8.《ネタバレ》 なんか、思ってたのとずいぶん違うなあ…、というのが鑑賞直後の感想でした。でも、これ、やっぱりいいですね。いつ、この飲んだくれのダメ弁護士がヒトが変わったように活躍しはじめるのだろう、と思って観てましたが、結局、クズのまんま終わるのですね。かなり無茶な手段で、最後の切り札を手に入れますが、そのカードの切り方もまずく、法廷のルール破りをし、あげく大事な証言は証拠不採用。ダメなわけです。最終弁論は、陪審員に向かって行われているのではなく、クズな自分を赤裸々に言いつのってるようにも見えました。クズの純情が、陪審員の心を動かしたかに見える。鳴っている電話を取らずに、もう何もかもめんどくさそうに眼をつむるラストシーンは、見直してみると結構胸にしみます。クズでもいいじゃん。例え、人生1勝10敗でも。のたうち回ってりゃ、いつか勝つ日も来る。 【なたね】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2010-12-14 19:05:10) (良:4票) |
7.《ネタバレ》 本作は公開時劇場鑑賞しているのですが、生卵入りビールを飲むポール・ニューマンらしからぬグダグダ飲んだくれ模様以外記憶に残っていません。 お目当てジェームズ・メイソンはベルベットボイスでの見た目上品性根下品なコンキャノンを貫禄たっぷりに好演。ただ、彼にとっては通常運転の演技でオスカー受賞ならずも渋々ながら納得でした。 ポール・ニューマンはオスカー受賞すべきでした。 人々の手助けを成す「師」「士」の付く職業での正義感。それの為に落ちぶれてそれに目覚めての一念発起も依頼人を置き去りにした独り善がりでとどのつまりに陪審員の情に訴える有り様。そしてラストの電話越しの無言会話。それぞれの内面が滲み出る絶品演技に魅入りました。また、随所に見られた見事なカメラワークでの演出も素晴らしい。 ナチスものの判事のような度が過ぎる描写に怒りよりも現実味を感じない点が残念でした。
来年元日鑑賞作も決まっており、それまでの新たな作品・人物・レビューと出会いたいと願うところです。 |
6.《ネタバレ》 法廷劇としての爽快さはありません。主人公はダメな弁護士と言っても良いくらいで、実質的には負けています。評決が勝訴になったのは、証拠として採用されなかった証人の言葉を陪審員たちが受け入れたからでしょう。ラッキーな結果ですが、最終弁論で陪審の「良心」に訴えた主人公の「気持ち」が功を奏したとも言える。本作を見る限り「正義」の行使は単純では無く、社会派と言われる監督の作品らしい見応えを残します。 見どころは主人公の演技です。アル中弁護士が楽勝と思われた裁判で地獄を見るような目に遭います。思い通りに事が運ばないもどかしさや、ギリギリのところで踏みとどまる執念が鑑賞側の緊張感を保ちます。焦り、気負い、苛立ち、後悔、と云った喜怒哀楽からは外れた微妙な感情が渋い演技の中に封じ込められて表現される。彼は「ハスラー2」で初めてオスカーを手にする訳ですが、個人的には本作がベストパフォーマンスです。 【アンドレ・タカシ】さん [映画館(字幕)] 8点(2014-02-27 01:14:20) (良:2票) |
5.《ネタバレ》 『評決』は『十二人の怒れる男』と地続きの作品といえます。同じ法廷劇ながら、『評決』にはクライマックスとなる陪審員の採決結果に至る過程が一切描かれず、『十二人の怒れる男』は逆に陪審員たちの審議のシーンのみに終始します。『評決』での陪審員の採決は、それまでの法廷での趨勢(原告側の圧倒的不利)を逆転するもので、ほとんど合理的な裁判の過程を無視した結論とも言えます。そこに貫いているのは「正義」の観念です。アメリカ的な「正義」は、ある意味で「法」を超越します。ポール・ニューマン演じる弁護士が最終弁論で陪審員に対し「法」を超えた「正義」への信を訴えます。証拠だけを見れば原告側の圧倒的不利なのですが、陪審員の採決は、見事にそれ(「法」より「正義」)に答えた形になっているわけです。実にアメリカ的ですね。(これはルメット監督の信念なのでしょう) ポール・ニューマンも調査の過程で正義(という信念)の為なら簡単に法を犯します。正義が絶対なものとしてある、絶対的な神に対峙した個人として、常に「正義」を反芻し、反省する宗教的・倫理的な国民性がある、絶対的な個人としてあるが故の西洋的な「正義」がベースなのです。そういった文化がない(絶対も個人もない)日本人には理解しがたい観念でしょうね。 【onomichi】さん [DVD(字幕)] 8点(2011-05-31 22:10:09) (良:2票) |
