★7. ネタバレ 非情に重い、あまりに重い物語。実話ベースの創作としては相当実話に沿っているようですね。再現映像的なモキュメンタリ―の一種とも受け取れます。
実際の事件について書かれたものを読んでみると主人公は軽度の知的障害ということですが、本作に描かれている限りでは軽度の知的障害を伴う発達障害、更には精神的な問題も持ち併せていると言いましょうか、穏やかで優しい面と粗暴で暴力的な面という二面性が周囲が理解し得ないタイミングで見え隠れしています。計画的に武器弾薬を揃え、身辺整理をして母と言葉を交わし、誰よりもなついてくれていた犬たちを解き放ち、凶行に向けて踏み出して行く主人公。そこには明確な意思が感じられます。最終的なスイッチとなったのは英国で起きた類似事案のTV報道のようにも思えます。ある意味衝動的だったのかも知れません。
花火の一件が示すように幼少期からある程度明らかであった彼の特性。家族と専門機関がしっかりとそれを理解して受け止め、着実に連携して見守っていれば、もしかしたら防げたのかも知れません。しかし、実際には厳し過ぎる母親、優し過ぎる父親、クラスメイト等の揶揄中傷(おそらくはイジメも)等々による影響がジワジワと積み重なり、公的機関の継続的な関与は病院のみ(描かれていないだけ?)であった上に、ヘレンのような一見優しく包容力があるようでいてある意味身勝手な支援や心を閉ざしてしまった父親の自死は、彼を決定的に追い込んだのでしょう。そこで何かが音を立てて崩れてしまった。
銃規制という対症療法的予防措置には、確かに一定の効果が期待出来るのかも知れません。しかしながら、決定的な効果が期待出来るとは言い難いことは諸外国の例が示す通り。本作における事案ではたまたま銃器が手段として使用されたのであって、同種の事件を防ぐ根本的な予防策は、この主人公のような人物への決して画一的にならない長期的な支援以外には考えられないように思えます。
いずれにしても、確かな演技と過激になり過ぎない演出、そして同じく抑え気味に物語を紡いだ脚本。見事でした。
あとひとつ、「ニトラム」という蔑称的ニックネームは幾度か登場しましたが、「マーティン」という本名は登場しなかったような?特に両親が名前で呼ぶシーンが記憶に残らなかったのですが、それもまた主人公の歪んだ成育歴を暗喩するものだったのかも知れませんね。 【タコ太(ぺいぺい)】さん [インターネット(字幕)] 8点(2025-05-01 18:11:39) (良:1票)《新規》 |
6.ネタバレ 実際に起きた事件で、実在の犯人の名MARTINを逆さ読みしたのがタイトルなんだとか。 こんな話を聞くと出口がなくてやりきれなくなる。 ニトラムの犯した罪は裁かれるべきだけど、知能レベルの低い彼をこの行いに追い込んだと思われる原因が見当たらないんですよね。 両親は精一杯やっていたように見受けられるし、篤志家の存在などは普通に願っても得られないレベルの僥倖でしょう。ヘレンはさすがにフィクションかと思ったけれど、彼女もちゃんと実在したらしいです。 ヘレンの死や事件の犠牲者を出さないためには何ができたのかしら。ニトラムの母を演じたジュディ・デイビスの疲れた顔。中盤以降は息子に対して遠慮がちになっているその辛さがぐさぐさと刺さって切なかった。 【tottoko】さん [CS・衛星(字幕)] 6点(2025-04-12 23:35:45) |
5.ネタバレ 「僕は、僕以外になりたかった」
先天的な軽度の知的障害を持ち、時折、強度行動障害を引き起こす青年の一挙一動に、 当事者・関係者ならではの胃のキリキリ感を思い出す。 衝動的な行為の数々に発達障害も持っていたと思うが、 早い段階で大規模な医療機関で治療を受けていれば症状を低減できた可能性はあれど、 舞台になった'90年代当時、その概念が今ほど定着しておらず、閉鎖的なコミュニティ故に周囲に理解者もいない。 両親は青年の対応の困難さにどこか諦めもあったかもしれない。
同じ孤独を抱えた元女優のヘレンによる無償の愛情によって、ひと時の安らぎを得られたと思うが、 仮に彼の悪ふざけによる交通事故死がなくても、二人の関係はいつか破綻していただろう。 それだけ彼は社会に害悪をなすシステムクラッシャーでありながら、 自分自身を上手く制御できず、一体どうすれば状況をより良く変えられるのかすら分からない。
青年は11歳ほどの知能しかなかったものの、 本名を逆さに読んだニトラムがシラミの卵(NIT)と掛けて軽蔑されていることを知っているし、 無免許ながら車の運転ができるし、単身でハリウッドに旅行することも、ライフル射撃もできる。 外見では分かりづらい"はざまのコドモ"ならではの疎外感が不意に差し込まれる映像美によって残酷に際立つ。
ボタンの掛け違いによる不運が次々に起き、家族とすれ違い、避けられない最悪の結末へ突き進む無常さ。 事件後、オーストラリアで厳しい銃規制が行われたそうだが、銃がなくてもやらかす可能性はあった。 なるべくしてなった事件のニュースの音声を母親は聞いているのだろうか。
