13.《ネタバレ》 ピーター・ファレリー監督が、こんな真面目な映画を撮ったのかぁ……と、その事に吃驚。
「白人」「黒人」「差別」といった属性を備えた品なんだけど、単純に「白人が黒人を救う物語」って訳でもないのが面白いですね。 主人公のトニーは白人だけどイタリア系であり、劇中にて「イタ公」と差別される側でもあるんです。 そもそも黒人のドクはトニーの雇い主であり、困窮してたトニーを雇って救ってあげた側という大前提があるんだから、非常にバランスが良い。 史実では単なる雇用関係に過ぎなかった二人を、無二の親友になったかのように描く事への批判もあるようですが…… 映画の観客に過ぎない自分としては、この両者のキャラ設定は絶妙だったと思います。
その他にも「二人が旅立つまでが長い」とか「ドクが同性愛者であるという要素は、あまり活かせてない」とか、欠点らしき物も幾つか思い浮かぶんだけど「主人公であるトニーの境遇を説明する為には、止むを得ない」「実話ネタなんだから、同性愛者と示しておく必要があった」と、ちゃんと疑問に対する答えは見つかる為、さほど気になりませんでしたね。 むしろ、他のファレリー監督作の映画と比べても欠点は少ない方だと思うし、非常に出来の良い、優等生的な映画だと感じました。
そんな本作の中でも特に好きなのは、トニーが初めてドクのピアノ演奏を聴いて、虜になる場面。 実際に演奏が見事だったから、観客の自分としてもトニーの感動とシンクロ出来たし、その後すぐドク当人に「感動したよ」って伝えたりする訳ではなく、家族への手紙で「ドクは天才だ」と絶賛してるという、その遠回しな表現が、また心地良いんですよね。 そういった積み重ねがあるからこそ、本人に直接「アンタのピアノは凄ぇんだよ、アンタにしか弾けない」とトニーが訴える場面も、より感動的に響くという形。
他にも、コンサートスタッフに「クロなら、どんなピアノでも弾ける」と言われ、トニーが激昂する場面。 運転中、二人で音楽談義する場面。 ドクが初めてフライドチキンを食べて、二人で笑顔になる場面も素晴らしいし、二人が親友になるまでが、非常に丁寧に、説得力を持って描かれていたと思います。
脚本や演出の上手さという意味では「拳銃」の使い方も、本当に見事。 「銃を持ってるというハッタリ」の伏線が「本当に銃を持ってる」という形で回収される鮮やかさときたら、もう脱帽するしかないです。 この拳銃の発砲シーンって「酒場で札束を見せたがゆえに、ドクが殺されてしまうバッドエンド」を予感させておき、そんな悲劇を銃声で吹き飛ばす形にもなってるのが、実に痛快なんですよね。 ともすれば一方的な「黒人って可哀想」映画になりかねない中で、ドクを襲おうとした黒人達って場面を挟む事により「黒人は常に被害者という訳ではなく、加害者とも成り得る」と示す効果まであるんだから、二重三重に意味のある、忘れ難い名場面です。
それはその後の、親切な警官に助けてもらう場面も、また然り。 「南部にも良い人はいる」「警官にも良い人はいる」という、当たり前の事を当たり前に描いてくれる配慮が、本作を万人が楽しめる傑作たらしめていると感じました。
本来ドクにとっては屈辱なはずの「黒人が白人の為に車を運転する」という行いで、トニーを助けてあげる終盤の展開も良かったし…… 最後に、トニーの妻には「手紙」の秘密がバレていたと示す終わり方も、非常に御洒落でしたね。 それまで出番は少なめだった「トニーの妻」というキャラクターが「素敵な手紙をありがとう」という一言により、一気に魅力的になったんだから凄い。
良質な脚本と、良質な演出を味わえる好例として、映画好きな人だけでなく、映画作りをする人達にも、是非観て欲しいって思えるような…… そんな、素敵な一本でありました。 【ゆき】さん [ブルーレイ(吹替)] 8点(2024-02-17 13:21:33) (良:4票) |
12.人種も性格も生きてきた環境も何もかも違う2人がお互いに影響を及ぼし合い、共に変化(成長)していく、ロードムービーのお手本のような、実に「いい映画」だった。 南部における当時の極めて厳しい状況と比較すると、この映画の人種差別描写は非常にマイルドで、社会派モノ好きな人には物足りなさがあるのかもしれないが、ピーターファレリーらしくコメディ色も織り交ぜながら「心温まる」という方向性に振ったことは、(否定する人もいるだろうけれど)大正解だったと思う。 男同士の友情物語でグッときたラストに、追い打ちをかけるトニーの奥さんのあの一言。 もう、奥さん! あなたいい人過ぎ! 【チャップリ君】さん [映画館(字幕)] 8点(2019-03-13 13:53:32) (良:2票) |
