5.《ネタバレ》 ロボットアニメなのにレイバーの活躍は僅かで、騒々しい特車二課第二小隊の面々を、前作以上に脇役にして、両隊長を事件の中心に置いてます。もともとがOVA版『二課の一番長い日』のリメイクともいえる作品です。そこから更に押井テイストが前面に出た本作。観はじめは「私たちが知るパトレイバーらしくない」…って感じもしましたが、観ているうちにグイグイ引き込まれてしまい、最後のレイバー戦すら不要だったんじゃないか?って思えるくらい、見応えのあるSFアニメでした。
この映画のハイライト、幻の空爆が凄いです。平和ボケと言われた当時の日本で、かつて無いヤバい事が起きてるのがビシビシ伝わってくる。追撃に上がったウィザード隊が撃墜された時の衝撃。映像はF-15の編隊が飛んで、管制室と交信しているだけ(!)なのに。無機質なデジタル映像と、淡々とした登場人物のセリフ。場面にマッチした川井慶次の音楽。それら素晴らしいマリアージュが、あの何とも言えない緊張感を産み出したんですね。 ここはビデオテープが擦り切れるくらい何度も観ました。今回初めてサウンドリニューアル版も聞きましたが、俗にいう“素人バージョン”の方が伝わり具合が上回っているように感じます。 ※最初リニューアル版で観ようとしましたが、オープニングに曲を被せたりと、ちょっと違和感を感じたので、結局オリジナルバージョンで通し観しました。 この場面で荒川が急に車を飛ばします。ここから物語の勢いが急加速するので、今まで考えたこと無かったけど、荒川はどこに向かったんでしょうかね?まさか、首都圏から逃げたとか?後藤と南雲はどこに連れて行かれて、そこで何を見たんでしょう??今になって謎が生まれました。
当時の状況を思い出すと、湾岸戦争を機に、自衛隊がついに海外派遣('91年~)を始めたばかりで、OPの“戦場で発砲できずに撃墜される自衛隊レイバー”に、妙な説得力、リアルな未来を感じました。そしてベイブリッジ爆破、たった一発のミサイルで崩れ去る安全神話と繋がるから、実被害ゼロの幻の空爆に緊張感があるんですね。野明が暮らす寮にアジア系(ブラジル系?)の外国人。同じ屋根の下に外国人って、当時はまだ珍しかったんですよね。そして日常世界に武装した自衛隊が居る違和感。映画の中の架空の物語ですが、数年後にこの映画のような緊張感を現実に味わいます。地下鉄サリン事件('95年)で表面化したオウム事件です。都市部での毒ガス散布の脅威、破壊活動防止法。毎日の報道特番を観ながら、悪い意味で時代がSF映画に追いついたような、不思議な怖さを感じましたね。
どういう訳か、作品全体から冷たい印象を受けますよね。冬が舞台なのと、パトレイバーらしいアツい登場人物の出番が抑えられてるから…というだけでなく、なるほど、登場人物同士が、意図的に目を合わせてないんですね。 並んで正面(同じ方向)を向いていたり、人物の横顔を見ていたり。実際には向き合っている場面でも、話し相手を反射するガラスに映したり、敢えて顔を見切れさせたり…押井さんの実験とも取れますが、徹底してます。そして最後、しのぶが柘植に手錠を掛けたあと、無言で見つめ合う二人を映します。それをヘリから見る後藤。どれだけ思っても、しのぶがあの表情を後藤に向けることはない。手袋越しとはいえ、指を絡め、少しの時間でも一緒に居るため手錠の片側を自分に嵌めるしのぶ。ある意味普段のパトレイバーらしい気持ちの行き違いが、押井さんの抑えた演出により、大人の恋愛の切なさを感じさせます。 【K&K】さん [映画館(邦画)] 10点(2024-12-19 23:29:48) (良:1票) |
4.《ネタバレ》 魅力的なキャラクター、圧倒的なリアリティ(レイバーをのぞく)、深いテーマ、美しい画面、場面を引き立てる音楽、甘美なまでの台詞回し、そして何よりもこの映画がすばらしいのは、押井監督の恐ろしいまでの先見の明。
