25.ネタバレ タイトルからして人はその人生を主体的に生きることが前提になっているのが分かります。主人公は母親のいる病院の火事(1940年なので空襲ではない)で周囲の止めるのを振り切り現場に駆け付けますが、救うことが出来ませんでした。即ち子供的万能な主体性は傷つきますが、二年後、疎開した際、美しく若い新しい母親(夏子)に出会い、魅かれながらも彼女を性的対象にすることを許されず、決定的に無気力になってゆきます。しかし、彼の行き場を失った自我は喧嘩の傷を自傷の形で追加します。これは多分復讐と呼んでも良いでしょう。或いは主体的に生きることが出来なかった負の紋章とも考えられます。もしかしたら、この辺り革命を叫びながらも社会を変えられず鬱屈していった団塊の世代の思いの表現かも知れません。
ですが、その後新しい母親が異世界に誘い込まれるのを目の当たりにして性的な部分でないところでの関係性が構築できると考えた主人公は彼女を救う冒険に旅立ちます。様々な困難を乗り越えて夏子に会うことが出来ますが、これを可能にし成功を保証するのがアオサギ男です。異世界のガイドですね。冒険の途中、火を使う少女と出会いますが、彼女こそが実の母親、久子の若き日の姿でした。ですが、この辺りちょっとボーイズミーツガール的な雰囲気で微妙な感じです。作品の最後に別の時間帯に続く扉を開けて異世界を後にする二人ですが、久子は主人公を明確に自分の子供と認識しています。
さて、ここからがよく分からない所ですが、その久子はどうして入院していたのでしょうか。作中の若い久子に見ているとその後何があっても健康を害するようには見えません。それに火を使う能力を持った彼女が火事で死んでしまうようなことがありうるでしょうか。実は、主人公が継承することを放棄した世界の制御を彼女が行うことになったのではないかと思いました。でも、そのために病院を燃やすほどのイベントが必要なのかなとも思います。神隠しで充分だろうと。
あと面白いと思ったのが、食べられてしまうという危険です。ユーチューブで、獲物を狙い待ち伏せするチーターが後ろから来たライオンに捕食されるシーンを見ました。生きることは死を前提にして初めて意識されます。病気でも事故でもない、捕食される事が最も唐突な死です。食べられる可能性を示すことで生きることの意味を更に強く表現しようとしたと思われます。実際、主人公が吊るされていた調理場には人間のものと思われるしゃれこうべなんかも落ちていたような。
後、鳥についてもコメント。アオサギってペリカンの一種らしいですが、彼らはすごく脳みそが軽いらしい。食うしか考えてないのね。その点、インコは賢いらしい。鳥類ではカラスと双璧をなすくらい。鳥って恐竜の直属の子孫ですから本来強力だし、かっこも良いんです。最後の最後にインコの王様とか結構いいキャラ出してきて宮崎さんの底知れぬ創造力を感じました。
なんか、色々訳の分からんことを描きましたが、あの宮崎監督の新作を観られた事がうれしい。そして、人々のその時々に見せる表情や歩く時の膝の角度とか土のへこみ方とかそんな細部の拘りがこの年でようやく分かるようになり見入ってしまいました。彼の作品のすごいところは登場人物の多さ、そして、その沢山の命にいちいち来歴が感じられること。昨今はアニメ映画全盛の感ですが、やはり少しばかり格の違いを感じました。 【たこのす】さん [映画館(邦画)] 9点(2023-07-23 23:33:09) (良:1票) |
24.すいません、私にはちょっと意味が分からな過ぎました。背景とか説明してもらえたら、何か深い意味に気が付けるのかもしれません? 【よしふみ】さん [映画館(邦画)] 5点(2023-07-23 20:50:01) |
23.タイトルで損してますね。正しくタイトルをつけるなら「マヒトの不思議な塔」という感じでしょうか。 評判が悪い理由がわかりません。逆に悪く言って客を増やそうという作戦なのか。 いわゆるいつもの宮崎駿節全開の映画という感じです。 千と千尋の系統が好きな方には面白いかと思います。 ラピュタやカリオストロを期待するとちょっと違うかな。 まあ、ネタバレをしない宣伝戦略なのでこれ以上は書きませんが、 逆に引退作の「風立ちぬ」が一番宮﨑映画ぽくなかったから、自分っぽい映画を作って やっぱり最後にしたいという感じだったんでしょうか。 【シネマファン55号】さん [映画館(邦画)] 7点(2023-07-23 12:45:57) (良:1票) |
22.時間とお金の損をしたと思える映画は久しぶりでした
偉い監督だからといって何をしてもいいという訳じゃないです おごり高ぶった駄作の代表といった印象です 難解であることが高尚だと思っているのでしたら二度と作品を作ってほしくないです 晩節を汚したかったのでしょうか