11.《ネタバレ》 よかったです。正直観終わったときは「うーん、作品賞っていってもそれほどでもないかな。普通に良いってくらい…?」だったんですよ。けど、鑑賞後72時間過ぎた今、じわじわ感じるものがあることにちょっとうれしい気分なのです。
多分ね、こういう社会問題をテーマにしたロードムービー、加えてちょいちょいニヤリとさせながらも最後は感動にもっていくって映画は今までにもいっぱいあったように気がします。だから既視感は、前のほうでもおっしゃっているように、結構あります。 それでもこの映画、野卑な運転手のトニーが、鑑賞後どんどん魅力的に思い出されてくるのですよね。あんな何処にでもいるおっさんが、ですよ。 なんてったって腕っぷしは強いし肝も据わっている。知性や教養はてんでお粗末ながら、それを持っている人へのコンプレックスや僻みに心が歪んだりなんてしていない。まさにパンのように素朴で単純なこの俗っぽいイタリア男がすごくいいんです。 普通なら、この困難なツアー実施を英断したドクターのほうをより魅力的に描くんじゃないかなって思いがちだけど、そうではない。ドクターは天才だけど、孤独で傷つきやすくいっぱいいっぱいで生きている人。この旅でより恵みを受けたのはむしろ彼のほうでしょう。
映画終盤、演奏旅行は終わり2人はそれぞれの元の生活に戻っていきます。トニーは愛する家族に囲まれながらもまた金の工面に四苦八苦する生活に、ドクターは著名なピアニストとして豊かで優雅で安全な、だけど孤独な生活に… だから彼が勇気を出して自分の殻を破り、二人の友情がその後末永く続いたというエンドクレジットに、ほっとした観客も多かったのではないかと思います。(エンドロールになってもほとんど席を立つ人がいませんでした。)
地味ながらなかなかの佳作。 今は、作品賞をとってくれてありがとうと言いたいですね。とらなかったら多分観過ごしてしまったことでしょうから。
追記(2019.3.6) さきほどこの映画の受賞は本国で賛否両論だという記事を偶然目にしました。それによると「『白人が黒人を救う姿を描く“white savior(白人の救世主)”』の映画だ」という批判的な意見はそもそも受賞前からあったのだとか… うーん、そうなのかなぁ…「白人が黒人を救う」っていうよりは「凡人が天才を救う」っていう映画に私には見えたんですけどね… しかしそういう意見も出るということに、アメリカという国の人種差別問題の根深さを感じます。 確かに「サレタほうはシタほうにずっとずっと厳しい目を向ける」もんなのです。それもいつまでもね…(まあこれは人種問題に限らず世界中どこでもいっしょなんですが) 【ぞふぃ】さん [映画館(字幕)] 8点(2019-03-05 17:38:21) (良:2票) |
10.《ネタバレ》 グリーンブックとは黒人を優遇して受け入れてくれる施設のガイドブックのこと。
面白かった。お互い性格の異なる2人が旅を通して打ち解けていく様子。美しい音楽、風景、愛、美味しそうな食べ物、テンポの良い展開。
1950年代アメリカ南部。天才黒人ピアニストが白人の用心棒を雇って人種差別が色濃く残る街へ音楽のツアーへまわる。
白人のトニーが持ち前の要領のよさでさまざまなトラブルを解決させる。 黒人のシャーリーは天才ピアニストで品性と教養を持つ。
旅を続ける中で、住んでいるところ、肌の色、貧富の差、権威、権力、立場、様々な偏見にぶちあたり苦難にさらされる。
旅を続けるうちに2人はお互いを理解していく。
旅の移動でアメリカ南部の美しい風景が見られる。その時、2人は何を思い返すのだろう。
実話。 【ホットチョコレート】さん [DVD(吹替)] 8点(2024-08-02 07:11:40) (良:1票) |
