《改行表示》 9.《ネタバレ》 「本当にトイレ掃除やってるの?」「お父さん昔みたいじゃないし施設に会いに行ってあげて。」という意味の妹のセリフや平山の行動から、昔例えば進路などへの家庭内の干渉に反発して、家庭を持ち普通の生活を営むことを放棄し、孤独で自由な生活を選択したのではないか。彼の中ではその点時間が止まったような部分があるが、生きている以上日々時間は経過して行くし、他人との関係や喜び、驚きもそこここに存在する。そういった人生に彼は満足しつつもいくばくかの後悔、そして諦念もある・・・という感じなんだろうか。 6~70年代の渋い選曲の音楽、堅実な演技の三浦友和が出てたのも個人的には好印象、平山程の悟りには程遠く世俗の中で苦闘する今風若者を演じた柄本時生もよかったと思う。石川さゆりはわずか1分ほどの歌唱時間にもかかわらず心に残る流石の歌声の張りと艶。彼女を知らない外人観覧者からすると単に「ママ歌うめえなあ」、なんだろうけど日本人からしたら演歌の女王なんだからそらそうよ、とある意味贅沢な起用ではと感じた。まあ兎に角本作ではセリフも極端に少なく単調なシーンも多い中2時間余、ここまで引きつける役所広司の演技は大変見事でしたとしか言いようがない。 ドラマチックなストーリーの娯楽作品とかではないので少し観る人は選ぶか。 【クリプトポネ】さん [映画館(邦画)] 8点(2024-01-28 11:43:01) (良:1票)(笑:1票) |
8.《ネタバレ》 T、O、T、O、トト便器…。明けても暮れても、来る日も来る日も便所掃除。そんなベンジョンソンな毎日のオイラ。こんな仕事だけど、仕事は仕事。後輩が呆れるくらいに全力投球なオイラ。そんなオジキの姿にゾッコンな姪っ子。だけど、妹には蔑みを通り越して憐れみの眼差しを向けられて、何だか哀しくてちょちょ切れちまう。住まいは風呂なしのぼろアパート。細やかな楽しみは銭湯と缶チューハイと就寝前の読書。まるで必殺仕事人。だけどやっぱり我が人生、ちょっぴり物足りねえ。念願の妻はさゆりちゃんでキマリじゃい。秘めた想いとは裏腹に、多くを語らねえ便所掃除職人の仙人道。何の保証もない、賞与もない、職歴にもならねえ仕事。とても真似できねえしやってらんねえ。だけど、良作。 【獅子-平常心】さん [映画館(邦画)] 7点(2023-12-24 02:19:43) (良:1票)(笑:1票) |
《改行表示》 7.それまでの人生はきっともっと尖っていて、人と衝突したり毒づいたり、理不尽な思いをしては腐ったり、女性といい感じになったり別れを経験したり、普通にいろいろあったんだと思う。そして何かをきっかけに(リストラとか会社の倒産とか、そこは本題ではないので何でもよいのだが)みんな煩わしくなっちゃって、無駄なものを出来る限り削ぎ落として、今の完璧な日々、過不足のないパーフェクトな生活形態を編み出したのだと思う。それは究極にエコな生活だ。 カーステから流れる音楽がそのままBGMになり、作業服の背中のプリント「The Tokyo Toilet」の文字がそのままオープニングロールになっているようなところも、エコだ。主人公の生活にも作品そのものにも無駄がない徹底ぶり。 主人公平山は寡黙で孤独な都会の住民。仕事の日のルーチンと、休みの日のルーチン、この2パターンを使いこなして日々を終える。 平山のルーチンは実は他者のルーチンでもある。毎朝目覚めを誘う竹ぼうきの音は、路上を掃くおばあさんのルーチン。トイレに隠された三目並べ勝負も見知らぬ誰かとのひと時のルーチン。毎日通う銭湯と飲み屋では、同じ言葉で迎えてくれる店主のルーチン。公園でいつも遭遇するOLとの無言のあいさつ。休日に通う写真屋、古本屋、スナック。他人のルーチンが自分のルーチンになり、自分のルーチンが他人のルーチンに組み込まれていく。全く別の世界に生きる他人がさりげなく交り合ってる。 時に他者の乱入や、突然の退出によって、そのルーチンが乱れることもあるが、それをやり過ごせばまたいつもの日常が戻って来る。 ラストシーン、BGMはニーナシモンの「Feeling Good」。鳥も太陽も風も木も、私の気持ちを知っている。新しい日が始まる。最高の気分。自分はこの生活に満足してる、満足しようとしている。本当にこのままでいいのか?変わらないものなんてないんだ。孤独も不安もあるこの気持ち、木も風もお見通しだろ。 【ちゃか】さん [インターネット(邦画)] 8点(2025-04-02 15:58:37) (良:1票) |
