14.昔、山中貞雄というすごい監督がいた、という話を聞いて早速大学の図書館で本作品を見た。生まれて初めての戦前の邦画だった。戦前の邦画なんて今の学生自主映画くらいのもんだろうという誤った認識を持っていた僕は再生ボタンを押すや愕然。画面には江戸時代にそのままカメラを持って行ったような生き生きとした長屋が映し出された。失礼ながら、想像を遥かに超える出来だった。呆気にとられながら見つづけ、見終わってしばらくは衝撃で席を離れることができなかった。これほどまでに心をえぐる映画を見たのは初めてだったし、しかもそれが戦前の邦画。山中貞雄が20代でこの作品を撮り上げ、そのまま出征して亡くなったという話と合わせて、その場で泣いてしまいたいくらいだった。その後すぐに図書館で山中貞雄関連の本を探してむさぼり読んだ。 ただただ、山中貞雄の最高傑作と言われる『街の入墨者』のフィルムがいつかどこかで発見されやしないかと心から祈っています。 【藤村】さん 10点(2004-02-12 19:32:13) (良:2票) |
13.ふとしたきっかけで友情を交わし、そして破滅へと向かっていく二人の男…。29歳という若さで戦地にて病死した山中貞雄が、まるで死を予感したかのような物語。
しかし、深い諦念と絶望の中に、それでも生きていこうという極限の希望が、演出や撮影技術などとは別のところで、目に見えない力として存在し、この映画を動かしているような気がします。
今までに何度見たのかわかりませんが、その度に、カッティング、撮影、構図、演出、照明、あるいは偶然、謎の力、ようするに映画のすべてを堪能し、発見し、感動します。 絶望的なまでに青い空と白い雲、土ぼこりが緩やかに舞う大通り、縁日に降るにわか雨、雨宿り、魔がさす瞬間、残された傘、暖簾、手紙…。
「映画」は1930年代に完成し、しかし今なお、新たな発見や可能性を生み出している。1本だけ映画を選べ、そう言われたら迷わずにこの映画を挙げます。私のベスト1です。 【まぶぜたろう】さん 10点(2003-12-03 20:54:37) (良:2票) |
12.現存する日本映画の最高傑作でありながら、山中貞雄の最高傑作ではない。これは、彼が、あるべき未来を奪われる予感に襲われつつ、それでもなお、映画への並々ならぬ愛情を微笑みと共にフィルムに塗り込めた珠玉の絶品! 【なるせたろう】さん 10点(2003-08-09 17:58:10) (良:2票) |
11.この映画に映し出される空も風も雨も夜も人も、全てが愛しく、そして怖い。厭世観たっぷりの映画なのに、暖かい血がかよっている傑作。 【るーす】さん 10点(2003-02-07 21:28:44) (良:2票) |
10.《ネタバレ》 無言で懐剣を抜くおたき。その背中は泣いているかのようで鬼気迫る姿に息を呑みました。ひたすら媚びへつらう又十郎の姿と併せて考えさせられる武家のプライド。小悪党新三や長屋の面々のしなやかな力強さとの対比が鮮やか。巧みな展開と見せない演出の見事さと、おたきの意地の象徴が流れ去るラストショットに感服です。 |
9.《ネタバレ》 山中貞雄は何を成し、何をやり残し戦場に散って行ったのか。 この「人情紙風船」にはそんな山中貞雄の死を感じさせる描写が散らばっている。 生きるか死ぬかの博打の日々を送る新三、 士官先を求めて何度も頭を下げては断られ続ける浪人の又十郎。 それを取り巻く女たち。 何度袋叩きにされようとめげない新三、何度断られようと通い続ける又十郎。 そんな二人の物語が交錯していくドラマの厚み。 二人は「共謀」を図った。 一時でも良い、死んだって良い。どうせ明日は無いんだ。一瞬でもいいから何かを成してから死んでいきたい。 金でも地位や名誉でもない。 意地が彼らに行動を取らせた。 酒屋での宴会は最後の晩餐か。 死んだことにも気づかず逝った男、死んだか生き残ったかも解らない男。 皮肉にも山中貞雄は己の死と向き合ってこの世を去っていった。 だが彼の代わりに、この作品に出演した俳優たちは息の長い活躍を続けた。 まるで亡き監督の魂を受け継いだように・・・。 【すかあふえいす】さん [DVD(字幕)] 9点(2014-01-31 11:09:17) (良:1票) |