良い点 冒頭の作画はきれいで良かった キムタクが上手かった
悪い点 主人公に全く共感できない 印象に残るキャラ、セリフ全くなし インコの作画手抜きにもほどがある ワラワラあざとすぎる 【ぐりこ】さん [映画館(邦画)] 0点(2023-07-22 17:02:27) (良:4票) |
21.少し唐突な印象も残るくらいにあっさりと映画が終わった。 その時点で、とてもじゃないが言語化はまだできておらず、一抹の戸惑いと、何かしらの感慨深さみたいなものが、感情と脳裏を行き交っている状態の中、少しぼんやりとエンドロールを眺め見ていた。 すると、「作画協力」として、今やこの国のアニメーション文化を牽引する錚々たるスタジオの名前が整列するように並んでいた。 他のアニメスタジオが作画協力に名を連ねること自体は、さほど珍しいことでもないのだろうけれど、スタジオジブリ作品、そして本当に宮崎駿の最後の監督作品になるかもしれない本作のエンドロールにおけるその“整列”には、何か特別な文脈があるように思えた。
そしてはたと気づく、ああそうか本作の「真意」は、クリエイティブの極地に達した創造主からの、新たな創造主たちに向けたメッセージだったのだなと。
宮崎駿、その想像と創造の終着点。 そこには、彼がこの世界に生まれ落ち、いくつもの時代を越えながら吸収してきた数多のクリエイティブの産物で溢れかえっていた。 彼が吸収したものが、いくつものアニメーション作品の中で具現化され、一つ一つの「世界」となって、積み木のように積み上げられていったことをビジュアルによって物語っているようだった。 そしてその世界は、「崩壊」という形で、時を遡って、何も生み出していない無垢な自分自身に継承される。それはまるで、クリエイターの根幹たる魂が「輪廻」していくさまを見ているようだった。
宮崎駿が生み出した「世界」そのものは、創造した自分自身の手によって崩壊という終焉を経て、無に帰す。 ただし、同時にそこからは、色とりどりの無数のインコが飛び立っていく。 この色とりどりのインコたちこそが、エンドロールに名を連ねた新世代(ジブリ以降)のアニメスタジオであり、新たな創造主たち(=クリエイター)を表しているのだろう。
“声真似”をするインコを用いたのは、どこか“ジブリっぽい”アニメ作品を量産しているクリエイターたちへの皮肉めいた批評性、というか明確な“イヤミ”もあるのかもしれない。 その一方で、宮崎駿自身がそうであったように、先人たちの数多のクリエイティブを吸収し、真似て、発信しようとするプロセスは、必然であり、正道であることを暗に伝え、激励しているようにも思えた。
あらゆる側面において、極めて意欲的な作品だったと思う。 ただ、本作においいて、宮崎駿というクリエイターの本質とも言うべき“支配力”や“エゴイズム”が、全盛期同様に満ちていたかというと、そうではなかった。 クリエイティブという活動そのものの性質や限界を考えると、それは至極当然のことだろう。 むしろ、クリエイターとしての限界のその先で生まれた作品だったからこそ、本作はそれに相応しい「崩壊」や「終焉」をエモーショナルに描き切ることができたのだと思う。
創造と崩壊、巡り巡ったその先に、君たちはどんな「世界」を創るのか。 様々な解釈はあろうが、それは、「夢と狂気の王国」築き上げ、積み上げ続けた一人の狂気的なクリエイターの、決して優しくはないが、力強いメッセージだったと思う。 【鉄腕麗人】さん [映画館(邦画)] 8点(2023-07-20 12:47:44) (良:1票) |
20.描きたいものを、描き込んだ。そう、思いつくまま。 既視感のある画が多いがグレードを上げたかったのだろう。
ストーリーをもっと深堀したい ・戦争が個人に与える影響「風立ちぬ」 ・異世界が現実とリンクして存在する(死後の世界)「ほぼ全作」
シーン(画にこだわりたい) ・鳥って遠くから見ると美しいけど、じっくり見るとキモイよね(生物描写)「ほぼ全作」 ・紙切れがまとわり付くの痛々しくしたい「千と千尋」 ・水上の石を渡るシーンもっと見たい「カリオストロ」等々
つまり、話したい事と見せたいものがメインストーリーと上手く噛み合わず 母を助ける話が世界の秩序を守れ、いや、やっぱり守らんで良し(←ここがショボイ) と、画と話、あとタイトルとのバランスの悪さが、難解に見えるのだろう
私はアオサギが正体を現すまでの前半がとても面白かった 崎を﨑と変えた監督の処女作(これからは好きにするぞ!) というメッセージが響いた。
何を言われようが次回作にも期待してまっせ! 【カーヴ】さん [映画館(邦画)] 7点(2023-07-20 10:45:48) |
19.宮崎駿本人が「よくわからん」って言ってるんだから、第三者にわかるはずがないだろ!