《改行表示》 6.《ネタバレ》 自分自身の日常を、ああ、これでいいんだと思わせてくれる映画。 毎日の繰り返しの中に心の平穏や幸せを感じられる。そしてそこには親しい他者は入ってこないから、その日常が脅かされることはない。 相棒の若い奴が急に辞めてから、その生活のリズムが一日、わずか一日狂うだけで、平常心ではいられなくなってしまう平山。わかるなあ。 あんな暮らしをしてる人は、大抵何か背負ってるんだよ。それを全部見せないのも良かった。 スナックのママとはどうなるのかな。深い仲になってしまったら、もう今までの平穏は失われてしまうけど、彼はどちらを選ぶのかな。そんな悲しいことを考えてしまったが、何にも起こらないのに、2時間という長さを全く感じさせない映画だった。 ただね。 日本人は妹を抱きしめてハグなんてしないんだよ。 そこはちょっと物申したい所だったかな。 でも、いい映画だったな。 【roadster316】さん [インターネット(邦画)] 8点(2025-02-04 13:55:57) (良:1票) |
《改行表示》 5.《ネタバレ》 特にこれといってドラマチックな展開があるわけでなく、ただただ淡々と進んでいく。毎日同じことの繰り返し。休みの日もほぼ同じ。そんな決まったルーティーンの中にたま~に予期せぬ出来事が舞い降りてくる。その時にチラッと現れる普段とは違う姿。「人間」ていう生き物をここまで的確に、かつリアルに描ききった演出にはただただ恐れ入りましたの一言です。多少の違いはあったとしても主人公平山は、ほぼごく普通に働いている人達の写鏡であり、わたしたちそのもの。何のために生きているのかふと疑問に思うこともあるかもしれないけれど、そんな哲学こそ日々の中に潜んでいて、それを心地良く感じながら共存していくことが完璧な日々、パーフェクトデイズなのかも...。 寡黙な作品ではあるけれど、その実、多くのことを語っている作品でもありますね。 主人公の職業をトイレ掃除に設定したのは恐らく、汚いものを綺麗にすることで心が浄化されていく...そんな意味合いがあったのかな。 ちょっと脱線しますがよくその会社が優良企業かどうかはトイレを見ればわかる、という話を耳にしたことがありますが、たしかにそうかもって思った。だってトイレって一番汚れる場所だし綺麗にしてもまた汚れる。だったらそこまで丁寧に掃除しなくても...ていう考えにもなるし、どうせ従業員しか使わないならそんなに気を使うこともない...てなってそこまで掃除しなくなる。つまり会社のために働いてくれている従業員の人たちに対するリスペクトの気持ちがそこまでない会社、てことになっちゃいますよね。気持ちよく働いてもらいたいっていう気がない。そんな会社を優良企業とは言えないですよね。 不特定多数の人たちの使う公衆トイレを綺麗にするのって、そう考えると縁の下の優良企業であって、自分自身を誇れる事の出来る仕事でもあるんじゃないかと。はい。 ただ一つだけ難点を言わせてもらえるならば、平山の担当する公衆トイレが最新式でめっちゃお洒落で綺麗な点かな。そこがなんか救われている気がしちゃって、誰もやりたがらない嫌な仕事に見えにくくなっちゃってるかも。まああれか、世界に日本のトイレの「美」を見せたかった狙いがあったのかもしれませんね。だから芸術性はアップしてますね確実に。リアルに汚いトイレを見せるよりは。 この映画を観て私自身の中の汚れも多少は綺麗になれた気がします。良い映画をありがとうごいました。 |
