《改行表示》 6.《ネタバレ》 恥ずかしながら若草物語に触れるのは初めて。想像以上に素晴らしいものだった。現在と過去を行き来しながら進み、時には対であったり重なる状況になっている構成は巧みで、グレタ・ガーウィグはますます上手い監督になっているなと痛感させられた。 冒頭、著者であることを偽って小説を出版社へ持ち込み、交渉の末売れた後喜びの表情で街中を疾走する、という導入から、主人公の性格や立場や状況などが分かりやすく、そこから最後までテンポよく駆け抜けてくので気持ちよく観ることができた。 べスとローレンスとの関係性が秀逸で、ベスがピアノを弾くのを階段でこっそり聴くローレンスが亡き娘に思いを馳せるシーンや、べスが亡くなったあとマーチ家の家に入るのをローレンスが躊躇するシーンは泣いてしまった。(こういうのを大げさでなく織り込むのが上手い) 四姉妹や彼女らを取り巻く男たちなど登場人物皆がとても人間らしく、いい面も悪い面も見せてくれる血の通ったキャラクターをしていて、とても魅力的だった。 原作は何度も映画化されているもはや古典ともいえる文学作品だが、原作者の人生を混入させることで現代的なメッセージ性も込められている。執筆、家族関係、妹の死、失恋などの人生を経て、最後、製本されていく自著を微笑みながら見つめる主人公に集約されるのは最高に胸が熱くなった。 ……映画を観終わってwikiを見るまで、シアーシャ・ローナンが長女、エマ・ワトソンが次女、フローレンス・ピューが三女、エリザ・スカンレンが四女だと思ってた(全部違う) ティモシー・シャラメがレディ・バードとは真逆の立場になっていて微笑ましい。 【eureka】さん [映画館(字幕)] 9点(2020-07-19 18:46:26) (良:3票) |
《改行表示》 5.《ネタバレ》 もう、美しかったです。「若草物語」が美質の塊のような原作であることに加えて、役者陣、風景、衣装、何もかもが美しい。わたしなんぞは素敵な四姉妹が連れ立って隣家に食事を運ぶシーンだけでその尊さに涙止まらず、折しもウィズコロナ下での鑑賞ゆえマスクがハンカチ代わりになるという、湿り気のある体験になりました。 従来の作品群と大きく変えてきたのは時間軸を前後させる脚本。これまた巧い。何度も現在と過去を行きつ戻りつしながら、ジョー目線に偏らずメグやエイミーの心情もこれまでにないほどの丁寧さで描きます。特に「お利口さん」のイメージが強かった長女メグについては彼女の小さな見栄や羞恥心まで描くことで、どのメグ像よりも立体的で人間性がよく伝わる造形となりました。 姉妹の脇を固めるベテランも皆役の解釈が正しく圧倒的な仕事を見せます。賢母のローラ・リニー、封建的考えの叔母M・ストリープ、少ない出番ながら印象大のC・クーパー。しかし特筆すべきはティモシー・シャラメでしょう。これまでこんなに鮮烈にローリーを演じた役者がいただろうか。若草物語といえば四姉妹のお話、であったのが今作は「ティモシー・シャラメの」と枕詞がついても過言でないくらいの存在感であります。 この人は「君の名前で僕を呼んで」でも見せたように、身悶えするほどの恋情を演じたら天下一品。ジョーに告白する丘のシーンは切なく激しく、彼の心がざくざく切れる痛みまで伝わり、映画史における告白シーンでも屈指の場面といえるでしょう。彼の表情を捉えるカメラも、距離や角度が完璧です。ティモシーの発露するフェロモン量はただ事でなく、世界中でやられる女子が続出するのも納得ですねえ。 ラストはちょっと驚きました。ここでようやく邦題の意味するところが分かるのですが。監督は原作者オルコットの考えを最大限に尊重したのだそうな。 編集者と対するジョーは突然オルコット女史になり、それまでの物語は以降は(数分程度ですが)フィクション扱いとなって展開するんですよね。目線の急激な転換にわたしは大いにまごついてしまって、咀嚼するのに時間がかかりました。なんというウルトラC的な力技でしょうか。とはいえ現実のオルコット女史の幸福は製本過程の美しく丁寧な職人技の描写で伝わりますし、フィクション側のマーチ家の人々もハッピーエンドです。監督の原作&原作者へのリスペクトを感じます。 【tottoko】さん [映画館(字幕)] 10点(2020-07-16 23:52:10) (良:2票) |
《改行表示》 4.《ネタバレ》 第一線の俳優陣で送る恋と青春の物語は、どこまでも高クオリティ。 とにかく誰もが演技が素晴らしい。 ジョーの奔放すぎるも現実と向き合う姿勢、ローリーの恋の風向き、エイミーの感情が複雑に絡み合う思い、そしてメリル・ストリープ叔母さんの威厳が凄かったです。というかみんな凄い。 そしてグレタ・ガーウィック監督の編集の凄まじさも素晴らしい。近代アメリカが舞台ながら雰囲気を壊さずに現代的なテンポとスピード感で描いていったり、最初から覚える人物が多いながらも、一人一人の人間を丁寧に構築して自然とこちらに覚えさせる技はまさに職人。更に、過去と現在を色調でわかりやすく表現してるのも嬉しい。手紙のシーンも好きです。 それに衣装に、音楽、どれもが素晴らしく若草物語というモチーフに見る前は全然興味は惹かれなかった僕でさえ、最後には前のめりにウルッときてしまいました。素晴らしい映画です。 【えすえふ】さん [映画館(字幕)] 8点(2020-07-03 16:37:56) (良:1票) |