9.最初に based onではなく inspired byとあったので、製作者は「演出も加えていますよ」という意味を込めているのだと思う。制作年から50年以上前の話なので、当時を知る人も減り、記憶も鮮明では無くなっているということもある。それを「真実に基づく」と訳してしまうと誤解が生じると思う。「事実を元にしたフィクションである」ぐらいにしておいた方が、良いのではないか。 とはいえ、内容的にはとても良かった。直近でも Black lives matterが大きな社会現象になるぐらい、未だに人種差別問題が歴然と残るアメリカでは特に意義深い作品なのだろう。ドンが「暴力では何も勝ち取れない。威厳を持ち続けることだけが勝つための方法だ。」と言うが、それが用心棒兼ドライバーに向けられたものというのが、問題の複雑さを示している。最初は距離のあった二人がお互いから学んでいく姿は、見ていて微笑ましいものだし、見習いたいと思う。 実話モノ、人種を超えた友情モノとして「最強のふたり」を思い出した。あちらもいい映画。 【くろゆり】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2021-12-01 08:01:17) (良:1票) |
8.ドクは、黒人っていうだけでなく、ゲイでもあったわけなんですね。
でもトニーは黒人であることもゲイであることも、気に留めない。
イタリア系移民っていうことで、すでに差別されているせいか、弱いものの気持ちが分かってるのかなと。
トニーにだんだん下品にされていく(フライドチキンとか、聞く音楽とか)ドクと
ドクにだんだん上品にされていく(手紙のセンス磨きとか)トニー。
普通に心地よい作品だった。
アカデミー賞の授賞式は見ましたが、オクタヴィア・スぺンサーが作品賞受賞のときに舞台に上がっていて 「え?彼女出てたっけ?」と思ったら、エグゼクティブ・プロデューサーだったんですね。
貫禄ついてきましたねぇオクタヴィア。 【フィンセント】さん [インターネット(字幕)] 8点(2021-06-07 11:31:47) (良:1票) |
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7.《ネタバレ》 黒人ピアニストと白人運転者の8週間の旅。初めはお金のためだったが、徐々に友情が芽生え…という大筋の流れは言ってしまえばありきたりかもしれない。なにか驚きの展開があるわけじゃない。しかしこの映画はとても面白かった。会話だけでもそう思わせるセンス。二人のキャラクター設定に、演じた俳優の力量もあるだろう。すべてが洗練されていて、中だるみもなく、最後は少しだけ嫌な予感を持たせてからの~~ ハッピーエンド。こういう上質な映画はちょっとした幸福感を与えてくれる。期待通りの秀作。 【リーム555】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2020-02-09 22:30:31) (良:1票) |
6.《ネタバレ》 様々な違い・価値観を受け入れることの難しさはいつの時代も、どこの国でも変わらない。 ただ、そこを「そういうものだ」と放置するのでなく、変えていこうとする気持ちが大切なのだということを教えてくれる作品。 【TM】さん [DVD(吹替)] 8点(2019-12-31 12:00:44) (良:1票) |
5.育ちも性格も全く異なる2人が旅に出る。ロードムービー定番の作品の始まり。 それ程の大事件は起こりませんが、小さな出来事を丁寧に積み重ねていき、 街から街へ、2人が固い絆で結ばれていく過程が見事なテンポの良さで綴られていきます。 しかし、60年代、アメリカの南部、黒人と白人、実話。 これから旅先の南部の地でどういうことが起こるのかは容易に想像がつく。 コメディにするには非常に難しいテーマですが、 シリアスさとコミカルさを見事に両立させてみせた脚本が素晴らしい。 また、これが両立したのはヴィゴ・モーテンセンの存在があってこそであると思います。 彼が主演という前提で見たので分かりましたが、予備知識なしで見たら彼だと気付かなかったかも。 演技の素晴らしさと共に、本作にかけたその役作りもまた見事です。 色々あった旅の終わりだけに、終盤に度々登場する「メリークリスマス」の使い方がいい。 ラストの「手紙をありがとう」には参ったな・・・。クリスマスにいい映画を見ることができてよかったです。 【とらや】さん [DVD(字幕)] 8点(2019-12-26 15:19:26) (良:1票) |
