《改行表示》 8.《ネタバレ》 実際に起きた悲劇をハッピーエンドに変えた映画としては「ザ・チェイス」(1994年)などの先例がありましたが、そういったジャンルの決定版とも言うべき品ですね。 何せ(これは、あの事件が元ネタなのでは?)と観客に想像させるだけでなく、思いっ切り「シャロン・テート」って人名を出しているんだから、恐れ入ります。 現実では悲痛な死を遂げた彼女を、映画の中で救ってみせた形であり、そんな「優しい作り話」を、元ネタを知らない観客でも楽しめるように仕上げてるんだから、本当に見事でした。 上述の通り「シャロン・テート」という存在ありきの内容ではあるんですが、この映画って「主人公のリックとクリフ、二人の友情の物語」としても、綺麗に成立しているんですよね。 離れ離れになってしまうかと思われた二人が「これからも、ずっと一緒だ」「友情は不滅だ」と感じさせる結末を迎えてくれるんだから、もう嬉しくって仕方無い。 作中で「兄弟以上、夫婦未満」なんて言葉が出てくるけど、事件後の描写からすると、この二人の絆は夫婦以上としか思えなかったくらいです。 ……で、ココがこの映画の上手いところなんですが、そういった「友情の映画」としての側面もあるからこそ、本作は「分かる人だけが分かれば良いという、独り善がりな映画」ではなく「色んな人が楽しめるような、立派な娯楽映画」になってるんですよね。 例の事件を知っている身であれば(良かった、シャロン・テートが殺されずに済んだ……)とホッと出来る訳だけど、知らない人からすれば、そういうカタルシスは得られ難い。 そんな弱点を補うように、誰もが理解出来る要素として「主人公二人の友情」を追加したのは、本当に上手かったと思います。 自分としては、ブラッド・ピット演じるクリフに肩入れする気持ちが強かったんですが、ディカプリオ演じるリックも魅力的だったし、二大スターの見せ場のバランスも良かったですね。 中盤でリックが見事な演技を披露し、監督や子役に称賛される場面には感動しちゃったし「落ち目の俳優が、意地を見せて業界にしがみ付く物語」としても、充分に楽しめる出来栄え。 アル・パチーノやカート・ラッセルまで出てくるし、かつての映画小僧タランティーノが「何時か、こんな映画を撮ってみたい」と夢見ていた品を、そのまま形にしたようであり、豪華な出演陣にワクワクするという以上に、ほのぼのしちゃいました。 この映画の世界では、チャールズ・マンソンが「悪のカリスマ」と持て囃される未来も訪れず「単なる犯罪者」という、至極真っ当な扱いを受けるんだろうなと思えるような、皮肉なユーモアが備わってる点も面白い。 犯人の一味が「俺は悪魔だ。悪魔の仕事をしに来た」という有名な台詞を吐いた後、クリフに倒されちゃう展開とか、実に痛快でしたからね。 ただ、ちょっとクリフが強過ぎるというか…… 敵側の戦力が少な過ぎて(こんな奴ら、リックとクリフなら返り討ちにするだろ)と展開を予想出来ちゃったのは、少し残念。 映画本編の情報だけだと、彼らが事前に殺人を犯していた事も明かされていないし、クリフ達に痛めつけられる姿が、可哀想に思えてくるのも難点ですね。 この辺りは「マンソン・ファミリーが殺されて当然の連中だって事くらい、観客は分かってるはず」という、慢心のようなものがあった気がします。 もっと分かり易く「こいつらは極悪人なんだよ」と、事前に説明しておいてくれたら、より強いカタルシスを得られたかも。 恐らくは映画オリジナルの台詞で「みんな、テレビを観て育つよね」「アイ・ラブ・ルーシー以外、全部殺人の話だよ」「殺しを教えた連中を殺そう」っていう、犯行動機のようなものが語られているのも、興味深いものがありましたね。 そんな事を言ってた連中が、映画やドラマを作る側であるリック達に一蹴される展開な訳だし「テレビから影響を受けて人を殺した」と主張するような輩に「馬鹿言ってんじゃねぇよ」と、作り手側がメッセージを送ってるようにも思えました。 そんな具合に、シンプルに観ても面白いし、色々深読みしても楽しいという、贅沢な一本。 「シャロン・テート事件を扱った映画の中で、一番好き」「昔の作品をパロってみせてる、オタク気質な部分が好き」「男二人の友情映画として、凄く好き」って感じに、色んな観客の、色んな形の「好き」を受け入れてくれそうな…… 懐の広い映画でありました。 【ゆき】さん [DVD(字幕)] 7点(2022-11-24 07:56:40) (良:2票) |
