6.《ネタバレ》 ※ネタバレございます※ まず、主演のキム・ヨンホという男が冒頭で自殺する、という、とんでもないオープニングであり、さらに時間を逆行して彼の過去を描いていく、、という、またトンデモナイ構成となっております。 彼は最終的に自殺するワケですから、とにかくツイてない男で、どの過去にも必ず「不幸」があるんです。人生の不幸③⇒不幸②⇒不幸①⇒不幸になる前、、こんな感じで、不幸の地雷を踏む前に物語 (時代) が戻っていくワケですから、彼はただ若返るだけではなく、精力みなぎり希望に満ち溢れ生き生きと蘇ってゆきます。この感覚こそ、今までに例を見ない、新感覚だろう。 やがて物語は、見覚えのある、あの風景の中で、愛しい女性に花を摘む彼の姿にたどり着く。なるほど、だからこの場所だったわけだ。そして、彼の目の前にある (等身大の) 幸せ、それは彼の人生にとって、最も美しく幸福な瞬間であった、、と私たちは思い知らされることになる。同時に、これが時系列ならば、何気ない一場面に過ぎなかっただろうし、そういう見せ方のうまさ、をつくづく感じさせます。 これは誠実な青年が国家権力とその体制下に人格を矯正させられて、ついには砕け散った物語であり、国という体制批判の映画ではあると思う。しかし、私は韓国人ではないので、感想はただ一つ。 この映画は「幸せ」の見せ方が秀逸だった。 そのたった一言に尽きる。 このストーリーにして、自分の目の前の世界 (人生) が尊く美しく見えてくるから、不思議な映画だと思う。 【タケノコ】さん [インターネット(字幕)] 7点(2022-03-21 12:08:29) (良:1票) |
5.《ネタバレ》 簡単に言えば青年時代花を愛し、それを撮っていきたいと願っていた工場労働者の繊細な男が軍隊にいき、その後警察で思想犯の取り締まりで拷問に励んだ後脱サラし、好況の波に乗って実業家として成功するも共同経営者の裏切りに遭い、没落し、最後その繊細だった頃の自分を懐かしみ命を絶つというある男の半生のお話。これだけ聞けば陳腐なドラマでしかないが、描かれる物語はキム・ヨンホという主人公個別の人生を深く描くことで世界的にも評価される名作となった。いつもながら思うのはイ・チャンドンの描くドラマはなぜ心を撃つのか考えるがやはり彼がキリスト教の「アガペー」を理解しているからではないかと個人的には思う。日本語は「愛」一語しかないので定義がバラバラで、安っぽい書家やタレントその他有象無象のそれに関する名言がありがたく消費されている状況だが、かの地ではしっかり3段階に分かれて理解されているので今後そういう安っぽい発言をする人はこの定義を当ててみてどのレベルの人間か判断するとよいでしょう。1「エロス」情欲の愛。ストーカーとか。2「フィリオ」友愛。日本でもある政治家が盛んに言っていたが自然に湧き上がる愛情。親子愛、兄弟愛とか。3「アガペー」自ら選択した愛。無償の愛。キリストが愛であるといっているのはこのこと。ひょっとしたら主人公は初恋の人ユン・スニムと除隊後愛を育むことができたかもしれない。だが、暴動制圧の任務途中に誤って無辜の女子高生を撃って殺してしまった。おそらく彼はそのことで罪悪感を持ち、ユン・スニムと一緒になって幸せになることを自ら禁じ、贖罪のために警察に奉職し、反体制派の取り締まりに邁進していく。しかしその裏で心の奥底には空虚さが巣食っており、過激な拷問をするごとに彼本来の姿から遠ざかっていったのだろう。彼を愛してくれる妻に対しても根源的な彼の心の渇きを癒されることはなく、悲しいことに彼女に対して誠実に愛することができない。拷問に明け暮れても何ら自分を救えない彼は今度は富によって自分を満たそうとするが、結局は妻も見返りのない愛に嫌気がさし浮気をし、また彼自身でも空虚かエロスかそれはわからないが女子事務員と不貞をし、最後はビジネスパートナーに裏切られて富も家庭もすべてを失う。 キリスト教では罪深い人間は仮にアガペーを目指しても、結局はエロスか良くてフィリオにとどまるということになっている。彼も今際の際のユン・スニムの枕元に呼ばれて彼の本当に戻るべき場所・本来の自分を思い出し、ユン・スニムとのピクニックの時にもう一度戻れるのならという慙愧の念がラストシーンの泪とファーストシーンの泪とリンクする。このシーンに収斂するために時系列を逆行させているのだ。もちろん各断章ごとに次の章に続く情報をリレーさせることで、観客の集中を引き付ける仕組みもあるが、やはり冒頭とラストのリンクが最大の目的なのだろう。決してイキった演出ではない。必然なものだ。光州事件という監督個人の思いも当然込められてはいるが、その知識がないとしても十分ある男の普遍的で哀切で痛切な物語になっている。 【エリア加算】さん [インターネット(字幕)] 9点(2021-01-25 16:53:36) (良:1票) |
