6.《ネタバレ》 記録か芸術か。監督の感性ほとばしる本作はもちろん後者の趣が強いでしょう。監督のタクトは勝ち負けに拘らずに、勝負に挑む人間の横顔をクローズアップし筋肉の躍動感を余すところなく伝えます。よくこんな近距離の画が撮れたなあ、と望遠レンズの威力に驚かされる映像であります。着地した時に跳ね上がる土と草、アベベの精悍な横顔。 構図も素晴らしいですよね。聖火が通る住宅地を上空から俯瞰したショット。民家の庭から見るロードレースの自転車の波は、あるいは森の奥からと視点を鮮やかに変えて、その色彩も相まって美しいです。 美しいといえばベラ・チャスラフスカ。彼女のあからさまな特別扱いにはちょっと笑ってしまいました。まあ彼女は別格、「世界の名花」ですもんね。 古い怪奇映画みたいな音楽や、デリカシーの置き所が今とちょっとズレてるナレーションはご愛敬。 大会関係者や観客らの様子もつぶさに拾っており、昭和当時の雰囲気を知るのにとても有意義でした。和服姿はもうほとんど見られず、でもかっぽう着は生き残ってる。制服制帽の小学生ら。一張羅と思われるワンピースを着た女の子。なにより、あの戦争の焼け野原から立ち上がり、アジアで初のオリンピック開催にこぎ着けるほどに復興を遂げた誇りや喜びといった熱を感じます。一人一人の表情の輝きはどうでしょう。 芸術作品の看板ではあっても時が経った今、本作はまごうことなき一級の、当時世相の「記録」であると思いました。 【tottoko】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2020-09-20 23:20:53) (良:1票) |
5.ネタバレ無くその競技を競技前から冷静沈着に見せてくれるので、結果を知らないレースや競技については競馬を見るような感覚で楽しく見れました。 (既に結果として有名な男子マラソンや男子体操団体や女子バレーは除く) そんな中で、ビックリしたのが、男子10000メートルの結末。 それと、女子800メートルの勝者の末脚。 この二つには驚愕いたしました。いやはや、凄い走りを見せつけられました。 それから、呼吸一つ乱れること無く安定の走りを見せたアベベという連覇の怪人。 以上、自分なりに記憶に残るシーンを羅列してみました。
その他のところで、各国選手団の入場のシーンですが、各国オリジナルの民族衣装を身に付け自国をアピールしながら入場行進してゆく中で、なぜかキューバ選手団だけ自国の旗ではなく日本の日の丸国旗を全員で振りながら笑顔で入場行進してるところになぜ?という疑問の念は全く無く、そこに平和の始まりを感じましたし、戦後の日本も努力の甲斐あって他国との親交と、こうして平和というものが目に見える形となって表れていってたんだなあという思いがいたしました。実際、とても素敵なシーンであっと思います。
そんな実質計170分ですが。自分は少し前にBS放送で放映された際、インターミッション後のチャドの物語に入ったあたりで睡魔に襲われ眠ってしまい、その後を見逃してしまってたので今回改めてDVDレンタルしたもので見直しました。ただし、今回目にしたものは計144分の(つまり22分が編集カットされた) ディレクターズカット版でした。ついでにご報告しておきますと あのチャドの物語は市川監督の意向により跡形なくバッサリとカットされていました それでよいのかどうだか答えは分かりませんが 私はそれでよかったのだと思います。あの小物語はどうしても余計だったように感じていましたものですから。(チャドさんには申し訳ないですが。) それに当初、計170分にもなってしまった実情といたしますと、記録映画という観点から競技種目全種目を収める事という縛りがあったようです。だとすると、この自分が目にしたディレクターズカット版、チャドの物語の他にどの競技のどのシーンがカットされているのはわかりませんが、競歩というマイナーな競技などはきちんと残してあったその編集には嬉しさを感じてしまいましたね。だって競歩だよ(^^;) 【3737】さん [DVD(邦画)] 9点(2014-03-22 21:13:13) (良:1票) |