7.《ネタバレ》 シャロン・テートとポランスキー夫妻の隣家がディカプリオ演じる落ち目のTV西部劇俳優が住んでいた。有名な実話が元なので結末は判っているつもりで観始めるわけですが、シャロンとディカプリオたちのエピソードは全然噛み合わなくてまるで別の映画を観させられているかのようです。どうせあの事件をラストに持ってくるんだろうから、そこでディカプリオ&ブラピとシャロンが交差する展開なんだろうとタカをくくっていたらまさかの展開、『イングロリアス・バスターズ』に続く歴史改変オチだったんですね。でもこの結末の展開は、ハリウッド界隈の業界人たちは「本当はこうであって欲しかった」と胸を切なくするエモさがあったんじゃないでしょうか。 ディカプリオとブラピはこれがたしか初共演のはず、普通ならこの二人のギャラだけで映画が二本は撮れちゃうぐらいですが、二人ともタランティーノにはいろいろ恩義があるので友情価格だったかもしれません。相対的にディカプリオの方が演技の見せ場が多かった気がしますが、ブラピだってブルース・リーをカンフー勝負で投げ飛ばすという間違いなく本人もテンション上がる見せ場があるのでご満悦のことでしょう。そしてもう一つ判ったことは、タランティーノは本当に『サイレンサー/破壊部隊』が大好きなんですね、シャロン・テートが自分が出ているこの映画を劇場で観て観客のリアクションに大喜びするシーンには、タランティーノのシャロンに対する哀悼がひしひしと感じられました。 ポランスキーはこの映画を果たして観てるんでしょうか、もし観たなら一言感想を聞いてみたいものです。 【S&S】さん [CS・衛星(字幕)] 7点(2020-08-07 23:30:53) (良:2票) |
6.《ネタバレ》 ディカプリオとブラピ。25年くらい前だったら失神者続出だったであろうこの取り合わせも、もうすでにいい感じのオッサン2人組になっています(というか、メイクも意識してそうしてる感じ)。もうこの時点で掴みはOK。あとはやっぱり今回も健在なタラちゃんのダラダラ節に、160分間心地よく身を任せるだけです。ブラピが牧場を訪れるシーンなんて、普通の監督だったら5分で終わってます。あと、タラちゃんの過去作を見ていたら、ラストがこうなるのは逆に予想できてしまいますね。でも、自分の出演作(と客の反応)を見て喜ぶシャロンのシーンが象徴しているように、やっぱりこれは「祈り」でしょう。●もっともらしく出てきたアル・パチーノの出番があれだけとは・・・。●いやそれよりも何よりも、一番びっくりしたのはダコタ・ファニング!ええっ、あの役だったの? 【Olias】さん [ブルーレイ(字幕)] 7点(2021-09-05 01:45:32) (良:1票) |
《改行表示》 5.《ネタバレ》 クエンティン・タランティーノの映画、そしてそれに関わる人たちへの愛情の深さがわかる作品でした。 観る前は、あの「シャロンテート事件」をどう描くのか興味深く、そして事件が事件だけに恐ろしさも感じていたのですが、観終わった後は、タランティーノ監督の、ハリウッドという夢の世界の陰で不遇な状況に陥り、そのまま消えてしまった人たちへの鎮魂歌的な作品であると感じ、「映画って素晴らしいな」と思いました。 【TM】さん [DVD(吹替)] 7点(2021-05-22 22:54:42) (良:1票) |
《改行表示》 4.《ネタバレ》 ディカプリオとブラピとタランティーノ。 これだけで観始めたものだから、少々どうしたものかと思っていたら、なるほどそーゆー仕掛けがあったのね。 こちらのレビューサイトは本当に助かります。 映画好きの諸先輩のおかげで、面白いものはより面白く、つまらないものはそれなりに、そして今回の様にもう一度観てみなくてはと思わせていただけることもしばしば。陰惨な事件ありきなのでなんともはやなところはあるにせよ、やはり痛快。 罪と罰はこーでなくっちゃ、やってられません。 映画なら、なおさら、ね。 【ろにまさ】さん [CS・衛星(字幕)] 7点(2021-03-21 10:38:05) (良:1票) |
