《改行表示》 4.《ネタバレ》 今は本が読めない体だが、かつては日常の謎系ミステリというのが好きだった。北村薫全盛の頃。どうやらこの話はそういったモノらしい。序盤に青年が持ち込んだ本に秘められた謎を示すところなどは、(ホームズの来客への推理のように)多少強引ではあるが、美少女店主の才能を充分に見せていて見事。映画は過去のおばあさんと小説家志望の若者の話を現代と交互に見せて、視聴者には良く分かる仕掛けになっているが、登場人物たちが何によってどこまでその辺の事情が判明しているのか、良く分かりにくい。青年は自分のおじいさんの正体を『切通坂』で知ったのだろうが、あくまで小説だよ、それ。いや、待てよ、小説家青年は彼女が身ごもったことを知っていたのだろうか?そんな描写は無かった気がするが。 さて、ミステリの醍醐味は謎が提示されて探偵役がそれを解明する見事さにあると思っている。その点本作は「これだ!」という解明が無くダラダラと成り行きで話が進み犯人が強硬手段に出る。 あのタイミングで青年が襲われた時点で、それを持っていると「知っている」あの男が犯人だと指摘する描写が必要だろう。栞嬢ほどの人なら当然分かっていたはずだが、まんまと油断して追い詰められてしまう。仕込みの犯人に導くために、伝票の書き方や本の「焼け」を再現する男が、最後に随分と稚拙でちょっと繋がらない。また、最後の闘い時に本を投げ捨てちゃうのは探偵側の敗北のように感じてしまうのは、「本よりも大切なものがある」という部分の説得力が映画的・物語的に表現できていないのではないかとも思う。 まあ、色々と不満点もあるが、キャラクタ的に好感度高いし、楔の伏線は見事だったと思う。そして何より大人になった夏帆ちゃんの演技に心動かされてしまいましたよ。だから点数高め。 最後に栞さん、余計なお世話ですが、たかだか鍵を出すだけで男の目の前であんなに胸元を開けちゃいけませんよ。 【Tolbie】さん [DVD(邦画)] 7点(2019-05-01 19:57:49) (笑:1票) |
《改行表示》 3.《ネタバレ》 原作を楽しく読ませてもらった者の感想として辛口です。私が楽しめた部分が映像化されていない、って意味ですけどね。 このタイトルはドラマになっていますが、ヒロインの激しいミスキャストぶりに幻滅して一話で見るのを止めた過去があります。そのヒロインを黒木華が演じるとのことで、これは期待しましたし、そこに関しては期待以上でした。口下手な感じが良く出ていましたね。ここはイイ部分。 ダメな部分は大きくは3つです。まず五浦大輔。彼は際立った能力を発揮するタイプでは無いけれど、誠実さと腕っ節の強さでヒロインをサポートする役回り。でも、その片鱗が少しもうかがえない能ナシ扱いでした。ラストの埠頭での役立たずぶりでそれが極まりました。 次に太宰の稀書を狙う男。稀書への執着と動機の描写がアンバランスでした。しかもその変質ぶりが13日の金曜日並みにしつこい。追いかけっこのホラーかよと思わせるほどに。そのしつこさがテーマがブレる要因のひとつになっていました。この男、詐欺・放火・強盗傷害・殺人未遂ですが、事件後に逮捕される様子も無く気持ち悪かったです。 最後にミステリ要素のカットです。このタイトルの特長は栞子が古書の知識を動員する洞察にあります。推理力とコミュ障キャラのギャップが愉快なのですが、本作では冒頭で五浦の出生の秘密に気付くだけでした。その後は妹から他者の感情を解さないと責められるだけでこれと云った活躍がありません。これはとても残念でした。 五浦の祖父母のエピソードをストーリーの展開にリンクさせて丁寧に見せました。このエピソードは五浦の出生にダイレクトに関わっていることだけど、五浦自身の陰が薄いので悲恋自体は私にはあまり響かなかったです。祖母のお腹の子を「ウチの子だ」と宣言するごうら食堂の親父の心情の方がよほど重たかったです。文学青年との不倫が太宰の人生や作品に通底する要素であり、作品の背景に古書や文学をイメージさせることには役立っていたと思います。でもまぁ、ここに力を入れたがために、そぎ落とした部分が大きすぎじゃないの、と云う意見です。 原作がある作品のどの部分を映画のテーマに据えるのか。私は自分が最も面白いと思った部分がそれになるものと思っておりますが、ズレることが多いです。本作も中盤あたりまでは良かったのですが、終わってみればかなりズレた作品になっておりました。 【アンドレ・タカシ】さん [映画館(邦画)] 4点(2018-11-17 23:48:15) (良:1票) |
《改行表示》 2.《ネタバレ》 原作未読。 黒木華さんと古書って合うわ!と思って鑑賞。 黒木さん、東出さん、どちらも作風に合う演技で深みを出している。 もの静かな佇まいも美しい。 お二人を観られただけでも、価値ある作品だったと思う。 満足しています。 私の素直な感想を書くとすれば、どの人物を目立たせたいかが、分かりにくい。 この流れだとこの人が中心人物かなと思うと、ふと違う話しが語られる。 どこを軸にすれば良いのかと思ううち・・・。 栞子のオタクぶりから事件を中心に描いても良かったし。 大輔中心の血族を強調しても良かったかも。 どっちつかずが、惜しいしもったいないと感じました。 私の亡き父も本好きだったので、他人事とは思えない作品。 古書がある風景には安らぎを感じます。 【たんぽぽ】さん [映画館(邦画)] 6点(2018-11-09 20:39:47) (良:1票) |
《改行表示》 1.なるほど、シリアス路線で来ましたか。 原作の1巻の最初のエピソードの重要な部分だけをクローズアップして脚色し、より膨らませて一本の映画としてはいる。しかし、これだけではいまいち原作の持つ魅力が伝わりにくいのではないかと感じる。原作ではその事件を解決するまでに色々寄り道があり、他にも登場人物が居たりするのだが、ばっさりカットしてしまっている。まあそれだけならいいのだが、本筋はあくまで原作通りに進もうとするので辻褄合わせの為に少々無理矢理な展開が見られる。栞子さんが本に纏わる色々な事件を解決するというのが原作の魅力であり楽しいのに、全然そんな活躍の場面が無いのも残念。 また、栞子さんを演じた黒木華については文句の付けようがないはまり具合だったと思うが、野村周平演じる五浦が全く魅力のないキャラクターになっていて残念だった。まず体格からして原作のイメージと違うし、その行動が軽薄な上全く役に立たない(笑) 原作では栞子さんとの淡い恋の芽生えを感じる微妙な関係が魅力だったが、この映画においてはそういう気配など微塵も感じられない。栞子さんも若干引いてたと思うよ。 またいつものように原作がー原作がーと言っておりますが、良かった点も挙げておかなければなるまい。それは、原作では深く描かれない五浦の祖母の若い頃の話をじっくり丁寧に描いていた事だ。夏帆と東出の演技もとても良くて、作品に深みを与えていたと思うわ。あとは、舞台である鎌倉のロケーションがとても美しく撮られていた事くらいかなぁ。全体の雰囲気はとても良い。 【ヴレア】さん [映画館(邦画)] 6点(2018-11-01 19:17:53) (良:1票) |