4.《ネタバレ》 飛行機で観ました。ジャズそのものに対する描写が少なく、マイノリティの葛藤や友情にフォーカスを集約したことが逆に良かった(セッションやラ・ラ・ランドのようにならずに済んだ)。自分はアメリカ在住ですがアジア系、移民、アメリカ国籍なしとザ・マイノリティなのでかなり響きました。最後のシーン"Thank you for helping him with the letters"も良かった。
しかしヴィゴモーテンセンが主演してたことに気づきもしなかった。映画館で観てたら9点だったかな。クリスマスにもう一度観たい。 【なす】さん [インターネット(字幕)] 8点(2019-06-22 06:31:27) (良:1票) |
3.《ネタバレ》 狭い価値観が蔓延る世界で彼らの友情はなんと輝いている事だろう トニーであるヴィゴ・モーテンセンの演技も秀逸。やさぐれてはいるが人情と自分の価値観を持った生き方を演じきっており、ドグとの打ち解け方も非常に嘘が無いように見えます。それに彼が経験して行く上で偏見が取れて行く様も非常に丁寧に描かれておりそこも素晴らしいです。 ドクも特殊なマイノリティで悔しがりながらも差別に立ち向かう姿が非常に良かったですね。彼も彼で堅物だった所の角が取れて行く過程もとても良かった。 そして最後のバーでの演奏シーンは本当にこちらも気分が最高になりますね。まるでこちらまで救われた気分になります。 途中途中にあるギャグも非常に効いていてツラいシーンとのバランスも良かったですね。骨のあとにゴミを投げてドクが真顔になるシーンが最高です。それにオチの手紙が奥さんにバレていたのも良い締め方でした。 事件がありながらもテンポが良く最後まで楽しく見れました。名画ですね。 にしてもフライドチキンが凄い美味しそうで見てる間腹が減ってしょうがなかったです… 【えすえふ】さん [映画館(字幕)] 8点(2019-04-10 23:46:12) (良:1票) |
2.《ネタバレ》 無教養で粗野だが口が達者で腕っ節が強く頼りになる白人と知的で裕福で高貴だが孤独な黒人天才ピアニストが人種差別が合法だった時代のアメリカ南部を旅する物語。 南部の有色人種への差別っぷりはいろいろと知ってましたが黒人用旅行ガイド『グリーンブック』というモノは知りませんでした。確かにアレだけの酷い差別を受けていたらトラブルを回避するためのガイドがあると助かりますね。コンサートに来ている演奏者の黒人なら多少は融通されていたのかと思いましたが、楽屋は物置小屋でトイレは庭にある掘っ立て小屋でレストランでは立ち入ることも出来ず普通の黒人変わらないぞんざいな扱い。そんな南部をわざわざ目指したシャーリーは気位が高く立派だった。そのシャリーを見て変わっていくトニーもまた男前。ナイトクラブで様々な人間を見てきたから変われる素養があったんだろうな。人種も育ちも全く違う二人が徐々に心を通わせていくさまは心地良かったですね。 人種の坩堝であるアメリカの歴史を知っているともっと深く映画を見ることが出来たんだろうな。むかし近鉄に入団したメジャーで本塁打王にもなった事もある黒人選手のオグリビーは、試合後に不調で落ち込んでいた自分と一緒にお風呂に入って励ましてくれた日本人選手たちに感激したらしいです。日本人には白人でも黒人でも外国人ってだけで同じですが、実績十分だったメジャーですら白人黒人と別にされてたらしいですからね(まあ日本人も外国人相手というと壁を作る傾向もありますが)。ほんの50~60年前までこんな差別が当たり前でいまだに根深く社会問題化しているのだから、いろいろと考えさせられました。それでいて笑えるシーンもあるし上質なロードムービーでしたね。 【ロカホリ】さん [映画館(字幕)] 8点(2019-03-03 00:34:28) (良:1票) |
1.《ネタバレ》 白人と黒人のロードムービー。なんともありふれた題材ながら、かなりの良作。大きな事件が起こるわけでもなく、物語は淡々と進むが、見終えた後の暖かさは格別。演出は最低限に抑えられ、2人が少しずつ心を交わしていく様子が丹念に描かれている。脚本も秀逸で、そうとは思わせない伏線とその回収は完璧。派手さはないが、昔の名作を見たようなしみじみとした感動が味わえた。 【ふじも】さん [映画館(字幕)] 8点(2019-03-01 22:49:10) (良:1票) |