《改行表示》 5.《ネタバレ》 久しぶりに良い映画を観た。 目が潤んだよ。 2009年1月、鳥の群れにぶつかり両方のエンジンが止まり、空港に引き返す余裕もなく極寒のハドソン川に着水した航空機。 乗員乗客155人、一人も失うことがなかった。 当時その機長がヒーローとして話題を集めたのは覚えているがその裏でこんなドラマが展開されていたのは知らなかった。 この機長、只者ではい。 伊達に40数年飛んでいたわけではない。 原題はSully(サリー)。 これは機長の名前サレンバーガーから取った彼のニックネームだ。 確かに彼が主人公で、彼の冷静沈着な行動が大惨事を防いだ。 でもそれだけではない。 映画でもはっきり言っているがこの事故に関わることになった全ての人たちの正しい行動がこのすばらしい結果をもたらしたのだ。 機長同様、冷静に行動した副機長、危機に対して取り乱さずに乗客を誘導した乗務員、そして脱出の際にパニックを起こさずに行動した全ての乗客、現場にすぐに駆けつけて救助に当たった船の乗組員、レスキュー隊員たち。 これら全ての人たちの英雄的行動を称える映画だ。 だからこの味気ない邦題が残念だ。 なぜそのままサリーと出来ないのだ。 サリーじゃ何の映画か分からないって? アメリカだって同じだよ。 Sullyって題名だけで内容が分かる人なんてそうそういない。 せっかくの映画の品位が台無しのつまらない邦題だと思う。 それにしてもクリントイーストウッド監督。 良い仕事するね。 主演のトムハンクスも良かった。 【称えよ鉄兜】さん [映画館(字幕なし「原語」)] 9点(2016-09-21 10:26:05) (良:3票) |
4.《ネタバレ》 これは素晴らしい。最近はアメリカ超近代史実の映画化が続いているイーストウッド監督だが、恐らく監督は今、フィクションよりもこういった実際に起こった事実の表裏をより観客に伝えたいという気概が強いのだろう。とかく上映時間が長くなりがちな昨今の映画に於いて、1時間40分程にまとめているのが凄いし、それほどこの映画は言いたい事がはっきりしている。人的要因を排除し、機長らを弾糾しようとするNTSBは丁度同時期(2007〜2008年)にリーマンショックを発生させた米金融界とダブるものがある。金融工学を駆使しサブプライムローンを売りまくった事が発端となったあの事件も、机上の計算だけが先走りした結果引き起こされたものだったと思うが、そういった「頭でっかち」になりがちなアメリカンエリート(頭が良すぎて、一番大切な何かを見落とす)の欠点もついているようだ。さて本作は機長らの仕事を全うしようとする姿も感動的だが、NY waterwayの人々や、普段メジャーリーグの話をしているようなレスキューのお兄さん達が、救助する時に一気にスイッチが入る瞬間など救助に関わった人々の姿も印象的に描かれる。見終わった後に心に優しい灯りがぽっとともるような本作、普段はエンドロールを最後まで観ずに退席される方も、これはエンドロールの最後まで観た方が良いだろう。(最後の最後で泣かされた。) 【rain on me】さん [映画館(字幕)] 9点(2016-09-25 12:43:09) (良:2票) |
《改行表示》 3.《ネタバレ》 空を飛ぶ…いや“降下”してくる旅客機。 機内で必死に機器を操作し、声を掛け合い、見つめ、コンクリートジャングルの中に飛び込み爆炎に包まれ、黒いシルエットが起き上がり、朝日が疲れ切った瞳を映し出す。 男は夢の中の「もしも」に苛まれていたが、これから現実の世界で「もしも」について悩み向き合っていくことになる。 こんな恐ろしい始まり方だ。さぞかし切なくなるような、やるせない気持ちになるような映画をまたイーストウッドが撮りやがった(褒め言葉)に違いないと思いながら見ていくと、それは俺の勘違いだったようだ。 何せ飛び交う万の言葉とともに“奇跡”を成し遂げたすべての人々の行動を映し、優しく讃えてくれるようなアクションの映画だったのだから。 短いカットを交互にバシバシ挿入し、“あの日”以前/以後の人々の動向、離陸までのシークエンスを積み重ね、突然現れつぶてのように飛来する鳥の群れ、決断を迫られるパイロットたち、指示を出す管制室、押し寄せる水流の中で血を流すような怪我を押してまで避難を促し続ける客室乗務員、パニックになり恐怖に震えながらも隣人への思いやりを忘れない搭乗客、冷たいハドソン川に駆けつけ救命胴衣を投げまくり川の中から抱きかかえ防寒着をグルグルかけ帽子までくれた救助隊や警官たち、帰りを待つ家族たち、事故直後から何回もシュミレーションを行ってくれた同業者たち…様々な視点から“あの日”の真相に迫っていく。 それは粗探しのためではなくサリーたちの努力を証明するために。酒場のマスターや飲み客たちも、タクシーの運転手も、疑問を投げかけるニュースキャスターたちも手のひら返しを喰らわせるどころかサリーに“ヒント”すら与えてくれる。 