《改行表示》 3.鍛えられたブラッド・ピット、練りに練っているディカプリオの演技、冗長と思われるつかみや細かい小ネタ・・・タランティーノらしいと言えばそうですが、アクションが光る監督が緊張の糸を張りすぎていたようにも思えました。 でも肌質や土煙など、よく撮れていて臨場感は劇場なら半端なかっただろうな〜 【HRM36】さん [CS・衛星(字幕)] 7点(2020-11-16 07:58:51) (良:1票) |
《改行表示》 2.《ネタバレ》 タラちゃんは、本当に強烈な個性を持った映像作家ですねぇ。 最初から最後までタランティーノ節。彼のエキス100%の作品でありました。 若かりし頃のポランスキーとか、ブルース・リーとかが出てきてついついニヤニヤしちゃいますけど、 中でもスティーブ・マックイーンは似てましたね〜(笑)。 当時の楽曲もふんだんに使われていて、流し方がまたいちいちカッコいいです。 ただタラちゃん節全開ですから、人を選ぶ作品であることも事実でしょう。 なんでこんな長ったらしい意味のないシーンあるの?とか言いたくなっちゃうのもあるにはあるんですが、 それはやっぱり、タラちゃん映画のリズム、彼のセンスなんですよね。 中盤、クリフが一人でスパーン映画牧場に乗り込んでジョージに会おうとするシーンがあるんですが、 そのシーンの緊迫感と言いますか、見るものを引きつける引力ですね、それがすごいなと思いました。 タラちゃん映画は、どうでもいいようなシーンで緩ませといて、魅せるシーンでグッと惹きつけるという、そういう緩急が素晴らしいですね。 終盤なんて、突然スプラッターホラーにでもなったのかというような急展開にも思わず笑っちゃいました。 【あろえりーな】さん [ブルーレイ(字幕)] 7点(2020-02-11 21:31:38) (良:1票) |
《改行表示》 1.《ネタバレ》 タランティーノ映画って娯楽作というには難解ではないけれどリテラシーが必要で、好きではあるけれどその尺の長さなどで若干気がひける部分がある。まぁデスプルーフの前半部分がトラウマなのだ。 そんな訳で今回はアメリカン時代劇といっても69年。落ち目な俳優のディカプリオと付人で貧乏スタントマンのブラピが主人公だ。 そんな彼らの営みの一部を切り取った本作はタランティーノらしい洒落た選曲と、個性的な編集で賑やかに見せてくれる。 役者としては問題ないが感情的で子供の前でも泣いてしまう情緒不安定なディカプリオは今回でまた役者として好きになるし、飄々として喧嘩も強いブラピの一挙手一投足がどこまでもカッコ良くて男なら憧れてしまう。そんなコンビは映画小ネタも交えており観ていてとにかく楽しい。 途中に入る大脱走の主役になるディカプリオには笑ってしまいました。似合わないっ! ブラピとブルース・リーの戦いも最高です。 そしてブラピがヒッピーのコミューンに行くシーンもディカプリオが西部劇の撮影をやっている裏で、モノホンの西部の町(みたいな状況)にいる対比も良かったですね。 それともう一人の主人公はマーゴット・ロビー演じるシャロン・テート。 彼女は実在したカルトの集団により殺害されてしまう悲劇の人物だ。 終盤は彼女の殺人事件にスポットが当たるが、そこはタランティーノの世界。またしてもやられました。 まさかのディカプリオの家もついでに襲撃することになるという選択の末、たまたまいた最強のブラピの圧倒的暴力により返り討ちに合うシーンは痛快の一言。おまけに火炎放射器まで出てきたときには吹き出してしまいました。 そんなこんなでシャロンは無事でめでたしめでたしというまさかのオチで幕が閉じる本作。 タランティーノのほとばしる映画愛と自分の理想をぶち込んだ素晴らしい世界を見せてもらいました。やっぱり凄いぜ! 【えすえふ】さん [映画館(邦画)] 7点(2019-10-07 22:47:28) (良:1票) |