ということで終始よくわからない映画でした。色んな伏線が投げっぱなし状態。 元々あまり細かいところは説明せず、勢いで突き進むのが宮崎アニメの良さですが、千と千尋の神隠しぐらいまではその「よくわからない点」も勢いで全て押しきれてた気がするが、ハウルの動く城ではよくわからない点が気になって話に集中できなくなってる状況が増えたなぁという印象です。話の流れがいまいち面白みに欠けるので、よくわからないところが目について気になってしまう。 それと同じ事が本作でも起きています。ゆえに満足度はハウルの動く城と同じ感じ。 ところどころ面白い点、素晴らしい作画が目を引くが、話全体としてはつまらないなぁという印象。
そりゃまぁ色々考察はできるんですよね。自分ですら概ねよくわからんシーンにもこじつけ的な解釈は付けられます。 でもそのほとんどが関西のノリみたいに後ろに「知らんけど」と付けて話すような話しか無いと思います。だって本人がわからないって言ってるんだもん。
なのでこの映画は作った本人ですらいまいちよくわから話を、考察好きの人が色々考察という名の妄想を膨らませたり、ユーチューバーの飯のタネ向けの映画なんだろうなと思います。 特に後者の人にはありがたいだろうなぁ。1つの題材で何本でも動画が作れるから、飯のタネが空から降ってきた感じでしょうね。 結局エヴァみたいに「作った本人はそこまで考えてないと思うよ?」って内容の考察を自分で考えたり考察動画を漁って楽しめる人なのかどうなのかが、この映画を楽しめるかどうかの分かれ目かと思います。
知らんけど 【みーちゃん】さん [映画館(邦画)] 5点(2023-07-20 10:06:02) |
18.ネタバレ 予告も宣伝用の映像も画像もあらすじすらも出さず公開というのは思い切ったな、と。まあ昨今、異常なまでに事前に内容をバラしてしまう手法が多いので見ないようにするのが大変でしたが、それをしないで済んだので新鮮なまま触れられましたし良かったです。 舞台は戦時中で戦闘機の工場を経営する父と疎開する主人公眞人。そこで父の再婚相手で母の妹ナツコやお手伝いのばあや軍団に出会ったり、敷地内を探索していて大叔父が建てたという廃屋のを見つけたり。その日から不思議な体験をするようになり人の言葉を喋る謎の青鷺に導かれ下の異世界へ。 作画はとてもキレイだし流れからして「あー、ジブリだねえ」と思わせましたが下の世界に行ってから「これ駿の物語なんだな」と思いました。老いた宮崎駿である大叔父が「残された時間はわずかだ」と若い宮崎駿である眞人にジブリの世界を引き継がせようとする。しかし、眞人はそれを拒否しナツコたちと共に元の世界へ全力で帰る。「宮崎駿のジブリは終りだが俺は自分の人生を生きる!」ってとこでしょうかね。 観客へは庵野も似たようなことやってましたが下の世界の墓の門に刻まれていた「我ヲ學ブ者ハ死ス」という警告が効いてた気がする。いつまでも虚構に溺れてないで現実世界に戻り「君たちはどう生きるか」ってことか。でも、そういう見方をしなくてもエンタメとして十分楽しめるのは力量の凄さなんだろうな。まあこれで最後というのもどうなんだろう。もう一発行けるんじゃないのか宮崎駿82歳。 【ロカホリ】さん [映画館(吹替)] 7点(2023-07-19 23:05:07) |
17.ネタバレ どんな映画か全く分からずに、それも映画館で観る、これが意外に面白かった。安心のジブリ印だし。劇中で普通ならジャンプスケアがありそうな場面でビクビクしてしまったが、ジブリなので当然そんな心配はいらない。
そしてジブリが得意な日常の描写、詳細なディテール(←重複表現)がしつこーーーーく描かれる。何の話か分からないからそのディテールに目が行ってしまう。おそらくこの映画は最初から情報を出さないプロモーションで行く企画で作られたのだろう。もしかしたらディテール表現をこれでもかと詰め込むために作られた映画なのかもしれない。
キャラクターはどれも練られていて、声優陣の演技も秀逸。キムタクもハウルと同じくジブリでは良い演技で、実はあれが素の実力だとしたら実にもったいない。
その「キャラクター」が、良く出来てはいるのだが既視感がある。生真面目で熱い少年、きっぷのいい姐さん、万能の少女、憎めないセコいヤツ、自分ではなんにもできない普通の中年男女、自らの限界を知る孤高の老人、そして異生物のような老婆・・・。いわば人間を性別と年齢で切り分けたスターシステム。昔からそうだが宮崎駿は80歳超えてまだそういう世界の見え方なのか?
