《改行表示》 12.黒澤の時代劇が娯楽大作なら、これは時代劇サスペンスと言えるような作品。 お話はそのほとんどが武家屋敷の庭で展開されるという、まるで密室サスペンスのような作り。 あっと驚くようなヒネリやオチはないけど、仲代、三國の息詰まる心理戦、 緊迫感溢れる演技に引き込まれ、とにかく画面から目が離せない。 まさしくこれぞ役者!というような重厚な演技対決を存分に見せてくれる。 殺陣のシーンは今イチだが、この時代の武士としての体面や生き様などの描写も見所。 本当に面白い映画だった、という満足感を与えてくれるお薦めの作品である。 【MAHITO】さん [DVD(邦画)] 9点(2011-07-19 12:52:19) (良:1票) |
《改行表示》 11.《ネタバレ》 これを「重い」という向きがおおいですね。 最近の邦画作品と観客の鑑賞力双方のレベル低下を物語っていると思います。 本作は寧ろ「軽い」のだと思います。 状況とそれに由来する論理性をこれだけ図式的に徹底した劇もそうないでしょう。 (もっともそれすらおぼつかない奇をてらっただけの脚本が最近は多すぎますが・・・) 思考実験的ですらある設定と類型的なキャラクタ造形。 はっきりいって「デスノート」とかわりません。 逆にいえばそれこそが、本作が理知的だが「深み」にかけるゆえんだと思える。 最初に状況設定のポテンシャルでその後のコマ(登場人物)の動因をすべて まかなおうとする橋本忍らしい脚本だとおもいます。 本作は余計な要素をそぎおとして、フォルムとしてできるだけ簡素にしている ところが成功しておりその意味で美しく完成された作品だと思います。 (余計な要素は入りすぎて失敗したのが「砂の器」) 組織の問題性とか武士道の裏面とか、そんなテーマはお飾りにすぎない。 (そこらへんをもって「重い」と評するのは、映画になにか違うテーマ性を かさねあわせすぎだと思います) 本作は端的に非常に良くできた落語なんだと思います。 【ウンコマン】さん [DVD(邦画)] 9点(2008-04-15 00:19:16) (良:1票) |
《改行表示》 10.《ネタバレ》 いや、ホントに引き込まれるいい映画。白黒で古臭く、音響もほとんどない。でもまず脚本がうまい。回想でだんだんと真実がわかっていくのはホント上手。そして役者陣もみんな演技がうまい。 一応善悪はきちんと分かれているけど、ご家老によってきちんと事実がもみ消されてしまうのは「歴史は勝者が作る」にぴったり。家名の前には家臣もなんら意味を持たず「病死にしておけ」で終わりとは。 千々岩求女、最初と最後と全然違って見える。最初のはだらしない浪人だったけど、最後のほうは腰の座った人という感じが出ている。それにしても竹光で切腹は厳しい。痛そう。見てるこっちまで痛さが伝わってくる。多少しつこいし直接的描写だけど、あのぐらい描くからこそ悲劇性やその後の主人公への感情移入を容易にしているのであろう。 武士道はいろいろと本も出てて、いわゆる普通の武士道イメージと合戦の武士はかなり離れていたらしいが、そんな武士道の虚構性に着目していて、特にその中で切り捨てられていく浪人武士にスポットを当てている。「畳の上の水練」も、実際の合戦(だまし討ち、卑怯な手、はざら)と本の武士道(正々堂々)との差がよくわかる。津雲半四郎も最後はすべてを投げ打ってかかってくる。最後の殺陣はしつこすぎる感もあるけど、こうした思いを反映していると思えば納得できる。 この映画、カンヌでいい評価受けたらしいけど、やっぱり日本イメージを大きくねじ曲げたよね。やっぱ切腹シーン強烈だもの。 【θ】さん [DVD(邦画)] 10点(2007-07-11 20:24:58) (良:1票) |