上記の不運が重なることがなくても、彼が救われる要素はどこにもなかっただろう。 “ニトラム”という器から逃れられず、そういう存在に生まれてしまった男の悲劇。 では、どうしたら良かったのか、という重い自問自答が続く。 結局、最後は座敷牢に隔離か、現世からの排除なのか… 【Cinecdocke】さん [インターネット(字幕)] 7点(2024-07-12 21:44:52) (良:1票) |
4.物語の雰囲気はけっして明るくなく、このままどうなるんだろうと徐々に不安になっていきますが、結果は最悪な内容となってしまいました。実話がベースになっているようですね。ただ、出演者の演技はよかったと思います。 【珈琲時間】さん [インターネット(字幕)] 6点(2024-06-14 14:28:39) |
3.ネタバレ 無差別乱射事件は事実だけど、そこに至るまでも事実なのだろうか? 転がり込んだ大金は他に使い途があっただろうに、ヘレンと父親が生きていればこんな事件は起こらなかった気がします。 ラストの母親の姿に人格の異常さを感じたところです。 |
2.ネタバレ 90年代、オーストラリアのタスマニア島で実際に起きた無差別銃乱射事件。多くの死傷者を出したそんな凄惨な事件を基に、犯行へと至るまでの犯人の心情を終始淡々と見つめたクライム・ドラマ。ほとんど音楽も使われず、ドラマティックな展開なども皆無、ただひたすらこの精神に重大な問題を抱え、恐らくは軽度な知的障碍もあったであろう主人公の次第に追い詰められてゆくさまが冷徹に描き出されてゆく。主人公を演じたケイレブ・ランドリー・ジョーンズの真に迫った熱演もあり、この最後まで緊張感を途切れさせない展開は見応え充分だった。社会から疎外され孤立してゆく息子をただ見守ることしか出来ない両親の葛藤もリアル。そんな青年を何故か受け入れる大富豪の老女の存在も違和感がなく、ともに社会から疎外された者同士で通じ合う部分があったのだろうという説得力も感じさせる。この老女が大金持ちで、彼女の善意がのちに大きな悲劇を生んだと思うとなんともやるせない。彼と事件の被害者を救う術はなかったのか――。周りに何人も「おかしい」と思う大人がいたのに母親も息子を常に気にかけていたのに誰も事件を防げなかったことを思うと、やはり社会の無関心も事件の原因の一つだと改めて痛感させられる。これは決して遠い国のお話ではなく、日本でも自分事として捉えるべき問題なのだろう。ただ、そのように深く考えさせるところは確かに良かったのだが、一本の映画として観ると残念な点もちらほら。一つ言えるのは、とにかく演出のキレがすこぶる悪い!果たしてこのシーンは必要であったのかと思えるような無駄な場面が余りにも多く、かと思えば父親の自殺などもっとそこを掘り下げて描くべきではと思えるところは意外にあっさり流したりする。もっと脚本を練るべきだった。見るべき部分も多い作品だっただけに残念だ。 【かたゆき】さん [DVD(字幕)] 6点(2023-07-07 09:32:06) |
1.ネタバレ 今作の主人公は典型的な「自己中心的」無差別大量殺人犯であり(少なくとも、その根本的な動機が彼以外には理解できない・できなかった、という意味では)、実際の作中での描かれ方としても彼に対して冒頭から容易に感情移入してゆける…という作品には全く為って居ないのですね。ただ、また決してその大元の原因が彼の人間性のみに在った…という描かれ方に為って居ないのも事実であって、その部分の描写の質感はむしろ非常に淡々としたモノ、かつまま高度に不明瞭でもある点では、分かり易い「想像」の結論を用意しているとゆーよりは鑑賞者個々の捉え方に任せていると言いますか、ある意味では(不親切なよーで)逆に誠実な映画かな、とも思いました(クライム・サスペンスながらヴァイオレンス・シーンにほぼ頼っていないコトも含め)。尤も、鑑賞後に事件の情報を少し漁ったトコロでも、本作で描かれたコトが全て事実に基づくのかはやや判断付きかねる部分がありましたし、オーラスのインタータイトルには(若干唐突に)銃規制に対するメッセージを含ませていたり、と製作者側の「意図」が完全に抜かれていた(=完全に客観的な映画だった)という作品には必ずしも思えない部分もありましたかね。
しかし、そーはあっても全編を貫く一種の「やるせなさ」に関しては、好きか嫌いかは別として(+ソレが必ずしも「共感」には為り切らなかったコトもまた確かだとして)映画が励起し得る人間の感覚・感情としてはかなり高度だったかな、とも思います。その意味では決して観て損は無かった…と思えましたし、またソレは確実に俳優陣の演技の質の高さに依るモノだとも思われました。個人的にまず印象が強かったのが母親役のジュディ・デイヴィスでしょーか。息子に対して実にアンビヴァレントな感情を抱いて(そしてソレを押し殺して)居る様子からは、率直に実に非常な見応えを感じられました。そして主役のケイレブ・ランドリー・ジョーンズについては、こちらも全編において実に相反する人間性(=無邪気さと、そして底知れぬ悪意とゆーか)を併せ持つ犯人を見事に演じ抜いている、と思ったのですが、コッチはオーラスのシーンがまた非常に印象的でしたね(何故彼は凶行に及ぶ直前に、あんな哀しい目をして店員に「ありがとう」と言ったのか)。演技面の出来としても(意外なマデに)観て損は無かったと思えましたですね。 【Yuki2Invy】さん [DVD(字幕)] 7点(2023-03-02 19:02:26) (良:1票) |