4.《ネタバレ》 第55回アカデミー賞で、この映画「評決」は、作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、脚本賞にノミネートされていましたが、何一つ受賞出来ませんでした。
特に、過去5回も主演男優賞にノミネートされながら、一度も受賞した事のないポール・ニューマンが、今回はきっと受賞するだろうとの下馬評が高かったのに、その力演も空しく、「ガンジー」で一世一代の名演技を披露したベン・キングスレーに敗れ去りました。
ポール・ニューマンが主演するこの「評決」を、オスカーが無視した背景として、彼が人権擁護に積極的な民主党員であり、1968年には同党のコネティカット州の代表に選ばれ、当時のカーター大統領の時代には国連軍縮特別総会の米国代表候補にされたという、反戦運動家としての政治的キャリアが災いしたとも言われています。
「核問題は全ての事より大切なんだ。非合法移民、インフレ、失業、レイオフの問題よりもだ。だって核の問題で読み違いをおかしたら、他の問題など吹き飛んでしまう」と、ある雑誌のインタビューに答えて、自分の政治的な信条をはっきりと表明するような彼は、華やかで、当時の保守的なハリウッドのアカデミー賞の会員にソッポを向かれ、アメリカ国内の既成の権力に対して反抗的な内容の「評決」が、同じ性格のコスタ・ガブラス監督、ジャック・レモン主演の「ミッシング」と同じ冷遇を受けたのは、アカデミー賞の限界を示すものだと言えるのかも知れません。
この映画「評決」は、陪審制下の"法廷もの"であり、また"医療ミス"を題材にした、弁護士出身のジョン・リードの原作の映画化作品です。
かつてはエリート弁護士でしたが、陪審員を買収した上司を内部告発しようとして失脚した、負け犬でアル中で女にも弱い弁護士のギャルヴィン(ポール・ニューマン)を立ち直らせたものは何なのか?
落魄したうつろな自分をそこに見るような、生命維持装置に繋がれた悲惨な患者の姿なのか? 真実を追求しようとせず、金だけで解決しようとする安易な法曹界への反発なのか? 支配階級であるWASPへの憎悪なのか? それとも謎の女ローラ(シャーロット・ランプリング)への愛情なのか? --------。
この映画は、自らを失っていた弁護士ギャルヴィンの"人間としての自己回復、魂の再生のドラマ"を静かに、しかし、熱く描いていくのです。
酒と人いきれにすえたような暗いパブ、その片隅で弾けるピンボールの虚しい響き、悲惨な状態で長期療養病院に横たわる植物人間と化した患者の姿、厚味のある色調のボストンの街並み、寒々しい法律事務所の雑然とした室内、重々しく緊張感に満ちた法廷----、これらを静かに、厳しく映していくポーランド生まれのアンドレイ・バートユウィアクのカメラには深い情感があり、デービッド・マメットの脚本には濃密な味わいがあります。
監督のニューヨーク派の名匠シドニー・ルメットは、「十二人の怒れる男」「狼たちの午後」「ネットワーク」で三度もアカデミー賞の監督賞の候補になりましたが、受賞しないままです。
ギャルヴィンの相棒に扮するジャック・ウォーデン、ギャルヴィンの法廷での強敵となる、被告側の弁護士コンキャノン役の名優ジェームズ・メイスンの演技は、共に白熱した演技を示しています。
そして、コンキャノンのスパイとして、ギャルヴィンを誘惑するローラを演じるシャーロット・ランプリングは、「愛の嵐」以上に神秘的な妖しい魅力を発散させています。 挫けそうになるギャルヴィンを叱咤する彼女の姿には、スパイではなく本当の愛がのぞいているように感じます。
この映画のラストで彼女がベッドからかける電話、それを取り上げようとしないギャルヴィンの思いは、複雑で切ない余情を感じさせてくれます。