3.とても見やすい映画でした。割と長めの上映時間、登場人物の多さ、時間軸が過去へ行ったり現在に戻ったりと複雑であること、などなど。映画を楽しむには、不利な条件が多いのに、ほとんどそれらのことは気になりませんでした。テンポの良さと、出演者の演技の良さが抜群で、すごく引き込まれました。原作は読んだことがないのですが、かなり脚色しているように感じられます。"古典"として楽しむのは難しいのかもしれません。 【shoukan】さん [映画館(字幕)] 8点(2020-06-19 22:55:55) |
《改行表示》 2.《ネタバレ》 教養が無いのがホントに恥なのだが、『若草物語』って原作は未読で、このグレタ・ガーウィグ版を鑑賞するにあたって大急ぎでマーヴィン・ルロイ版を鑑賞しておいたのである。今作は、その最大の特徴が時系列・エピソードの複雑な入替え、ということもあり、事前に話の内容を理解しておいたことは結果的に大正解であった。 今作、この時系列の入替えにより、ダレる部分や不自然な部分をつくることなく巧みに各エピソードをスリム化し、そして削った分更にエピソードを追加して描写の厚みを増す、という高度な構成をとっている(まあ普通につくったら単なるリメイクに為りかねない訳だし)。その結果、全体的に極めて密度が高くてハイテンポな仕上りとなっており、やや長尺ながら正に一気に駆け抜けた、といった後味が得られた。描写の厚みにしても、特にジョー・ローリー・エイミーの関係性をより複雑に表現することに成功している点が印象的であった(これには、シアーシャは毎度の素晴らしさながら、同レベルと言ってよい程にフローレンス・ピューが出色だったことが大いに寄与している)。入替え自体の効果としても、特に、過去で生還したベスが直後の現在で身罷る、といったシーンなどは中々にテクニカルだなあと思った。 全体として非常に見応えのある優れた作品なのは確かだが、あくまで個人の好みとして言わせて貰えば、一点、ちょっとキャストが「ガチ」過ぎるかなあ、と思う。シアーシャ、エマ、フローレンスはいずれも主役級で、3人の誰でも今作でジョーを立派に務められるだろう。しかし一方でメグないしエイミーのイメージにドンピシャかというと、実は3人ともそーでもない様に思う。ジョーをシアーシャにするならば、費用対効果的にメグとエイミーは他2人でなくても良かったのではないか(前述どおりフローレンスは非常に良かったのだが「妹」感的には少し微妙で、やっぱエイミーのイメージではない様に思う)。その意味では、母親がローラ・ダーンで伯母がストリープ、というのもコッテリし過ぎで胸焼けするんじゃねーかとも思ったのだが、流石にこの2人は空気を読んで脇役に徹しており、正にベテランの円熟味といった風情であった。 非常にアグレッシブかつ精密極まる作風といい、寸分の隙も無いキャスティングといい、グレタは今作、ちょっと肩に力が入り過ぎなよーにも思える。貴女の才能に議論の余地が無いことは既に全世界が知っているのだから、次回作はもっと気楽に遊んでつくっても好いかもよ?と思う。 【Yuki2Invy】さん [映画館(字幕)] 8点(2020-06-15 00:59:22) (良:1票) |
《改行表示》 1.グレタ・ガーウィグならではの演出が素晴らしいとても現代的な「若草物語」だった。 詳しく書くとネタバレになるが、ジョーが書く物語自体がオルコットによる原作とリンクして行き、ジョーとオルコットが混同してしまっている所が斬新な切り口だったと思う。 ジョーを演じるシアーシャ・ローナンの演技がとても生き生きとしていて素晴らしく、一時も目が離せなかった。 特に、自分に対する迷いや、どうしようもない寂しさ、それでも強く在りたいと吐露するシーンの彼女の表現力は素晴らしいものだった。 また、これまでの映画化では過去→現在へと時系列順で描くのが普通だったが、それにより駆け足感が否めないのが欠点でもあった。 しかし、本作においては現在と過去を行ったりきたりする演出になった事により、例え短いエピソードだったとしても、空間の余白を想像して楽しめるような演出になっていて、ちゃんと時間の流れがゆっくり感じられるように工夫されていたのではないか?たぶん。 とにかく期待通りの素晴らしい映画だった。 【ヴレア】さん [映画館(字幕)] 9点(2020-06-12 20:17:45) (良:2票) |