そして、サリーはそんな人々の行動に刺激を受け、一人の仕事人として、一人の人間として誇りをかけて“あの日”との決着を付けに行くのだ。 若い頃から師や仕事仲間といった“命”を乗せて様々な飛行機を操縦してきたサリー。1人だろうが155人だろうが変わらない“重さ”の命を。 機が着陸しても沈みそうなら沈む前に最後まで機内を見回り、降りてもしばらく観察を続け、仕事が終わっても制服を中々脱げないくらい打ち込み、何処かへ走り出さずにはいられない根っからの仕事人。いざ休もうとしてもマスコミが押しかけ取り囲まれ、TVを付ければどのチャンネルでも同じ話題で持ちきり、公聴会ですら録音を聞かされ“あの日”に引き戻される。そりゃあ何も聞こえない場所まで走りたくもなりますよ。 でも彼は走ることをやめニュースに耳を傾け、もう一度立ち向かうことを選ぶ。 そこには、計算に計算を重ねた機械以上に精密かつ力強く動き、限界に挑み超えていける人間の姿がある。 それは“あの日”に関わった人々へのエールだけでなく、イーストウッドが尊敬するハワード・ホークスやウィリアム・A・ウェルマンといった飛行機乗りだった映画監督たちへの思いも込められているのではないだろうか。人間の可能性を見つめ続けた先人たちへの。 エンドロールまで讃えに讃えまくって笑顔で締めくくるのだから、まったくまいっちまうよ。 【すかあふえいす】さん [映画館(字幕)] 9点(2016-11-08 00:28:41) (良:1票) |
《改行表示》 2.《ネタバレ》 「このニューヨークで、飛行機が絡む事件で久々にいいニュースを聞いたよ。」という関係者の台詞。 そして何度か挿入される、飛行機がNYのビル群に衝突する機長の悪夢。 アメリカ市民の心から消え去るこの無い9.11を思い出さざるを得ませんでした。 感動をあおるような演出や音楽はかなり控え目で淡々とハドソン川の奇跡を振り返る。 しかし作品のために本物のエアバス機を購入し、撮影に使われたボートも実際に救出に使われたものが使用されたという。 当時を忠実に再現した、空からはヘリが、沿岸からは船が救出に向かう迫力ある描写や、 これも控え目に挿入される、救出される乗客のドラマも印象に残ります。 近年のイーストウッドはまだそんなに遠くない過去のアメリカや、実在した人物を数多く取り上げていますが、 本作では勇気ある決断を下し英雄となった機長、副機長以外にも、乗務員、乗客、救出に向かった人々など、 ハドソン川の奇跡に関わった、全ての実在する名も無き人々をたたえる。 今回の修羅場を実際に経験した現場の叩き上げの2人に対し、机上の計算を基に査問する最後の公聴会。 その顛末も、副機長のユーモアも、ラストは実に気持ちがいい。 本作はエンドロールが始まってもすぐに席を立たないでください。 当時の実際の映像と、ハドソン川の奇跡に関わった人々の姿が感動的です。 【とらや】さん [映画館(字幕)] 9点(2016-09-28 15:32:34) (良:1票) |
《改行表示》 1.《ネタバレ》 2回の墜落イメージは貿易センタービルにぶつかった2機を表しているのでしょう。9.11を背負った映画である事に間違いはありません。ニューヨークの深い傷。これは新たな傷をつけないように努力した人々の物語。 余計なアクセントを差し込まない、事故のリアルで生々しい描写は、その結末が判っていても恐ろしい臨場感を持って迫ってきます。その短い間の、震え上がるような恐怖と、そこに居合わせた人々の生。それぞれがそれぞれの役割を果たす事で成し遂げられた奇跡。 クライマックスのシミュレーターこそは逆にその奇跡の後押しをする事になる、コンピューターには人的要因は理解できない、のだけれどコンピューターが人の価値を立証してみせた訳です。さんざん最新のVFXによる墜落映像を見せておきながら、肝心のクライマックスではシミュレーターのショボいCG画面が主役になるという構図が面白く。イーストウッド主演の『人生の特等席』では前時代的なコンピューターVS人間の図式を単細胞的に描いていてゲンナリしたものですが、イーストウッド本人は必ずしもソレを頭ごなしに否定せず面白く使いこなしている感じがします。 トム・ハンクスが良いです。昔からのオーバーアクト(いまだに『ビッグ』での少年が大人になってしまったパニック演技がチラついてしまうっていう)が抑えられる事で、プロとして事に冷静に対処する強さと、9.11を自らが再現してしまいかねなかった恐怖に苛まされる弱さと、英雄として持て囃される事に対する戸惑いとを1つのモノにしていて。機内に残された乗客がいない事を確認する姿は、決して英雄的ではなく、必要な仕事をこなしてゆく男の姿でした。 余分な贅肉のない、簡潔にして濃密な96分、齢86にしてイーストウッドはなお軽妙洒脱に映画を駆けてます。 【あにやん🌈】さん [映画館(字幕)] 9点(2016-09-26 22:20:44) (良:1票) |