6. 今をときめくジブリの大御所達がまだ若かったころの作品。彼らの技術的な早熟ぶりは動画の至る所に発揮されており、若き天才達の様々な苦悩、アニメーションの力を世に問うための並々ならぬ気迫は現在においても色褪せることはない。とくにヒロインのヒルダの表情の描写は白眉である。物語のキーとなる歌も素晴らしい。この作品が製作された時代は労働闘争などが活発化していたためか、ストーリーにも集団の団結、労働の賛美、貧富のない社会の構築といった社会思想が強く反映されている。このため表向きは子供用のアニメーションであるが、内容は決して幼稚ではなく、むしろエンターテイメント性を追求した(しなければならない)現代のヒット作品には失われた思想や情念が、良くも悪くも表れている場面が多く見られる(余談だが、宮崎駿の作品には、氏の考える理想の社会の一端が必ず登場するよう構成されているように思えてならない)。従って、これは子供と大人では見えるもの、感じられるものが全く異なる作品である。この作品が上映され40年近くが経った。社会は大きく変化し、当時の製作者達が掲げた理想も彼方に去ってしまった。が、今一度、当時には存在しなかった現代が孕む問題を投影しながら、別の視点から作品の解釈を試みるのも一興であろう。 【ジンギスカンマン】さん [DVD(邦画)] 8点(2005-07-27 21:42:29) (良:3票) |
5.(ネタバレ注意) この傑作アニメの最大の欠点は主人公・ホルスに魅力がない、ということだろう。狼の群れを相手にピンチになったときは岩男に助けられ、グルンワルドにはあっけなく谷底に落とされ、オバケかますは自滅したにすぎず、ヒルダとの出会いではリードされっぱなし。さらにヒルダがひとり思い悩んでいるところへどこからともなく現れて、よせばいいのに勇気づけようとする。(こういうときにはそっとしておいてやるものだろう) いちばん魅力的な登場人物はヒルダだと思うが、忘れてはならないのが彼女のマスコットでもあるリスのチロ。端役でありながらこの物語のテーマそのものを熱弁するおいしい役だ。 【バナナミルク】さん 7点(2002-12-21 04:23:31) (笑:2票) |
4.《ネタバレ》 古いアニメと思ってほとんど期待していなかったが、冒頭から狼との戦いのスピード感で予想を裏切られた気分になり、序盤で舟を操る主人公の背景を太陽が横切ったところなどは少し驚かされた。かなり力の入った動画のようだが、ただ途中、なぜか静止画ばかりが続く場面があったのはさすがに制作上の都合を勘繰らざるを得なかった。 音楽面でも聞くべきものがあり、ヒロインの独唱のほか、管弦楽を背景にした合唱の場面もあったりして歌劇とかオラトリオのような印象を出している。非常に微妙ながらソビエト連邦の大衆向け音楽の雰囲気が感じられたのは時代の反映かと思うが、劇中でも歌を大衆の心理操作に利用しようとする人物が出ており、そういうことを制作側がどの程度意識していたのかはわからなかった。 お話としては子ども向けには地味かも知れないが、終盤で巨大怪獣同士の戦いのようになっていたのは昭和特撮の影響かと思ったりする。真っ正直な主人公が秘密の多いヒロインに翻弄され、単純バカのように詰られていたのは思春期物らしい印象だが、結局は主人公のまっすぐな意志が事態を打開していたのは人の世の正道を示したようで清々しい。男子たるものやはりこうあるべきだろうと思わせる。 結果としては大感動作ともいえないが、「まんが映画」という触れ込みの割には素人目にも出来の違うアニメに見えた。
以下はよけいなことかも知れないが、ストーリーの基本は地縁共同体が団結して外敵を撃退した話になっており、敵は単純に人を滅ぼそうとしていたのであって支配と搾取を目的にしていたわけではない。また最終的に村長の地位が揺らいだようでもなく、倉を壊した場面以外は階級闘争の要素もない。東映の労働争議が制作姿勢に影響を及ぼしたとの話があるようだが、劇中で言っているのは「団結」までであって、自分としてはそれ以上の社会的な問題意識を提示しているようには見えなかった。「団結」だけなら労働者の団結も国民の団結も同じである。 ちなみに「ヒルダの子守唄」はまともに聞くとものすごく皮肉な歌詞なので笑った。解釈はそれぞれだろうが個人的には、生態系と同じように人間も複雑につながった社会を作っており、利害の対立がありながらも何とか成り立っているものであるから、単純思考で誰かを悪人にして叩けばよいというものではない、ということかと勝手に思った。 【かっぱ堰】さん [DVD(邦画)] 7点(2017-07-05 19:44:53) (良:1票) |