9.大傑作でした。奥の深い内容と、緻密に練られた構成。それと効果的なカメラワークと演出。どれをとっても最高級。もはや文句の付け所のない大傑作。カメラワークに関して言えば、ローアングルや俯瞰ショットの使いどころは最高。さらに、カメラを傾けて心理的な感情を表現するところや、絶妙な照明の当て方も抜群にうまい。小林監督の映画は始めてみるが、相当なテクニシャンであると思われる。武士の情けと誇りが複雑に入り乱れる仲代達也と三国連太郎の駆け引きも絶品。ラスト30分からのチャンバラシーンは、それまでの緊張感たっぷりの展開から一気に解き放たれるだけあって興奮しまくり!!まだまだ褒めるところは一杯あるけれども書きつくそうでないのでこの辺に・・・。10点! 【ジャザガダ~ン】さん [ビデオ(字幕)] 10点(2006-08-19 17:09:07) (良:1票) |
8.《ネタバレ》 みなさまの評を読んでこれはと思い借りてみました。映画にかぎらず回想のなかから真実が立ち現れていくタイプの作品には名作が多いと思っていましたが、これは傑作中の傑作ではありませんか!脚本勝負で進行していた物語が、最後に渋い演出とはいえチャンバラになってしまったのがちょっと心残りですが、それをさっぴいてもあまりあるドラマ作りのうまさには昨日までこの作品のことを知らなかったのが信じられないほどの衝撃を感じました。この話にあっては善人たちのあまりの辛さに、普段ばかにしている勧善懲悪的なカタルシスを渇望してしまいました。しかし作り手がそうしなかったのは「作品のテーマを現在の我々のものとして肝に銘じておくべし」ということなのでしょう。このサイトのおかげでこんな名作に出会うことができました。文章が小学生になってすみません。それほどのショックでした。サイト管理者の方、それにこの作品を推しておられる全ての評者のみなさまに深く感謝する次第です。 【皮マン】さん [DVD(字幕)] 10点(2005-04-30 20:10:30) (良:1票) |
7.冒頭の若浪士の切腹までは淡々と展開するが、仲代達也扮する主人公がかの若浪士を「いささか拙者の存じよりのものでな」とひときわ据わった声で語り始めるところから、物語の展開がガラッと変わる。そこからは一気に引き込まれた。回想シーンで語られる主人公の主家没落から家族がたどる悲哀の末路には、本当に心が痛む。歴史の影にはこうした悲劇はおそらく無数にあったのだろう。今でこそ努力次第でチャンスはいくらでも開けるが、当時は身分や階層という絶対に乗り越えられない壁が厳然とあったのだ。それゆえに主人公が「所詮うわべだけ」と語る武士の誇りの空しさが一層心に響く。「切腹」という世界的にも特異な作法をキーワードに、本作はその武士の空しさを存分に描いている。若浪士が家族のために自分の差料を竹に代えていたことを知った主人公が、自らこれだけは、と手放さずにいた刀を放り出し「こんなもののために・・」と絶句するシーンが圧倒的に胸に迫る。それにしても、どの役者も腹の据わった力のある台詞まわしで、圧倒された。今の役者に、いや今の時代にない力を感じる。見終わって、いい時代に生れて本当に良かったと思う反面、人間としての強さとは、と考えてしまった。 【田吾作】さん 9点(2004-10-10 12:09:07) (良:1票) |
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《改行表示》 6.普段は構図とかカメラとかムツカシイことには疎いのだが、この作品に限っては最初から構図の美しさが印象的だった。井伊家の壮大な門構え、奥行きのある屋敷内の部屋などが直線的な端正さでもって描かれる。モノクロゆえ一層シンプルで際立っている。これはすでに言及されてるが切腹の庭でも同じ印象がある。話の運びも見事で説得力があり終始緊迫感を持って展開する。仲代達矢はじめ演じる俳優がまた素晴らしい。丹波哲郎などはこんなに 素晴らしかったのかと見直した。みな腰が落ちていかにも侍らしい構えと面構え。時代劇にありがちな聞きづらいセリフを言う者もない。とにかく全てが素晴らしいとしか言いようがない見事な時代劇。主家を取り潰され浪人となった侍は今で言えば倒産した企業のサラリーマンといったところで、しかも転職もままなら ないという困窮と悲哀は今にも通じるところがある。ここで家老のとった前後の処置は家名第一で、そのためには浪人はむろん家臣の命でさえ何ほどのものでもない。恐ろしいほどの見栄と残酷さが寒々しい余韻を重く残す。 【キリコ】さん 10点(2004-04-24 22:02:59) (良:1票) |
