の割にイーストウッドはCGの使い方がびっくりするほど上手い映画作家だといえます。また余計に話しを膨らませないシンプル極まりないストーリーテリングも、尺の短さもあって心地よいです。トム・ハンクスが機長ならどんな状況であっても乗客は助かりそうな安心感がありますが、結論の判っている有名な実話なのでこの撮り方が正解なんですよ。救助に駆け付ける人々の映像に感じる温かい視線も、ハリウッド保守の重鎮であるイーストウッドらしいかと感じました。まあそこは、救助隊が転覆しつつある客船を一時間以上もただ眺めていたどこかの国では、ぜったい撮れない映画だとは言えるでしょう。 【S&S】さん [CS・衛星(字幕)] 7点(2017-11-24 23:02:25) (良:1票) |
2.《ネタバレ》 一言で言えば無難だ。
回想と妄想が物語を多層化させることでより良くなるというよりは、 実際の出来事の短さを物語として成立させる為の無難な肉付というところもあり、 簡潔さの申し子とも言えるであろうイーストウッドらしくないとも感じる。 その一方でランタイムが100分をきっているという事実もある。
別にシナリオが悪いわけではない。無難だが寧ろ面白い。 墜ちないでくれと思わせる現実と墜ちてしまえと思わせるシュミレーションを、 時間差で観客に叩きつけてくるわけだ。何たる語りの構造。 ただしかしイーストウッドが撮る為のシナリオに感じない。
乳飲児を預る隣席の男の慎ましさ、親父と息子の電話での会話に迸る熱量、 この映画を締めくくる副操縦士の一言など、細部にこそ映画の良さは宿るが、 エンドクレジットを見ればわかる通り事実の延長線上でしかないと感じざるを得ない。 無論、イーストウッドにそんなものは求めてない。
角張った石も転がり続ければ丸くなってしまうということだろうか。 あと最近、ステディショットが多過ぎるのではないかと危惧している。 これは撮影上の効率化なのか、芝居を撮ることを優先する為なのか。 【すぺるま】さん [映画館(字幕)] 7点(2016-09-26 22:39:19) (良:1票) |
1.《ネタバレ》 救われない映画を作ってきたイーストウッドが救われる映画を作った。
ありがとうイーストウッド。そして、人の力って素晴らしい! |