世間的に評価が高いが自分はすごく苦手な、あのヌトヌトとした食べ物描写、そのぶしゃぶしゃした喰い方、そういう質感も含めて宮崎駿の集大成的作品ではあるんだろうね。大風呂敷を思わせぶりに広げたあげくクルっと丸めてはい畳みましたーという展開も嫌いじゃない。主人公の空虚さも品があって好感が持てる。君たちはどう生きるか、俺はこう生きたぞという自作戒名発表的作品なのかも。
全体的には好きだしストレートなエンタメ作品として人にもおすすめできるが、音楽だけはいただけなかった。思わせぶりなミニマムな楽曲。これがどう展開するのかと思ったら同じものが何度も、けっこうな頻度でかかる。久石譲がお疲れなら別の人に頼んだら良かったのでは?エンドロールの米津玄師の曲も本編との繋がりがピンと来ないし、手書き風フォントにするのは良いとしてバックを青にする意味がわからない。本編が詰め込み過ぎなのにラストのラストが放り投げというのはいかがなものか。 【tubird】さん [映画館(邦画)] 7点(2023-07-19 22:00:26) |
16.ネタバレ 個人的には事前情報を徹底してカットした今回のアプローチはとても良かった。 鑑賞後に物足りなさを感じたのは事実だし、人に勧めたくなるほど面白い訳でもなかったが 上映開始に至るまで完全にベールに包まれている映画の鑑賞というのは、 めったに出来るものでは無いし、このドキドキ感を味わえただけでも良い経験が出来たかなと思う。 前述した通り、事前情報無しがこの映画の良いところの一つなので 未鑑賞者はこの先で述べるネタバレ感想は見ないことをおすすめする。
※ネタバレ感想 「異世界に迷いこみ数々の試練を乗り越え、精神的に成長して現実世界に戻ってくる」 こういった筋書きはジブリだけで見ても、既に「千と千尋の神隠し」と「猫の恩返し」でもやっているが このテンプレートでしかない安直な構造の物語を、何と宮崎駿の最終作でもなぞっている、 もっと端的に言えば時代背景と登場人物を変えただけの千と千尋のセルフコピーのような印象すら覚えてしまった。
この既視感によるマイナス要素を除いたとしても、そもそもこういった異世界を舞台にした物語は 荒唐無稽な展開が許されてしまうし、いくらでも話の折り合いが付けられるため 見ていてあまりのめり込めず、自分はどこか白けて見てしまい、 登場人物に感情移入したり、作品世界に没頭したりといったことが出来なくなってしまう。
物語にこそ馴染めなかったが、異世界の描き方については宮崎駿の健在さを感じさせてくれた。 死生観を感じさせる荘厳さと、夢の世界かのような珍妙さ、そして不気味さがない交ぜになり 奇想天外でユニークだった、まあこれも千と千尋の良いところをそのまま挙げたようなものなのだが…。 【勾玉】さん [映画館(邦画)] 6点(2023-07-19 17:49:51) |
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15.ネタバレ 時は戦時中。東京に父と住んでいた主人公の少年・眞人は、家から離れた病院に入院中の母を火災で亡くし、父子ともども田舎に移り住むこととなる。彼らが到着した駅には、人力車に乗った身なりの良い女性が待っていた。眞人にとっては新しい母親だという。その場でいったん父と別れ、緊張の面持ちで女性と新しい家に向かう眞人。やがて大きな屋敷に到着、眞人はその中を案内される。すると…。
本作は広告宣伝一切なしのまま上映を開始した。ネットを見ていると物語のネタバレこそないものの、参加キャストやスタッフの名前をあちこちで目にするようになった。「そのうち物語のネタバレも不意に見てしまうかも」。そうなる前に観てしまおうと決意したのであった。ちなみに宮崎監督の長編作品は『風立ちぬ』以外視聴済み。
本作については、宮崎監督のエンターテインメント観と人生観の総決算を見せられたという印象を強く持った。