8.《ネタバレ》 芝居の世話物の世界。物売りの声が流れる道、長屋の暮らし。それなら舞台のような横長の構図が似合いそうなのに、この映画で外の世界を描くときは徹底して奥に伸びる縦の構図を選んでいく。もちろん舞台との違いを映画として際立たせたいという意図もあるだろうが、別の効果も生まれた。横の構図だと人物はただ舞台の袖に消えていくだけだが、縦だとパースペクティブの消失点が生まれ、なにか消滅していくような気配が生じる。この世界から排除されてしまうような。そして実際縦長の路上を歩いた新三はやくざものに殺され、縦長の路上をさすらった海野も、縦長の長屋の路地にたたずんでいた妻女によって無理心中に導かれていく。ほんのりと暖かくあるはずだった世話物の世界が、縦に配置換えされただけでたちまち悲劇の様相を呈してくる。まるで舞台の奥へ続く花道がしつらえられたように、人々は消え失せていく。そしてやはり舞台では作れない激しい雨が、この世界の惨めさを増幅していて素晴らしかった。白子屋のお駒さん(歌舞伎の髪結新三だと「お熊」、霧立のぼるが「お熊」じゃちょっとね)に現代的なキャラクターを与えようとしたけど、うまく映画と調和させられなかったって感じがある。 【なんのかんの】さん [CS・衛星(邦画)] 7点(2011-11-22 09:57:56) (良:1票) |
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7.ここでの評価が物凄く高かったので期待して視聴・・・・・したがそれほどのものは無かった。 又十郎に全く感情移入できないことと、90分に満たない上映時間ながら場面の一つ一つが冗長に感じられてしまうところに問題があると思う。 また、登場人物一人ひとりの言動がどうも形にとらわれすぎていて機械同士が喋っているようにしか見えない。これは演者が感情表現に乏しいからであろう。 そしてとにかく作品全体に漂う異常な古臭さである。この時代の作品にも古臭さを感じさせない作品はいくらでもある。邦画という視点から見ても黒澤映画の足元にも及ばないのである。 【理不尽みるく】さん [DVD(邦画)] 2点(2009-09-28 22:00:31) (良:1票) |
6.《ネタバレ》 無頓着で気楽な平民の日常と極限に厭世的なテーマとが織り成す無常観。 髪結いのプライドと浪人のプライドが一つの夜にそれぞれの終局を迎える。それぞれの短刀が光る。プライドなんて持ってはいけない身分の二人が必死こいてかっこつけた結果は・・・コロ・・・コロコロ・・・コロ・・・ス―――――――。語り継がれるわけでもなく、理解されるわけでもなく、長屋ではただ日常が続く。。 本作を語る上でどうしても避けて通れない特徴が画面の奥行きへの徹底。どんな路地でも人物を奥から手前へ、手前から奥へ歩かせ、画面の奥には何の関係もない人物を映り込ませる。長屋での新三の部屋が角部屋という設定も奥行きを出すための配慮だろう。その思惑は見事に的中し、長屋の逆側から映すカメラが人の行き交う長屋の様子を冷静に映し出し、その空気が画面を越えて運ばれてくる。 些細な出来事を通して主要な人物から長屋の人間一人一人にまで命を吹き込んでゆく人物描写力も言うまでもなく見事。傑作の名に恥じない出来映え。 【stroheim】さん [ビデオ(字幕)] 10点(2006-04-20 05:32:59) (良:1票) |