5.重いがおもしろいという傑作時代劇です。薄気味悪い鎧かぶとが表われる冒頭から、ただならぬ雰囲気を漂わせてくれた。しかも、喰うに困ったみすぼらしい浪人者が、切腹をしたいので庭先を借してくれという着想自体がおかし過ぎて引き込まれる。みなさんがおっしゃるとおり、橋本忍の先が読めそうで読めない筋書きが抜群におもしろく秀逸。(原作は滝口康彦) 監督小林正樹の力量のある演出はもちろんのこと、武満徹の不気味だが渋みのある音楽がこの作品を独特のものに仕上げている。《ネタバレ》この映画では仲代達矢(津雲半四郎)と三國連太郎(御家老)との会話のやりとりが見どころなんですが、個人的には、石浜朗演じる千々岩求女が哀れなてん末をたどる一連のシーンが強烈でしたね。うぐいすの鳴き声が聞こえる中、「ああ、夢のようだ」から一転して奈落の底へ。無念、残念、何という哀れ。介錯人の言う「ぐいっとひけい」「ぞんぶんにひきまわされい」などブラックユーモア調の台詞廻しに加え、津雲半四郎がニッと笑みを浮かべ「明日は我が身ということもある…」の皮肉たっぷりの世迷い言が何とも妙味。また、当時の武士社会の非情さと面目を絶対視する滑稽さ、そしてお家取り潰しとなった浪人の惨めさをもきっちりと浮き彫りにするあたりは、さすが小林正樹監督らしいと思います。 【光りやまねこ】さん 10点(2004-03-22 14:59:08) (良:1票) |
4. 知り合いでこの映画を絶賛してる人がいまして、「ラストサムライ」観た後だったので、本家日本の侍映画も観てみたいと思い、DVDを買いました。レンタルでも置いてないし。で、こんなにすごい映画があったのかと衝撃を受けました。「ラストサムライ」と比べるのもあれですが、ある意味対極にある映画ですね。殺陣がしょぼかったので-1点ですが。ズウィックは観た事あるのかなあ。黒澤以外にもこんなすごい時代劇があるというのを知って欲しいものだ。 【ロイ・ニアリー】さん 9点(2003-12-15 19:28:47) (良:1票) |
3.時代劇の面白さといえばやはり殺陣だが、この映画はシナリオに引き込まれる。明かされる真実、そして武士道の本質。こういう映画を傑作と呼ぶのでしょう。 【紅蓮天国】さん 8点(2003-10-12 23:53:30) (良:1票) |
2.《ネタバレ》 心に残る映画です。内容の重さもさることながら、画面の様式美といったものにも唸りました(皆さん「リアリズム」の面のみ言及されてますが…)。井伊家中庭のシーンは、整然とした人物配置が能舞台のようです。斬り合いの場面でも、井伊家の「井」の字をあしらった大屏風に家臣が「大」の字の形に倒れ込んで行くシーンがあります。例の「十字の構え」も、以上のようなシンメトリカルな形へのこだわり(笑)と関係するのかと思ってました。こうしたシンメトリカルな様式美は武士道のうわべを象徴し、それがラストの修羅場のような立ち回りで全面崩壊する、という演出かと思いました。それにしても三国のご家老の「ご政道の向きにあい馴れぬ新参の者ならいざしらず、その方のような分別盛りの者までが、なぜ分からぬ!」というセリフにシビれました(笑) 【冬扇坊】さん 10点(2003-08-06 10:02:53) (良:1票) |
1. 時代劇初挑戦の小林正樹監督にとって、橋本忍の脚本を得たことが成功の第一歩となった。彦根藩江戸屋敷を舞台に回想が入り乱れる怒濤のストーリー展開は並みのシナリオ作家には到底無理だった筈。石浜朗の若侍(千々岩求女)の竹光による悲劇的な死に様、リアルなお歯黒メイクの若き岩下志麻の熱演等見所も多いが、仲代達矢扮する津雲半四郎が丹波哲郎演じる沢潟彦九郎相手に見せるケッタイな剣法(胸の前で腕を交差させる)だけが何か浮いてしまっており、やや減点。ラスト、半四郎の大立ち回りで家宝である井伊家の赤備えを滅茶苦茶にされ、茫然となる三國連太郎演ずる家老・斎藤勘解由の表情がイイ。武満徹の音楽も秀逸で正に異色の時代劇。 【へちょちょ】さん 9点(2002-12-24 12:11:16) (良:1票) |