物語の構成は『千と千尋の神隠し』そのものだ。主人公は新しい環境にどちらかといえば後ろ向きで、ひねくれたところもある。やがて巻き込まれる非日常の困難に能動的に立ち向かい人間的に成長、最終的に日常に戻っていく。監督の過去作『ルパン三世カリオストロの城』『天空の城ラピュタ』『崖の上のポニョ』などを彷彿とさせる場面や演出が頻出し、まるで過去の宮崎作品の名場面集、もっと言ってしまえばセルフパロディのようにも見える。
物語の最終目的は「さらわれたお姫様を救い出す」、これも宮崎作品の典型だ。今回はお姫様ではなく新しい母親であるために動機がやや弱く感じられたし、異世界でも唐突かつ理解しきれない展開があったが、それを各々の世界観のアクの強さと丹念な演出、そして圧倒的な作画の力で観客に半ば強引に見せきってしまう作りは宮崎にしかできない芸当だ。前述の名場面も含め、これまで宮崎の後継者と目される他の作り手たちが表層的模倣にとどまっていた宮崎的描写を自らの手でやってのけて「どうだ! これが俺だ!」と高らかに宣言しているように僕には思える。
世界をコントロールする大叔父様の姿からは、未来永劫新たな世界を描き続けたい宮崎自身の願望が感じられた。世界をコントロールするツールであった積み木が最後に他者の手によってあっさり壊されてしまうところからは、「やっぱり人間は有限であり、永遠の世界作りはできない」と外部からの情報によって現実的な考えに軌道修正したのではないだろうかと想像した。
ここからはスタッフやキャストについて思うことを少し書きたい。
まずは絵作りの中心を担うアニメーターについて触れなければならない。超絶作画で作品を支えた作画監督や原画マンたちの何と豪華なこと! 作画マニアが見たら鼻血が出そうな豪華メンバーだ。現在のアニメ、特にテレビアニメはとにかく大勢の作画マンの人海戦術によって何とか形になっている印象があるが――厖大な制作本数に対してアニメーターが不足している、作画作業の分業化によって仕事がスムーズに回らなくなりそれが悪循環を引き起こしている、制作期間が短いなど原因はいろいろあると思われる――本作は極めて密度の高い画面が比較的少数精鋭で作り上げられている。制作環境が整えられていたのだろう。
特に中盤までのピアノ独奏が印象的だった音楽は宮崎作品の常連・久石譲らしくなく、今回は誰が音楽担当だったんだろうと思っていたらエンドロールに久石の名があり驚いた。かつてミニマルミュージックを得意としていた久石の面目躍如だろうし、同時に新境地ともなったのではないだろうか。
キャストは相変わらずの非声優陣。キムタクが声をあてる情報は前もって入ってしまっていたが、どのキャラクターを演じているかがわかったのは中盤以降であり、それ以降も特に違和感を感じなかった。他のキャストも熱演していたと思う。
最後にちょっと尾籠な余談を一つ。本作の上映が始まって一時間くらいからは尿意(と便意)との戦いだった。列中央の席に座っていたし通路が暗くて一度出たら二度と戻ってこられそうになかったのでどうしようと思いながら観ていた。思い切って出ようと腰を浮かせたら尿意が少し治まったので、両肘で体を支えながら背もたれを使わない姿勢で観続け何とか最後まで持たせた(両隣は空いていた)。余韻なしではぁはぁ言いながら館内から出たのは初めてで、前を歩いていた女性を小走りで追い抜き痛い視線を感じながらトイレにスッと駆け込んだのだった。
帰り道の車のアクセルをいつもより少々強く踏みがちだったのはその余韻か、他の車が走っていなかったためか、はたまた作品に心動かされた余韻か、今となってはわからない。 【はあ】さん [映画館(邦画)] 8点(2023-07-19 16:57:07) |
14.ネタバレ いろいろ言えそうだけど、私には「シン・ラピュタ」に思えました。空から降ってきたのがシータではなく死んじゃったお母さんだったら(しかも若き日の)、という話で、二人で冒険して最後に一緒に世界を救う決断をする、という。アニメ界の後輩たちに「宮さんパンツ取れ」と言われ続けて、最後の最後に「自分はロリコンではなく、筋金入りのマザコンなのです」と80オーバーの老人がパンツ脱ぐ話。幼き頃からいろいろ楽しませてもらいました。そして今回も。ありがとうございます。 【みげる】さん [映画館(邦画)] 9点(2023-07-19 13:48:55) (良:1票) |