4.《ネタバレ》 初めにお断りしておきますが、私はスポーツにはまったく関心がありません。ただオリンピックの記録映画だということだけで、見てみました。 色々な競技を次々と映していくので、そういう点では平板で退屈になるときもありました。しかしそこを映像的な工夫で補助していて、全体としては飽きずに見ることができました。特に印象的だったのは、女子ハードルと自転車競技。前者の、全走者を正面から捉えたショット、後者の自転車を流した撮り方、共通しているのはカメラを固定しているということでしょうか。スポーツの場合どうしても競技者の動きに合わせてカメラも移動するのが常でしょうが、そこを逆手にとったあたりがよかったと思います。競技者以外の裏方を映しているのも、大会全体を見せるということで成功していました。個人的には、こちらをもっと紹介してもらいたかったほどです。また、マラソンの給水場では、先頭走者以外のさまざまな様子が見て取れて興味深かった。こうしたところも、この映画の長所でしょう。このように、なかなか面白い見どころのある作でした。 1964年といえばまだ東西陣営で争っていた時代ということで、それを緩和するイベントとしてオリンピックが成り立っていたと思います。それはスポーツの政治利用という面もありますが、近年のようにオリンピックの場であからさまにナショナリズムを掲げることはなく、むしろそれを隠すことによって緊張をほぐすという、ある種の上品さが伺えました。そういう時代の記録としても、この映画は価値があると思います。 昨今のオリンピックはもっぱら商業利用が目的のようですが、おかしなナショナリズムに利用されるならば、むしろそちらの方が健全ではないかと思ってしまいます。 【アングロファイル】さん [CS・衛星(邦画)] 7点(2014-01-03 17:29:25) (良:1票) |
3.これはいろんなカメラマンが撮影したものを編集したそうだから、画づらに監督のタッチを見てもあんまり意味はないかもしれないが、聖火リレーのときの屋根瓦の構図はあれはどう見ても崑タッチだよね。800mをずっと回しながらワンカットで捉えたのもいい。とにかくスポーツ競技の結果への「興味のなさ」がよく、試合前の選手の表情や敗者の表情など、スポーツをする人間そのものへの興味に絞られているのが潔い。自転車競技の八王子あたりの牧歌的な風景、マラソンの甲州街道沿道も貴重な記録だろう。開会式はこのころはまだ簡素なものだった。これ以後テレビの時代になって記録映画というものも次第に意味をなさなくなり作られなくなったかわりに、式は次第にテレビ向きのウルサイものになっていってしまった。まだオリンピックが「スポーツの祭典」でしかなかった良き時代の記録にもなっているだろう。 【なんのかんの】さん [DVD(邦画)] 8点(2013-10-12 09:21:59) (良:1票) |
2.《ネタバレ》 驚いた。流石は市川崑監督だ!ちょいとそこらの記録映画とは違います。オリンピックの記録フィルムを撮るに至って、いきなり東京の街を破壊するというシーンから始まるのには驚かされる。オリンピックを成功させる為に何が必要か?それにはまずは競技会場の設置が必須条件となる。ということは何を意味するか?要するに全て壊した上で新しいものを作る。この発想、それを映像として残す。こんな始まり、誰が思い付きますか?オリンピックの映像となるとただ走ったり、投げたり、戦ったりとそういうシーンだけ映すのかと思わせて、この始まり。そして、この作品、当時のオリンピックに関わった人達の熱い思いが映像として迫ってきます。東京オリンピックを見たことのない私でさえも、当時の躍動する選手達の息使いや地元開催のオリンピックにかける精神のようなものがひしひしと伝わる。いやはや、市川崑監督が一流の監督であり、映像作家であることの証明している見応え十分の記録映画を観た思いでいっぱいになりました。 【青観】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-07-04 23:45:42) (良:1票) |
1.「民族の祭典」を越えていますよ。カラーになっているのもあるけど、美しさが際だつし、何と言ってもマラソンのアベベが黙々と走るシーンはゾクゾクします。 【オオカミ】さん 8点(2003-12-02 08:47:31) (良:1票) |