5.《ネタバレ》 黒澤明率いる黒澤組の合言葉が「山中に追いつけ追い越せ」。今の映画環境では誰も真似のできない(雲待ち3日とか)完全主義を貫いた山中貞雄の早すぎる遺作は、なんとも暗くて悲しい物語。しかし長屋の住民たちの日々の暮らしの描写は、幸福とはいったいなんなのかを提示してくれているようだ。隣人をからかい、ふざけ合う、そして怒ったり笑ったりしながら生きてゆく。何かにかこつけては皆で飲んで大いに笑う。お金の使い方もよく知っている。いつもよりもっと笑う。女はあきれる。そこに幸福がある。冒頭で首をくくった住民は元武士。そして主人公も元武士。要らぬプライドのせいでこの幸福に気づかず、やっと気づいたとき、そのことに気づくはずもない妻によって無理心中、、。やるせない悲しみを完璧な紙風船の動きがさらに増幅させて終わる。ただ、この暗さ、この悲しさの中に、たしかに幸福感が存在している。だから傑作なんだと思う。ただ完璧なだけではなく、ただ巧いだけでもない。映画の中にただならぬ人生の喜びと哀れみが存在する。 【R&A】さん [映画館(字幕)] 8点(2005-12-26 18:01:58) (良:1票) |
4.山中貞雄監督の作品をはじめて拝見させて頂きました。観る切っ掛けは、やはりこのサイトでの平均点が異常なほど高かった事と、レヴュアーさん達の感想の中で絶賛を受けている、そんな作品を観ないわけにはいけないと思い、そして日本最高傑作と言われるこの作品を観て見たい、という思いからTSU○AYAでビデオを借りた次第であります。そしてビデオをセットし、再生ボタンを押すと、物々しい雰囲気からストーリーが始まり出しました。すると、いきなり画面に映る映像に驚きを感じました。なぜなら画面の向こうに移る風景や背景がまるでその時代の街を本当に映したかのように、全てがリアルだったからです。これほどまでに鮮麗された映像の時代劇は観た事がありません。そして映像だけでなくストーリーもとてもリアルだった。この映画の中に登場する人々の思考は、現代人の心理とほとんどが同じで、その人々の考えや思考に共感とまでは言えませんが、結構理解できました。しかし、前評判が高過ぎて、自分の中で期待の風船を膨らまし過ぎてしまいました。ストーリーの重苦しさ、苦しみがどうも僕にはつら過ぎて、直視する事ができませんでした。この映画を最高傑作だ!と感じれない自分自身にすごく腹が立ちます。あぁ残念だ・・・ 【ボビー】さん 7点(2004-07-27 23:46:20) (良:1票) |
3.なんとも言えないような寂しさ・悲しさを感じるラストシーン。長屋の住人たちは、今まで見たどんな時代劇の人物たちより江戸に生きてる「人間」そのものを見るようだった。浪人の海野も商人もやくざも、みんな人間くさいのに一人、海野の妻だけは武士の魂というか誇りを持って希望のない人生にきりをつけた。明るい話ではないのに、前進座の俳優陣の面々の名演といい素晴らしい時代劇になっている。しかし監督の山中貞雄は「これが遺作ではチトサビシイ・・」と言って出征して帰らぬ人になった。惜しい、、、本当に惜しい、、生きていればこれ以上の素晴らしい作品を見られただろうに・・・ 【キリコ】さん 10点(2003-11-29 15:53:21) (良:1票) |
2.戦争で若い命を失った天才映画作家、山中貞雄の最高のペシミズム表現。前進座の名演、長屋のセット、雨、雨上がりの美しい映像、運命を暗示してころがる紙風船。窮極の名画、日本映画の最高傑作!! 【チャターBOX】さん [映画館(字幕)] 10点(2003-06-12 14:10:02) (良:1票) |
1.潔さ。愛情。絶望。すべてにおいて史上最高の傑作。 【GTR】さん 10点(2002-03-24 22:04:15) (良:1票) |