13.《ネタバレ》 【ウィラード】諜報部隊の暗殺要員。故郷では歓迎されず、妻と離婚、戦場に戻るが、戦争の偽善と欺瞞を知っており、精神を病んでいる。カーツ暗殺を命じられるが、戦争の実態とカーツを知るに従い彼に同情し、心の平衡を保てなくなってゆく。カーツの分身でもある。 【カーツ】エリート軍人で、実績も申し分ない人物。戦地で恐怖と狂気を体験し、魂を病む。ベトコンが躊躇なく子供の腕を切断するのを見て、恐怖の克服の仕方を学ぶ。倫理や道義心など捨ててしまうことだ。それに気づいたとき彼の心は自由となり、軍隊を離れ、王国の支配者となる。そこでは彼は神のように振る舞い、処刑された死体がごろごろ転がっている。生と死の境が曖昧だ。一方で苦悩が消失したわけではない。そこでウィラードに自分を殺させ、自分の物語を息子に伝えてくれることを願い、それを演出する。彼にとって自分の死も取るに足らない。魅力的ですらある。 【感想】戦争はどうして止まないか?それは戦争に美しさがあるからではないか。その命題を誠実に追求して完成させた作品。◆ウィラードが前線に到着してからわずか10分足らずで戦争の凄まじさ、悲惨さ、凶器を表現出来ている。監督の力量に脱帽。キルゴアはカーツの対極にある人物。狂気に苛まれているのは同じだが、戦争を楽しんでいる。まだ心の均衡が保たれている。奥地に進むに従い、狂気と混乱が増す。指揮官が居ない前線、もはや誰と戦っているのさえ不明な混沌。正義も大義も無意味だ。兵士たちは戦争に踏みにじられている。農園を守るフランス人は、自らの正当性を主張するが、すでに敗北は決定している。ウィラードの部下も精神を病み、次々と脱落してゆく。カーツの王国は原始的社会。神話が生きている世界だ。カーツ暗殺は、牛を捌く儀式と並行して描かれる。すなわちカールの死も神に捧げる儀式。カーツが死んで神話が完成した。それが「Apocalypse Now(現代の黙示録)」◆戦争の美しさとは何か?神と一如となる体験かもしれない。人間にその原初的な誘惑があるからこそ、戦争は潜在的に魅力的で、無くなることはないのだ。反戦のための映画ではなく、戦争が存在する根源的理由を抉り出した問題作。戦争の美しさは、導入部のナパーム弾と音楽でエレガントに表現できている。監督の狂気だろう。だが心の平衡を保つためには、時に狂気に触れてみるものいいかもしれない。 【よしのぶ】さん [ビデオ(字幕)] 9点(2011-02-14 14:09:56) (良:2票) |
12.本作がとっ散らかっていることは、この「特別完全版」を見ればよくわかります。映画の完全版といえば、見たことのない場面がいくつか加わる程度のものが大半なのですが、本作における復活シーンはかなりしっかりとした内容です。脚本上はそれなりの重要性があり、かつ手の込んだ撮影がされていたにも関わらずこれらの場面はオリジナルからは丸々削られていたわけで、このことから、撮影時にコッポラの中で映画の全体像が出来上がっていなかったことが推測されます。B級映画の帝王ロジャー・コーマンの下で修業したコッポラに無駄な場面(復活したフッテージはまるで本編に必要がなく、これらを切ったオリジナルの判断は正解でした)を山ほど撮らせることはなかなかの異常事態なのですが、その原因はマーロン・ブランドにありました。カーツ大佐は、神経症とジャングル生活で痩せ細ってはいるが眼光鋭く、得体の知れないカリスマ性に満ちた人物という設定であり、押し寄せる北ベトナム正規軍とカーツの軍隊の繰り広げる死闘が本来のクライマックスだったのですが、ブランドは契約違反とも言えるほどぶくぶくに太って現場に現れ、クライマックスの大アクションを撮れなくなってしまいました。オチが白紙になった状態で撮影を進めざるをえなくなったことで本作は方向性を見失い、その場のアドリブと編集で辻褄を合わせるという無茶なやり方によりなんとか完成。映画の製作過程そのものが、ウィラードの旅と同じく「混沌」に支配されていたのでした。普通なら企画が倒れるか、駄作が生まれるかのどちらかなのですが、コッポラの才能や優秀な現場スタッフの貢献、そして一周して映画のテーマと合致するという奇跡によって、本作は「映画として成立していないが、訳のわからん迫力に満ちた他に類を見ない作品」となったのでした。