7.映画は、人の心を動かすためにある。その点は、音楽や絵画や写真などの芸術と同じ。自分は、いま、どんなふうに心を動かされたいのか。どんな精神状態を味わいたいのか。あるいは、どのように心を動かされるのが好きなのか。それによって、どんな映画が琴線に触れるのかが違ってくる。だから、もし、この映画をつまらない映画だと感じたなら、この映画の目指す方向が、その人の味わいたい精神状態の希望に合っていなかったということだ。この映画は、どんな人が観るべきか。普段から人間の行いや心のドロドロとした部分にうんざりしていて、ハッピーエンドの映画を観て一時的に幸せな気分になれても、またすぐに辛い現実に影響されて鬱になりやすい。悲観的な傾向があって、人とワイワイ騒ぐのは面倒なような性格。そんな人が、ずしりと暗いストーリーを心に迎え入れつつも、映画全体を貫く音楽と独特の描写手法に酔いたい。酔って、暗い気持ちを幻想的な雰囲気の中に溶け込ませたい。そんな人にぴったりではないかと思う。そういう、ちょっと心に傷のある人を、うまく酔わせてくれる、酒のような映画だ。確かに、雄一を苦しませ続けた星野は雄一自身によって殺されるが、それは正義の味方が悪者を退治するような、単純な「ハッピーエンド」ではない。あのシーンのあとも、人間の心の闇の部分に対する絶望がずっと尾を引く。だから、ハッピーエンド系の映画が好きな人には薦められない。映画全体を貫くあの音楽と、少し空想的な表現技法がうまい「酒」となっている。あれがなかったら、「酔う」こともできず、評価の厳しい映画になっていただろう。しかしながら、人間の世界の悲しい面ばかりを突きつけるためだけにこの映画があるのではない。自慰を強要されてもおとなしく従ってしまうような雄一も、自分の内面世界を踏みにじられるようなことをされては我慢ならなかった。リリィ・シュシュのライブ会場での、星野の心ない行いのことである。命令されて、女子を強姦予定の倉庫に案内までしてしまう雄一であっても、自分が大切にしている精神世界の中まで汚されてはたまらなかった。そんな、どこか一本筋の通った人間の心というものに目を向けたい。こんなに荒んだ世界でも、それぞれ、心の中では、みんな何か大切にしているものがある。それを尊重できれば、我々の世界は何か変わるのかも知れない。この映画の悲愴に酔ったあとは、そういう希望も少しは感じたいものである。 【アキレス腱】さん 8点(2002-09-15 13:22:05) (良:2票)(笑:1票) |
6.今朝観たばっかりで、まだまとまらないですが、良かった。今の14歳かは分からないけど、私の中学時代はあれに近かった。大人は、子どもは毎日学校に行って普通の暮らしをしていると思っているかもしれないけど、子どもにとって学校は毎日が戦いの場で、私はそれを最近忘れてきてたんだなあと思った。私自身、その中で最低限の誇りはなんとか捨てずにやってきた。いや、捨てかけたこともあったかな。星野はきっと、その最低限の誇りを奪われてしまったんだと思った。いじめられて、彼の中で、何かが崩されてしまった。好きだったくのさんの前で、不良たちにあざ笑われるシーンはつらかった。彼の中では構図ができていたんだと思う。不良>自分。自分は、社会で一番劣った人間なんだっていう。その構図から逃げるために、彼は人をいじめるしかなかった。それが、彼が傷つけられたプライドを取り返す、唯一の手段だったのだ。今、若者たちが荒れてるのは、希望がないからだと思う。明確な価値観とか、そういうものが消えて、文化もへったくれもない地方都市の一生徒でしかない自分に、みんなが辟易しているんだと思う。だれでも特別な唯一の自分でいたいのに、そうでない現実がある。だけど、リリイは、それを慰めてくれる存在ではないと思った。絶対に。だって、いくら音楽に没頭したって、自分がその音楽を作っているわけではないし、リリイは、実は彼らの痛みを増幅させているに過ぎないからだ。リリイがウケる時代、というのは分かる。でも、リリイがウケない時代というのを、私は作りたいと思う。14歳の若者に迫ろうとした監督はすごいと思う。迫った、という点では迫真の映画だった。 【雨の日は】さん 8点(2003-06-24 13:55:10) (良:1票)(笑:1票) |
5. 映画館で当時見た時は多くの方がおっしゃられているように放心状態でした。瞳孔が開いてしまったようなショックがあったのを覚えています。イジメられた経験がなくても、思春期の方や大人でも中2病の方、もしくは心に闇を持つ人には打撃が強い映画ですね。心身の保障致しかねます。 今回、それ以来の鑑賞でした。録画保存しようと思って改めて見たものの、観賞後すぐに削除してしまった・・・。打撃は当時と同じだったのですが、もう二度と見てはいけないという自己防衛が働き削除しました。削除したものの、中毒性が強いので放送したらまた見てしまうかもなぁ。 これは禁断の映画です。なので私も1点にしようか迷いましたが逆にパワー点献上しときます。 【movie海馬】さん [地上波(邦画)] 8点(2010-05-24 04:10:25) (良:1票) |