13.ネタバレ ■初回上映時に劇場から出てきたお客さんにワイドショーかなんかがインタビューして、感動のあまり泣き出してしまった青年の画像がネットで出回ってたけど、私はまさにあの状態になってしまった。劇場前にカミさんが迎えに来てくれてたのだけど、車に乗ってカミさんに「どうだった?」と聞かれたとたん、ボワーっと涙があふれてきて、次に「え?どんな話だったの??」と聞かれて、「全然分かんない…」と答えるのがやっとだった。 ■イマジネーションのオンパレードに圧倒された、という感覚は、千と千尋にも匹敵した。あれが80のじいさんの頭の中から出てきたという事実に、全く打ちのめされた。 ■尻切れトンボ感は各所で指摘されているけれども、怒涛の折り畳みからプツっと終わって、真っ青な画面で米津を聴かされる、ってのは、何にも整理できなくて心がぞわぞわさせられたままで、それが泣いた原因の一つだとも思う。 ■ブログやYouTubeで考察を見るのが大好きなのだが、その意味では私にとってこれほどおあつらえ向きの映画もない。どこそこの場面は何とかという絵画や映画がモチーフで、という指摘は実に勉強になるし、今作は日本中のアニメスタジオから著名なアニメーターをかき集めて作ったそうで、彼らの作画への影響を論じるものもあって、大変興味深かった。傑作は、これはジブリの内情を表しているというもの。半ば都市伝説めいているのだけれど、真偽はともかく、それ自体がエンタメとして面白い。 ■さはさりながら、基本的には不思議の国のアリスなのだろうから、「説明不足」の類の批判は見当外れかと思う。その意味では意外と子供の方が素直に楽しめるのかもしれない。 ■母や義母の描写が、今までの宮崎作品にはないほど艶めかしかった。考察によれば、それは外部アニメーターのアイデンティティの発露、という意見がある一方、齢八十にしていよいよ宮崎翁がリミッターを外してきた、という人もいる。今作から「みやざき」の「ざき」の字が別字になったらしいから、シン・ミヤザキとして、後者であるのだと思いたい。 【麦酒男爵】さん [映画館(邦画)] 8点(2023-07-19 10:46:28) (良:1票) |
12.かつて数々の賞を獲得した宮崎駿のアニメ作品の 完全な崩壊に、図らずも立ち会ってしまいました。
彼がこれまでに描き出してきた創造力と深遠な物語が全く感じられず、 人間の心に響くテーマの欠如が明らかでした。
私にとっては、可能性、夢、魔法が一瞬で消え去ったかのような経験でした。 【煮タマゴ】さん [映画館(邦画)] 3点(2023-07-19 01:56:40) (良:2票) |
11.ネタバレ これ、本当に宮崎駿監督が集大成として監督した作品なのか疑ってしまった。 難解なストーリーを補完する情報が不足していてとても不親切(観客置き去り)、登場キャラの完成度がイマイチ(特にセキセイインコ)、たまに画のクオリティが低い場面があり、冒険活劇としてもドタバタ感はあるがハラドキドキしない凡庸なストーリーで盛り上がらないし感動のシーンも最後までなく、かなりガッカリ。(とはいえ、さすがと思える人物やアオサギの細かな動きも随所にみられるので、これは宮崎駿&吾郎の合作なのかもしれない。) ちなみに、冒頭の火災現場に少年が駆け付け、炎の中を母親を探して走る画風はゲド戦記の粗い作画を思い出したけど、ここは吾郎さんのお仕事でしょうか? 「君たちはどう生きるか」とあるが、この作品はそんなことを私たちに問いかけていない。この説教臭いタイトルを海外公開では変更するらしいが、タイトルに思い入れがないなら、初めからもっと映画の内容に沿ったものにしたらよかったのに。。。
また、作中には過去のジブリ作品で見た事のある場面(キャラ、景色、構図等)が色々差し込まれていて、「クイズ。元の作品はなんーんだ?」的な仕掛けがあり(これも集大成の一つなのかな?それともネタ切れ?)、意味の分からんストーリーを追いかけるのに必死なこちらは、既視感のある場面やキャラ登場の都度、思考が一時停止する。