法廷のシーンで自己の人間としての復権を賭け、絶望的に不利な状況の中で、ギャルヴィンが陪審員に向かって静かに訴えかける言葉------。
「正義を与えるためではなく、正義を我がものにする機会を与えるために法廷があるのです」
「法とは、法律書でもなければ、法律専門家でもなく、法廷でもありません。そういうものは、正しくありたいという私たちの願望のただの象徴にすぎないのです」
「金持ちは常に勝ち、貧しい者は無力。正義はあるのか? 私たちは自分の信念を疑い、法律を疑う。しかし正義を信じようとするなら、自分を信じることです。正義は、私たちの心の中にあるのです。あなたが今感じていることこそ正義なのです。」 【dreamer】さん [DVD(字幕)] 8点(2023-08-28 08:36:07) (良:1票) |
3.《ネタバレ》 アル中弁護士が再起をかけての裁判で逆転勝ち。決してそんなシンプルなサクセスストーリーではない。彼は過去のトラウマから「正義って何?」と常に考えていたとても真面目な男なのである。酒を浴びながらも考えていたのである。そんな彼の所に舞い込んできた示談必至のケース。とりあえず撮影したベッドに横たわる原告のポラロイドは、まるで事件被害者の死体ではないかと、彼が忘れていた情熱を再び燃え上がらせたのも当然。しかし情熱と正義感はあるものの経験が無かった彼は、裁判に勝つテクニックを全く持っていなかった。裁判はテクニックなのである。どうやっても不利な原告側。もう何もできない。苦し紛れの最終弁論では陪審員の正義に問いかけることしか出来ない。裁判記録は消せるが、たった今目の前で見たものは記憶から消すことは出来ない、その正義を信じて。(同じように彼女の裏切りを記憶から消せなかったのだが。)まさに裁判とは水もので、同じ案件でも弁護人と裁判長を変えれば全く別の結果に流れるのだろう。今回たまたま勝てたフランクは喜びも満足感も味わうことなく、むしろ脱力感だけが残るラスト。セリフではなくポールニューマンの無言の演技だけで読み取る作品。 【ちゃか】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2012-12-17 15:13:45) (良:1票) |
2.《ネタバレ》 ポール・ニューマンが上手い。とにかく上手い。酒によって落ちぶれた弁護士が再起をかけての戦いに挑む姿が感動的である。適役のあの憎たらしい弁護士とのやりとりがドラマを盛り上げている。評決が決まった後に見せたあのガッツポーズも大げさでなく、控えめな所が良い。ところで同じ1980年代、この数年後にポール・ニューマンはやっとオスカーを獲得するけれど、誰が見たってどう考えても「ハスラー2」で初のアカデミー賞主演男優賞はないやろと言いたい。あんなものでアカデミー賞主演男優賞やるぐらいなら絶対にこの映画で与えるべきであるし、いや、もっともっと前に与えていても良かったばすだし、アル・パチーノが「セント・オブ・ウーマン」で初のオスカー獲得した時と同じようなやりきれない気持ちである。それだけこの映画のポール・ニューマンの演技は素晴らしくアカデミー賞主演男優賞に値する名演技ぶり! 【青観】さん [ビデオ(字幕)] 8点(2006-02-03 22:46:55) (良:1票) |
1. 確かにコレはルメット監督のお家芸ですね。うらぶれたニューマンのダメダメっぷりを丹念に描出した前半の溜めが、後半の法廷シーンでの最終弁論で一気に爆発して爽快なカタルシスを生んでいると思います。でも残念ながら「十二人の怒れる男」には到底及びません。ジャック・ウォーデンやエドワード・ビンスも出てるんですがねぇ。ま、処女作で最高傑作を発表した者の宿命ってヤツですか?それと、↓で仰るように「ガンジー」にオスカー賞レースで惨敗を喫しての無冠てのは私も納得いかないですね。イヤ勿論アッテンボローがダメとかじゃなく、総ナメはないだろう?てな感じで。だけど、ニューマンは演技にハズレが無いから別に「一世一代」とは全然思わないですが…。80年代を代表する法廷映画の佳作に8点。 【へちょちょ】さん 8点(2003-04-07 01:21:55) (良:1票) |