4.《ネタバレ》 イチャンドンの比類なき作品群に圧倒される前に、何の予備知識もなく、観た記憶がある。その時は、印象に残るシーンを撮るのが上手いなぁ、話が徐々に前に戻っていく構成は面白いなぁと、やはり他の映画作品とは違う印象を抱いていた。何よりアジアの作品が注目され、大量に日本で公開された頃なので、これがアジアンテイストなのかなぁと思っていた。今回、彼の凄さを認識した上で、もう一回観た。昔に帰りたいと叫んで自殺をする青年。一体彼に何があったのか?話は、兵役の頃の女子高生誤射事件まで、その時々の女性とのエピソードを軸に、丁寧に少しづつ昔に戻っていく。イチャンドンは若くして、もう老成している感がある。これほどの完成された作品を、もう初期に発表してしまうと、作家は次に何を創ればいいのか、途方にくれるはずだ。しかし、イチャンドンはそれに耐えて、次から次へと観たことない作品を発表する。彼の凄さは、若くして、完成された作品を創ってしまったことにあったのではないか?この作品を観て、そう思い至った。 【トント】さん [DVD(字幕)] 8点(2015-04-26 19:15:40) (良:1票) |
3.「オアシス」がえらく面白かった上、本作の評判もやけに高かったので期待を持って鑑賞してみましたが、私は大層退屈してしまいました。自殺した中年男の過去に溯って行くという構成が、どうにも良くない。この構成でストーリーを語るには「何故こうなってしまったのか?」という、好奇心を強力に刺激するファクターが必要だと思うんですけど、「自殺」や「銃の入手」等の非日常が過ぎてしまえば、唯の男が離婚しようが、結婚しようが、転職しようが、恋人と別れようが、その理由なんかはっきり言って私にはどーでも良い。映画から運命論的匂いがするのも気に食わん、3点献上。 【sayzin】さん [DVD(字幕)] 3点(2005-07-28 00:07:58) (良:1票) |
2.この手の作品、年をとる毎に胸にこたえて来るような気がします。人を傷つけてしまうことで、逆に自分が傷ついていく。これは、一人の男の「生き方」を見るのではなく、一人の男の「人生」を見る映画。線路って前に進む時は分岐ポイントが幾つもあるけど、逆戻りする時は一本道なんだよね。主人公には、それでも前に進んでほしかったな。それにしてもこの、「せつなさ」や「痛さ」は・・・もう・・・ |
1.幼い頃、ドロップ缶が好きでした。いろいろなドロップが入っていて、何の味が出てくるか、振って出してみないと分からない面白さがありました。そんなドロップの中で、はっかドロップは嫌いでした。なぜかというと、甘くないからです・・・子供でしたからね。この作品、「ペパーミント・キャンディ」、タイトルだけを見ると、「甘い青春の1ページ」みたいな内容かと思えますが、はっかドロップと同様、全然甘くないです。むしろ、からい。にがい、苦しい。それでも主人公はつぶやきます・・・「人生は美しい」と。1999年からスタートして、時をさかのぼることでストーリーを見せていくという技法は、映画としては新鮮でよかったです。汽車の線路の風景を逆回しにしたフィルムで見せていくのも新鮮でした。純粋で純朴な青年が、やさぐれていく様子が逆回しで、つまり見ていくにつれてピュアな心に接することができたのでよかった。でも、内容的には重いので、見てからいろいろ考えさせられました。彼にとって幸せとは何だったのだろう、どの分岐点が彼を苦しめたのだろう、彼のようにならないためにはどうしたらいいのだろう・・・。重い内容を重く受け止めたその先に、見えてくるものがきっとあると思います。それはおそらく、見た個人個人によって違う。それでいいんだと思います。惜しむらくは、現代→過去、というストーリー展開のために、1回見ただけでは、細部がまったく分からない。続けて2回見て、ようやくあちこち納得しました。映画館で見た人には「?」という個所がかなり多かったのではないかと思います。最初、ヨンホさんはアル中かヤク中かと思いましたもの。それくらい、支離滅裂な行動をしていますから・・・そこまで人格が壊れるほどの半生、それを演じきったソル・ギョング氏の演技力の高さには脱帽しました。 【祥之上】さん 9点(2002-03-15 00:00:10) (良:1票) |