シナリオ通りのラストであれば映画としては面白くなったはずですが、傑作としての歴史的地位は得られなかったでしょう。禅問答で煙に巻くラストによって何か奥深いことを言っている雰囲気を作り、観客に映画を読み解く作業を与えたことも、結果的に正解でした。。。私?私は失敗作だと思います。ひとつひとつのエピソードは面白くても全体としては統一感に欠けるし、ラストもオチから逃げただけにしか見えません。しかし、失敗作ではあるが駄作と切って捨てられない魅力があるのもまた事実なのです。 【ザ・チャンバラ】さん [DVD(吹替)] 5点(2010-01-24 07:50:56) (良:2票) |
11.《ネタバレ》 マーロン・ブランドの品格にピッタリな映画だ。何を言わんとしているのかよく分からん。 監督自身が訳が分からなくなる映画を撮るな!! |
10.一番かわいそうなのは、牛さんだと思いました。 【マー君】さん [DVD(吹替)] 7点(2016-01-31 10:46:15) (笑:1票) |
9.不完全な所を補う何かがあるのだろうかと6年前に観ました。慰安婦さん、カーツの如き仏人入植者からも何も観るべきところはありませんでした。だらだらだらだら時間をかけている愚劣さにオリジナルから-1点。 |
8.《ネタバレ》 初版を見たのは20年以上前だが、前段後段のつながりが分からず難解のまま終わっていた。今回この完全版でその謎が解けたように思う。コッポラが描きたかったのはアメリカの新植民地主義、今の言葉で言えば米国グローバリズムに対する痛烈な批判である。新たに加わったフランスの植民者達との邂逅で謎が解けた。旧来の帝国主義に基づく植民地経営は入植者が土地を開墾し、自分の物として利益を得るものである。原住民から見れば迷惑な話だろうが、支配する側からは彼らにも生活の糧と文化を与えそれなりに「うまく」やって来たという自負があるのだ。フランス人達は悩みながらも軸足はぶれていない。しかしアメリカの新植民地主義はどうだろう。文化の違う(未開と見なす)土地に入ってゆき反対者は圧倒的な軍事力で排除するけれども、命を懸けて戦う兵士達自身には何の利得もない。せいぜい占領地でサーフィンをしたり、圧倒的な戦力で奇兵隊ごっこをして胸の空く思いを堪能するだけで利得は内地で机に向かっている「誰か」の物でしかないのである。世界の警察と言う建前で船を臨検するけれど、もともと欺瞞に満ちた存在でしかないから無実の人々に銃弾を浴びせ、怪我をしたからといって病院へ連れてゆこうと主張するのである。カーツ大佐は新植民地主義の使い走りとしての自分に嫌気がさして、一人城を作るのだが結局作った城はアメリカが第三世界で行ってきたことと同じであることで悩む。そしてウイラードに自分を抹殺してこの城も焼き払えと命ずるのである。軸足ぶれぶれのウイラード大尉もカーツの意図を察してカーツを殺して元の世界に帰ってゆくのであるが、元の世界もカーツの城と同じ地獄であることを知ってしまったのだろう。アメリカの新植民地主義の顛末は現在のアフガニスタンやイラク、アフリカや中南米を見れば明らかである。まっとうな精神を持った優秀な軍人ほどアメリカの新植民地主義を「地獄」と表現した製作者に共感するだろう。映画として初版では興行を考えてアジアの未知の秘境に入り込んでゆく冒険譚に仕立ててしまった事が魅惑的であり難解であることの原因となったのだろう。完全版ではカーツの城の情景がやけにあっさりとして見えたのは全体がうまくつながったからかも知れないが、原題通り「現在の黙示録」になったようだ。 【rakitarou】さん [DVD(字幕)] 8点(2006-12-26 19:23:17) (良:1票) |