4.《ネタバレ》 ●本作を見て「ただ不快なだけ」とか「全然リアルじゃない」という感想を抱いた方は、幸せな学生時代を送ったのだな、と思う。確かに本作のイジメの描写は、多少やり過ぎの感はあったにせよ、あのイジメが行われている時の空気感はうまく出せていたと思う。あの、早く抜け出したいのに抜け出せない、逃げ出したいのにいつまで経っても逃げ出せない、あの不安と絶望。聞こえてくる嘲笑。とてつもない屈辱。小学5年まで、ずっとイジメに遭ってきた自分は、それらは比較的リアルに再現されているなと感じた。●劇中で、イジメの描写以上にリアルだなと思ったのが、イジメに対する担任の対応。「犬伏君はもう学校には来たくないそうです。これはクラス全員の責任ですよ。今からクラス全員で話し合って下さい。」ハァ?ですよ。こんなもの時間の無駄。追いつめられた人間が登校拒否や自殺、あるいは麻薬にはまったりするのは、心に自分一人では抱えきれない、どうする事も出来ない重みがあるからだ。それを「クラスで話し合って解決しろ」だと?その重みをたかが話し合いで軽く出来るとでも思ってんのか?それでアレか、クラスで話し合って、ごめんなさい、ハイいいですよ、よし解決って寸法か?担任の教師たるものが彼らの重みと対峙させる手伝いを彼らにしてやらなくてどうする。適当に言っときゃ何とかなるだろ、これで私の仕事は終わりでっせ、てな根性がミエミエ。教師ってのは公務員である前に「『人』を扱う仕事」なんだぞ?キレてんじゃないか?●ラストシーン、音楽室で蓮見が久野と二人きりになるシーンに、絶望の中にかすかな希望を見たような気がする。劇中で、唯一リリィを聴いていない、すなわち現実逃避をしていない登場人物が久野である。彼女は辛い現実と対峙するだけの強さを持っている。決して逃げたりしない。蓮見が彼女と同じ部屋で二人きりになる事は、蓮見が彼女と同化すること。つまり同じくらいの強さを身につけたという事だ。彼もいずれリリィから卒業していくだろう。●この点数でいいのかどうか、現時点では分からない。本作はラース・フォン・トリアーやタランティーノの映画に見られるような、余韻にジワジワと脳が少しずつ侵食されていく映画。そうして少しずつ魅力が分かってきて、自分の中で高いポジションを持つようになってくる。上品な言い方をするなら、これから熟成させて作り上げていく、ワインのような映画かな。 |
3.《ネタバレ》 援助交際とかイジメとか万引きとか親の離婚とかレイプとかは、別にそれである必要性はなかったんだと思う。なんだって良かったんだと思う。私自身を振り返ると、中学生って、自分の身に起こったことを生まれて初めて自分ひとりで受け止めた年齢だったと記憶しています。岩井監督が描きたかった14歳のリアルは、その「初めて」があまりに耐え難いものだったとしたらという仮説なんだと思います。だから仮説が具体的に何であるかはどうでもよかったんだと思う。神様(=岩井監督)に弄ばれる少年少女。もう少し大人だったら上手い受け止め方とか自分なりの結論が出せるんだけど、まだそんなことができるほど器用じゃない。逃げ方も分からないし解決法も思いつかない。ただ必死で藻掻くけれど何処にも辿り着けない、そんな苦しさを描きたかったんじゃないでしょうか。あのエンディングは、二人がそれぞれの結論を出して次に進む決意をしたことを意味しているんだと思います。二人に拍手を送りたいです。 【キュウリと蜂蜜】さん 8点(2004-11-11 20:27:58) (良:1票) |
2.私も少なからず、この映画を観終わってから腹を立てたものですが、 その苛立ちがそのまま映画への不満ではありませんでした。 この映画のリアリティを語れるほど、私は現代の中学生の実態を知らないし、 強烈なイジメにも遭遇したことはありません。 織り込まれた暴力やレイプなどのエピソードはステレオタイプな印象を否めないし、 一時期流行したTVドラマの焼き直しのようにも感じられます。 けれどどこか、身に覚えのある痛みが呼び起こされる。 思い出の全てに音楽が貼り付いている、若い時代を振り返るように。 私たちは繰り返しの中で生きて、麻痺していることに無頓着でいられる。 ニュースで聞きかじった事件にすら麻痺し、映画の中で暴力やレイプを 目の当たりにしようとも「ステレオタイプだ」と切って棄てられるくらい。 目新しさのないイジメの中には、そんなメッセージが込められているように感じます。 スクリーンにタイピングされるメッセージは、顔のない私たちの言葉。 誰もが無責任に、言葉を投げて去っていく。この映画への感想だってそう。 そこには観客に向けて突きつけられた悪意があって、映画を不可侵にしたい 監督のエゴがちらつく。しかしそれさえも計算なのかもしれないと思わせるほど、 ラストの田園風景の空は高く、美しい色だった。 【337】さん 8点(2004-05-20 06:32:41) (良:1票) |
1.《ネタバレ》 スワロウテイルに続いて重要な役を与えられた伊藤歩と、今回大抜擢された蒼井ゆうのヒロイン2人が、最高の演技をしてくれています。その他の配役も、ズバリはまっていると思います。特に、フジTVの阿部アナを起用したセンスに+1点です。さて、この映画を観た後に、原作を一気に読破しましたが、原作では津田ではなく久野が自殺をします。しかし、映画化するにあたりそれを津田に変えたことは、大成功していると思います。津田の天真爛漫に見える外面と、やり場のない孤独感に満ち溢れた内面とのギャップが色濃く出ていて。彼女を観ていると、すごく「人間らしさ」を感じるのですよ。また、綺麗な田園風景と過酷な現実、というギャップも見事だと思います。世の中、とかく綺麗な上っ面ばかりに目が行きがちですが、その裏側では誰もが汚れながら、もがきながら必死になって生きているんですよね。そこの部分を、真正面から描いているからこその「リアル」なのだと思います。個人的には、星野の変貌振りが一番「リアル」でした。とにかく「痛い」映画です。余談ですが、最初リリィの歌を聞いた時に、UAが歌っているんだと思ってしまいました。 【なおてぃー】さん 8点(2004-01-28 21:59:44) (良:1票) |