6.さすがは「ブレードランナー」の脚本家だけあって、バイオレンスの皮をかぶりながら効果的に哲学を語っています。主張自体は「人を殺すことに正義もへったくれもない」というありがちなものなのですが、それをSFアクションや西部劇といった舞台でやってしまうのが巧いところ。こうした目の付けどころの良さ、またアンチテーゼをやるにしても、王道を理解した上で、それを丁寧に解体していくというジャンルへの愛情があることにより、ただの変わり種に終わらせず、正当な西部劇の系譜の中で語られる作品となっています。。。出色なのは憎まれ役たる保安官で、多くの修羅場を経験してその名は広く知れ渡っており、無法者が溢れる時代に街の秩序を守るべく時に手荒な手段も辞さない、そして家族はなく職務にのみ生きているという設定は、通常の西部劇であれば正義の執行者として描かれるべき人物です。荒っぽいところはあるものの、街の平和を守るという目的のための手段として逸脱した行為をとっているわけでもなく、「物語をどの視点から見るのか?」という点において憎まれ役となっているに過ぎません。他方、主人公ウィルは正義とは正反対の人物です。「なぜ殺したのか覚えていない」という殺人まで犯してきた人物であり、彼が生きながらえ、家庭まで持っていることを許せないと考える人は多いはず。そんな極悪人であっても、観客は彼の視点から物語を眺めることでウィルに愛着を覚えます。つまり正義とは多面的であり、その姿はどの視点から眺めるかでころころと変わってしまう脆弱なものです。一方で人を殺すことは「そいつの過去も未来もすべて奪い去る」絶対的に確かなものであり、曖昧な正義を振りかざして人を殺すことがいかに横暴なことかをこの映画は説きます。ウィルは賞金の対象となっているカウボーイの一人を殺しますが、彼は娼婦の顔を切り刻んだ男ではなく、それを止めようとした男でした。事実を知っていればウィルはこのカウボーイを殺さなかったはずですが、無知や誤解によるものであっても、殺した後にその行為を取り消すことはできません。それが人を殺すということなのですが、ウィルはその虚しさを知っているにも関わらず保安官を殺しに行きます。そんな彼の背後に映る星条旗を見た時、大勢の敵がいる酒場にたったひとりで乗り込むウィルの如く、これはイーストウッドが覚悟を決めて作った映画だと確信しました。 【ザ・チャンバラ】さん [DVD(吹替)] 8点(2009-12-21 16:25:10) (良:6票) |
5.ラストガンマン---言ってしまえば夢の無い映画だ。目にも留まらぬ早撃ちで悪役を次々と撃ち倒す、そのようなヒーロー像はこの映画によって殺されたと言っていい。善玉が悪玉を懲らしめる、西部劇の醍醐味であった「勧善懲悪」はもはや時代が許さないのだ。世の中はそんなに単純じゃない。人を殺せば罪悪感に襲われる。どんな奴だろうと死とは死である。西部劇の中でなら人殺しが許される、などということは決してないのだ。 ウィリアム(イーストウッド)は何故復讐に向ったのか。正義ではない。悪でもない。仲間の敵討ちだ。私的な理由だ。保安官だって自らの「正義感」に従ったまでだ。じゃぁ何が正義なのか。我々は何を憎めばいいのか。世の中は混沌としている。暴力と死を繰り返す人間たち、それこそが「許されざる者」である。 このような映画が製作され、しかもアカデミー賞まで受賞してしまってはかつてのような西部劇は二度と現れないだろう。この作品こそは「ラストガンマン」である。 【紅蓮天国】さん 8点(2004-01-12 15:38:41) (良:4票) |
4.《ネタバレ》 映画の世界では、悪人は簡単に人を殺す。そしてヒーローも簡単に悪人を殺す。2時間で終わる映画にその後があったなら、登場人物たちはそのままの人生を送れるのだろうか? 本作は彼らのその後を描いた、言わば娯楽映画の裏側を見せるような作品でした。それぞれに過去がある登場人物たち。昔の栄光にすがっている賞金稼ぎ。正義という大義に依存してやりたい放題を続ける保安官。そして、過去の悪行が呵責となっている元極悪人。彼らはそれぞれに「許されざる者」だったと思う。だた、元極悪人のイーストウッドを「許されざる者」と呼ぶとき、それは断罪しているのではなく、悔恨を背負った状態を指した言葉でした。死んだ奥さんとの生活が自分を更生させたと、まじないを信じるように言いすがる。「俺は変わったんだ」。そのしつこさにガンマンのカッコ良さは微塵もなく、自身の肯定や自己憐憫は哀れでさえある。しかし少なくとも、悪に対して粛清意識が暴走する保安官よりは共感できる。イーストウッドが過去に演じたガンマンを普通の人にしてその後を覗いたら、地味でも深い物語が姿を現した。監督としてのイーストウッドの作風が変化して行く出発点が本作だったと思います。主人公像の変化を俯瞰した時、「荒野の用心棒」と本作、そして「グラントリノ」は一直線に並ぶ作品という印象です。 【アンドレ・タカシ】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2011-04-23 00:35:22) (良:2票) |