3.《ネタバレ》 なつかしい映画。良い映画。 では、あらすじを。 強い少年が主人公で、彼の家族が全員死に、たった独りになって旅に出る。 そして人間の村に行き、村人たちと協力して悪魔を倒した。
大塚康生氏のキャラの絵と動きが好きなので、観てるだけで楽しい。 その大塚さんとこの『ホルス』を観たことがある。観終わって、大塚さんに感想を言って、そのあと一緒に酒を呑んだ。
ヒルダの歌をたまに歌ってしまう。 音楽もいいし、声優はほとんどが俳優さん(ジブリ映画と似ている)。 もしこの『ホルス』がなければ、高畑監督と宮崎監督の出会いはなかった気がする。 ルサンはピリアに首ったけ。ピリアはルサンに首ったけ(みんなで歌いたいもんだ)。 【激辛カレーライス】さん [地上波(邦画)] 8点(2017-02-04 01:32:05) (良:1票) |
2.《ネタバレ》 何だか見ていたら「未来少年コナン」や「アルプスの少女ハイジ」が見たくなってきた。主人公ホルスが父親との死に別れするシーンや一人で巨大な魚に立ち向かう姿やらオープニングの曲のバックの映像、白いアルプスの映像やらまたまたヒルダのどことなくひ弱そうで、もの悲しげな表情なんかはクララみたいだし、あの赤服の小さい女の子はハイジそのものだし、これは高畑勲監督が後に監督をしているハイジやコナンの原形みたいです。ヒルダが歌う美しい歌声に惹かれて踊り出す大勢の人達や動物など、色んな意味でヒルダの魅力に主人公ホルスの魅力の薄い事がより一層強く感じられてしまうほどヒルダが凄い印象を残す。悪魔の兄を持つ事のヒルダの心の葛藤がよく描かれていて、ヒルダの気持ちが痛い程に伝わってきて悲しくてたまりません。歌う事しか楽しみがないようなヒルダ、歌が伝える大きな力がこの映画で高畑勲監督監督が一番伝えたかった事ではないでしょうか!それにしても声優陣の豪華な事、コナン(のび太)に黄門様にまんが日本昔話を思い出させたりと、とにかく贅沢です。 【青観】さん [DVD(邦画)] 8点(2014-02-04 19:01:56) (良:1票) |
1.《ネタバレ》 高畑勲監督のデビュー作。高畑監督といえば宮崎駿監督と違ってあまり活劇寄りの映画はやらない印象があるのだが、デビュー作となる本作は冒険アクションもので、どちらかと言えば宮崎監督の作品に近い印象で、保護者を亡くした少年が仲間を求めて旅に出る冒頭は「未来少年コナン」、登場する銀色の狼は「もののけ姫」の山犬を思わせていて、本作にアニメーターとして参加している宮崎監督に与えた影響が大きいことがうかがえる。ストーリーはやや子供向けにしては暗めで爽快感に欠け、そのくせつっこみどころも多いが、人間同士の信頼や団結といった社会的側面をこういった子供向けアニメに持ち込んでいたりするのは今ではちょっと考えられないこと。このあたりにスタッフの本気度が伝わってきて、ただの子供向けには終わらせないぞという熱意が感じられる。(このあたりも宮崎監督の作風に影響してそう。)ヒロインであるヒルダの存在感も子供向けとは思えぬもので、それが本作をより印象深いものにしている。(とはいえ、声は市原悦子で、ヒルダが喋るとつい「まんが日本昔ばなし」を思い浮かべてしまうのだが。)本作は現代のアニメを見慣れていれば、古臭く感じるかもしれないが、ストレートなメッセージ性があり、一度は見るべき映画だと思う。それにしても高畑監督は最近は「金曜ロードショー」でも監督作を放送しなくなり、新作の話も聞かず、忘れさられたような存在になってしまっているのはちょっと悲しい。 【イニシャルK】さん [DVD(邦画)] 7点(2012-12-11 22:50:45) (良:1票) |