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7.《ネタバレ》 カーツ大佐が、死ぬ間際に口にしたHORROR(恐怖)とは、いったい何であっただろうか。カーツ大佐は根っからの軍人だと思う。しかし、ベトナム戦争でのアメリカの戦い方は、キルゴア大佐を見てのとおり、圧倒的な強力の武器を背景に、緊張感の欠けたただの子どものシューティングゲームのようになっている。一方、前線では指揮官不在で命令系統が全く機能していない。「これではアメリカは勝てっこない」と、カーツ大佐でなくても、誰でも感じるのではないか。自分のキャリアを捨てて、グリーンベレーに入隊したとしても、戦況が変わるわけでもなく、軍人としての渇きを潤すことはできなかったのだろう。だからといって、軍を捨てて故郷に戻ることはできない。冒頭のウィラード大尉と同様にもうすでに故郷はなく、ジャングルに戻ることしかできなかったのだろう。「軍」を捨てて、「故郷」を捨てても、軍人である以上、「戦」や「ジャングル」を捨てることはできなかった。自分の頭の中は正常であっても、魂はどんどんと狂っていく。自分の魂が狂っていくさまを、カーツ大佐は冷静に客観的に自分の正常な頭で眺めていたのだろう。それこそまさに「恐怖」なのではないかと自分は感じた。 キルゴアのように「頭」が狂ってしまえば、「魂」までも狂うことはなく楽にいられたかもしれない。フランス人一家は、頭も魂も正常であるけれども、彼らが土地や家族という「根」を張っているから耐えられるのであり、根を張っていないものには、あの苦痛は耐えられないだろう。 だから、ジャングルの奥地に入り込み、自分の王国を創らざるを得なかった。「王」になったとしても、自分の渇きを潤せたかどうかは疑問だ。「たまにおかしなことを言ったり、度を越える」とデニスホッパーが語っていたように、ここにも彼の居場所はなかったのかもしれない。だから、カーツ大佐は「死」を望んだのだろう。自分の死と王国の後始末をウィラード大尉という、本物の「軍人」に頼んだのも、少しは理解できるような気がする。 以上は、自分が感じた全くの個人的な見解であるが、映画としてはあまり面白くないとは思うし、無駄に長すぎる。後半はベトナム戦争とはどんどんとズレていっているようにも感じるので、あまり高評価はしたくない。 【六本木ソルジャー】さん [DVD(字幕)] 6点(2006-08-24 00:15:06) (良:1票) |
6.この映画は、ひとつの人間の本質を暴き出した映画だ。 カーツ大佐は戦場で地獄の恐怖と暴力を経験するうちに、それに伴う快感を知ってしまったのだ。ここで言う恐怖と暴力の快感とは、私達がホラー映画やボクシングの試合を見て喜ぶのにも顕著で、私達は実は恐怖や暴力が本能的には大好きなのだ。カーツ大佐は心の闇の奥に触れ、恐怖に魅了されてしまったのだ。この映画のテーマは原作のタイトルにも明白で、「Heart of Darkness」訳すと『闇の心』である。つまり、この映画は戦争に関しての哲学などではなく、人間の闇の心を暴き出す作品なのだ。きっと、カーツ大佐は自らの死が迫る恐怖感をも愉しんでいたのだろう。 |
5.カーツ大佐はベトナムでの闘いで自分の中(アメリカ)に潜む偽善と嘘に気付いたのではないだろうか。 ベトナムの子供に予防注射をしたが、その子供達はベトナムの兵士により腕を切り落とされたと・・・。彼ら(ベトナム人)には恐怖は存在しない。狂気そのものである。偽善や自らの社会的地位と確立、或いは浅はかな思い上がりで戦場に来たアメリカ人兵士達とは“殺し合う”という意識が全く異なっていると痛感したのだろう。カーツの言う「恐怖を友にしなければいけない」とはそのことを指していると感じる。 人間の内にある暴力性を訴えかける戦争映画は腐るほど有るが、この作品はそんな単純なモノではない。闘うために必要な“恐怖と狂気をコントロールすることが出来る道義心”或いは“自由に対する欲望と精神的強さ”が自らに有るのかどうか、それをカーツは身をもって経験したのではないか。ベトナム兵士はそれを持ち合わせていた。しかしカーツ(アメリカ)は己の中にある恐怖に屈し、精神は分裂した。つまり敗北したのである。闇の心すなわち恐怖である。 この作品はベトナムが舞台では有るが、ソマリアやイラク等の中東におけるアメリカの関与にも十分に連動した内容である。それに対する批判と警告を指したコッポラによる独自の考えであり、偽善と虚による闘争心と本能を題材とした哲学なのだと思う。 あと、くれぐれも言っておきたいのは、通常版の方が断然優れているということ。完全版は無意味に話の流れが殺されている(例えばフランス人入植者のエピソード)。通常版は話の流れがスムーズで極上の編集がほどこされている。無意味に長いのは客の興味を削いでしまうし、気付かぬ内に集中力が散漫になりラストの余韻が薄らぐ。 【おはようジングル】さん [映画館(字幕)] 10点(2004-01-22 16:28:00) (良:1票) |