更に致命的なのは登場人物達に魅力がなく、誰にも感情移入もできないという状態が最後まで続く。いったい誰を応援したらいいんだか…。その上、あらすじを知らないからこの物語の着地点が分からず、どこがゴールで今どのくらいゴールに近づいているのか分からないので盛り上がらず、ただただスクリーン上で展開される場面を追いかけていたら唐突に終わっちゃった感じで、「えっ、うそ、終わり???」で?が3つほど付きましたね。
それから、今回の宣伝を一切しないというのは観客に対してとても不誠実だと思う。今のご時世、映画鑑賞料金はとても高い。上映される作品を楽しみにして、その作品を観るかどうかを決めるのは観客であり、そのためにはある程度の情報は開示すべきだと思う。 お手本にしたと噂の「スラムダンク」とは事情がまったく違うのだ、ということを理解していないのだろうか? 今回のジブリの興行手法には疑問を感じると同時に傲慢さも感じる。イヤなら観るなという事だろうか。 【リニア】さん [映画館(邦画)] 3点(2023-07-18 22:14:16) (良:2票) |
10.ネタバレ まず、御年82歳の巨匠が自らの集大成を総括した作品に対し、10点満点(もしくは5点満点)で採点すること、そしてこのような「考えるな感じろ」的な作品に対し、感想を文字化し可視化することが極めて無粋である事と知った上で、あえて書かなければならない。そうしないとこの作品を見た意味すら見失ってしまいそうな、そんなつかみ所の無い作品だったから。自分への覚書のようなものとして、書いておこうと思う。 ネタバレ厳禁をここまで徹底する要素が、果たしてこの作品にあったのか否かは疑問。あくまでも戦略だっただけのように思う。そもそもネタばらしをしようにも、あらすじなるものを簡単に言葉で語り継げるようなストーリーをまず持っていない。とりあえずは「感じろ」と。しかしその次の段階には、登場する全ての物に何かしらの意味が隠されている事を「考える」こととなる。メタファーにつぐメタファーの連続。そして過去作品のセルフオマージュの連続。この、メタファーとセルフオマージュの連続が、一見取り留めのないものの羅列として、退屈を感じさせてしまうのかもしれない。この作品、実は、感じろ、ではなく、考えろ、だった。 全ての鑑賞者の数だけ、解釈の数がある。監督の持つ戦争観、死生観、男女の在り方役割分担、アオサギとは、ペリカンとは、インコとは、そして13の積み木と跡継ぎ問題、産屋へ入ることが禁忌であるということ。 この作品に限らず、監督は常に、生きろ、と言う。生物は生きているか死んでいるかしかない。死んだ者は、食べられるか埋められるかしかない。生きている者は、生きるため産むために殺生をすることがある。イレギュラーケースとして、生きるか死ぬかの基準の中には存在しない行為、自分の頭を石で殴った自傷行為の事を彼は「悪意」と言う。彼が負傷のために刈上げた頭で真剣に武器を作る姿は、デニーロのタクシードライバーを思い出してしまった。捕らえられた女を救出するために命を懸ける男の話だ。男が女を守り、女は子を産む。この古臭い男女の役割分担という考え方が、現代では禁忌、ストレートには表現できないタブーとなっている。メタファーという鎧で自分を守りながらでないと表現出来なくなり、そのために分かりにくい面白くないと評価されるようになってしまう表現者。13の積み木(ゲド戦記を含む13作品)を積み終わった後は、許されるのであれば悪意の無い跡継ぎにこの場を渡してしまいたい。言葉をしゃべるが中身のないインコみたいな無責任な不特定多数の群衆どももいるこんな世の中だから、最新の注意を払って、自分と自分の周りの大切な人を守って、生きていかなければならないんだなぁ、と。どのように生きるか、という監督からの設問への、これはあくまでもほんの一回答、です。 【ちゃか】さん [映画館(邦画)] 8点(2023-07-18 15:51:56) (良:2票) |