3.僕の場合「ダーティハリー」もセルジオ・レオーネとイーストウッドが組んだマカロニウェスタンも観たことないので(というより、クリント・イーストウッドの映画を観るのはこれが初めてなので)、ひょっとすると見当違いの意見かもしれないけれど、この作品はイーストウッドが自らのキャリア、すなわち西部劇のヒーロー、あるいは強い男(つまりは強いアメリカ)というイメージ(幻想)と決着をつけようとした作品ではないか、と思えた。例えばそれは、イーストウッド演じる老いたガンマンが馬になかなか乗れなかったり、銃の腕が落ちていたり、という場面、あるいは伝説のアウトロー、イングリッシュ・ボブが保安官にメタメタにのされた上に、実は過去の伝説がでっちあげであったことを暴露されてしまう場面に顕著に表れている。或いは「人を殺める」という行為に関する描写もそうだ。作品の中で彼は何度も、人を撃ち殺すことが英雄的行為でも何でもなく、ただ人の一生を「無」に返すだけのことだ、と繰り返し説く。僕はこの映画を観ながら、ジョン・レノンのことをふと思い出した。彼はビートルズ解散後に発表した「ゴッド」で「僕はプレスリーもボブ・ディランもヒトラーも信じない。神も、そしてビートルズも信じない」と歌ってファンを驚かせた。彼はこの歌で自分の中のビートルズと決別し、「もうあの楽しい頃、みんなで無邪気に夢を見ていられた頃には戻れない」と宣言することで、新たな一歩を踏み出そうとした。きっとイーストウッドも同じような気持ちだったのだと思う。この「許されざる者」はそんなジョン・レノンのソロ作品の多くと同じく、とても野暮な作品(つまり「そんなこと、わざわざはっきり言わなくてもいいじゃんかよー」と言いたくなる感じ)だと思うけど、その分、作り手の誠実さを感じる。 【ぐるぐる】さん 8点(2005-01-20 19:52:20) (良:2票) |
2.《ネタバレ》 ~Unforgiven~許されていない。 実際に顔を傷付けられたのはデライラだが、償いの馬を受け取るのは主人のスキニーだ。もちろんデライラが声高に復讐を望んだわけではない。無関係のデイビーは罪滅ぼしに名馬を渡そうとしていたし、デライラもそこまで怨んではいなかったと思う。だけど復讐の対象は2人共だ。罪を償ったのに、なぜこの2人は、特にデイビーまで許されなかったのか。 実際の事件から尾ひれがついて、娼婦はアチコチ切り刻まれたことになっていて、悪逆非道のカウボーイに怒りを覚えるマニー。 子供のために金が必要なマニーは、実際の(そこまで重症ではない)デライラを見ても疑問をぶつけない。もう金のためにカウボーイを殺すことに決めている。 過去の罪の許しを請うマニー。死を怖がり、死の国と妻の悪夢にうなされていることをネッドに告白する。非道の限りを尽くしてきたマニーは、妻との生活で改心したが、その妻とは死別、酒も女もやらず、人里離れて真面目な農夫をしているが、悪夢は彼を許していない。 マニーは一見無関係の酒場の主人スキニーを撃ち殺す。 友人の死体を店先で見世物にすることは許されることではない。例えスキニーが銃を持っていなくても。 何が罪なのか、誰が罰を与えるのか、どんな罰を受ければ罪は許されるのか。色々と考えさせられる映画だ。 【K&K】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2021-02-13 21:08:00) (良:1票) |
1.《ネタバレ》 初見の時はえらく感動したものです。 弱い立場の女性のために立ち上がった男たちの正義の鉄槌に! って、改めて見直してみると一体何を見てたのでしょう、全然話違うじゃーん! 娼婦に暴力を振るう男、独裁的な保安官、オーバーに言って殺しの依頼を吹き込む娼婦の仲間たち、その話に乗っかってワラワラ集まってくる賞金稼ぎたち。 クリント・イーストウッドや仲間のモーガン・フリーマンも所詮は賞金稼ぎ、つまりは人殺しなわけです。 さてそーなると許されざる者とは一体誰のことなのでしょう。 初見の時はそりゃもう元凶の、女に暴力を振るった男だと思ってたんですけどね。 どうやらそんなに単純ではなかったようです。 所見の時の印象のままだと、ちんちんの小さい男が許されざる者になってしまうところでした(ソノ事を笑われて暴力に至ったので)。 ともあれ主演のイーストウッドは依頼を果たし、今度はフリーマンの仇討ち。 そして最後はお説教。 こんなもん完全に極悪じゃないですか。 完全なる許されざる者です。 やり過ぎとはいえ職務を全うした保安官のジーン・ハックマンのほうに正義はありましたね。 ただ一点、伝説の殺し屋とも言われたイーストウッドが序盤、亡き奥さんによって改心したはずなのに意外とあっさり賞金稼ぎの道に戻ってしまったのはよくわかりませんでした。 これ、日本版でリメイクされるみたいですが、どーなんでしょうね?
【ろにまさ】さん [地上波(吹替)] 8点(2013-09-14 23:05:06) (良:1票) |