4.《ネタバレ》 超有名な作品であり、『ゴッドファーザー』の監督ということで期待値が高かったが、世評にいうほどの映画なのか、という疑問が残った。
作品全体を貫くメインテーマが、まず見えてこない。「人間の狂気」や「表面の美談と裏側の真実」、あるいはもちろん「反戦」などの主張を映画のそこここに見出すことはできるが、それらはしょせんサブテーマ。メインテーマとなるべきものは、やはり主人公が川をさかのぼった果てにたどりついたカーツ大佐と彼の王国に込められていなければならないはずだが、肝心のその部分の性格や意味がよくわからない。
カーツ大佐は、マーチン・シーンが一種の憧憬を抱きながら探した人物であるはずなのに、まったく魅力が感じられない。これは致命的。彼の王国も、死体がぶらさがっていたりするばかりで、そこまでに暗喩されていたカーツ大佐の理想・思想とは隔たりが感じられた。
で、終局の描かれ方も、脚本家自体がラストをもてあまして、ごまかした印象さえ私にはあった。あえてメインテーマらしきものを考えると、「神の真実」とでもいうことになるのだろうかと思ったが、つくり手の消化不良で着地失敗した一作という感想が残った。ナパーム弾のシーンは迫力があった。 【delft-Q】さん 5点(2003-12-02 00:04:46) (良:1票) |
3.映画としては破綻をきたしており、決してバランスの取れた映画ではないが、とんでもないものを見たという印象。映画が観客に投げかけるテーマの大きさ、深さに圧倒されてしまう。アジアへの畏れのようなものも、ここかしこに見える。この映画に対して「長い」という理由で低い点数つけてる人もいるけど、それでは批判したことにはならないよ。ましてや「眠かったから」なんてのは論外。ちゃんと体調整えてこんかい! 【ひろみつ】さん 10点(2003-11-23 01:27:30) (良:1票) |
2.《ネタバレ》 私はこの映画が“マイ・ベスト・ムービー”なので、いくら未公開シーンが加わって長くなっても基本的に大歓迎です。伝説の7時間バージョンも死ぬまでに是非観たいと思うくらいです。ですが、やはりここは冷静にこの“特別完全版”で追加されたシーンについて検証したいと思います。 【要らないシーン】キルゴアのサーフボードを巡る追加エピソード~終始深刻な顔で独白していたウイラード大尉が唐突にこんなイタズラをして子供のように笑っているのは不自然です。中途半端に大尉のキャラを掘り下げるのは全体の雰囲気を損ねる危険有り。同様の理由で燃料とプレイメイトを交換するくだりも不必要。 【良かったシーン】フランス人農園のエピソード~説明的ではあるが、ベトナム戦争という背景を理解するためには、カーツの苦悩を理解するには必要。同様の理由でカーツがベトナム戦争における米兵の任務期間の問題などを糾弾する書簡を大尉が読むシーンも理解を助けてくれる。 【トマシーノ】さん [DVD(字幕)] 10点(2003-09-25 14:45:54) (良:1票) |
1.映画史上に燦然と輝く傑作。3時間半、まったく退屈しませんでした。CGにはない実写の迫力に体が震え、重厚なテーマに胸を打たれました。この作品を見てしまうと、最近の他のハリウッド戦争映画が全て偽善であるとわかります。「ひとたび戦争が起こってしまえば、善も悪も無くなってしまう。戦場の人間全てに狂気が伝染していく」という、戦争の狂気を主題に置いたストーリーは時にショッキングな描写を伴い、見る人を選ぶことになりますが、それだけに重く深い。ハリウッドの資本と監督の芸術性が見事に融合した稀有な例。今後これを超える作品が作られることがあるのだろうか…。未見の方も、凄惨描写への嫌悪感を乗り越えれば、最高の映画的興奮を得ることが出来ると思います。 【安濃耕二】さん 10点(2002-05-26 00:45:36) (良:1票) |