《改行表示》 4.《ネタバレ》 ヴィム・ヴェンダースさんという人は本当にドイツ人なの?観終わった後に脳裏に過ぎった感想のひとつです。和の心を知っていると言うか知り尽くしている。小津監督への長年にわたるリスペクトの結晶とでも言いましょうか、少々煮え切らなさを感じないことはないまでも非常に居心地の良い作品でした。 主人公演じる役所さんの表情や仕草による演技は素晴らしかったです。台詞に頼らない存在感。清掃会社の担当者への苦情以外にはストレートに感情的な台詞はないに等しい。にも関らず全編通じて語り続ける。流石です。 主人公の背景、生い立ち、過去といったものは殆ど語られない。それなのに日々のエピソードを通じて少しづつ明らかになっていく素顔。実際にはストレートに明らかになることはないのですが、観客がそれぞれの主観をもって想像するに足る材料を投げかけてくれています。私も自分なりに解釈し、反芻し、疑問と納得がないまぜになりながらも満足して観終えることが出来ました。 終始具体的な説明なしの寡黙な作品は多々ありますが、本作は寡黙ながらも大いに語りかけてくれる秀逸な作品でした。これまでどう生きて来たか?そしてこれからどう生きて行くか?今のままがいいのか?答えなんかありませんね。 【タコ太(ぺいぺい)】さん [インターネット(邦画)] 9点(2024-12-28 16:17:09) (良:1票) |
《改行表示》 3.《ネタバレ》 幸せってどこにでも転がってて、幸せって人それぞれで、だからこの世界って面白いなぁって思う。 ひと(他人)と同じ幸せを追い求めなくても良いし、ひと(他人)と持っている物を比べなくても良い。 でもね、あの人(主人公)だって同僚が突然仕事を辞めた時のように、 時間に追われて疲れ果てて寝るだけの生活になったら自分の幸せを見失うよ。 (彼はちゃんと自分でそれを分かってたから良いけど。) 空がきれいだったり、雲や木漏れ日が面白かったり、川のせせらぎが美しかったり、 この世には心を動かされる楽しいことがいっぱいある。 みんな致死率100%だから、みんなそれまで楽しめばいいと思う。 ゼロか百かじゃないし、百にたどり着けなかった人はゼロと言うわけじゃない。 自分の生きた証を他人に見せつける必要はない、と思う。 【ジャスミン】さん [映画館(邦画)] 8点(2024-01-01 00:20:30) (良:1票) |
2.監督や出演者から大方想像できることだが、大人の映画だった。より正確に言うなら中高年の映画か。まだその域ではない自分は、例えば三浦友和の「なんにも分からないまま(人生)終わるんだな」みたいなセリフも漠然としていて共感には至らずで、なんだかこの映画の良さを半分も受け取れていないのではないかと感じたりもしたが、観て損をしたとは全然思わない。主人公・平山の小さな幸せも、後悔も、つまりは…笑いたくなったり、泣きたくなったり、そういうのはずっと共存していて、それが人生の真理だと思うわけで、そんな日々をパーフェクトデイズと表現した監督はなかなか心憎い。 【リーム555】さん [映画館(邦画)] 7点(2023-12-31 10:44:44) (良:1票) |
《改行表示》 1.《ネタバレ》 小津安二郎を敬愛し、生前の出演俳優のドキュメンタリーを撮ったこともあるヴェンダース初の邦画作品。 平坦なトーンで劇的な展開がないのに飽きずに見せる。 築50年近くの安アパートから一日が始まり、公衆トイレの清掃員としてルーティンワークをこなし、 ささやかなことに喜びと幸せを見出していた寡黙で孤独な男が、 姪の来訪と少しずつ近づく終焉の数々に、その"満ち足りた日々"が崩れていく不安を感じ始める。 彼の過去に何があったのかは分からない。 公衆トイレの設備にきめ細やかな手入れを行うプロとしての誇りとストイックさに敬意を覚えるくらいであり、 自由を謳歌している浮浪者に慈しみを感じながらも、実は過去に向き合えず逃げ続けていただけなのか。 彼の穏やかで急ぎすぎない生き方に憧れても、どこかで「本当にそれで良いのか?」という疑問を抱く。 充実しながらも後悔しているような、達観もしているような心の機微を役所広司が体現する。 人生に上下はないかもしれない、間違いのない選択肢などないかもしれない。 見えていないだけで主人公のような人生を送っている人たちが近くにどこかしらにいるのだろう。 せめてやりたくない末端の仕事を誰かがしていることに感謝の気持ちを持ちたい。 【Cinecdocke】さん [映画館(邦画)] 8点(2023-12-29 00:41:05) (良:1票) |