この映画の後に起こったのが、地下鉄サリン事件、そして9.11。 さらに北朝鮮のミサイルという脅威にさらされている今、10年以上前に公開されたこの映画は、我々に『新鮮な恐怖』を与えてくれる。
そして、その思想が正しいか誤っているかは関係なく、ただ犯人を逮捕するという、愚直なまでに警察官という職務に(職業ではなく)忠実である主人公達。「正義の味方」をこれほどまでに英雄視せず、くさくも安っぽくもなく描いた映画があっただろうか。
シリーズ未見でなければ、非のつけどころがない映画。僕はこれが押井監督の最高傑作だと思う。 |
3.《ネタバレ》 ログインネーム登録する前もこの名前で投稿してたんですが 久しぶりにこの映画を見たので再投稿します。 もう何回となく見てる作品で私にとっては「繰り返し見れる数少ない映画の1つ」です。 なんか1部思想の合わない人達には酷評されていますが(笑) 間違い無く1度見て損の無い作品だと思います。
この映画が10年以上前に封切られた事実もさる事ながら「日本という国の実体」を2時間という枠の中でここまで描き切った作品は皆無でしょう。 それは10年経ったこの現在、現実において切実な問題として表に現れつつ有ります。 国家としての「体」を成して来なかった日本。 いや、それを見せ掛けながら擬似国家として「成立、継続してしまっていた」日本。 今でもそれに気付いて無い人がこの国にどれだけ居るのでしょうかね。
劇中それを「知らしめる方法」と「その方法論」を 押井、伊藤の両氏が激しく、痛烈に掛け値無しに観衆へぶつけたからこそこの傑作が生まれたのだと思います。 私は是非いま10代20代の若い人に見ても貰いたい。 それだけの価値は有る作品です。 【一般人】さん [映画館(字幕)] 10点(2004-04-30 17:28:13) (良:1票) |
2.日本は本当に平和で安全な国だろうか。「平和」「戦争反対」を呪文のように唱えているだけ、TVで嬉々として最新兵器の威力を語り、勝手な戦略を予想し、同じ口で戦禍の悲惨を訴える…全ての時代に人間社会が普遍的に行い続けている「戦争」をブラウン菅の向こうに閉じ込め、目を背けているだけだということにすら気が付いていないのではないか。本作で提示された「戦争」という特殊な状況だけでなく、社会のあらゆる場面において「見えているけど見ていない」「知っているけど分ろうとしない」ことが当たり前になっているのではないか。柘植や荒川や後藤たち登場人物によるドラマ、押井監督と伊藤和典氏が観客の前に抉り出したものの重さは実に悪辣である。しかしこのことから目を背けてはならないのだと思う。エンターテインメントとして成立しながら観客の感性にドス黒いしこりを残す本作はやはり傑作と言うべきであろう。 【ぶくぶく】さん 10点(2003-05-04 12:45:49) (良:1票) |
1.今更なんですが何度も見直せる映画って言うのは非常に少ないのですよね 練りに練られた脚本と場面設定 一見実写で撮れそうな人物の表情も良く見れば決して現実では有り得ない、つまりアニメーションでなければ作り得ないと言う事を作り手が熟知して作った作品だと思います。不満は無い訳では有りません、ほどんど特車二課の面々は今回付け足し程度しか登場せず、しかもバッチシステムのウィルスプログラムの場面などは観客になんの予備知識も無く投げ付けた様な感じが有ります。この辺は何とかならなかったのかな?とも思いました。また内容の重さから言ってもこれは10代の子供向けと言うよりは完全に大人向けのつまりパトレイバーとはあくまで別体でも作り得たフルオリジナルム-ビーと言っても良いのでは無いでしょうか?TVオンエアや漫画しか見た事の無い人はこのパトレイバーに相当面食らった事でしょうね。ともあれこの映画の封切りが20年前なら果たして映倫通っていたかどうか。。。そのぐらいにきわどくしかもこれだけの内容を2時間という枠へ見事に納め切った押井、伊藤コンビの最高傑作である事は間違い無いでしょう。 【一般人】さん 10点(2003-02-03 02:29:05) (良:1票) |