《改行表示》 4.《ネタバレ》 冒頭、大人になった主人公が子供時代の過ちを振り返る形式で映画は進んでいく訳ですが「僕とジョーの友情に首を突っ込んだ夫人が悪い」って、全然反省していない辺りが凄い。 この主人公、殺人の被害者となった夫人以外にも、他所者を「田舎っぺ」「ブタより醜い」と見下していたりして、とかく感情移入を拒む存在なのですよね。 そんな彼に呆れかえっていたはずなのに、観ている内に段々と感情移入させてしまうのだから、作り手の上手さを感じます。 父母を失うだけでなく「血の兄弟」「唯一で最高の友ジョー」と語り、大切にしていた親友からも絶交されてしまう主人公。 そんな彼は八つ当たりのように凶行に至る訳ですが、それが完全な狂気によるものとは思えず、一応主人公なりに理屈は通っているなと納得させられてしまうのだから、これはもう恐ろしい映画です。 少年愛嗜好があると思しき神父に、性的悪戯を受けそうになるシーンでは、逆襲してみせた彼にスカッとさせられたし「ジョーにウソを言わせた」事が何よりも許せないと怒るシーンでは、ついつい彼に肩入れしてしまう。 そんな具合に、巧みに感情移入させた上で主人公に「人殺し」をさせてしまう訳だから、観ているこちらまで罪悪感を抱いてしまうのですよね。 「エイリアンの侵略」「原爆による世界の終わり」「父母の美しい思い出を否定する現実」など、彼が殺人を犯したキッカケを大量に用意してみせて、その凶行に説得力を持たせているのも上手い。 上手いんだけど……それによって「殺人犯になるまでを疑似体験出来る映画」という形になっている訳だから、後味の悪さは折り紙付きです。 上述の通り、主人公には反省の色が全く窺えません。 ラストにおいても「もう悪党ではないで賞」を取ったから釈放された、としか感じていないのです。 「トラブルは、もう結構」という独白からするに、今後彼が犯罪に手を染める可能性は低いと思われます。 それでも、彼は許されるのだろうか、自分が殺した夫人に対して「悪い事をした」「可哀想だ」と考えたりする事は無いのだろうか、と非常に悲しい気持ちに襲われましたね。 聖母マリアが彼に渡した花、スノードロップの花言葉は「希望」そして「慰め」。 果たして彼に「希望」を与えるべきなのか、彼を「慰め」るのが正しい事なのか、と観る者に考えさせてくれる。 様々な意味で、問題作と呼ぶに相応しい一品でありました。 【ゆき】さん [ビデオ(字幕)] 6点(2016-12-15 22:48:18) (良:1票) |
《改行表示》 3.《ネタバレ》 未熟で幼い少年期の心理の暴走を巧く描いているとは思いますが、とにかくブラック過ぎてちょっとひいてしまいました。主人公の少年の悩み(家族や友人関係等)は結構皆心あたりがあるとは思うんですけどね・・・・・。まあ、しっかりと人生の基盤作りを後押ししてあげる存在が子供には必要なんだなと感じましたね。 しかしまあ、内容的にはアレなんですが、本当にこの作品の音楽の使い方は見事としかいいようがありませんね。なんと言うか「合ってないけど凄く合ってる」というような不思議な感覚でした。 ちょっと過激なアイルランド版「ライ麦畑でつかまえて」といったところでしょうか。 【TM】さん [ビデオ(字幕)] 6点(2010-02-05 00:04:38) (良:1票) |
2.《ネタバレ》 主人公の少年はいつもわめいたり悪態をついたりしていて、それこそブタのようにやかましい。でもそれは迷子になった子供が親を探しているときのような、痛ましい混乱と怒りに満ちたもので、結局彼はいつも自分を愛してくれる人を探して迷走していたように思う。彼はこれが「ブタの成れの果てだ」とブタの首を指して言う。誰にも気にかけてもらえず、やがては屠られてしまうブタに重なる彼の姿は、途方もなく孤独だった。ニュージェント夫人に罵られたとき、本当は「お前はブタなんかじゃない」といってくれる誰かが必要だったはずだ。それなのに家族は死に、親友は去っていき、心の拠り所としていた美しい幻想も奪われる。少年の混乱は頂点に達し、破滅へと向かってしまう。しかし、この映画のいいところは単に破滅を描いて終わるのではなく、穏やかなラストを用意していてくれたことだ。彼が成長し、ただ静かに手の中の一輪の花を見つめている姿を見たとき、涙が出そうになった。彼はもうブタのようにけたたましくわめいたりしない、もうブッチャー・ボーイではない。哀れな少年の心にようやく平安が訪れたのだと、救われた思いがした。 【no one】さん [DVD(字幕)] 7点(2004-11-30 23:59:59) (良:1票) |
1.コレを観てて思うのは、ニール・ジョーダン監督ももしや子供の頃はイジメっ子だったのではないかと。そのくらい堂に入った描きっぷりでございます。アイルランドを舞台に、主人公の少年フランシーの狂気が描かれますが、そこには、キューバ危機を背景とした核戦争への不安が色濃く投影されてます。少年は成長せねばならない、とにかく周囲は待ってくれないのである。かつての縄張りであった「噴水」は他の少年達に譲ることになるし、友人ジョーは離れて行く、そして少年の家庭も順調に崩壊していってしまう。現状に安住できない一方で、将来もまた核の不安に閉ざされた状態。そんな中、やがて少年のアイデンティティは、日頃からこころよく思わぬニュージェント家への、理不尽な敵意へと集約されていく。というわけで、何だか殺伐とした話のようですが、幻想的な描写、ユーモラスな音楽によって、何だか戯画的な雰囲気があります。特に、少年に語りかける聖母マリアの幻影が、本作における潤いの一つとなっています・・・ちょっと安っぽい映像ですけどね、えっへっへ。不思議な味わいの一本です。特に豚の屠殺場の描写は奇妙に生々しく、印象に残ります。 【鱗歌】さん 7点(2004-05-03 23:17:50) (良:1票) |