9.ネタバレ 事前広告一切なし、公開されているのは、ポスター1枚のみ、ネット口コミ、メディアレビュ一切なしの状態で鑑賞。 ほんとにフラットな状態でみたのですが、本当に退屈でした。 リアルとファンタジーどっちつかずで、全く物語に入り込めない。 塔の世界はメタファーなんでしょうけど、深く考えて、「そういことか・・・」とわかったところで、つまらない。 80歳を迎えた監督が作る作品なので、一度見ただけでは、解釈が難しい作品になるのかと、 予想と期待はしていたが、深く考える意味があるのか。。。いや無駄だ。わかったところでおもしろくない。 もう一度見ようとする気にならない。 作品の中でタイトルと同名の本がでてくるが、どういう意図でだしたのか。。。 自分が影響を受けた本を作中に残したいという意図ならダサいと感じてしまった。。(違うと思うが) エンディングに入った時の作品に対する満足感は、ゼロ。 「よくわからない」じゃなくて「つまらない」が正しい。 【へまち】さん [映画館(邦画)] 3点(2023-07-16 16:51:33) (良:3票) |
8.映像は綺麗なんだけど、ただそれだけの映画。 感情移入できず、ストーリーが凡庸で ただただ退屈な映画でした。 ナウシカやトトロ、ラピュタなどを期待せずに観るしかない。 絶賛している人もいるが、裸の王様状態かな。 とにかく今まで見た映画の中でもストーリーはワーストクラスです。 宮崎駿監督は「火垂るの墓」の爪の垢でも飲んでください。 【SHOGO】さん [映画館(邦画)] 1点(2023-07-16 03:38:43) |
7.ネタバレ ジブリの新作、今日から公開だよと教えて貰って行ってきました。 空襲の中、主人公が駆けていく画のレベルが高くてびっくり。 話し的には色々詰め込み過ぎてしまって、考えながら観ると置いて行かれてしまうかもしれません。 結局、この世界観が好きか嫌いかの映画です。 大監督も晩年は哲学的になってしまう傾向にあり、痛快娯楽作を期待してしまうとガッカリだと思います。 【ぶん☆】さん [映画館(邦画)] 6点(2023-07-15 23:25:24) |
★6. ネタバレ 主人公・眞人は、父親が軍需工場関係者で、戦時下においては極めて裕福で恵まれた環境、おそらく甘やかされたボンボンであろう。 貴重な食事も「おいしくない」。継母の夏子にはなじめず、自傷により学校で暴力を受けたかのような偽装をするような「悪意のある」少年である。 しかし、眞人は結局、危険を犯しながら下の世界に乗り込んで、行方不明の夏子を助け出す。夏子からは(本心の叫びとも言える)あんたなんか嫌い、との罵声を浴びても、結局「夏子お母さん」と呼ぶまでに精神的成長(社会的順応?)を遂げる。
ところで「君たちはどう生きるか」という吉野源三郎の本は、作品中に書籍として登場するが、本作のストーリーとは関係ない。(「風立ちぬ」や、「君の名は」でもそうだが、勘違いを引き起こすから、題名だけの借用は、やめたほうがよいと思う) 母親に贈られたこの本を読んで涙していたことから、感銘を受け「自分はどう生きるか」を自分なりに考え、なにかを決意したことは、したのであろう。アオサギと友達になったことも一つの成長か。 ただ、単なる「眞人君の成長物語」であれば、なにも戦時中というどぎつい時代を選ばなくても良かったのではないか。
この映画が、鑑賞者の我々に「君たちはどう生きるか」と問いかけているかというと、そのようには、思えなかった。主人公のおかれた状況があまりにも我々の日常とかけ離れすぎて、むしろ「同感力」が追いつかないというのが本音だ。 むしろナウシカやもののけ姫のほうが、強いメッセージ性を持って「君たちはどう生きるか」と問いかけていた。
大叔父が石の積み木の力で支えている異世界は、都合よく、最後に滅んでしまう。バルス! 主人公家族は、焼夷弾の降る危険な東京ではなく、終戦後の東京に帰る。経済復興の予感だ。
あえて宣伝費用を削り、「予備知識無しで見るべき」と秘密のベールを醸成して私のような「ネタバレをネットで見かけるまえに早く鑑賞せねば」と焦る観客を動員した手腕は、商業的には成功している。 グッズ販売の売上に貢献しそうなキャラクターである「ワラワラ」や、キモかわいい7人の老婆のお守り等も作り出し、この作品は、私に「君たちはどう売るか」をむしろ問うている。 【チェブ大王】さん [映画館(邦画)] 1点(2023-07-15 17:55:11) (良:2票) |